英国ラリー界のスーパースター、ケイティ・マニングスは弱冠21歳だが、比較的短期間ですでに多くの実績を手にしている。
マニングスは、17歳でいきなりプロラリーチームのテストへ参加し、19歳でPeugeot 208 R2をドライブしてレディース・ヨーロピアン・ラリー選手権のチャンピオンに輝いた。
マニングスが参加しているDare To Be Differentは、DTM参戦経験を持ち、Williams F1の開発ドライバーも務めたスージー・ヴォルフが主宰するイニシアチブで、コンペティティブなモータースポーツに挑みたい若き女性ドライバーたちを支援しているが、マニングスは間違いなく近年の英国モータースポーツシーンから登場した最も有望なヤングタレントのひとりだ。
今回のスペシャルインタビューでは、自らが “普通じゃない” と語る生い立ちとそれがキャリアに与えたインパクトの大きさ、ERC3シーズンの難しさやWRCラリーGB参戦という大きな目標、男性優位からインクルーシブな環境へ変わりつつある近年のモータースポーツシーンなどについて語っている。
これまでの生い立ちについて少し聞かせてください。8歳の頃はどんな子供でしたか?
かなりのおてんば娘でした! わたしは農場で育ったんですが、両親がモータースポーツエンターテインメントの会社を経営していたので、敷地内には森や野原、大きなクアッドバイクがありました。
7歳頃に、学校から走って帰るとすぐにクアッドバイクのイベントに飛び入り参加して、制服のまま全身泥だらけになっていたのを覚えています。
ラリードライバーになるには素晴らしい環境だったと思いますが、普通ではないですね!
モータースポーツに触れながら育ちましたが、ラリーは良く知りませんでした。とはいえ、わたしが生まれる前の父はラリードライバーでした。わたしが幼かった頃も、ブランズハッチやロンドンのラリースクールでインストラクターをしていました。
わたしがクアッドバイクにのめり込むようになると、父がエンターテインメントビジネスの一環としてラリーも展開するようになったので、わたしも自宅の野原で中古車を乗り回すようになりました。
普通の子供が野原で遊びまわるようなもので、特別な感じはなかったですね。ボロボロの中古車だったので、バンガーレースでぶつけ合っていました。華やかさはゼロでした!
本格的なレースの世界に飛び込んだきっかけは?
14歳でグラスルーツテスト(※)を始めて、本格的なモータースポーツ競技の世界に触れました。それまでは他のスポーツをしていました。
陸上競技やネットボールは全国レベルでしたし、ダンスや演技にも熱中していました。スポーツは大好きでしたし、すごく負けず嫌いでしたね。
わたしたち家族が住んでいたのはかなりの田舎で、冬になると農道が凍ってしまうので、父は、姉とわたしにグラスルーツテストをさせて、氷上で滑る車の扱いに早く慣れてもらおうと考えたんです。姉と一緒に始めましたが、ドライビングの魅力に取り付かれたのはわたしの方でしたね。
そのあと、17歳でPeugeotに乗り、ラリーカーを初体験しました。あとは皆さん知っての通りです!
ラリードライバーになるには素晴らしい環境だったと思いますが、普通ではないですね!
※:英国では17歳から一般運転免許証を取得できるが、それに満たない年齢でも私有地内で運転の練習をするケースがあり、これをグラスルーツテストと呼ぶ。
ラリーカーのどんなところが気に入ってプロのドライバーになろうと思ったのでしょう?
