クライミングの新時代が到来している。
1950年代と1960年代のパイオニアたちに続いて1970年代はクールなヒッピースタイルのクライマーたちが登場し、1980年代と1990年代にはテレビスターやスポンサードされたプロクライマーたちが登場した。
そして、クライミングが毎日楽しむアクティビティとしてさらなる知名度を得ている近年は、【Red Bull Dual Ascent】のようなスポーツクライミングイベントと地球上で最も険しい地形に挑むアウトドアクライミングの両方で、世界中の人たちにインスピレーションを授ける新世代クライマーたちが登場している。
アレックス・オノルドが出演した『Free Solo』やトミー・コールドウェルが出演した『The Dawn Wall』などの映画によって、クライミングはトーク番組などで扱われるようになり、サーシャ・ディジュリアンや白石阿島などの才能がビッグウォールにジェンダーは無関係であることを証明している。
クライミングには多様なスタイルとアプローチが存在するため、最強を決めるのはもはや不可能だが、今回は間違いなく世界最強クラスに含まれるクライマー14人をピックアップして紹介する。
01
アルベルト・ヒネス・ロペス
- 生年月日:2002年10月23日
- 出身地:カセレス(スペイン)
- 得意種目:リード / スピード / 複合
- キャリアハイライト:東京2020金メダル
36分
Red Bull Dual Ascent
Sixteen world-class athletes on eight teams battle to be the fastest up a wall of six gruelling pitches.
アルベルト・ヒネス・ロペスは18歳で東京2020のスポーツクライミング初代王者に輝いて世界を驚かせた。プロクライマーたちを相手に大番狂わせを演じた彼は、若きダークホースクライマーという評価を確実にしたのだった。
メディアやクライミングファンからベテランクライマーたちと幾度となく比較され金メダルはまぐれだと批判されたヒネス・ロペスだったが、その強固な意志とハードなトレーニング、そして長期的視野は、彼が本物だということを証明している。
実際、東京後のヒネス・ロペスは批判といくつかのミスを乗り越えてヨーロッパチャンピオンとワールドカップ優勝を手にしており、【Red Bull Dual Ascent】にも2022年と2023年に2年連続で招待されている。もちろん、来夏には2個目の金メダルを狙うつもりだ。
パズルや謎解きなどが昔から好きでしたが、クライミングは少し似ています。毎日何かしらの新しいチャレンジ、新しい謎が目の前に現れるのです
02
キム・ジャイン
- 生年月日:1988年9月11日
- 出身地:高陽市(韓国)
- 得意種目:リード / ボルダリング / スピード
- キャリアハイライト:韓国・ソウルのロッテワールドタワー(全高555m)を完登(2017年)
2分
キム・ジャイン:ワールドカップパフォーマンス
スロベニアで開催されたIFSCワールドカップで2位に入ったキム・ジャインのクライミングをチェック!
キム・ジャインの優れたクライミングスキルは彼女に早々と成功をもたらし、2009年、21歳のときにチェコ・ブルノでワールドカップデビューを飾った。
ジャインにとってクライミングとは目の前のチャレンジに取り組むことと完登のベストルートを探すことだ。彼女はクライミングごとに使う筋肉とマインドが異なることを良く知っている。だからこそ、ジャインは他のクライマーたちのマインドをリスペクトしており、完登までのルートの選択方法と自分のルートとの違いを常に確認している。
ブルノでのデビュー以来、ジャインはワールドカップの常連で、2018年と2019年にリードで優勝している他、2018年にはオーストリア・インスブルックで開催された世界選手権で3位にも入った。また、2023年にもフランス・シャモニーで開催されたワールドカップのリードを制して、健在ぶりをアピールした。
03
オリアーヌ・ベルトン
- 生年月日:2005年3月10日
- 出身地:フランス領レユニオン
- 得意種目:リード / ボルダリング
- キャリアハイライト:12歳で難度V14(8B+)のボルダリングの課題を解決
オリアーヌ・ベルトンは12歳で難度V14(8B+)のボルダリングの課題を解決して以来、クライミングシーンの注目を集めている。
この解決はレユニオン島出身のティーンエイジャーをボルダリングとリードのトップクライマーの地位へ一気に押し上げることになった。近年の彼女は両カテゴリーの頂点を目指して競技を続けている。
04
アンジー・スカース=ジョンソン
- 生年月日:2004年5月20日
- 出身地:キャンベラ(オーストラリア)
- 得意種目:フリー
