スケートボードシーンはこれまで男性中心だった。しかし、このシーンにはクールな特徴がひとつある。 “黎明期から女性も関わってきた” のだ。ここでの「関わってきた」は「ランプの上に座っていた」や「プールサイドに立っていた」という意味ではない。「プロライダーとして活動していた」という意味だ。
2020年、ストリートとスケートパークの両方で女性スケーターがシーンの新たな顔となっている。5〜10年ほど前から、スケートボードシーンにおける女性は “稀な存在” から “完全なムーブメント” へと成長している。
このムーブメントの証拠として、さらに多くの女性スケーターが様々なメインストリームメディアでライディングの実績を讃えられるようになっている。また、アフガニスタンではスケートボードが女性の間で最も人気の高いスポーツとして扱われている。
一部の女性スケーターはスケートボードシーンに恩を感じているが、実際は、スケートボードシーンの方が女性スケーターに恩を感じている。スケートボードシーンにおける女性は、このスポーツの自由度とアクセシビリティを高めると同時に、このスポーツをより大胆かつよりユニークにしてきた。しかも、彼女たちは黎明期からそうしてきたのだ。
01
世界初の女性プロスケーター
パティ・マギー(Patti McGee)が世界初の女性プロスケーターだ。1964年に初の全米女子チャンピオンに輝いた彼女は、1965年を迎えるまでにHobie Skateboardsと契約を交わしてプロスケーターとなり、当時はまだ新しかったこのスポーツを広めるべく、全米を回って全国レベルのスキルを披露するようになった。
当時の人気テレビ番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジョニー・カーソン』にも出演したパティは、1965年に『LIFE』誌(5月)と『Skateboarder』誌(10月)のカバーも飾った。その後、2010年にIASCs(スケートボード企業国際連盟) が定めるSkateboard Hall of Fame(スケートボードの殿堂)入りを果たした彼女は、女性スケートボーダー世界最速記録(時速47マイル / 時速約75.2km)も保持している。
パティ・マギーのようなパイオニアたちの活躍によって、2020年、スケートボードシーンは女性参入60周年を迎えることができた。マギーたちの時代が終わるとスケートボードシーン全体が低迷期に突入したが、女性スケーターが消えることはなかった。数は少ないものの、歴史的活躍を見せる女性スケーターが常に存在してきた。
1990年代には、エリッサ・スティーマー(Elissa Steamer)とジェイミー・レイエス(Jaime Reyes)がストリートを席巻し、2000年を迎える頃には、ヴァネッサ・トーレス(Vanessa Torres)やマリア・デル・サントス(Maria Del Santos)がハンドレールでフリップをメイクしながらX-Gamesの表彰台を支配するようになった。
近年は以前よりも女性ライダー同士が激しくしのぎを削り合うようになっており、女性スケートボードシーンは限界をプッシュし続けている。そしてその限界は、「女性としての限界」ではなく「スケートボードの限界」へと範囲を広げつつある。
今回は2020年に注目を集めた女性スケーター8人をピックアップして紹介する。
02
アレクシス・サブローン / Alexis Sablone
年齢:33
出身:コネティカット州オールド・セイブルック
2020年の女性スケーターの多くはコンペでの活躍によってキャリアを築いているが、アレクシス・サブローンのホームはストリートだ。ただし、誤解は禁物だ。アレクシスはコンペでも大きな成功を収めており、これまでにX Gamesでメダル7個を獲得している。しかし、彼女は自分がストリートを好んでいることを積極的にアピールしている。
エリッサ・スティーマーやジェイミー・レイエスのようなレジェンドストリートライダーたちに影響を受けてきたアレクシスはスポンサーのWKNDとConverseからビデオパートをリリースしており、それらのビデオパートではニューヨークのストリートでスイッチ50-50をメイクしている姿が確認できる。
