ゲームで健康になれる時代が来た!? 病院や介護施設、家庭でも……ヘルスケアに活躍中のゲームたち
© Riko Kushida
ゲーム

ゲームで健康になれる時代が来た!? 病院や介護施設、家庭でも……ヘルスケアに活躍中のゲームたち

病院でリハビリに使われている体感型ゲームや、国家主導のメンタルヘルスプロジェクトとして開発されたRPGなど、ヘルスケアに役立つゲームはすでに存在する!!
Written by Riko kushida
読み終わるまで:8分公開日:
「いくつになっても、身体機能が衰えても、ゲームで遊んでいたいなぁ」
というのは、幼少の頃からテレビゲームで育ってきた、筆者の切なる願いだ。最近、目の疲れがひどく、長時間の連続プレイがツラくなってきたというのが、まず、ある。筆者の母の若い頃は「老後、ヒマになったら本をたくさん読もう」と考えていたそうだが、実際には老眼やら白内障やらで読書ははかどっていないようす。一生ゲームで遊べて当然と思っていたが、母と同じことが自分の身にも起こるかもしれないことに、やっと気づいた。
また、すでに他界した父は介護施設に長い間お世話になっていたが、そこで行われる歌や塗り絵などのレクリエーションを見るたびに、「この時間、私ならゲームやりたいなぁ」、「病気の後遺症さえなければ、父もゲームがやりたいんじゃないだろうか」と感じてきた。誤解のないように説明すると、利用者のためを考えたレクリエーションに参加させてもらえるのはありがたかったし、父も仲間に入れてもらえてうれしかったと思う。ただ、せっかく"遊びの時間"を持てるのであれば、ゲーマーはゲームで遊びたくなっちゃうという話です、スミマセン。
さて、2017年8月30日〜9月1日まで、国内最大級のゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC 2017』がパシフィコ横浜(神奈川県)にて開催された。毎年、最新のテクノロジーやマーケティング手法など、ゲーム開発やビジネスについてのさまざまな講演が行われ、新しい知見が得られるイベントだ。そして今年、会場で目についたのが、リハビリやバリアフリーなどをテーマとした、ヘルスケア分野に応用されるゲームのインタラクティブセッション(対話・体験型の発表)。この分野が成長すれば、健やかなるときも病めるときも、老いても一生ゲームで遊んでいられるかも! そんな期待を胸に、3つの展示を取材したので紹介したい。
ゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC 2017』にて取材を行なった

ゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC 2017』にて取材を行なった

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介護施設でランキング争い勃発!? 体感リハビリゲーム『リハビリウム 起立の森』
まずは、単調で退屈なリハビリにゲームを採り入れることで、ひとりで楽しく続けられて効果も認められるというセッションから。九州大学シリアスゲームプロジェクトが、特定医療法人順和 長尾病院や正興ITソリューション株式会社と共同で出展していたのが、"起立訓練支援用ゲーム『リハビリウム 起立の森』:医療・ヘルスケアの現場におけるゲーム利用"と題した取り組みの発表だ。ブースには、過去作での効果の検証結果と、試遊できる最新作が展示されていた。
『リハビリウム 起立の森』。立ちあがる動作に連動して、画面上の木が伸びていく

『リハビリウム 起立の森』。立ちあがる動作に連動して、画面上の木が伸びていく

© Riko Kushida

PC版のほか、タブレット版やスマホ版も企画されている

PC版のほか、タブレット版やスマホ版も企画されている

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足の筋力維持や増加をはかるリハビリに"起立訓練"というものがある。機能回復や介護予防に有効だが、イスから立ち上がって座ることをただ繰り返すという単調な訓練のため、長く続けるのは苦しいと感じるひとも多いそうだ。そこで、立ちあがる動作に連動して木がグングン成長していくという、画面の変化を楽しめるゲームとして開発中なのが『リハビリウム 起立の森』。
目標回数をクリアーすると、ランキングに名前が掲載されたり、スタンプラリーが進んだりする、達成感やモチベーションのキープにつながる仕掛けもある。「○○さんには負けてられないと、ランキング争いに夢中になる高齢者の方もいらっしゃいます」とは、九州大学 大学院 芸術工学研究院 コンテンツ・クリエーティブデザイン 准教授の松隈浩之氏。
松隈浩之氏(九州大学 大学院 芸術工学研究院 コンテンツ・クリエーティブデザイン 准教授)

松隈浩之氏(九州大学 大学院 芸術工学研究院 コンテンツ・クリエーティブデザイン 准教授)

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訓練回数はランキングに反映される。病院、施設側がリハビリ状況をラクに把握できるというメリットも

訓練回数はランキングに反映される。病院、施設側がリハビリ状況をラクに把握できるというメリットも

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松隈氏によると、長尾病院との共同でプロジェクトがスタートしたのは2009年のこと。病院側が入院患者らを対象に安全性や有用性を検証しつつ、松隈研究室がプロトタイプを開発し、2013年には製品版『リハビリウム 起立くん』をリリースした。起立動作の判定にKinect for Windows(v1)を使った同作は、全国約50ヵ所の介護施設やクリニックなどに販売され、好評を得ているとのこと。ただ、Kinect v1の生産終了にともない、昨年販売を終了した。開発中の最新作では、正興ITソリューションが動作判定のための距離センサーやカメラ、クラウドに対応したランキングなどのデータ管理を担当しているそうだ。
リハビリ病院での活用例などを紹介した動画も発表されていた

