ブラッデン・カリーはニュージーランド・カンタベリーの農場で生まれ育ったため、彼の食生活もその生活から影響を受けており、かつては肉類と野菜が定番メニューだった。
このような食生活は当時のエンデュランスアスリートの間では最適なものとして扱われていなかったが、皮肉なことに近年は新世代栄養管理アプローチとして流行している。
昨今主流のアプローチは、パレオダイエット(※)またはローカーボ・ハイファット(LCHF)ダイエットが中心で、ある意味カリーにとってはルーツ回帰的なのだ。
※パレオ(Paleo)は「旧石器時代(Paleolithic)」の略。パレオダイエットは人類が農耕を開始する前の狩猟採集型食生活を取り入れた食事法で、野菜やたんぱく質を中心とする食生活の流行と共に注目を集めている。簡単に手に入る野菜、ナッツ、卵、有機飼育の肉・魚介類はOKだが、米や穀物、炭水化物、砂糖、加工食品・調味料は原則的にNG。
— 現在取り組んでいるパレオダイエットについて説明してもらえますか?
僕の食事法はいたってシンプルで、パレオスタイルの食品を多く食べている。朝はプロテインを豊富に含んだスムージーにパレオ式ミューズリーをトッピングしている。
昼食は主にプロテインを含んだサラダで、夕食もほぼ同じだけど、ローストしたサツマイモやカボチャ、ビートなど野菜を中心にした炭水化物も摂取している。
— アイアンマンやアドベンチャーレースを始めた頃の食生活はどのような内容でしたか?
当時はトレーニング中もレース準備期間も炭水化物を豊富に含んだ食生活だった。
栄養管理についてはそれほど考えていたわけではないけど、当然ながらそれなりにヘルシーな物を食べていたし、夕食は肉+野菜3種類といった内容だった。朝食や1日の食事を通して、ミューズリーやパンなどをたっぷり用意していたね。
— パレオダイエットやLCHFダイエットに回帰したきっかけは?
数年前、オークランド工科大学で代謝試験を受けたんだ。このデータによって、これまでの僕がいかに炭水化物に依存していたかを深く知ることができた。
以前の僕が通常の負荷でレースを戦うと、炭水化物を十分に消化しきれないままレースを終えていることが明らかになった。この代謝試験で、僕の限界の71%、あるいは時速14.1km/hのペースでランニングすれば摂取した炭水化物を100%エナジーに転化できることが分かった。
当時の僕は複合種目の長距離レースに数多く参戦していて、初のアイアンマン挑戦を考えていたから、このデータを見て食生活改善プロセスをスタートさせたんだ。
— 改善にはある程度の時間がかかったのでしょうか?
パレオダイエット導入に取り組み始めたのは、僕にとってのシーズン最大のレース、XTERRA Worlds Championshipの準備のために5週間タホに滞在したタイミングだった。準備に万全を尽くしたいレースだったんだ。だから、僕と家族はトレーニングのためだけにタホへ向かったんだ。
僕の妻は「あらゆる部分にコミットしなければ、自分の能力に相応しくない結果に終わる」といつも真っ先に言い聞かせてくれる。彼女は運動生理学や栄養学のバックグラウンドがあって頑固な性格なんだ。無視していられないほどの存在感を放つ時があるんだよ。
— 食生活を変えた効果はどのような点で確認できましたか?
このプロセスで僕が気づいた重要なポイントは、1日のエナジー持続時間が延びたことだ。補給なしで長時間トレーニングできる能力が身についた。空腹感に悩まされる機会が少なくなったんだ。
身体全体の調子も良くなっているように感じたし、ずっと抱えていたふくらはぎの故障も完全に解消された。
結果的にトレーニング量が増えて、良好なフィーリングが得られるようになった。また、高地でも良く眠れるようになった。
— 食生活を変えて満足していますか?