このようにストリートを好んでいるアレクシスは、名門マサチューセッツ工科大学で修士課程を修めた建築家というもうひとつの顔で女性スケーターに対するイメージを完全に破壊することにも成功している。建築を愛する彼女がストリートを愛しているのは当然と言えるだろう。
また、アレクシスは自分の2つの世界を融合することにも成功しており、フロリダ州ウェストパームビーチとスウェーデン・ストックホルムにはアレクシスがデザイン・制作したスケートボード用フィーチャーが置かれている。さらには、当然ながら、自分のシグネチャーボードとトラックのデザインも進めている。アレクシスは何でもできる万能スケーターなのだ。
03
マージリン・ディダル / Margielyn Didal
年齢:21
出身:フィリピン・セブ島
マージリン・ディダルはスケートボードのほぼすべてを自分のレパートリーにできている数少ないライダーのひとりだ。フラット、レッジ、ステア、レールなどのすべてを安定したテクニックとスタイルでスムーズに繋げてライディングできるマージリンは、現代のスケートボードシーンで最もエキサイティングな女性スケーターのひとりに数えられている。
私たちを満面の笑みにさせるスケーターが時折シーンに登場するが(例:エリック・コストン / Eric Koston)、マージリンのキャラクターも非常に魅力的で、出場するすべてのコンペで観客から愛されている。また、フィリピン人女性スケーターのパイオニアのひとりである彼女は「スケートボードにおける女性」という急成長中のグローバルトレンドがリアルであることを証明している。
2018年のアジア大会で優勝したマージリンはすでに北米と海外のコンペで表彰台を獲得しており、X GamesやSLSでゴールドを獲得するのは時間の問題だろう。
04
サマリア・ブレバード / Samarria Brevard
年齢:25
出身:カリフォルニア州リバーサイド
世の中にはスケートボードを手にするために生まれてきたと言えるようなスケーターがいる。サマリア・ブレバードはそのひとりだ。
2017年のX Gamesでシルバーを獲得して一気に知名度を高めたカリフォルニア州リバーサイド出身のサマリアは「スケートボードシーンのセリーナ・ウィリアムズ」と評価されている。本人はこの評価に対して、肌の色だけで比較されていると否定的な姿勢を示していたが、その評価は、ルックスではなく、そのパワフルなライディングと周囲にインスピレーションを与えられる素晴らしい才能から来ていることが時間と共に明らかになっている。
女性が非常に少ないと言われているスケートボードシーンにおいて、サマリアはスキルだけではなく、黒人女性初のX Gamesゴールドメダリストになれる存在としても注目を集めている。現在はスポンサーのEnjoiとEtniesのためのストリートエディットを制作中で、音楽プロジェクトも進めている。ビーガンレストランの経営も計画中だ。
このようにマルチな活動を展開しているソマリアは、スケートボードシーンでも自分たちが望む限り何でも実現できるということを思い起こさせてくれる。どんなトリックもメイクできるのだ。
05
ライサ・リール / Rayssa Leal
年齢:12
出身:ブラジル・インペラトリズ
ブラジル出身のライサ・リールほどスケートボードシーンにおける女性のエンパワーメントを示している存在はいないかもしれない。ソーシャルメディアが台頭し、スケートボードを楽しむ女性が増え、女性スケーターの存在感が高まった結果、近年はライサのような神童がすぐにスターダムへ駆け上がれるようになっている。
2015年に投稿された、妖精の衣装でレールやステアをクリアするライサの動画は、全スケーターを驚愕させるバイラルヒットとなった。この動画をきっかけにNike SBをはじめとする複数のスポンサーを獲得した彼女は、2019年のSLS World Championship Finalsで2位を記録している。
ライサはたった数年でプロスケートボードシーンの風景を完全に変えており、女性にとって快適とは言い難く、女性をただ利用するだけの時さえあったこのシーンを正しい方向へ導いている。ライサと先輩女性スケーターたちのおかげで、スケートボードシーンの未来は明るい。
06
アラナ・スミス / Alana Smith
年齢:19
出身:アリゾナ州メサ
弱冠19歳ながらアラナ・スミスはすでにX Games史上最年少メダリスト(12歳)と、女性初のコンペでの540°マックツイスト成功という2つの世界記録を保持している。アラナはバートからキャリアをスタートさせたが、近年はベストストリートライダーのひとりに数えられている。