初めて車を運転した時に、プロになりたい気持ちが芽生えました。Peugeotに乗って初めてラリーテストをしたのはモンブランで、アルプスの山中でした。それまでラリーカーに乗ったことは一度もありませんでした。
ラリーをかじっている人なら、改造した中古車で仲間と一緒に始めるのが普通だという言うはずですが、わたしはいきなり国際レベルで活動するファクトリーチームのマシンに乗り込んだんです。
周りを見回してみると、WRCで活躍するトップドライバーたちがわたしと同レベルの車でテストしていました。「どういうこと? わたしはここでいったい何をしているの?」という感じでした。
他のドライバーたちはわたしよりも10歳以上年長で、スポンサーもついていました。Peugeotの一大イベントだったんです。
それにひきかえ、わたしは普通免許を取得したばかりの17歳の小娘で、左ハンドル車をドライブするのも初めてでした。しかも、シーケンシャルギアボックス(通常のHパターンではなく、レバーの押し引きで変速する方式のギアボックス)のラリーカーでした。
ですが、乗り込んですぐ、アドレナリンの虜になりました。わたしの指導をしてくれたフランス人ドライバーの隣に座りながら、「どうやったらこんなに速く車を走らせられるの?」と思ったのを覚えています。アルプスの山道のような路面で、あんなに速く走れるのが理解できなかったんです。
この時に、彼にできるなら、わたしもできるようになりたいと思いました。自分の中の好奇心が騒いだんです。他の人ができるのに自分はできないなんて絶対に嫌でしたし、負けず嫌いな自分が背中を押してくれたんだと思います。
それから、ラリーのフィーリングとアドレナリンに夢中になりました。
わたしにとっては完全に未知の世界でしたが、当時のチームはまさにそういう人材を探していました。チームのエンジニアと組んで、チームのやり方で育成できる完全な初心者を探していたのです。
その後、チームはヨーロピアン・ラリー選手権(ERC)への参戦を決め、同時に初心者をERCに送り込んで育成するプロジェクト#Projectktがスタートしました。
2019シーズンはERC3に参戦しますが、過去のシーズンから何を学びましたか?
ERCは、ある意味WRCのフィーダーシリーズといえる存在です。ジュニア選手権は6カ国、ERC3は8カ国を転戦します。
グラン・カナリア、アゾレス、ローマ、チェコ、ポーランド、ラトビア、キプロス、ハンガリーを巡る予定ですが、どこも素晴らしい国ばかりですし、どのラリーもすごく特徴的です。
たとえば、アゾレスは火山島で、路面は火山灰に覆われています。グラン・カナリアはターマックで非常に高温ですから、タイヤマネージメントを考える必要があります。
それぞれのラリーが非常に個性豊かなので、ドライバーは多様なスキルを持ち合わせておく必要があります。経験豊かなチームに在籍しているのは大きな助けになりますね。
このような特徴を踏まえて、英国選手権からスタートするのを回避しました。そこを目指すなら、一番タフな環境からスタートしようという話になったんです。
ERCなら多様なコンディションを経験できますし、WRC参戦を目指しているトップドライバーたちがライバルになるので、成長スピードもはるかに早いんです。
2019シーズンのERC3での目標は?
昨シーズンはERC3で総合4位を獲得しましたが、全戦エントリーはしませんでした。今シーズン全戦エントリーすれば、総合3位以内が見込めるはずです。
今シーズンのわたしたちはMichelinタイヤを採用しますので、Pirelliがスポンサードするジュニアカテゴリーの対象外になります。ですので、ERC3にフォーカスする予定です。
今年から新たなコ・ドライバーと組むそうですね?
そうです。ノルウェー出身のベロニカ・エンガンという新しいコ・ドライバーを迎えます。
彼女は、以前にペター・ソルベルグ(元WRC王者)やオリバー・ソルベルグ(ペターの長男)のコ・ドライバーを務めた経験もあり、数年間ソルベルグ家の人々と仕事をしていました。
彼女は世界選手権やヨーロピアン選手権での経験が豊富なので、一緒に働くのは素晴らしい経験になるはずです。
万全なパフォーマンスを発揮するためには、トップレベルを経験した人が近くにいる必要もありますし、彼女と一緒に戦うのが本当に楽しみです!
ドライバーとコ・ドライバーはどのような関係なのでしょう?
