Yakul
© Myles J Burrell
ミュージック

UK新世代ジャズをネクストレベルへ進化させているアーティスト 10組

ブリストルのIshmael EnsembleからマンチェスターのGoGo Penguinまで、UKから世界に拡散中の最先端ジャズを牽引しているミュージシャンやコレクティブをリストアップ!
Written by Emma Finamore
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現在、UKはジャズブームを迎えている。その盛り上がりぶりはまるで今まで誰もこのシーンの存在に気付いていなかったかのようだ。
新世代のアーティストとグループ、コレクティブが、ドラムンベースやグライミーなトリップホップ、ジャングルなどのUK固有ジャンルや、Fela Kutiのアフロビートやウエストアフリカのリズム、神秘的なアフロフューチャリズム、USヒップホップなど、様々なジャンルとの融合を図りながらジャズをネクストレベルに高めている。
活力に溢れているこのシーンの中心はロンドンだが、もちろん、マンチェスターカーディフブリストルなどにもユニークで革新的なジャズを生み出しているアーティストたちが揃っており、Red Bull UKも6月に現在のUKジャズシーンを切り取るイベントシリーズRed Bull Presents Polyrhythmを国内4都市で開催する予定だ。
今回は2019年夏のUKジャズシーンを牽引しているジャズアーティスト&グループを10組紹介する。

1. Ishmael Ensemble

Ishmael Ensembleが堂々と打ち出しているブリストル感は、UKジャズシーンにユニークなエッセンスを加えている。彼らのサウンドはブリストルが培ってきた音楽を本気でリスペクトしている。
最新アルバム『A State of Flow』は、PortisheadMassive Attackなどのアーティストによってブリストルと強く結びつけられてきたトリップホップを取り入れながら、Ishmael名義でDJとしても活動しているバンドリーダーPete Cunninghamディープハウスとテクノへの深い造詣を披露している。
エレクトロニック・ミュージックとジャズを上手く共存させているCunninghamの優れた空間把握能力と、Yazz Ahmed(トランペット)のような他のUKジャズアーティストとのコラボレーショントラックには「意外な音楽を融合させる勇気と共にコラボレーションを重ねていく」という、UKジャズシーン全体で共有されている美学が反映されている。

2. Darkhouse Family

ダブワイズなヒップホップを打ち出していた2010年の「Family Trees」やビート重視のバイブスが特徴的だった2014年の「Blockwild」EPなど、重低音サウンドからキャリアをスタートさせたDarkhouse Family(ダークハウス ファミリー)は、その後様々なアーティストたちと繋がりながら非常に幅広いサウンドを練り上げていき、近年は彼らなりのジャズへの接近を試みている。
Kamaal Williams(aka Henry Wu / 元Yussef Kamaal)やカーディフを拠点にしているヒップホップ/ ファンクグループAfro ClusterのドラマーDaf Davies、ストリングアレンジャーのJonathan Powellのような複数のアーティストとのセッションを通じて生み出されたのが、2017年にリリースされた、ジャズとソウルを全面的に取り入れたアルバム『The Offering』だ。
生楽器とディガーセンスが感じられるサンプルを組み合わせている彼らのサウンドはオーガニックだがフューチャリスティックだ。Kamaal Williamsとのコラボトラック「Heart Of Medina」はその好例で、生楽器の豊かなサウンドがシャープなシンセサウンドの周囲を美しく漂っている。

3. Yakul

J Dilla、フューチャーソウルカルテットHiatus Kaiyote、D’Angelo、Erykah Badu、Common、Questloveなどを擁していた1990年代後半のネオソウルスーパーグループSoulauarians、そしてロンドンのRhythm Sectionなどから影響を受けているYakulは、ソウルフルなリリックにディープなグルーヴとジャズ的展開を組み合わせている。
ここに挙げているアーティストたちからの影響は彼らがこれまでにリリースしてきたすべてのトラックで確認することが可能で、「Realigned」ではウォームでメロウなネオソウルが聴ける他、「Bad Karma」ではGranddaddy的なシンセにうねるベースを組み合わせている様子が確認できる。
Charlie Staceyなどとコラボレーションを重ね、今夏にはUKを代表するジャズフェスティバルLove Supremeへの出演が決定している彼らはジャズへの傾倒を強めている。