アラナ・スミスをひと言で表現するなら「恐れ知らず」だ。幼少期にダートバイクからスケートボードへ転向した彼女は、その大胆なライディングで今やスケートボードを体現する存在となっている。少女時代にX Gamesを観戦していたアラナは、現在は少女たちの目標になっており、彼女のビッグエアコンペでのバックフリップやhoopla skateboardsでの活動は次世代の女性ライダーたちの憧れとなっている。
07
エリッサ・スティーマー / Elissa Steamer
年齢:44
出身:フロリダ州フォートマイヤーズ
世界初の女性プロスケートボーダーはパティ・マギーだが、エリッサ・スティーマーは女性プロスケートボードシーンのシンボルとして知られている。エリッサは『Tony Hawk’s Pro Skater / トニー・ホーク プロスケーター』シリーズ全5作にフィーチャーされた唯一の女性スケーターとしても有名だ。
女性がスケートボードゲームを楽しめるチャンスを与えることになったこの功績は、彼女の才能単体がもたらしたものではなかったとはいえ、スケートボードシーンにおける女性のあり方に与えたインパクトは非常に大きかった。結果、現代のスケートボードゲーム、エディット、ムービーは女性ライダー抜きでは成立できなくなっている。
エリッサをはじめとする女性スケートボーダーたちは、ジェンダーに関係なく自分たちの才能によって “女性” をアピールしてきた。その努力の結果、近年のエリッサはスケートボードシーンの巨人のひとり、スケートボード神殿の支柱の1本と見なされており、ジェンダーを無視した全スケートボーダーからリスペクトされるべき存在となっている。
2020年も現役としてライディングを続けているエリッサの勇姿は、Baker 4をはじめとする様々なソーシャルメディアで確認できる。
08
レティシア・ブフォーニ / Leticia Bufoni
年齢:27
出身:ブラジル・サンパウロ
2020年現在、レティシア・ブフォーニという名前は世界最高の女性スケートボーダーと同義となっている。「一介のプロスケートボーダー」を超越した存在となっているレティシアはシーンのモダンアイコンそのものであり、女性ライダーでも、男性ライダーと同レベルどころか、彼らを完全に上回るライディングさえいとも簡単に披露できることを証明している。
ブラジル・サンパウロ出身のレティシアは少女時代にコンペに出場するようになると瞬く間に女性トップライダーのひとりに数えられるようになり、Nike SB、Plan B、レッドブルなどのビッグスポンサーを次々と獲得した。X Gamesの表彰台常連として知られるレティシアはこれまでにゴールド5個・シルバー3個・ブロンズ3個を獲得している他、Street Leagueでも複数のトロフィーを獲得しており、ビデオパートも軒並み評価が高い。
ソーシャルメディアに340万人超のフォロワーを抱えるレティシアは、現在世界で最も知られている女性スケーターと言って良いだろう。世界中の人たちにスケートボードを始めるきっかけを与えている彼女は、世界中のスケートボーダーのビーコンとなっている。
09
リジー・アルマント / Lizzie Armanto
年齢:27
出身:カリフォルニア州サンタモニカ
リジー・アルマントは “スケーターの中のスケーター” 、つまり、プロライダーの間で高く評価されているスケーターだ。トニー・ホークに見出されてBirdhouse Skateboardsのムービーでパートを担当したというプロフィールが彼女のすべてを説明している。
リジーはバートで多くの結果を残してきたが、キャリア最大の偉業は女性初のループメイクだろう。リジーのループメイクのクオリティはジェンダーをわざわざ持ち出さなくても素晴らしいのだが、評価されているところは素直に受け入れておこう。ちなみに、ループメイクに挑戦したライダーは男女通じてひと握りしか存在せず、成功したライダーの数はさらに少ない。
このループメイクと同じように、リジー・アルマントはスケートボードシーンの天地をひっくり返し続けている。
(了)
◆Information
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