A photo of Adel raising up a can of Red Bull.
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Big Bird:『ストリートファイターV』トッププレイヤーまでの道のり

自己疑念を払いのけ、格ゲーの頂点に立つのに地域は関係ないことを証明してきたUAE出身レッドブル・アスリートのキャリアと努力を本人の言葉と共に学ぶ。
Written by Ryan Collins
読み終わるまで:8分Published on
睡眠不足と緊張に悩まされていた『ストリートファイターV』プロプレイヤーAdel “Big Bird” Anoucheは、EVO 2019の会場をせわしなく往復しながら自分のプールが始まるのを待っていた。
不安がマインドを曇らせようとしていた。世界最強クラスのプレイヤーたちとの生存競争に勝てる実力がなかったら? 長時間のトレーニングが無駄に終わってしまったら? 十分な準備はしたのだろうか? 対戦台に座り、アーケードコントローラーを握るまで、このような疑問が彼の脳裏をよぎり続けた。
それから数日後、Big BirdはEVO 2019の『ストリートファイターV』トーナメントを2位で終えて世界に衝撃をもたらした。UAE出身のBig Birdは、日本のまちゃぼー藤村、そしてヨーロッパのDC “Infexious” Colemanなどを倒してグランドファイナルへ駒を進めたあと、“センパイ” のボンちゃんに敗れた。
Big Birdは自分がメインステージに立てる実力を備えていることを心の底では理解していたが、EVO 2019は、その自己評価が正しかったことを証明したのだった。
知らない人は多いが、格闘ゲームプレイヤーが自己疑念に苛まれるのは珍しいことではない。
このシーンの全プレイヤーが成長とトレーニングを続けており、また近年はシーンが拡大しているため、隣に座った見知らぬ誰かに簡単に敗れてしまう可能性もある。自分のプレイは常に試され、パーフェクトに近いレベルのプレイが求められる機会は多い。

出発点と自己疑念

格闘ゲームのトップレベルに到達するまでは長年の努力が必要だ。しかし、Big Birdのストーリーは我慢強くプレイを続けていれば、どのような障壁も乗り越えられるということを証明している。また、他の地域と同じように、中東にも格闘ゲームシーンの新たな才能が眠っていることを教えている。
Big Birdは自分のキャリアのきっかけについて、ストリートカルチャーからeスポーツに興味を持つようになったとし、次のように続ける。
「『ストリートファイター』はアイコニックな存在だった。UAEの誰もがケンリュウ波動拳昇龍拳を知っているし、一番有名な格闘ゲームシリーズだったんだ」
しかし、プロプレイヤーとしてのキャリアを最初から考えていたわけではなかった。最初はただプレイを楽しんでいた。
「昔から格闘ゲームが好きだった。1on1が好きだったんだよ。自分と対戦相手しかいない状況がさ。でも、プロプレイヤーになるなんて考えていなかった。とはいえ、いずれこの道を歩んでいただろうなとも思う。とても自然に感じていたし、運命のように思っていたから」
『ストリートファイターIV』を友人たちやAmjad “Angry Bird” Alshalabiと一緒にプレイしていたBig Birdが真剣にプレイするようになると、最初のブレイクが訪れた。Red Bull Kumite 2016前日最終予選(Last Chance Qualifier)優勝したのだ。
ここで容赦ない才能を開花させたBig Birdはその後も活躍を続け、これまでにいくつもの素晴らしい勝利を収めてきた。参加したすべてのトーナメントで自己疑念が頭をもたげたが、彼がそれに飲み込まれることはなかった。
「それほど自分は強くないかもしれないと思ったことは何回もあった。でも、トップ8に入ったり、優勝したりすることができた。自己疑念を持つのは毎年のことだった」
「2017年はE-Sports Festival Hong Kongまで自分を疑っていたし、2018年はSEA Major 2018 Open Eventで優勝するまで自信がなかった。2019年もEVO 2019で準優勝するまでは疑っていた。毎年落ち込むけれど、何かが必ず自分を盛り上げてくれるんだ」
Big Birdが陥る自己不信は、格闘ゲームシーンのほぼ全員が共有している。しかし、「自信を失っている時に自信を取り戻せる」 - これが並のプレイヤーとトッププレイヤーの違いになる。