4. Snazzback

ブリストルのジャズ・ヒップホップ・ファンクシーンをリードしているこの8人編成のバンドは、複雑なアレンジとジャズを他のアートフォームから切り離している要素のひとつインプロを絶妙なバランスで組み合わせている。
影響を受けたアーティストにJ DillaPortico Quartetを併記する彼らは、他のアーティストにはないフェザータッチとエレガンスを備えており、シンガーChina Bowlsの透き通るような歌声も素晴らしい。
Ellsdon in a Hedge, pt 1」の爽やかさ、「Mr Frimp」の煌めき、「Park Ark」のラテンパーカッションなど、Snazzbackはアフロファンクとサイケジャズを独自のコラボレーションスピリットで表現しながら、ユニークなグルーヴとフロウを生み出している。

5. Mammal Hands

マンチェスターを拠点に活動しているトランペッター / コンポーザー / レーベルオーナーのMatthew Halsallが運営するレーベルGondwanaからデビューしたノリッジ出身のトリオ、Mammal Hands(ママール ハンズ)は音楽でストーリーを紡ぎ、絵を描く。
たとえば、2017年にリリースしたアルバム『Shadow Work』はテクスチャ豊かなサウンドスケープが収録されている。
このアルバムは、彼らの革新的なプロダクションテクニックとサウンドチョイスの妙、エレクトロニック・ミュージック、モダンクラシカル、ワールドミュージックへの深い造詣が示されており、元々は木管フルート用として用意された「Solitary Bee」ではフォーク的なサックスとアイルランドの伝統音楽の影響が、「Boreal Forest」ではシネマティックな展開が確認できる。
また、このアルバムの前年、2016年にリリースされたアルバム『Floa』では、スーフィズムとアフリカのトランスミュージックにフォークを組み合わせており、そのさらに数年前にリリースされたアルバム『Animalia』に収録されているメランコリックで切ないドライブ感が特徴の「Kandaiki」はジャズを使ってナラティブが感じられるストーリーを語っている。
Mammal Handsはジャズの限界を押し広げ続けているバンドだ。

6. Kokoroko

Sheila Maurice-Gray(トランペット)が率いる8人編成のアフロビートバンドKokorokoは、ジャズ、アフロビート、ハイライフ、ロンドン、ラゴスのサウンドをバランス良く組み合わせている。
2019年3月にBrownswoodからデビューEPをリリースし、それに合わせて魅力的なライブも展開した彼らだが、そのデビューEPのラストを飾る「Abusey Junction」はこのバンドの真の魅力が表現されており、瞑想的・メロウ・ウォーム・メランコリックなそのサウンドはマスターピースと呼ぶに相応しい。
同レーベルのコンピレーション『We Out Here』に先行収録されていたこのトラックは、すぐにシーン内で話題になり、Worldwide Awardsで最優秀楽曲賞を受賞した他、YouTubeで3,000万近い視聴回数を記録している。
UK新世代ジャズアーティストが最も得意としている「予想外のサウンドを組み合わせて完全に新しいサウンドを生み出す」を誰よりも得意としているのが彼らだ。

7. GoGo Penguin

マンチェスター出身のピアノトリオ、GoGo Penguin(ゴーゴー・ペンギン)は、ジャズ、エレクトロニカ、モダンクラシック、トリップホップを取り入れたサウンドを打ち出しており、そのサウンドはAphex Twin、Brian Eno、Shostakovich、Debussy、Philip Glassなどと比較されている。
意図的に抑制されているクールなブロークンビーツと美しく煌めくピアノが魅力的な「Hopopono」、レイブ的多幸感が得られる「Bardo」、ジャングリスト的ビートと豊かなピアノが聴いたことのないユニークなサウンドを作り上げている「Garden Dog Barbeque」などを拒否するのは難しい。
2014年にリリースしたアルバム『v2.0』(Gondwana)がマーキュリー賞にノミネートされた彼らは、現在はBlue Noteと契約しており、その才能とUKエクスペリメンタルサウンドを世界に広めている。