パレオダイエットを導入してから約3年が過ぎたけど、代謝面の変化についてはまだ試験で確認していないんだ。それでも、栄養面の変化には満足しているし、トレーニングやレースデイでもうまく役立っていると思う。
また、ラッキーなことにMy Sports Scienceのアスカー・ジューケンドラップに指導してもらえたんだ。
アスカーはスポーツ栄養学のトップクラスで、世界のトップアスリートたちを指導している。彼と一緒に取り組めたのは素晴らしかったし、僕の栄養面のアプローチに自信を与えてくれ、僕にも取り組めるアドバイスを授けてくれた。
ブラッデン・カリーが教えるパレオダイエット導入ヒント
1:プランは入念に
好みのメニューに基づいた1週間分のショッピングリストを作成するか、昼食はサラダ+プロテイン、夕食は肉+野菜3種類というシンプルな構成にしよう。
朝食は多くの人がシリアルやトーストなどに頼りがちなので変化させるのが最も難しい食事だ。シリアルやトーストの代わりとして僕はプロテイン入りスムージーを摂取している。ココナッツクリームと無糖アーモンドミルクがベースだ。
僕は豆由来プロテインを使っていて、ホエイプロテインは使わない。
胃腸の健康のために、MCTオイル(中鎖脂肪酸)、非加熱カカオ、LSA(リンシード / ひまわりの種 / アーモンド)、プロバイオティックパウダーを追加している。
ベースに使うフルーツは、バナナ半分とオーガニックブルーベリーだ。
2:カフェやレストランは避ける
少なくとも1週目はカフェやレストランには行かないようにしよう。このような店の近くに行くだけで、いとも簡単に挫折してしまう。
3:効果の実感には一定の時間を要する
パレオダイエットではそれほど空腹感を得ないけど、効果が出るまでは時間がかかるし、砂糖は原則的に摂取NGなので気分が落ち込む。
最初の1週間はスムージーに少量の砂糖を足すか、野菜にナッツバターを加えて苦しい時期を乗り越えよう。
4:水を飲むのは食中より食間
僕はアスリートだし、おそらくほとんどの時間で脱水状態に近いんだけど、食事のたびに水を大量に飲んでしまうと消化に悪影響が出るんだ。
食間に水を飲むようにすれば、空腹感に悩まされることもなく、軽食に手を出さずに済む。僕は体内の水分を保ち、水分不足に陥らないためにシュガーフリーの強力な電解質を使っている。
5:トレーニング時の栄養補給
僕が最初にメインとして用いていたのは、ナッツバターにココナッツオイルを合わせたものだった。今ではトレーニング中に何かを口にすることは一切ない。
ロングライドの日は、フリッタータやローケーキなどパレオダイエットに適した食品を選んでいる。
最大限の効果を得る必要がある重要なトレーニングセッションに取り組む時は、前日(昼食と夕食)にローストした野菜と一緒に炭水化物の摂取量を増やしておく。
筋肉のグリコーゲン貯蔵量が増えるまでは時間がかかるから、重要なセッションの時は前日からプランを整えておく。
ブリックセッション(バイクとラン、スイムなど複数のセッションを同日に行う)に取り組むタイミングで週1回エナジージェルも利用している。通常は土曜日だね。レースデイでエナジージェルを摂取するために胃腸を慣らしておくんだ。
6:食べ物への執着を忘れる
僕も含めてだけど、食べ物にこだわりがあるアスリートは多いと思う。
かつてある人から「食事をする時は、自分が何を食べようとしているか考えろ。目の前にある食べ物が自分にとってメリットがあるのか自問すべきだ」と言われたことがある。これで頭の中が整理されて、食べ物について正しい選択をすることに気持ちよさを感じるようになった。
何が良い食べ物なのかは僕たち全員が知っているし、悪質な食べ物の人体への影響を意識することで、それらを避けられることに気が付いた。
気分良く過ごしたいし、トレーニングプランの全セッションをちゃんとこなしたい。きちんと考えることで自分のキャリアを最大限まで高めたいんだ。