Throbbing Gristleの硬質で鋭いシンセと荒涼としたサウンドスケープに代表される1970年代 / 1980年代インダストリアル・ミュージックの超越的ディストピアは、新種のクラブミュージックを産み落とした。
現在では “インダストリアル・テクノ” として知られるこの性急で神経質でダークなダンスフロア仕様の変種は、1990年代のUKで急速に発展し、新世代レイバーのハートをわし摑んだ。
ポストパンクやノイズのエッセンスと手法を採用し、それらを強烈で重い4/4主体のフォーマットへ落とし込んだインダストリアル・テクノは、その他の洗練されたサウンドで飾り付けられたダンスミュージックにはない、ワイルドで反骨的なサウンドと定義できる。
そしてこのインダストリアル・テクノのハードでダークで性急な要素は、バーミンガム出身のプロデューサー / DJで、そのワイルドかつ幽玄なダンスミュージックで高い評価を得てきたRebekahの中で強く共鳴している。
バーミンガムのQ Clubでのクラビング、Billy NastyやDave ClarkeなどのDJセットにインスパイアされた彼女は、自身の音楽観を一変させた神経質なクラブサウンドから得た経験を創作に落とし込んでいった。
すでに20年のキャリアを誇り、Soma RecordsやMORD、CLRなど重要レーベルから作品リリースを重ねてきた彼女は、世界中のビッグクラウドにDJやハイブリッドライブセットを披露してきた。
インダストリアルの美学は彼女のアーティスティックな姿勢の中に深く根ざしており、本記事で彼女が説明しているように、地元バーミンガムのような都市のメカニカルで金属質なサウンドスケープを単になぞるだけには留まらない、はるか深い領域に染みこんでいる。
今回は、7月にSoma RecordsからEP「Murder In Birmingham」をリリースする予定のRebekahが、インダストリアル・ミュージックのコンセプトと起源を辿り、それがどのようにテクノへ変容してきたかを探ると共に、そのサウンドをクラブから漆黒の闇を纏ったエクスペリメンタルなエリアまで押し広げてきたアーティスト8組を挙げてくれた。
ここ数年でインダストリアル・テクノは着実に盛り上がってきているし、かなり頻繁に話題に上がっているわ
「昔は、インダストリアル・ミュージックは工場の音からインスパイアされて生まれたものなんだと思っていた」
「英国の工場労働者が多く住むバーミンガムのような都市から生まれたサウンドだったし、そういう環境で耳にするサウンドを音楽にしたものなんだろうと思っていたの」
「でも、色々調べていくうちに、このジャンルは単なる工業的なサウンドの再現に留まらないことがと分かってきた」
「インダストリアルは、テープディレイや自作エフェクター、シンセなどの活用、パーフォマンスアートとの融合、コンセプトの徹底によって生まれた音楽だった」
「わたしはインダストリアルに多大な影響を受けている “バーミンガム・テクノ”(SurgeonやRegisが代表格)で知られるバーミンガム出身だから、インダストリアル・ミュージックの歴史を学ぶことは自分にとってとても重要だった」
「ここ数年でインダストリアル・テクノは着実に盛り上がってきているし、テクノのコマーシャルな側面から距離を置こうとするアーティストたちの動きに伴って、頻繁に話題に上がるようになっている」
「2019年も多くの地域からインダストリアルに影響を受けたテクノが生まれてきていて、より実験的なサウンドや、ダークなミニマルテクノとインダストリアルのハイブリッドなど、多彩なスタイルが存在している。インダストリアル・ハードコアもシーンに多大な貢献をしているわ」
「今回わたしが選出したのは、インダストリアル本来の美学の系譜上にあるUKアーティストの一部で、コンセプチュアルな音楽を貫いている、またはその精神をテクノに持ち込んでいるアーティストたちよ」
1:Mick Harris(Fret / Scorn / Lullなど別名義多数)
Mick HarrisはUKインダストリアル・テクノシーン最重要人物だと思う。RegisとSurgeonもHarrisを最大のインスピレーションソースのひとつに挙げている。
今わたしたちがバーミンガム・テクノと呼んでいるインダストリアルから直接的な影響を受けたサウンドを作るきっかけとなった人物だと2人は公言しているわ。
彼がFret名義でリリースした2枚の近作は非常にヘヴィだけど、「Murderous Weight」はインダストリアルからの大きな影響がダイレクトに表現されているように感じる。
