多くの格闘ゲームプロプレイヤーと同じで、Hoa “Anakin” Luuが『鉄拳』シリーズとの関係をスタートさせたのはアーケード - ガチャ押しプレイヤーと足払いマスターとの違いが明確になる現実世界の修練場 - だった。
11分アナキンのTEKKEN塾TEKKEN≪鉄拳≫のプロプレイヤーであるアナキンが、世界中の猛者に打ち勝つための戦いの真髄を惜しみなく伝授する。基本的な操作を徹底的に体に叩き込んでから、徐々に高度なテクニックを身につけよう。次々に課せられるチャレンジをこなして、プロが磨き抜いた鋭いキレ味のムーヴを我が物に。(日本語字幕)
「昔から、格闘ゲームの複雑で難しい部分をなるべくシンプルにまとめて教えることが僕にとって重要なテーマだった。格闘ゲームに興味を持っているプレイヤーの多くが、フレームデータをはじめとするテクニカルな部分までは興味を持てないでいる。だから、今回のシリーズはパーフェクトなんだ。そういう部分をシンプルに解説していくからね」
Hoa “Anakin” Luu© Brian Hall/Red Bull Content Pool
他のプレイヤーのレベルを高め、より多くのプレイヤーをシーンへ引き込みたいというAnakinの情熱は今から20年前、『鉄拳』シリーズのトーナメント “King of Iron Fist” で自分の才能を見出した時に生まれた。
「2000年代初頭に『鉄拳』シリーズをプレイし始めたんだ。僕はまだ子供だったから、アーケードでは神童的な扱いを受けた。当時はアーケードが沢山あったんだけど、小さかった僕にとってはショッピングモールのアーケードへ行くだけで一大イベントだった」
「当時のショッピングモールには小さなアーケードが置かれていた。大人たちが子供を置いてショッピングを楽しむためだったんじゃないかな」
アーケードは減少傾向にあり、毎年存続の危機に直面しているが、その派手な光とサウンドは、Anakinを含む当時の格闘ゲームプレイヤーたちはもちろん、新世代プレイヤーたちも魅了するものだ。
しかし、Anakinが『鉄拳』シリーズと初めて出会ったのはアーケードではなかった。さらに言えば、当時の彼は現実世界で他人と対戦する環境が決して得意ではなかった。
『鉄拳』オンラインレクチャーをスタートさせたAnakin© Brian Hall/Red Bull Content Pool
「実は、『鉄拳3』を友だちから借りてひとりで自宅でプレイしたのが最初だったんだ。そのあと、アーケードに行くと、大勢が『鉄拳3』の筐体に集まっているのを見かけた。それで “このゲームは知っているし、結構やれるはず” と思ってプレイしたんだけど、何も知らない子供だった僕は完膚なきまでに叩きのめされた」
「でも、この失敗がさらに僕をこのゲームへ引き込んだんだ。他のプレイヤーに勝てるようになりたいと思ったし、これまでアーケードでプレイしていたゲームとは完全な別物だったからさ」
「それまで、僕にとってのアーケードは商品と引き換えられるゲームを楽しむ場所だった。でも、『鉄拳3』はひたすら他人に挑戦するだけだった。真正面からぶつかり合うだけだった。これが僕にはとても新鮮に思えた。本気でやりたいと思った」
自分の才能を過信してその代償を払わされたAnakinだったが、『鉄拳3』シーンから拒否されることはなかった。むしろその逆だった。
Anakinを倒したプレイヤーたちは彼の中にポテンシャルを見出し、彼の成長に力を貸したのだ。彼らはAnakinの地元アトランタ周辺のアーケードに出入りしていたローカルプレイヤーたちで、実は、Anakinにこのゲーマータグを授けたのも彼らだった。彼らはそれほど大きなポテンシャルをAnakinに見出していたのだ。
アトランタ出身のトッププレイヤーAnakin© Brian Hall/Red Bull Content Pool
