Kadanoのノッチ改造の例
© @Kadano on Twitter
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注目される『スマブラDX』の改造コントローラ
多彩なテクニックが生み出されている『DX』シーンでは、純正コントローラ以上のコントローラが求められている。
Written by Brian Funes
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Mew2Kingのコントローラ
Mew2Kingのコントローラ© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com
『スマブラDX』は時を超えて愛されているが、旧式のテクノロジーに支えられているゲームだ。『DX』が生きながらえるにつれ、我々はそれを思い起こすことになる。その旧式具合を思い起こさせるもののひとつが、ゲームを表示するために使われるブラウン管テレビのかさばったデザインだが、もうひとつの時代の遺物はプレイヤーの手の中にある。そう、コントローラだ。
2016年を迎えた今、2001年のニンテンドーゲームキューブ純正コントローラの新品を買うのは不可能だが、2014年にリリースされた『スマブラ for Wii U』版のニンテンドーゲームキューブコントローラなら手に入る。しかし、この新型はゲームキューブ時代の純正コントローラとは感触が異なる。『ストリートファイター』や『Marvel vs. Capcom』シリーズのような伝統的な格闘ゲームとは異なり、『DX』には専用のアーケードコントローラやカスタマイズ可能なコントローラが存在しない。また、「ゲームキューブコントローラ=『DX』」と考えている人もいるかも知れないが、ゲームキューブコントローラは元々、ゲームキューブのタイトルを遊ぶためのものであり、『DX』専用ではない。
それゆえに、新型コントローラにはゲームキューブ純正コントローラの感触を与えつつ、『DX』のプレイを向上させための小さな変更が加えられたのだ。しかし、ベテランプレイヤーたちはこの新型に世代の違いだけではなく、不具合の差から生まれる同ロット間の違いさえも感じ取っている。
近年の『DX』の頂点に立つためには高い精度のプレイが求められるため、コントローラのパフォーマンスは非常に重要になってきており、プレイヤーたちはそこに敏感になっている。
これまでに様々な改造が行われてきたゲームキューブコントローラ
これまでに様々な改造が行われてきたゲームキューブコントローラ© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com

改造コントローラの是非

バスケットボールやサッカーはボールのサイズが規定されているが、野球やテニスでは、バットやラケットに規定が存在するものの、自分の用具をある程度カスタマイズできる余裕が残されている。そして『DX』は後者に組み込まれる(偶然の産物だが)。『DX』ではマクロやターボボタンのような、トーナメントで禁止されている機能については明確な線引きがされているが、コントローラの感触においては、規定が存在しない。ボタンの感触やコントロールスティックのゲート改造(訳注:ゲートとはコントロールスティックの動きを制限する8角形のガード部分)はグレーゾーンであり、現時点では適切な対応がなされていない。
過去(2005年頃の『DX』時代)には、当時世界最強の『DX』プレイヤーだったKen Hoangの兄、Mike “Manacloud” Hoangがそのグレーゾーンの改造を行った。『DX』のプロプレイヤー、David “Kira” Kimはこの改造を実際に目にしたひとりだ。
「Mikeがどうやったのかは分からないけど、コントロールスティックが押し込まれていたんだ。だから、ステステの距離を伸ばしたり、上Bの角度を少し変えたりできた。あとはLトリガーボタンもスプリングが外されていたから、すぐにフルシールドになったし、瞬時に押し込めたから、ジャストガードの助けになった。あとは、振動部分も外して軽量化していて、カラーリングも変えられていたね」
まだ『DX』シーン初期だった当時、既にプレイヤーたちは『DX』のゲームプレイに適した反応性の良いコントローラを作り出す方法を探し出していた。今振り返ると、それらの改造は最適化と呼ぶにはお粗末だったが、シーンに物議を醸し出すことになった。「改造コントローラをトーナメントで使用しても良いのか?」 − 当時、このような改造の大部分はルールとして整備されていなかったが、全米レベルのメジャートーナメント、GENESIS 2がカラーリング以外の改造が行われたコントローラの禁止を発表した。
この禁止ルール以降、改造についての議論はインターネットの片隅で囁かれる不平不満程度のものでしかなくなり、トーナメントのルールは基本的にマクロとターボの使用不可を中心に据えたものに留まっていたが、ある人物の発明がその議論に再び火を付けた。
Kadanoのノッチ改造の例
Kadanoのノッチ改造の例© @Kadano on Twitter

