Figures Of Eighty
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ブレイクス再燃を加速させる注目アクト 10選
グライムや4つ打ち、ドラムンベースなどの要素を吸収したフレッシュなサウンドが次々と生まれている新生ブレイクスシーンの未来を担う注目アクトをチェックしよう!
Written by Dave Jenkins
読み終わるまで:12分Published on
ブレイクビーツほどダンスを盛り上げるものは滅多にない。またブレイクビーツほどエレクトロニック・ミュージックの中でユビキタスな存在も少ない。
ここ数年、テクノからトラップに至るまで、あらゆるジャンルにブレイクスの影がチラついていることに気付いているはずだ。Fabricの不動のレジデントDJ、Craig Richardsのセットの中にもブレイクスは織り込まれているし、ベルファスト出身のデュオBicepの爆発的なセットの中にも確認できる。
実は、Red Bull Musicでは2015年にブレイクス再燃を扱った記事(英語版)を掲載していたのだが、それから3年が経過した今、新世代のブレイクス職人たちが続々と登場しており、それぞれ独自のサウンドを確立している。
英国で絶大な人気を誇るのベースミュージック系ポッドキャスト、UKF On Airシリーズでブロークンなベースハイブリッドを最近披露したばかりのロンドン出身アクトEcho Knightは次のように切り出す。
「何が素晴らしいかって言うと、シーンがしっかりと地に足をつけて、ドラムンベースにも匹敵する基盤が出来上がりつつあるってことさ」
「片方には、AC SlaterNegativBarely RoyalPhlegmatic Dogsなどベース寄りのブレイクスを標榜する人たちがいるし、もう片方には、Holy GoofFineArtChris LorenzoTaiki Nulightなど、4つ打ち寄りのダンスフロア・スマッシャーを手がけている人たちもいる」
「実に多様なアイディアを持ったアーティストたちが集まって、同タイプのサウンドを盛り上げているのは頼もしい。個人的に大好きだった初期のドラムンベースシーンを思い起こさせてくれるよ
実に多様なアイディアを持ったアーティストたちが集まって、同タイプのサウンドを盛り上げているのは頼もしい
Echo Knight
Echo Knightは極めて重要な見解を示している。現在続々と生まれている新たなブレイクビーツの意匠は、より幅広いサウンドの一部なのだ。
純粋主義的なファン層が支配したこれまでのようなブレイクスとは異なり、現在のブレイクビーツの存在はシャシーやビークルというよりは、あくまでもムーブメントを後押しするエンジンや燃料のようなものだ。
つまり、このブロークンなベースミュージックには独自の名称・カテゴリー・ルールはないのだ。そして、これが実験の余地をさらに広げている。
急成長中のマンチェスター出身デュオ、Figures Of Eightyはシーンについて明確な意見を持っている。
彼らはPunksDrum WRKSBroken Music Syndicate、そして自分たちで立ち上げたTorre XVIなどのレーベルから作品をリリースしているが、以前はThe Magnet Men名義でリリースしていた過去があり、この経験が彼らに2つのブレイクス時代へ明確な意見を持たせている。
「パーカッションの話をすると、2000年代初頭のブレイクスはキックとスネアによるアプローチが中心だった。これはこれで効果的ではあるけれど、トラックの制作手法という点では選択肢が限られていた」と彼らは語る。
今では、ドラムを脇役や控えめな存在にしてもトラックを作れる。それでもバイブスを感じ取ってもらえるんだ。逆に、ブレイクビーツをどっしりと中心に据えて押し出しても構わなあい。決まったルールがないのさ
このフリーフォームなエナジーは至るところに感じられ、シーンに属するあらゆるアーティストは思いつく限りのリズムの断片を各自のサウンドに組み込み、整形と融合を繰り返している。
Special RequestAkkordなど、目眩がするほどダークなジャングルのサウンドデザインを取り入れたアクト、Hyphoのようなドロドロのダブステップを手がけるアクト、そしてさらにテクノ寄りなSilas & Snare Surgeonと、あらゆるクリエイティビティが生まれているが、ブレイクビーツはこれらを全て繋ぎとめる接着剤のような役割を果たしている。
現在のブレイクス・シーンを力強く前進させる10組のアクトを以下に紹介しよう。