「いつの日か “選ばれし者” として『鉄拳』シリーズをプレイするようになるだろうという思いを込めて、Anakinというゲーマータグを与えてくれたんだ」と説明するAnakinは、ちょうど同じ年に、アナキン・スカイウォーカーを主人公に据えた『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開されていたことを付け加え、次のように続ける。
「ここから僕の長いキャリアが始まったんだ。あとはみんな知っての通りさ。学校を卒業して働き始めるのと同時に、移動とトーナメント出場を重ねながら『鉄拳』シリーズのアマチュアプレイヤーとして成長していった。そして2018年にレッドブル・アスリートになってプロキャリアがスタートした。そこから先はすべての活動がプロらしくなっていった」
プロになったことでAnakinはEVOトップ8を2回記録するなど数多くのトーナメントで賞金を稼ぐようになった。しかし、今、彼はルーツのアーケードへ立ち返り、『鉄拳』シリーズを自分の視点から解説することで、コミュニティへ恩返しをすると同時に他のプレイヤーたちが同シリーズに足を踏み入れるきっかけを与えようとしている。
「今回のアカデミーの目的は、色々な人に『鉄拳』シリーズを紹介して、このゲームを試してもらうことなんだ。最初から結果を出すのは難しいゲームだけど、とにかくトライして楽しんでもらえればと思っている。子供の頃の僕はまさにそういう感じでプレイしていた。プロになることなんて考えていなかったし、最強を目指していたわけでもなかった。ただ楽しいからプレイしていたんだ」
「アーケードはチャレンジングな環境で、倒さなければならない相手がいつも目の前にいる。格闘ゲームでは、コンピューターの代わりに人間と対戦するわけだけど、それゆえに終わりはない。突き詰めて言えば、最強を目指す終わりのない旅なんだよ」
Red Bull Conquest Qualifierに出場したAnakin© Colin Kerrigan / Red Bull Content Pool
Anakinと同じように、多くのプレイヤーが自宅でベストを尽くして『鉄拳』シリーズをはじめとする格闘ゲームの上達を目指している。自宅でのプレイには制限時間がないが(さらにはお金もかからないが)、独学では学べないことがある。一方、アーケードにはコミュニティ感覚が備わっており、誰かがいつも必ず見守っていて、自分が気付いていない部分を指摘してくれる。
これこそが、Anakinが《Class in Session》で実現しようとしていることだ。このアカデミーでは、毎週更新される動画6本で基本的な動きから対戦相手の読み方(これも自分ひとりでは学ぶのが難しい部分)までを学べるが、だからと言って初心者専用ではない。
「動画シリーズは初心者向けの内容からスタートするけれど、ある程度の経験を積んでいるプレイヤーにも勉強になる新しい情報にも触れていくよ。『鉄拳』シリーズは本当に多くのことを学ぶ必要があって、僕でもまだプレイするたびに学んでいる。経験豊かなプレイヤーはこの動画シリーズを初心者向けと思うかもしれないけれど、まったく違うのさ」
「僕が基本スキルを動画などで教えると、いつも必ず経験豊かなプレイヤーから “知らなかった!” と言われるんだ。彼らはほんのちょっとした技や悪癖を直すためのヒントなどを僕から学んでいるのさ」
EVO 2019の『鉄拳7』でメインステージに残ったAnakin© Li Hoang / Red Bull Content Pool
また、良質な教育現場と同じで、《Class in Session》でも先生が生徒の質問にきちんと答えてくれる。
このアカデミーは、毎週動画が公開されたあとにAnakinがライブストリーミングで他のプレイヤーからの質問を受け付けて、どこが間違っているのか、どこを修正すれば他のプレイヤーたちに追いつけるのかを指摘していく仕組みになっている。そしてもちろん、テクニックをきちんと身に付けてからステップアップしてもらうために、レッスンとレッスンの間に宿題も用意される。