- キャリアハイライト:9歳でスペイン・ロデリャルの “Welcome to Tijuana / ウェルカム・トゥ・ティワナ”(難度8c / 33)を完登
オーストラリアの首都キャンベラ出身のアンジー・スカース=ジョンソンは、子どもの頃は木登りが好きだった。てっぺんや登れないように思える枝に挑むのが何よりも楽しかった。
そして、木登り中の落下がきっかけとなり7歳で父親に地元のクライミングジムへ連れて行かれると、スカース=ジョンソンはより安全かつ管理された環境で “登る” ことへの情熱をさらに追求できるようになったのだった。
彼女のクライミングの才能は最初から明らかで、9歳で米国・レッドリバー渓谷の “Swingline / スウィングライン”(難度8b / 31)を完登すると、それから1年以内にスペイン・ロデリャルの “Welcome to Tijuana / ウェルカム・トゥ・ティワナ”(難度8c / 33)も完登した。
現在、スカース=ジョンソンは1年の半分をオーストラリアのクライミングシーンのメッカ、ブルーマウンテンズで過ごしており、残り半分でフランス、スペイン、米国など世界各地のクライミングスポットを巡っている。
優秀なクライマーの条件は様々です。すべてを備えているクライマーはいません。それぞれが異なる特長を備えていて、それらが個性となってそれぞれを優秀なクライマーにしているのです
05
アダム・オンドラ
- 生年月日:1993年2月5日
- 出身地:ブルノ(チェコ)
- 得意種目:スポーツクライミング / ボルダリング
- キャリアハイライト:ノルウェー・フランタンゲルのフリークライミング最高難度ルート「Silence / サイレンス」(9c)完登(2017年)
21分
第2話: オンドラの時代 - 前編
第2話あらすじ: チェコ出身のアダム・オンドラは、あらゆる面で最高のクライマーになるよう努力し、それを達成してきた。オンドラの心の中にある、若い頃から彼を焚き付けてきた情熱の出どころはどこにあるのか、隠された謎を解き明かす。【歴史を創るクライマーたち(シーズン5/日本語字幕)】
アダム・オンドラのユニークな体力と呼吸の管理能力(岩壁からのシャウトも含まれる)が、彼をスペシャルな存在たらしめている理由だ。クライミング中、彼の脈拍は上がる代わりに下がる。
身長190cmのオンドラはクライマーとしては長身で、その長い首はひとつのバランスツールとして機能する。彼は他のトップクライマーほど腕力は強くないが、股関節の可動性が高いため、脚に荷重をかけて重心を岩壁の近くに寄せられる。これが体力の温存に繋がるため機械のような登攀ができるのだ。
自分をレゴのオモチャみたいに感じる時がある。自分の手足が誰かに操作されているのを遠くからただ眺めているような感覚に陥るんだ
06
ヤンヤ・ガンブレット
- 生年月日:1999年3月12日
- 出身地:スロヴェニ・グラデツ(スロベニア)
- 種目:ボルダリング
- キャリアハイライト:ワールドカップシーズン全勝優勝(2019年)
ヤンヤ・ガンブレットがウォールに挑む運命にあるのは子どもの頃から明らかだった。
「子どもの頃、他の子どもたちはボール遊びやゲームなどをしていましたが私はウォールから下りようとしませんでした。上下左右に動きながら1時間半ほどウォールに挑んでいました。当時から、私にはこれがやりたいことだと分かっていたのです」
「子どもの頃のその気付き以来、ガンブレットはとてつもない高さを登ってきた」と書くのは彼女に対する過小評価であり、また非常に陳腐な表現だ。スローだが滑らかなユニークなスタイルによって、彼女は2019年に史上初のワールドカップシーズン全勝優勝を達成した他、東京2020で金メダルも獲得している。
近年はアウトドアにも取り組んでいるガンブレットはまさに末恐ろしいクライマーと言えるだろう。
07
クリス・シャーマ
- 生年月日:1981年4月23日
- 出身地:サンタクルス(米国カリフォルニア州)
- 得意種目:スポーツクライミング / ディープウォーターソロ
- キャリアハイライト:スペイン・マヨルカ島「Es Pontàs / Alasha | エス・ポンタス / アラーシャ」で世界最高難度ディープウォーターソロ成功(2007年 / 2017年)| スペイン・オリアナの最高難度フリークライミングルート「ラ・デュラ・デュラ / La Dura Dura」完登(2013年)
クリス・シャーマにとってクライミングとは限界への挑戦を意味する。そして彼はできる限り多くのクライミングをこなすことでそれを示している。
常にプロジェクトをこなしている彼はハードルを上げ続けており、世界最高難度ルートに認定された「ラ・デュラデュラ(La Dura Dura)」を完登したクライマーは、シャーマとアダム・オンドラだけだ。