Echo Knight

Echo Knightはこの18カ月間でSaucyPunksBroken Syndicateなどからリリースを連発し、多忙な日々を過ごしてきた。
彼のサウンドは雷鳴のような4つ打ちと軋むようなベース、そしてジャングルに影響されたトーンのブレンドで、その特徴は「Jawz」Riton & Kah-Loのやけに茶目っ気のあるブートレグなど、シアトリカルな楽曲群で最も強く感じられる。
Stanton WarriorsのレーベルPunksから昨年リリースした「Code 1」も、50歩離れた場所にいても肌を焦がしそうなほどホットなトラックだ。
注目ポイント:Echo Knightは9月末にYosHから「Xscape/Games」をリリースし、さらには12月にと共に「Lost」をリリース予定。

Daze Prism

ロンドン出身のDaze Prismは多彩な才能を持つアーティストだ。1分前まで「Wob」のようなギクシャクした強烈なリズムでストリートっぽさを演出していたかと思えば、その次は「Class」のようなキラキラとしたエモーショナルさ満点のプログレッシブな作風でスウィートな気持ちにさせてくれる。
彼のサウンドは時折UKガラージっぽさを覗かせることもあるが、Daze Prismが “何でもあり” というブレイクビーツ本来の構造に突き動かされているのは明らかだ。目下、彼はミニマルなブレイクスに取り組んでおり、これから大量のリリースを控えている。
注目ポイント:Southpointからリリースされる次のコンピレーションにDaze Prismのトラックが収録される予定。また、Brokenからの新作EPも鋭意制作中。

Movement

ブライトン出身のベース職人、Movementのサウンドについて知っておくべき特徴は、彼の2枚の最新作(自身のレーベルDissident Soundからリリースしたダーティでダークなブレイクス・レイブへのオマージュ「Raindance」と、快活なUKガラージ風ステッパー「Sunflowaz」に全て詰め込まれている。
この両極端な方向性こそMovementが目指しているもので、彼が手がけた荒々しいジャングル「Auto」と、UKガラージのレジェンドScott Diaz「Chancery Lane」のリミックスにおける悪辣なUKファンキーハイブリッドの間にはあらゆる音楽性が詰まっている。
そして彼はこれら全ての作品を、たった数カ月でやってのけている。Movementはその名に恥じない “活動的な” アーティストだ。
注目ポイント:10月にはSouthpoint からのUKガラージEPとBoomsha RecordingsからのジャングルEPのリリースを控えている。またDissident Sound からもHeritage名義でのさらなるマテリアルが到着予定。

Zander

新たなブレイクビーツ・ムーブメントのほとんどがジャングルの影響下にある中、Broken Music Syndicateの共同運営にも参画するZanderは粗雑なドラムフュージョンの中にも感情的でイメージ豊かな可能性がまだまだ秘められていることを常に思い出させてくれる。
長年の友人でコラボレーターでもあるTaylorと制作した「Show Me」「CryCry」などのトラックは、よりヘヴィで痛切なムードに傾いており、昨今のウェーブやヴェイパーウエーブ・シーンの動きとも比較できる。
またNas「Life’s A Bitch」を120BPMに置き換えた「Gun Check」でも分かる通り、彼はややスローでドロドロとしたグルーヴにも果敢にトライしている。
注目ポイント:Broken Music Syndicateからの一連のリミックスシリーズの他、Isenbergon StrangerのレーベルTons & TonsからのコラボレーションEP、また自身のPrimeからヒット確実の「FTTB(Front To The Back)」のリリースが予定されている。

Left / Right

テキサス州ダラスを拠点に活動するChris Lundは、2000年代後半のオリジナルブレイクビーツ期から裏方として活動し、長年に渡りプロモーターとしてシーンをプッシュしてきただけでなく、ブロークンビーツと4つ打ちベースミュージックの交差軸上に位置する最も多彩でエキサイティングなアクトのひとりであり続けてきた。
Zanderと共同でBroken Music Syndicateを運営する彼の作品群はClaude VonStrokeで知られるDirtybirdInsomniacIn/RotationMonster Catなどのビッグレーベルからもリリースされている。
「Fall」の底知れぬエモーショナルさに深く飛び込んでみても良し、Orbitalにも匹敵するドラマ性と楽しげなエナジーに溢れた「Wow」をチェックしてみても良しだ。
注目ポイント:10月にDeadmau5Mau5trapから控えているリリースをはじめ、リリースが続く予定。

