ゲーム

ストリートファイタースター列伝:F-Word

英国を代表するプレイヤー兼コメンテーターを紹介する。
Written by Michael Martin公開日:
コメンテーター兼プレイヤーのFemi “F-Word” Adeboye
コメンテーター兼プレイヤーのFemi “F-Word” Adeboye
Femi “F-Word” Adeboyeと『ストリートファイター』について少しでも話せば、彼のこのゲームへの情熱と愛情がすぐに理解できる。元セミプロプレイヤーで、現在はコメンテーターとして活躍するF-Wordは、随分長い時間を『ストリートファイター』シーンに費やしてきた。かつてヨーロッパ屈指の『ストリートファイター』のプレイヤーとして名を馳せていたイジェリア出身ロンドン在住の彼は、現在でも高い知名度を誇るが、それはプレイヤーとしてではなく他の部分が評価されてのことだ。現在の彼は、パートナーのZade Ramzi、Logan Samaと共にヨーロッパの『ウル4』イベントでは欠かせないコメンテーターとして知られている。F-Wordと話せば、本人はまず自分がJames Chen、Ultradavid、Skisonic、Seth Killianのような尊敬するコメンテーターのような偉大な人物ではないと言うはずだ。その謙虚さと情熱、そしてユーモアが、『ストリートファイター』について何時間でも話せる彼を他とは違う存在にしている理由だ。

サッカー選手時代

『ストリートファイター』はユニバーサルなゲームであり、それがこのゲームの魅力のひとつとなっている。2歳でナイジェリアからロンドンへ移住し、1990年代後半をアーケードで過ごしたF-Wordを含め、どんな人でも楽しむことができるゲームなのだ。しかし、F-Wordの場合、『ストリートファイター』にのめり込むまでは多少時間がかかった。何故ならこのゲームは彼が最初に興味を持った対象ではなかったからだ。幼い頃の彼はプロサッカー選手を夢見ていた。
「ずっとサッカー選手になりたいと思っていたんだ。ポジションはGKで、8歳の頃から17、18歳位の人たちを相手にしていた。小さな頃から他の人より上手かったんだよ」
16歳でセミプロ選手となった彼は18歳まで続けたが、その後女の子に興味を持ったことでサッカーへの興味を失っていった。
「1年半サッカーから離れていた。女の子を追いかけるのに夢中だったんだ。そのあとにサッカーに復帰すると、すべてが違っていた」
プロサッカー選手の夢を絶たれたF-Wordの心の穴を埋めたのが格闘ゲームだった。12歳の頃のF-Wordは、放課後に地元のアーケードへ通い、ウェブボール(訳注:スパイダーマンの必殺技)やタイガーアッパーカットを繰り出すことに夢中だった。あまりにも長時間プレイしていたので、母親が探しにやってくる時も多く、大抵の場合、彼は耳を掴まれ、引きずられて家へ連れて行かれることになった。そして『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』がリリースされた時、いぶきが彼の人生を変えた。
「『3rd STRIKE』がリリースされると、他はどうでも良くなった。『これだよ! このゲームを学びたいんだ』って思った。そしていぶきを使った時、俺の運命が決まったんだ」

『ストリートファイター』へ

F-Wordは『3rd STRIKE』を自宅でプレイできるようにPS2を購入したが、アーケードでプレイしている時は、Seanという名前のいぶき使いのプレイヤーをチェックしていた。たまに彼と対戦する時もあったが、大抵はSeanが他のプレイヤーに圧勝している様子を眺めていた。SeanはF-Wordが誰だか知らず、また自分がF-Wordの心の師匠になることも知らなかった。
「Seanは『3rd STRIKE』最強のプレイヤーだった。俺はただ彼のプレイを見たいがためにアーケードへ通っていたんだ。Seanは8人ほどのキャラクターを使い分けていたから、早く負けていぶきを使わないかなと思っていたんだ」
F-Wordが横で眺めていた時代はそう長く続かなかった。『3rd STRIKE』が終わり、2008年に『ストリートファイターIV』がリリースされると、ファンには新たな希望が生まれ、シーンは再び活気づいたが、実はこの時が『ストリートファイター』からの2度目の天の声だったのかも知れない。この頃の彼は既にこのゲームを知っていたが、シーンのプレイヤーたちを知る必要があった。
「アーケードは社交する場所だっていう自分の考えをみんなに押しつけたんだ。対戦したあとに、対戦相手に色々声をかけたのさ。他の奴らはそんなことはしなかったね」
当時のアーケードでは、知らないプレイヤーや新しいプレイヤーに声をかけるプレイヤーは少なかった。対戦で負ければ、ただ順番待ちの列の最後尾に戻り、負けを重ねていくだけだった。「なぜ負けるのにまた列に並ぶのか」と訊ねたり、勝つためのアドバイスをしたりする人はいなかった。独学で学ぶためのYouTubeやオンラインプレイがまだ存在しなかった頃の話だ。
「俺は昔から社交的だったね。みんなが社交的じゃないのを見て残念に思っていた。でもコミュニティが成長するにつれ、俺は友人を作れたよ。彼らの数人は今でも俺の親友さ」