奇妙な関係ですね。相当長い時間を一緒に過ごしますから。ですので、友人関係にあることが非常に重要です。ほとんどのラリードライバーやコ・ドライバーが、ここが一番大事だと言うでしょう。
大きなプレッシャーとストレスがかかる状況でひとつのチームとして機能するためには、お互いの仕事の進め方を理解する必要があります。また、資質が似ていることも有利に働くと思います。
わたしはリラックスしていて、ほとんどストレスのない状況でベストパフォーマンスを発揮するタイプですが、彼女も同じです。人によって異なるので、正しく機能する関係を築くことが重要ですが、それはラリーのプレッシャーに晒されなければ見えてきません。
わたしが見る限り、彼女はわたしと同じように対処していますし、優れたチームになれると思います。
WRCラリーGB(第12戦・10月開催)参戦を目指しているそうですが、どのような準備をする予定ですか?
ラリーGBまでは特に難しい準備は考えていません。現在参戦しているERCの日程と重ならないか確認するだけです。
もちろん、ERCより大きなイベントですし、追加予算が必要になります。ですので、トレーニングも追加することになるでしょう。互角の勝負をするためには必要です。
ラリーGBはマシンにとってかなり厳しいラリーとして知られていますし、R5カテゴリーのあとにスタートしなければならないR2カテゴリーのマシンには特に過酷です。路面に深い轍(わだち)ができていたり、大きな岩が露出していたりしますから、マシンが簡単に壊れてしまう可能性があります。サバイバルなラリーです。
WRCの路面はアメージングな体験になるでしょう。ラリーGBは走行時間も長く、ステージも長距離です。実体験できれば最高でしょうね。
時代が多少変わり、多くの女性がモータースポーツへ参加するようになっていると思います。個人的には、自分のことは「女性レーシングドライバー」ではなく、ラリードライバーとして語っているつもりです
モータースポーツはこれまで男性優位でしたが、状況は変わっているのでしょうか?
ラリーを始めた頃は、このテーマについて何も考えていませんでした。どのドライバーも、情熱に突き動かされてドライビングを始めたと言うはずです。
真剣に取り組んでいくうちに、ただ「女性より男性が多い」と思うだけではなく、深く考えていくようになります。もちろん、グリッドに初めて並んだ時に、自分が少数派なことに気付くわけですが、意識し過ぎることはありません。
わたしがラリーを始めた頃は、スージー・ヴォルフが主宰するDare to be Differentキャンペーンに深く関わっていたので、ジェンダーの疑問をスージーにぶつけていました。
彼女は「ジェンダーについて語らないように言ってくる人がいるわ。騒ぎにしないためにね」と言っていましたが、ジェンダー格差は確かに存在します。
現在も同じ状況です。わたしたちが話題にしなければ、多くの女性をモータースポーツへを引き込むことはできないでしょうし、状況は変わらないでしょう。
ジェンダーの話題を口にすべきでないという意見があってもスージーは問題ないと考えていますが、わたしたちは女性のモータースポーツ進出を促すために、よりアクティブに行動する必要があります。
これが、駆け出し時代に学んだことです。今は時代が多少変わり、多くの女性がモータースポーツへ参加するようになっていると思います。個人的には、自分を「女性レーシングドライバー」ではなく、ラリードライバーとして語っているつもりです。
もちろん、ERCに参戦を開始した当時、全くの未経験者だったわたし宛に(揶揄的な)メッセージが届くこともありました。
「さっさとラリーカーから降りて、ネイルを塗って俺にサンドイッチを作ってくれりゃいいのに」などという書き込みも見たことがあります(笑)。「大したネット弁慶だわ!」と思いました。
それ以外に、ネガティブな体験をしたことは一度もありません。他のドライバーたちも、モータースポーツに多くの女性が参加するのは実はクールだと気づいていますし、わたしに協力しようとしてくれています。チーム内も同じです。
全てのドライバーが違いをスポンサーにアピールしようとしている中で、マイノリティであることはポジティブなアドバンテージになりえますし、他と少し違う視点を持てているのは素晴らしいことだと思っています。
ですが、ドライビングに関しては、女性であることは有利にも不利にも働かないと思います。
ヘルメットを被ってしまえば、男か女か分かりません。ここがモータースポーツの優れているポイントのひとつです!
2019シーズン、ケイティはERC3全戦エントリーとWRCスポット参戦を目標に掲げている。彼女の活躍に期待しよう!
Red Bull TV では2019シーズンのWRCも無料配信する予定。
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