Hypho

Hyphoのサウンドは、テクノとダブステップを彼らしい鋭く削ぎ落とされた物語性で紡ぎ合わせた重厚なタペストリーだ。
マンチェスター在住のHyphoの作品の大半はPunks877Four40Jelly Bean Farmなど、シーンを代表するレーベルからリリースされており、時空の歪んだスペーシーで予測不能な未来的サウンドを打ち出している。
彼のサウンドについて知っておくべき特徴は、最近の彼のトラックを聴けば分かる。
PhrixusとのコラボレーションParticle Projectではテクノ / グライム / ダブステップを明らかにマンチェスターらしいフィーリングでミックスしている一方、「Trench」では神経質なキックと不気味でこの世のものとは思えないテクスチャによってクラシックなエレクトロの手法を切り崩している。
注目ポイント:Encrypted Audioからの「The Narrow EP」Miracle Drug Recordingsからの「Edge EP」、そしてSquaneやBiomeとのコラボレーションなどが今後リリース予定。

Negativ

ロンドンとワルシャワのデュオ、Negativは5年ほど日の目を見なかったが、My Nu Lengが2016年の『Fabriclive 86』に骨まで震える彼らのトラック「Stealth」を収録したことで、一躍注目を集めるようになった。
ひんやりとしたエレクトロの質感、テクノのうねり、そしてBassbin Twinsが10〜15年前に得意としていた削ぎ落とされたグルーヴとサブベースをたっぷり重ねた808ジャムを備えた彼らのサウンドは、テック / ベースライン系ファンのレコードコレクションに最適だ。最新トラック「Missin'」でも窺えるように、彼らのサウンドにはグライム的なタッチもある。
注目ポイント:年内にMC J Casaをヴォーカルに迎えたシングルがリリース予定。彼らによるとこのトラックは「グライムとブレイクスのハイブリッド」だそうで、現在はBサイド用のトラックの制作に取り組んでいる。

Figures Of Eighty

かつてThe Magnet Menとして知られていたAdam RelfNed Woodmanは、2000年代後半にHardcore Breaksなどのカルトなブレイクスレーベルから作品をリリースしてシーンでの知名度を得たが、現在はFigures Of Eightyと名を改め、さらにダークでイノベーティブな現代的ブロークンサウンドと共にシーンに復活している。
また、彼らはセルフレーベルであるTorreXVIを立ち上げ、SF的なソウルステップ「The Silk」、怒涛のドラマ性を備えた「Titan」などの近作をはじめ、これまでになくイノベーティブなブレイクスを送り出している。
注目ポイント:以前にも「Flames」でコラボレーションしていたシンガー / ソングライター、Cristina Filominaとの共作のリリースが控えている。 

Inkline

同じブライトン出身のベース職人Taiki Nulightと親友同士のInklineは、Nulightと同じくベーシーな4/4ジャムを得意としているが、これまでの彼のベストトラックにはブレイクスが取り入れられている。
彼のサウンドを垣間見るには、錆び付いた機械仕掛けの2ステップ「Sonar」、軽快なヴォーカルローラー「Crosshatch」、あるいは同郷ブライトンの盟友Tenguと目下ブレイク中のヴォーカリストDread MC & Groveとの物騒なコラボレーション「Sickening」をチェックしてみると良いだろう。
注目ポイント:彼の広範囲な魅力を網羅した4トラック入りEPがリリース予定。期待しよう。

Tyler Clacey

Tyler ClaceyBroken Music Syndicate出身で、音楽を通じて分裂的なパーソナリティを存分に発揮している彼は、ストレートなフロア向けベースハウスと透き通るようなブレイクスの両方を軽々とこなしてみせている。
彼のブレイクス的な側面を知りたければ、「Feel Good」での切実なソウルとハーモニックなチャイム、あるいは「The End」での凶暴なテクノ仕掛けのグルーヴをチェックしてみよう。
最近になって、TylerはMidnight Phulin名義で第3の人格を明らかにし、シャッフルされたドラムパターンを導入している。「Let Me」におけるUKファンキーとブレイクビーツの独自解釈をチェックしてもらいたい。
注目ポイント:本人が「奴らはバッドボーイさ」と表現する英国外のアーティストたちとのコラボレーションを含め、Midnight Phulin名義によるさらなるリリースが控えている。
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