クライミングジム世代だがルートでの実地学習を好むシャーマは、自分の好みを追求するためにノマド的なライフスタイルを採用している。
クライミング中の自分を “動物的” と表現する彼は、ミスが死に直結しないため限界まで挑戦できるという理由からディープウォーターソロを好んでいる。
クライミングの本質は、自分の才能を見極められるところとギアに頼らない自由と純粋性を持てるところ、限界を見極められるところにあります
08
アレックス・オノルド
- 生年月日:1985年8月17日
- 出身地:サクラメント(米国カリフォルニア州)
- 専門分野:フリーソロ / スピードクライミング
- キャリアハイライト:米国・ヨセミテ国立公園 エル・キャピタン「Freerider / フリーライダー」フリーソロ世界初完登(2017年)
アレックス・オノルドの驚異的な偉業の数々は、徹底的に管理されているトレーニング、集中的な準備、一貫性、純粋なひたむきさのたまものだ。これらがなければ、エル・キャピタンのようなビッグウォールをロープなしで登攀するのは不可能だ。
ウォールでの自分のムーブをイメージし、シーケンスを記憶して自信を得ている彼は、恐怖心が生まれる危険なポジションを脳内でリハーサルすることでコンフォートゾーンを拡大し、メトロノームのようにブレないリズムで登攀していく。
また、スピードも備えており、登攀を止めずにレイヤーを脱いでしまい込めるユニークなテクニックも持ち合わせている。
私は別に速くないです。疲れないのでスピードが落ちないだけです。フィジカルの限界に近づくほど成長するのが難しくなるので、成長するためには多大な献身や集中が必要になります
09
白石 阿島
- 生年月日:2001年4月3日
- 出身地:ニューヨーク(米国)
- 専門分野:スポーツクライミング
- キャリアハイライト:スペイン・サンタリーニャの「Open Your Mind Direct / オープン・ユア・マインド・ダイレクト」と「Ciudad de Dios / シウダード・デ・ディオス」で9a / 9a+ルート史上最年少完登(2015年)
白石阿島(しらいし・あしま)は身長わずか150cm強でリーチも短く、ビッグムーブに不利な体格だが、その体格を上回る強靭な筋力、ダイナミックな敏捷性、指の強さでクリフを楽々と登り、オーバーハングもクモのようにスイングしてクリアする。
7歳の時にニューヨーク・セントラルパークでボルダリングを始めた白石は、ジムでハードなトレーニングメニューをこなしながら、舞踏家の父親が実践している舞踏(土方巽を中心として日本で生み出された日本独自の伝統と前衛のハイブリッドスタイル)にインスパイアされたユニークな精神統一法を用いている。
また、彼女の強さのもうひとつの秘密は「楽しむこと」だ。
楽しむことを忘れてしまうと、ストレスを感じ、自己疑念が生じます。みんなが自分の好きなことをできるようになるきっかけ、何かに真剣に取り組むきっかけになりたいです
10
サーシャ・ディジュリアン
- 生年月日:1992年10月23日
- 出身地:アレクサンドリア(米国バージニア州)
- 専門分野:スポーツクライミング / マルチ
- キャリアハイライト:マダガスカル島の「Mora Mora / モラモラ」で女子初・世界2番目のフリー完登(2017年)
5分
The Trilogy -番外編-
ドキュメンタリー映画『The Trilogy』では、カナディアンロッキー最難関のウォール3枚に挑むサーシャ・ディジュリアンの勇姿を見届けることが出来た。今度はBGMやスローモーションのない、生々しい映像でこの挑戦の緊張感を味わってみよう。(日本語字幕)
サーシャ・ディジュリアンの小柄な体躯は急峻な登攀で大きなアドバンテージになるため、本人はダイナミックなテクニックとパワフルなビッグムーブを駆使し、フットワークやボディポジション、ポジティブな姿勢を意識することでそのアドバンテージを最大限活かしている。
粘り強くギブアップしない性格の彼女は、定期的にクライオセラピー(凍結療法)・グラストン式マッサージ・ドライニードリング(鍼治療の一種)・赤外線サウナ・フォームローラー・シンプルな休息という6種類のリカバリー方法を取り入れ、身体が疲労に屈しないようにしている。
基本的に楽観的ですね。調子が悪いときも、クライミングをネガティブに捉えるのは数日だけです。クライミングは楽しむためのものです
11
ダニエル・ウッズ
- 生年月日:1989年8月1日
- 出身地:リチャードソン(米国テキサス州)
- 専門分野:ボルダリング
- キャリアハイライト:米国ロッキーマウンテン国立公園の世界最難関ボルダリングルート「Creature of the Black Lagoon / クリーチャー・オブ・ブラック・ラグーン」世界初完登(2016年)