8. Soweto Kinch

ジャンルをまたぐ新世代UKジャズの地盤を築いた人物として知られる(デビューアルバム『Conversation With The Unseen』は15年前のマーキュリー賞にノミネートされた)Soweto Kinchと彼のトリオSoweto Kinch TrioはUKジャズの限界をプッシュし続けており、ジャズとヒップホップ、サキソフォニストとフリースタイルMCの境界線を探りながら、ラテンファンクからスウィングまでを自由に行き来するサウンドを生み出している。
2016年のアルバム『Nonagram』に収録されている「Waved」では、宇宙的なサウンドのシンセとムーディーなトリップホップビートを器用に組み合わせた緻密なサウンドが楽しめるが、『Conversation With The Unseen』に収録されている「Run Dem」では早急でスリリングな演奏にドランクンなヒップホップビートを組み合わせている。
KinchがのちにTheon CrossやMoses Boydなどを輩出する音楽教育プログラムTomorrow’s Warriors出身だというのは何の不思議もない。

9. Paper Tiger

Paper Tiger(ペーパー タイガー)はデジタルなテクスチャが特徴のバンドだが、実際のサウンドはデジタルでは片付けられないディープさと複雑さを備えている。
現在は6人編成で活動している彼らは、アフリカンファンクのコンピレーション、世紀末感漂うスペースラップ、そしてMiles DavisとStingのコラボレーションなどを聴いて育ったが、サウンドシステムカルチャー日本の漫画からも大きな影響を受けている。このような趣味趣向が、彼らのデジタルとアナログを組み合わせる才能のバックボーンになっているのだろう。
2019年4月にリリースされたアルバム『Rogue Planet』に収録されている「Yeah Yea」はUKヒップホップの影響が感じられるトラックで、JehstSkinnymanTask Forceがグリッチーなシンセサウンドの上でラップしているようなサウンドに仕上がっているが、Olivia Bhattacharjeeのクリアなヴォーカルがフィーチャーされている「Bioluminescent」はブロークンビーツにブリープシンセを組み合わせた平均的なジャズトラックとは一線を画したサウンドを展開している。
初期作品群には彼らが受けてきた様々な影響がさらに色濃く反映されており、サイケデリックヒップホップとジャングリスト的ドラムビートのフュージョンが楽しめる。

10. Emma Jean-Thackray

トランペッター / コンポーザー / プロデューサー / マルチインストゥルメンタリストのEmma Jean-Thackrayは、J DillaのビートからMadlibのキャラクター、そしてアフロビートを含むあらゆるサウンドから影響を受けているが、同時にGil EvansやMiles Davisのようなジャズジャイアントたちも敬愛している。
Lay Lines」EPはMadlibのジャズアドベンチャーYesterday’s New Quintetsを彷彿とさせるサウンドで、彼女はこのアルバムのすべてをサウスロンドンの自宅でたったひとりで演奏・レコーディングして完成させた。自分の中の別人を引き出して作業を進める時もあった彼女のこの姿勢は音楽の献身以外の何者でもない。
Emma Jean-ThackrayはUKの音楽シーンの育成にも力を貸しており、ロンドン交響楽団と組んでコンサートホールクラスのプログラム(自作曲を含む)を立案・開催したい若手作曲家たちをアシストするために立ち上げられた「LSO Jerwood Composer+」を展開している。
また、Worldwide FMで2ヶ月に1回のペースでラジオ番組もホストしており、最新のジャズを中心に興味深い音楽を紹介している。
最近はSoweto Kinchのステージをサポートした他、自分と同じようにジャズとビート&ベースカルチャーを組み合わせているアーティストSkinny Pelembeの「Sleep More, Make More Friends」EPに参加した。