イノベイターの登場

過去数年間で、『DX』はハイレベルな対戦でのシールドドロップなど、テクニックが急速に進化している。これまで、このようなテクニックを実行できないプレイヤーの多くは、安定して入力できない自分の不甲斐なさを嘆くだけだったが、そのある人物はプレイヤーのテクニック不足を無視し、ハードウェアの研究に取り組んだ。
そして、そのMagnus420の多大な努力によって生み出されたキャラクターとコントローラ内部データを表示できるコードにより、オーストリアのDavid “Kadano” Schmidが非常に大きな影響力を持つ改造コントローラを生み出すことになった。そしてこれには多くのトッププレイヤーたちも注目した。
コントローラの内部データへアクセスできるようになったことで、改造の新世界が開けた。具体的に言えば、コントロールスティックのゲートのノッチ部分(訳注:8角形ゲートの角の部分)だ。Kadanoはこの改造を始める3年半前からコントローラの改造を手がけていたが、コントローラの内部データが公開されたことで、コントロールスティックのゲートのどこが動作ポイントになって様々なムーブが発生しているのかが特定できるようになった。その中には非常にワイルドな改造も含まれている。
その中で、より保守的な(そして彼の改造の中で最も人気のある)改造が、シールドドロップ用のノッチ改造だ。通常、プレイヤーがシールドドロップを行うには、純正コントローラならば、まずコントロールスティックを左右(東西)いずれかに90度の向きに倒してから、南東、または南西方向のノッチへ倒す必要があるが、新型コントローラはその仕様から、南西方向に倒すだけでシールドドロップをしてしまうことで悪評が高かった。そこでKadanoは新型コントローラが正確にシールドドロップを行えるようにノッチを微妙に改造した。
Kadanoはこのシールドドロップ用ノッチの他にも、絶空の量を最小限・最大限に調整できるノッチ改造や、ファイアフォックスの全角度に対応したノッチ改造、引き横強用ノッチ改造、更にはアイスクライマーの動きと攻撃のためのCスティックのノッチ改造さえも用意している。これらのノッチ改造を加えれば自動的にムーブが出せるようになるわけではないが、コントロールスティックがノッチにはまる触感が得られるため、ムーブの精度が高まることになる。
Kadanoが得意としているもうひとつの改造が、ボタン改造だ。ボタンにおいて最も求められている改造は、LトリガーとRトリガーを滑らかにする改造だ(新型コントローラのトリガーは引っかかりやすい)。ボタン改造は抵抗と高さの調整が主で、改造リストはこちらに掲載されている(閲覧にはSmashboardsのアカウントが必要)。
プロプレイヤーも改造コントローラを使用している
プロプレイヤーも改造コントローラを使用している© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com

コミュニティの意見は?

Kadanoのスレッドに掲載されているこれらの改造は非常に面白いものだが、興味深いのはこのスレッドの下部に掲載されている100人以上のプレイヤーが、実際に彼の改造を使っているという点だ。彼らのゲーマータグと同様、各コントローラの改造データは公開されており、トッププレイヤー、Armada、Mew2King、Axe、Plup、Iceは彼の改造を使用している一方で、Mang0やPPMDは使用していないことが分かる。
また、Hugo “HugS” Gonzalesのような純正コントローラから改造コントローラへの変更を考えているプロプレイヤーもいる。
「Kadanoの改造はいくつか興味があるよ。トリガーを低くする改造とかね。なぜなら、僕はトリガーを不意に触ってしまう持ち方をしてしまう時が多いんだ。でも、僕が改造するとしたら、完ぺきな純正コントローラにするためのものになると思うよ。ゲームキューブコントローラの問題は、クオリティにバラつきがあることなんだ。その不具合をKadanoの改造は解消してくれるはずさ」
しかし、この改造に同意していない人たちもいる。彼らは絶空用ノッチなどの改造を不公平だと考えている。ノーマルのコントローラでプレイする他のプレイヤーと比較した際に浮き上がる公平性の問題と不公平なリソースへのアクセスは、改めて考えなければならない点だ。もし特定の改造が認められるとすれば、その境界線はどこになるのだろうか?
今はまだ、過激な改造に恐怖するような段階ではないというところだ。上記の改造コントローラを使用しているトッププレイヤーの多くは、シールドドロップの改造だけを行っている。これはその改造の小ささから発見することは難しい。また、4月にはビッグトーナメントPound 2016のために、3タイトルの公式ルールが発表されており、初代『スマブラ』と『for Wii U』のルールは使用コントローラについて明記しているが、『DX』については明記していない。
修正パッチが普通となっている現代において、修正パッチなくしてここまで進化してきた『DX』は例外的存在だ。『DX』が15年前のゲームキューブコントローラを元に開発されたとしても、それから今日までに行われたゲームプレイとその中で発見された意外なテクニックの数々は、2001年の純正コントローラの領域を超えてしまっている。よって、『DX』も、今後はビッグトーナメント用に複数本のラケットを持ち込むテニスプレイヤーが存在するテニスと同じ方向に進んでいくように思える。しかし、コントローラの改造における適切な線引きがされなければ、反対意見が出ることは不可避だろう。
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