最高の時代

それから数年が経過し、『ストリートファイターIV』にいぶきが戻ってくると、F-Wordの『ストリートファイター』におけるキャリアは大きな変化を迎えた。以前小さなスポンサーがついていたこともあったF-Wordだが、2012年にはWestern Wolves、そしてMad Catzと契約した。当時のMad CatzにはRyan HartやSeonwoo “Infiltration” Leeが所属しており、F-Wordは自分が契約できたのはRyan Hartのお陰だとしている。そしてF-Wordは2012年から2013年にかけて、Dreamhack 2012やHyperspottoing3など複数のトーナメントでトップ4を記録。EVOにも参戦するなど様々な成功を収め、チームが解散するまで2年間に渡り活躍を続けた。
やがて、昼間の仕事、理想の女性との出会い(またもや女性!)、そしてスポンサーの喪失により、F-Wordはモチベーションの維持ができなくなっていった。プレイする時間が減り、スキルが低下していくと、彼はマイクを手にする時間が増えていった。当時、英国の有名なDJ、Logan Samaがロンドンで『ストリートファイター』のイベント、Winner Stays Onを立ち上げ、毎週開催するようになった。このイベントではプレイヤーたちが競い合い、コメンテーターの実況も行われていた。F-Wordのユニークなキャラクターはこの頃既に認知されていたが、Winner Stays OnでLogan Samaのような他のコメンテーターと組むことで、彼の知名度は更に高まることになった。

優秀なコメンテーターを目指して

F-Wordの実況を聞いたことがある人は、「Just gimme da mic!」(マイクを貸せって!)、「Rago!」(いいね!)、「Oh my days!」(なんてこった!)などの彼の有名なフレーズを耳にしているはずだが、本人は我々が思っているほど有名ではないと謙虚に言うはずだ。F-Wordは自分のスタイルが万人受けするものではないことを理解しているが、いざ実況になれば、常にプロフェッショナルな姿勢で自分のゲームに関する知識を披露し、アクションを解説する。F-Wordは実況がロボットのようになることを望んでいない。そのため、彼は面白くて気さくな自分のキャラクターに、サッカーの実況で有名なAndy Grayの分析力と情熱、声のトーンから得たヒントを組み合わせた形で実況を行っている。
「実況する時はニュートラルな姿勢を保つことが重要だと思う。あとはゲームをしっかりと理解することだね。自分がベストプレイヤーになる必要はない。しっかりと理解すれば、そこまで上手くなくてもちゃんと分析できるようになるんだ」
「プレイヤーが何を考えて、何をしようとしているのかについてバランスよくコメントする。展開を予想しておいて、何か起きたらすぐにコメントして、プレイヤーの意識にどんどん深く入り込んでいくんだ。そこから先はすべてが自然に進んでいくよ」

格闘ゲームコミュニティへの見解

eSportsはここ数年で急成長を遂げており、F-Wordはハイレベルなコメンテーターがビッグイベントに求められていることを十分に理解している。格闘ゲームコミュニティにおける共通意識、特にベテランたちの間での共通意識は、このシーンが急激に育ちすぎてしまうことへの危惧だが、F-Wordは驚くことにその手の恐怖を一切感じていない。
「『ストリートファイター』や他の格闘ゲームが、今のeSportsを代表するゲームよりも大きく成長していくのを見守りたいね。間違いなく格闘ゲームは他のゲームよりも観客が楽しめるゲームだと思うからさ」
しかし、人気には代償が伴う。格闘ゲームコミュニティは長年に渡り成長を続けているが、コミュニティの一部に残るネガティブな意識が大きな問題になる可能性がある。
「もし誰かに、『ストリートファイター』が『League of Legends』の半分ほどの人気を獲得するためには、このゲームのカルチャーの7割を失う覚悟が必要だと言われても、俺が気後れすることはないね。シーンのみんなも同じ気持ちでいて欲しいよ」
また、F-Wordは「ストリーム・モンスター」と本人が名付けているコミュニティの一部の人たちについても触れた。格闘ゲームのストリーミングの視聴者である彼らはチャットを占領しており、彼らの不快なコメントや人種差別、女性蔑視は、長年に渡り格闘ゲームコミュニティを汚染している。
「オンラインの連中が低俗になりがちなのは、ある意味世界共通だよね。ただ、自分たちのカルチャーがそこにかなり毒されているのは恥ずかしいよ。シーンの成長と共になくなってくれればと願っているんだ」
F-Wordは文字通り、“1日中”『ストリートファイター』の話を続けられる人物だ。彼は自分がプレイヤーとして参加した対戦や、実況を担当した対戦を、瞬時に、そして大量に思い出すことができる。その姿はまるで『ストリートファイター』シーンの生き字引き、今風に言うならば「生けるWikipedia」のようだ。過去にプレイヤーとして成功を収めてきた彼は、最近もVSFighting 5で5位に食い込み、Capcom Pro Tourでも9ポイントを獲得して57位につけている(8月20日現在)。しかし、彼は『ストリートファイター』での成功ははかないものだということを理解している。そして、一瞬で名声が消える可能性があるこのシーンの一部として、この瞬間関われていることを感謝している。自分の人生が新章へ進もうとしている今、その気持ちは尚更強い。F-Wordの妻は現在妊娠中で、近日第1子が生まれる予定だ。
彼の人生はまた大きく変わるだろう。