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Casuals:RyanLV

ユニークなチーム編成で『Marvel vs. Capcom』シーンに話題を提供しているラスベガス出身の若手プレイヤーを紹介する。
Written by Ian Walker
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『Marvel vs. Capcom』のトッププレイヤーに成長したRyanLV

『Marvel vs. Capcom』のトッププレイヤーに成長したRyanLV

© iwalker2

ユニークなチーム編成で『Marvel vs. Capcom』シーンに話題を提供しているラスベガス出身の若手プレイヤーを紹介する。
個人や戦術の弱さがチームメイトで補完できるチームゲームとは異なり、格闘ゲームは純粋な1on1だ。自分が選択したキャラクターが対戦相手とどう組み合えるかが、トーナメントの結果を左右する。そして、『Ultimate Marvel vs. Capcom 3』や『King of Fighters XIV』のようなチーム戦タイトルでさえも、個人の微妙なバランス感覚が求められる。相手に自分のチーム編成の弱点を見抜かれてしまえば完全な敗北に繋がってしまうのだ。
よって、シーンの大半が「使えない」と考えているキャラクターをアドバンテージに変えることができるプレイヤーが登場すれば、大きな注目を集めることになる。
Ryan “RyanLV” Romeroはそんなプレイヤーのひとりだ。『Marvel vs. Capcom』シリーズで経験を積んできた彼は、様々なチームと対戦を重ねながら、Combo Breaker、Absolute Battle、SoCal Regionalsなどで圧倒的なプレイを披露したことで、最近にわかに人気が復活しつつあるこのシーンの最前線に立っている。
その成功の秘密は、『ストリートファイター』シリーズの “ファーストレディ” にある。

 ネット対戦からの出発

このゲームにおけるRyanの歴史はまだ短い。RyanはPlayStation Network版の『Marvel vs. Capcom 2』を多少プレイしたあとすぐ、2011年にリリースされた続編『Marvel vs. Capcom 3』へ移行した。そして、ネット対戦で2年ほどプレイを重ねてから、ようやくオフラインイベントへの出場を考えるようになった。「EVO 2014に出場して、ルーザーズからプールを突破することができた。初めての本格的なトーナメント経験だったけど、まずまずの成績を残せた。それで、その年の年末に地元ラスベガスにコミュニティがあることを知って、彼らのトーナメントに参加して準優勝を勝ち取った。ラスベガスのシーンは僕のゲームプレイに感動してくれて、ネバダ州全体のトーナメントに誘ってくれた。それから徐々に名前が知られるようになったんだ」
ローカルシーンで過ごした時間が、Ryanのチーム編成に影響を与えていった。ラスベガスという都市と同じで、この都市の『Marvel vs. Capcom』シーンのプレイヤーたちも、エキセントリックなキャラクターを好む傾向がある。『逆転裁判』シリーズの主人公、ナルホドくんのようなキャラクターをチームに加えるプレイヤーはラスベガスでは珍しくない。
「ラスベガスはギミックなチームとプレイスタイルを持つユニークなシーンなんだ。また、その熱心さも良く知られているよ。毎日のように『Marvel vs. Capcom』シリーズがプレイされているし、ローカルトーナメントの参加者数も安定している。また、州外で『Marvel vs. Capcom』シリーズのトーナメントが開催される時は、ひとりで乗り込むんじゃなくて、2人以上のグループで参加しているんだ。ラスベガスのコミュニティはまとまっているんだよ」

チーム編成の妙

Ryanのチームには、ハイレベルなトーナメントプレイで良く使用されるモリガンとフェニックスが含まれていることから、一見したところ普通の編成に思えるが、そこに春麗が加わっていることには眉をひそめる人もいるだろう。
Ryanは自分のチーム編成について次のように説明している。「対戦相手によって複数のプレイスタイルが展開できる柔軟性の高い編成だと思うよ。逃げも攻めもできるし、飛び道具や釣りで逃げることもできる。基本的には下がって、モリガンを呼び出して、対戦相手がどう出てくるかを見ながら対応していくのが僕のスタイルだね」
「春麗の気功拳とフェニックスのTKショットを使えば、対戦相手の飛び道具をキャンセルできるし、必要に応じて連発で撃ち込んだり、空中に残ってメーターを溜めたりすることができる。順調な展開の中で自分が攻撃を受けていたら、モリガンを使って、ほぼ無限のアストラルヴィジョンで相手を一掃する。逆に追い込まれて、春麗やモリガンが倒れたあとは、フェニックスのパワーで一気に逆転するのさ」
春麗の起用がRyanLVの特徴のひとつ