ダニエル・ウッズは自分がクライミングの虜であることを認めている。常に完ぺきを求める姿勢が、彼をボルダリング界のトップへ導き、誰よりも多くV15(ボルダリングにおける2番目に高いと認定された難度)の完登を誰よりも多く達成させている。
自信と謙虚さを兼ね揃えているウッズは、全てのプロジェクトに対して慎重に取り組んでいる。入手できるあらゆる映像に目を通し、できる限り多くの情報を集めながら対策を用意していくという彼のアプローチは、彼のキャリアの大きな助けになっている。
最高の仕事をするためには、自分のあらゆる面を掘り下げなければなりません。そのためには仕事に専心する必要があります
12
トミー・コールドウェル
- 生年月日:1978年8月11日
- 出身地:エステス・パーク(米国コロラド州)
- 専門分野:ビッグウォール・フリー
- キャリアハイライト:米国ヨセミテ国立公園内エル・キャピタン超高難度ルート「Dawn Wall / ドーン・ウォール」フリー世界初完登
ゲリラによる誘拐事件や離婚を経験し、アクシデントによる指の切断でキャリア継続が危ぶまれたこともあるトミー・コールドウェルは、長年に渡りクライミング界の頂点に立つスーパースターだ。
指を失ったハンデを克服するという決意は、本人をビッグウォールレジェンドへ押し上げることになった。また、科学的なインドアトレーニングへのシフトによってフィジカルも過去最高レベルに達している。
2018年もアレックス・オノルドと組んでエル・キャピタン「ザ・ノーズ(The Nose)」を2時間10分15秒でクリアしてスピードクライミング記録を更新した。
私の成功は天賦の才がもたらしたものではありません。細身なので優れたクライマーになれる資質は備えていたと思いますが、それよりも重要なのはモチベーションとアティテュードです
13
アンゲラ・アイター
- 生年月日:1998年1月27日
- 出身地:ピッツタール(オーストリア)
- 専門分野:スポーツクライミング
- キャリアハイライト:スペイン南部ビジャヌエバ・デル・ロサリオの難度9bルート「La Planta de Shiva / ラ・プランタ・デ・シヴァ」で女子最高難度ルート完登(2017年)
2分
Angela Eiter breaks new ground in women's climbing
The action-packed story behind Angela Eiter's record-breaking 9b climb on La Planta de Shiva in Spain in October 2017.
アンゲラ・アイターはインドアクライミングで4度のワールドチャンピオンを獲得した経験と、そこで培ったアティテュードをアウトドアにも活かしている。決して諦めず、何度でもトライを繰り返すその姿勢は、彼女をクライミング界の頂点へと導いている。
2015年に「ラ・プランタ・デ・シヴァ(La Planta de Shiva)」攻略を2度断念していたアイターは、その後現地を7回訪れて複数のセクションを試し、現地のホールドやムーブを正確に再現するレプリカを自宅に設置し、さらにはアダム・オンドラの同ルート登攀映像をチェックして、2年越しでクリアした。
ここぞという時にパーフェクトなパフォーマンスを発揮する必要があります。コンペはそのやり方を教えてくれますね
14
ジム・レイノルズ
- 生年月日:1994年
- 出身地:ウィーヴァーヴィル(米国カリフォルニア州)
- 専門分野:フリーソロ / スピードクライミング
- キャリアハイライト:米国・ヨセミテ国立公園内エル・キャピタン「The Nose / ザ・ノーズ」世界最速完登(2017年:のちにオノルドとコールドウェルが更新)| アルゼンチン・パタゴニア フィッツロイ山「Afanassieff / アファナシェフ」でフリーソロ世界初完登・下降(2019年)
クライミング界の “ダークホース” と評されるジム・レイノルズは、ヨセミテ国立公園でレスキューチームとして働きながら、同地で素晴らしい実績を築いてきた。2019年3月にフィッツロイ山でフリーソロを成功させた彼はクライミングシーンでのブレイクが目前だ。
ビジネススクールを卒業した経歴を持つレイノルズは、クライミングで頭角を現す前はマンドリンでヘヴィメタルを演奏してみたり、日本刀に凝ってみたりと幅広い趣味を持っており、本人はこれらの趣味は心技体を整えるのに役立っているとしている。
フリーソロはソウルフルでプライベートなアクティビティで、幸せと苦しみが同居しています。フリーソロが得意な自分を幸せに思いますが、これが原因で愛する人たちを苦しめる可能性があるという意味では苦しみなのです
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