テープディレイやフィードバック、そしてトランペットが実に素晴らしいムードを作り出していて、真の芸術品にしている。Miles Davisが存命だったら、こんな作品を作っていたんじゃないかと想像してしまうわ。
2:JK Flesh
バーミンガム出身のJK Fleshのサウンドは、インダストリアル・テクノのハードな側面にフォーカスしているけれど、ここでは彼のより実験的な作品に光を当ててみたい。
隙間と歪みを組み合わせて見事にまとめている。JK Fleshの音楽に感じられるインダストリアルから受けている影響が前面に押し出されていると思う。
3:Tommy Four Seven
8年ほど前からインダストリアルを探求しているTommy Four Sevenは、モダンなインダストリアル・テクノのパイオニアのひとりね。
彼のファーストアルバム『Prime』は彼のポテンシャルの大きさを示していたし、彼のレーベル47はこのサブジャンル内の無名アーティストたちに光を当て続けている。
今年、Tommyはセカンドアルバム『Veer』をリリースしたんだけど、この作品には驚かされっぱなしだわ。ドラムンベースのバックグラウンドとインダストリアルのさらに外側に位置するサウンドを融合して、独自のサウンドを築き上げている。
4:Manni Dee
Black Sun Recordsから作品をリリースして以来、プロデューサーとしてのManni Deeにはずっと注目している。彼が手がけるサウンドは、ブロークンビーツ風エレクトロニカから、ハードなインダストリアル・テクノまで幅広いの。
Manniが2018年にリリースしたアルバム『The Residue』は、インダストリアルの美学をさらに深く掘り下げていた。
プロデューサーとしてのManni Deeは完全に過小評価されているけれど、今後数年で才能にふさわしい注目を集めることを願っているわ。
5:Samuel Kerridge
Samuelは現在最も前衛的なインダストリアル・テクノの作り手のひとり。真の意味で境界を押し広げているプロデューサーは決して多くはないけれど、わたしにとってはSamuel Kerridgeはそのひとりよ。
6:These Hidden Hands
ベルリン経由イングランド南部発のインダストリアル・エクスペリエンスね。Tommy Four SevenがAlain Paulと手を組んで美しくも騒々しいエレクトロニクスワークを作り上げてみせた。
この2人のコラボレーションは、Tommyのソロワークを軸にAlainが生楽器や多種多様な音楽的影響を持ち込んだ作風になっている。
7:Ansome
AnsomeはUKインダストリアル・テクノシーンが輩出した最高にフレッシュなサウンドのひとつね。
プロダクションに妥協を一切許さない彼のスタイルは聴いていて常に興奮させられるし、彼のニュートラックはわたしのセットのハイライトになることが多い。
彼はファンクネスとグルーヴが感じられる非常にタフなサウンドを生み出しているの。「Poison the Body」や「Marching Powder」をチェックすれば分かるはず。でも、彼が最近The Soft Moonに提供したリミックスは、リスナーを地獄の底へ引き込むサウンドへ踏み込んでいるわ。
8:Regis
Regisに言及しないでこのリストを完結するのは無理でしょうね。彼を話題にするのはプロデューサーやDJだけのように思えるから、陰の英雄と言えるわね。
プロデューサーとしてのRegisはこの数十年で、初期重要作の「Gymnastics EP」で聴かれるようなパンク的激情が感じられるアグレッシブなテクノから、2000年代後半にピークに達したFunctionとのコラボレーションSandwell District名義のより繊細で複雑なサウンドへと進化してきた。
でも、無慈悲なインダストリアル・テクノというスタイルを確立し、Regisが自由にポストパンク / インダストリアルからの影響を探求できるようになったのは、Surgeonと組んだBritish Murder Boys名義からだと思う。
彼が運営するレーベルDownwardsは設立25年を誇る長寿レーベルのひとつで、今もTalkerやOakeなどの新世代インダストリアル・アーティストに活躍の場を与えているわ。
Rebekahの新作EP「Murder In Birmingham」は7月にSoma Recordsからリリース予定。