春麗の起用がRyanLVの特徴のひとつ

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2016年2月にリリースされた『ストリートファイターV』で強キャラとしての復帰を果たしている春麗だが、このシリーズを含め、それまでの彼女は必ずしもキャラクター選択画面で最初に選ばれるような存在ではなかった。しかし、『Ultimate Marvel vs. Capcom 3』の彼女は明らかに進化しており、この世界最強の女性キャラクターを使いたがるファンを増やすことになった。しかし、Ryanほど上手く彼女を使いこなせるプレイヤーはほとんどいない。
「最初期のトレーラーの中の彼女は、プレイするのが本当に楽しいだろうなって思えたんだ。彼女のコンボと前掛かりのプレイスタイルが気に入ったんだ。僕は彼女を攻撃的に使うことはあまりないけど、それでもプレイと観戦のどちらでも楽しいキャラクターであることに変わりはないし、モリガンとフェニックスがいるチームを使う僕のプレイスタイルにはピッタリの存在なんだ」
Ryanのゲームプレイで最も興味深い特徴のひとつが、メーターの使い方だ。フェニックスをチームメンバーに加えているプレイヤーの多くがメーターを溜めて、ダークフェニックスになるタイミングを待つが、Ryanは恐れることなく、春麗とモリガンの必殺技を厄介な対戦相手に積極的に使用する。
「僕はフェニックスのためにメーターを溜めることはしないよ。僕はモリガンのためにメーターを溜めているんだ。フェニックスを使わないことが僕のゲームプランなのさ。春麗で攻撃を受けたら、メーターを溜めながら倒して、モリガンですぐにそのメーターを使う。メーターが5まで溜まって、体力もリードしている状態なら、モリガンは下がったままひたすら相手の体力を削り続けることができる。でも、彼女が攻撃を受けた場合は、対戦相手は彼女を残して、フェニックスをスナップバックさせることになるから、フェニックスはフェニックスで仕事をしているのさ。フェニックス中心のチームに見えるけど、実際はモリガンを中心にしたチームだね」

ゼロからヒーローへ

数ヶ月前は無名のラスベガス出身のプレイヤーだったRyanだが、いくつかのメジャートーナメントで勝利することで、シーンで話題のプレイヤーになった。最近ではSoCal RegionalsでのChristopher “NYChrisG” Gonzalezに勝利して優勝を勝ち取っている。Ryanの一風変わったチームは、大接戦の末にEVO王者のチームを下したのだ。
Ryanは現在注目されていることについて「これまでとは完全に違う経験だよ。無名のプレイヤーから全員から狙われるプレイヤーになったんだからさ。もちろん良いことだと思うよ。成長しているってことだから。でも、知名度が高まるほど、自分に求めるレベルも高くなる。僕はただ1回勝利して満足するようなタイプじゃない。かつての僕は無名だったし、それで不意打ちを食らったプレイヤーもいると思うけど、僕がこのまま勝利を重ねていくつもりなら、もう不意打ちに頼ることはできないよね。対戦相手は次に向けて必ず準備をしてくるから、僕もレベルアップする必要がある」と説明している。
『ストリートファイターV』のリリースと共に、かつて『Marvel vs. Capcom』シーンを席巻していたプレイヤーたちは、大金が獲得できる『V』へと活動の場を移した。その結果、Ryanのようなプレイヤーには、このゲームを格闘ゲームコミュニティの中に残す使命が課されている。しかし、彼らの未来は暗いわけではない。Ryanも『Marvel vs. Capcom』シリーズの格闘ゲームコミュニティにおける現在地を冷静に見守っている。
「もう昔とは違うってだけの話で、他のゲームと状況は同じだよ。確かに停滞気味ではあるけれど、トーナメント数が大幅に減少しているわけじゃないし、『Marvel vs. Capcom』シリーズのコミュニティの中には、このゲームを大切に思っている人や、シーンをヘルシーな状態に保っておきたいと考えている人が沢山いる。たとえば、Marvel LIVEは素晴らしい仕事をしているし、Armando “Angelic” Mejiaも2016年初めにコミュニティが資金提供をしたトーナメントを素晴らしい形で開催してくれた。次の開催も決まっているんだ。『Marvel vs. Capcom』シーンは何も心配ないと思うよ」

たゆまぬ努力

Ryanは『Marvel vs. Capcom』シリーズから離れることを一切考えていない。
「客観的に見れば、僕の最大の功績はSoCal Regionals優勝ってことになるよね。僕が参加した中で最大のトーナメントだったからさ。でも、個人的にはこのゲームをプレイしてサポートし続けることが最大の功績になるんじゃないかって感じているんだ。賞金やeSportsの可能性は、自分の本当の情熱を簡単に邪魔してしまう。でも、僕は自腹を切ってトーナメントに参加して、気持ちを込めてプレイしている。僕はこのゲームをプレイするのが好きなんだ。それだけだよ」
RyanのEVOでのパフォーマンスは年を追うごとに良くなっている。EVO 2016は惜しくもトップ8に手が届かなかったが、Raynel “RayRay” Hidalgo戦やMichael “Marvelo” Arvelo戦での勝利は、彼がさらに上を目指せることを証明した。
「今はとにかく成長し続けたいんだ。SoCal Regionalsの優勝には満足していない。成長するためにできる限りプレイを重ねていきたい。チーム編成の調整にも取り組むつもりさ。今はそれしか考えていないよ」