リハビリ病院での活用例などを紹介した動画も発表されていた

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試遊の最中、リハビリ病院の退院後に訓練を続けることが難しかった父を思い出し、「いつかリハビリが必要になったら、父のぶんまでゲームで遊びまくるぞ!」とリベンジ(!?)を誓う筆者であった。
『ファミスタ』の"きっしぃ"氏が紹介! バリアフリーシューティング『ゴーゴンの館』
次に、ナムコ『ファミスタ』シリーズのクリエイターとして知られ、東京工科大学 メディア学部 准教授である岸本好弘(きっしぃ)氏の研究室による、"教育に役立つシリアスゲームの試遊展示 〜ゲームデザインを学ぶゲーム、バリアフリーを学ぶゲームなど"というセッションで見つけた、ユニークなシューティングゲームを取り上げる。敵に視線を合わせて撃破していく"眼(ガン)シューティング"『ゴーゴンの館』だ。
"きっしぃ"こと岸本好弘氏(写真中央)。学生やシリアスゲームジャム参加者などがブースを手伝っていた

"きっしぃ"こと岸本好弘氏(写真中央)。学生やシリアスゲームジャム参加者などがブースを手伝っていた

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『ゴーゴンの館』は、ダンジョンを探索し、出現した敵に視線を合わせて撃破していくシューティングゲーム。視線入力装置が採用され、手による操作は不要だ。握力が低いためにコントローラでの操作に不自由を感じるひとにもゲームを楽しんでもらおうというコンセプトで、実際にハンディキャップを持つプレイヤーのテストプレイも経て開発されたという。
岸本氏によると、「ゲームのチカラを教育・社会に役立てる」ことをテーマとした岸本研究室は、シリアスゲームの制作などを通してゲーミフィケーションの有用性を検証しているそうだ。この『ゴーゴンの館』は、学生と社会人が協力して2日間でゲームを制作するイベント"シリアスゲームジャム"で、バリアフリーをテーマとした第5回において、最優秀賞を獲得した作品であるとのこと。
視線入力のみで遊べる『ゴーゴンの館』。画面とキーボードの間に置かれているのが視線入力装置だ

視線入力のみで遊べる『ゴーゴンの館』。画面とキーボードの間に置かれているのが視線入力装置だ

© Riko Kushida

試遊してみると、視線での操作が新鮮なこともあって、アトラクション的な楽しさを覚えた。これならハンディキャップの有無に関わらず、普通のおもしろいゲームとして楽しめる。たとえば年を取って身体機能が衰えるなどしても、真っ向からバリアフリーに取り組んだ作品はもちろん、こうした操作方法も選べる普通のタイトルなどが増えれば、生涯ゲーマーを貫けそうだ。
ココロの健康をケアするゲームだってある!! ファンタジーRPG『SPARX』
最後に紹介するのは、試遊展示が行われたメンタルヘルスゲーム『SPARX』日本語版だ。原作であるニュージーランド版は、10代の自殺率が高いニュージーランドで国家プロジェクトの一環としてオークランド大学により開発され、抑うつ効果も実証されているという。
ブースでは、ローカライズを担当した株式会社HIKARI Lab代表取締役の清水あやこ氏、ゲーマーであり内科医としてHIKARI Labでは医療監修などを担当するハイズ株式会社の鈴木裕介氏、慶応義塾大学病院の精神科医として実際に『SPARX』を活用している鈴木航太氏が迎えてくれた。
左から鈴木裕介氏(内科医)、清水あやこ氏(HIKARI Lab 代表取締役)、鈴木航太氏(精神科医)

左から鈴木裕介氏(内科医)、清水あやこ氏(HIKARI Lab 代表取締役)、鈴木航太氏(精神科医)

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『SPARX』は、気分のバランスが失われた国々へと冒険に旅立ち、魔法の杖でネガティブな考えを吹き飛ばしたりしながら、悲観と絶望から世界を救うファンタジーRPG。その日本語版は『SmileBasic』でおなじみのスマイルブームから、スマホアプリとしてリリースされている。
清水氏によると、日本語版『SPARX』は、ゲームを通して認知行動療法の考え方を学ぶことができる、というスタンスであるとのこと。認知行動療法とは、考え方に働きかけて気持ちを楽にする心理療法で、うつ病や不安障害などに効果があるとされており、日本でも保険適用の対象となっている。ただ、日本では認知行動療法を行なっているところが少ないため、その考え方を本などで自主的に学ぶひとが多いのが現状なのだとか。ゲームなら、より楽しく学びやすいというワケだ。
試遊してみると、エンタテインメント性よりも教育的な側面がやや目につく印象ではあるものの、氷の国で大鷲に乗ったり、火山で火の鳥に出会ったりと、ワクワクする展開が用意されていた。そうしているうちに、隣のブースから『ゴーゴンの館』で紹介した岸本准教授が登場。
「実は、岸本研究室の学生さんたちにプレイしてもらって、アイデアを出してもらってるんですよ。現在の『SPARX』はまだプロトタイプに近いものなので、今後どんどん改善していきたいと思っています」(清水氏)。
今後ゲームとしてますます楽しい仕上がりになっていきそうで、ゲーマーとしてうれしい限りだ。
以上の取材を通して、ゲームのヘルスケア分野への応用などが、想像するよりもずっと進んでいることに驚かされた。健やかなるときも病めるときも一生ゲームで遊んでいたいという筆者の願いは、どうやらかなえられそうだ。
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