「僕はゲームが上手くなりたいプレイヤーにいつも手を差し伸べてきた。僕は良い質問をしてくるプレイヤーが好きだし、そういうプレイヤーを積極的に助けようとしている。今回のアカデミーのあらゆる部分に回答を用意しておきたいね。そうすれば全員で一緒に進んでいける。誰かが追いつけなくなってしまうのは見たくない」
「完全な初心者からスタートして、トーナメントやオフラインイベントに参加できるレベルまで成長してくれればと思っているよ。もちろん、外出できるようになってからだけどね」
現在は、多くのアーケードが休業中のため、Anakinの成長に役立ってきたアーケードでの1on1と同レベルの経験を積むのがひときわ難しくなっている。これも、Anakinが今回のアカデミーを重要視している理由のひとつだ。これまで経験したことがない大人数を教えることになったAnakinは、初心者が陥りがちな穴から彼らを遠ざけたいと考えている。
アナキン・スカイウォーカーと同じ “選ばれし者” となったAnakin© Brian Hall/Red Bull Content Pool
「ヒントやアドバイスがなければ、多くのプレイヤーがどこかで行き詰まってしまうだろう。少年時代の僕もそうなったはずさ。でも、アーケードの仲間がヒントとアドバイスをくれたから、僕は成長プロセスをスピードアップすることができた。すぐに次のステップへ進めたんだ」
「こういう助けを僕は直接体験してきた。だから、他のプレイヤーがどこでどのような間違いをしているのかを見極めて正しい方向へ導いてあげるのが得意なんだ。正しい方向へ進めればモチベーションが高まり、学ぼうという気持ちを持つようになる。でも、間違った指導や指摘を受けてしまうと穴にはまってしまう」
Anakinは、世界情勢が上向きになったあと、自分のアカデミーで成長に必要なツールを手に入れたビギナーとベテランの両方が新たなチャレンジャーとしてトーナメントで活躍してくれることを願っており、「想定外の結果をもたらすはずさ」と語っている。
そしてもちろん、そのようなオフラインイベントで活躍できるのはベテランプレイヤーだけではない。新規プレイヤーたちも“脅威” となり、格闘ゲームコミュニティデビューを派手に飾れる可能性がある。
「無名のプレイヤーや新しいプレイヤーも特定の状況下では活躍できる可能性がある。ビギナーは経験が少ないから、その分悪癖が身についていない。ベテランプレイヤーは長年の経験があるがゆえに、修正したり捨てたりするのが難しい癖が身についている」
「だから、白いキャンバスのようなプレイヤーが活躍できる確率はかなり高いと言えるんだ。指導側が理想とするプレイヤーに育てることができるからね」
Red Bull Conquest Orlandで撮影に応じるAnakin© Ian Witlen/Red Bull Content Pool
Anakinにとって、オフラインイベントで活躍できる新世代プレイヤーたちの育成は「自分の知識を授けるため」でもなければ、「トーナメントの自分に負荷を加えるため」でもない。アトランタのアーケードに “我が家” を与えてくれた格闘ゲームコミュニティを維持するためだ。
「少なくとも、これまでの格闘ゲームコミュニティの関係者たちは新規プレイヤーたちのポテンシャルと可能性を大切にしてきた。格闘ゲームだけをプレイするプレイヤーは多くないから、自分が好きな格闘ゲームをプレイしたいと思っているビギナーを見かけるのは嬉しかったし、彼らを温かく迎え入れようとしてきた」
「そして当時一緒に『鉄拳』シリーズをプレイしていたプレイヤーたちとは今でも友人関係にある。20年以上も友情を育めているのはクールだよね」
『鉄拳』のインターナショナルコミュニティに参加してみたい、またはトッププレイヤーからヒント&アドバイスを得たい人は7月23日からYouTubeのRed Bullチャンネルでスタートした《Class In Session: Anakin’s TEKKEN Academy》をチェックしてみよう。翌日にはAnakinのTwitchチャンネルでフォローアップがあるので、こちらも楽しみにしてもらいたい。