Big Bird & Angry Bird

Big Birdにとっては、Angry Birdから定期的に刺激を受けていることが自信を取り戻す助けになっている。2人は一緒にトレーニングをしているだけでなく、トーナメントでもお互いを支え合っている。勝ち負けを問わず、対戦後、彼らは励ましの言葉をかけ合っている。
また、勝率をさらに高めるためにBig Birdは万全の準備をしてトーナメントに臨むようにしている。Big Birdはハイレベルでのあらゆるマッチアップをカバーできるように複数のキャラクターでトレーニングを積んでいるが、すべてのキャラクターはシンプルな選択基準で選ばれている。
機動力対空性能基本スピード信頼性が高いキャラクターを選んでいる。キャラクターデザインも影響するけれど、ほんの少しだね」と説明するBig Birdは、『ストリートファイターV』ではケンラシードGをトーナメントで起用してきた。
しかし、彼がトーナメントで大きな結果を残しているのはラシードだ。スピードに乗って対戦相手を押し込むラシードのスタイルはBig Birdと相性が良く、彼は対戦相手に攻撃のチャンスを与えないことで多くの結果を生み出してきた。
2020年5月現在、格闘ゲームトーナメントとツアーは中断している。しかし、“ステイホーム” が格闘ゲームコミュニティの「全体で成長したい」という熱い思いを止めることはできない。
Big BirdとAngry Birdは、自分たちをトップレベルで保つために今も一緒にトレーニングを積んでいる。「オンラインでもトレーニングするけれど、Angry Birdとオフラインのトレーニングも積んでいるよ。オンラインとオフラインのイベントをチェックして、他のプレイヤーと意見交換することも続けている」
また、『ストリートファイター』シーンの今と繋がりつつ、独自のコンテンツを提供するために、Big BirdとAngry BirdはTwitchでストリーミングを展開して視聴者とコミュニケーションを取っている。
アドバイスを送ったり、それぞれのキャラクターの疑問に答えたり、現行メタについての意見を語ったり、世界を回って得た知見を共有したりしているBig BirdとAngry Birdは、トレーニング動画の制作もスタートさせている。
「自分たちのチャンネルでレッスンも始めたんだ。あとはオンライントーナメントも始める予定だ。僕たち2人は参戦しないでコメンテーターを担当するんだ」
『ストリートファイター』シリーズは “ワールドウォリアーズ” のためのゲームだ。そして、世界各地のファイターたちが最強の称号を賭けてしのぎを削るというシンプルなコンセプトは現実世界にも浸透している。
このゲームで出身地が問わることはない。問われるのは実力だけだ。しかし、それでも知名度が低い小さな地域や国が輝きを放つまでは少し時間がかかった。
最初、多くのファンは米国日本ヨーロッパのプレイヤーに注目していた。しかし、シーンが成長して行くにつれて様々なプレイヤーたちが自分たちのスキルを示す機会が増えていった。そして、Big BirdとAngry Birdの活躍は「UAEは強国」という認識をコミュニティ内に植え付けることになった。

新たなる強国

注目すべきUAE出身プレイヤーは彼ら2人だけではない。Big Birdは「Zaabiはユリアン使いのUAEの強プレイヤーだ。あとは、クウェート出身だけど、Azizは優秀な豪鬼使いだね。2人は本当に優秀だ。ただ経験が足りない。『ストリートファイターV』では経験が大事なんだ」と説明している。
Big BirdとAngry Birdも経験不足を体験してきた。UAE周辺はローカルトーナメントの数が少ないため、マッチアップの知見を積み上げることが難しい。しかし、2人は国外に出るようになると、あらゆるチャンスを活かしていった。
また、Bigr Birdは、ローカルシーンの有望な次世代プレイヤーたちがより簡単に活躍できるようになるために、ワールドクラスのeスポーツプレイヤーのひとりという自分のステータスを守る努力を重ねている。
自分が前例になることでローカルシーンを牽引しようとしているのだ。Big Birdが活躍すればするほど、ローカルシーンの可能性の幅が広がっていく。
「ローカルのイベント数が少ないから、僕がコンテンツを作りながらトッププレイヤーとして活躍を続けることで現状を変えていきたい」とBig Birdは語っている。ローカルシーンに人が集まるようになれば、ツアーストップとして考慮されるようになり、そうなれば、次世代のプレイヤーたちが切磋琢磨できる施設が増えることになる。
しかし、中東を代表するプレイヤーのひとりというステータスには大きなプレッシャーがついてくる。また、格闘ゲームシーンの食物連鎖の頂点に残り続けるためには大きなストレスと戦わなければならない。
しかし、本人は気にしていない。Big Birdはキャリアを通じて自己疑念を払いのける方法と自己不信にプレイの邪魔をさせない方法を学んできた。素晴らしい結果を残してきた自分のキャリアをこのタイミングで今一度振り返ったBig Birdは、これまで以上に次の戦いの準備ができている。
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