Red Bull Ice Cross
© RED BULL CONTENT POOL
イベント&フェス

【Red Bull Ice Cross】あの氷のコースはどうやって造られる? その「ヒミツ」に迫る

24時間体制の氷メンテ? パイプ総距離75km? 世界唯一無二の「氷のレース場」の裏側のハナシ。
Written by Yoko Matsuyama
読み終わるまで:7分Published on
※2020年2月13日:加筆修正
視界を純白に埋め尽くす雪山から、ライティングが映える歴史ある街並みまで――。
Red Bull Ice Crossの開催地は実にさまざまだ。大自然や街中に突如として現れるコース(以下、トラック)は、美しいアートのようにその土地の自然や文化と融合する。そんな見事な“舞台”は一体どうやって造られるのか。
Red Bull Ice Cross マルセイユ(2018-19シーズン)

Red Bull Ice Cross マルセイユ(2018-19シーズン)

© Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

2018-19シーズン第3戦を例に挙げてみる。舞台はフランスの港町マルセイユ。18世紀に立てられた王立病院を改装したインターコンチネンタルホテルの中庭をスタート地点に、紀元前600年頃に建設された旧港をゴールへと駆け下りるスペクタクルなトラックが完成した。同大会は地元ファンが詰めかけ、大盛況のうちに幕を閉じたが、実は予選直前、トラックに大掛かりな修正を施すなど、その裏ではトラック設営の関係者らが難題に挑んでいた。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© © RED BULL CONTENT POOL

ライダーたちが安全に存分と滑るため、24時間体制で裏方スタッフが動いていたのだ。
トラック設営を担うプロダクション・マネージャーのマーク・ヴァン・デル・スラウスさんに話を伺った。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© Red Bull

造って、メンテして、整えて

2分

Red Bull Ice Cross

マルセイユのトラック設営にかかった期間はおよそ3週間。マークさん始めとする6人のアイスクロストラック設営の専門家と2~30人のスタッフが携わったという。
「まず第1週に足場とトラックの土台を造って、2週目にトラック壁面の設営と氷張りに入る。第3週は氷張りと調整になる」とマークさん。ただし、マルセイユは日中の気温が摂氏15度になる温暖な地であるため、氷層をつくるのに特に注意が必要なのだという。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© RED BULL CONTENT POOL

「トラックの木枠にうっすらと水を張って、表面を凍らせるんだ。それを何度も繰り返して、氷層をつくっていく。ゆっくりと水を張って、(気温の下がる早朝夜間に)待って凍らせて、また水を張って凍らせる。ミルフィーユみたいに氷層をつくるから、10~12センチの厚みのトラック用の氷をつくるのに約1週間かかるんだよ」
ちなみに、マルセイユの前節となった開催地ユヴァスキュラ(フィンランド)は、この時期も平均して摂氏マイナス10~20度というウインタースポーツのリゾート地。こちらは、すでに降り積もっている斜面の雪をプレスして、水を流しながら氷の層を固めていく。極寒の地のため、氷層をつくること自体はよりスピーディになるが、スタッフの作業は1時間が限度。注意深く、頻繁に交代しながら進めなければならないそうだ。
Red Bull Ice Cross ユヴァスキュラ(2018-19シーズン)

Red Bull Ice Cross ユヴァスキュラ(2018-19シーズン)

© RED BULL CONTENT POOL

マルセイユとユヴァスキュラ、どちらが丈夫な氷か尋ねると、「マルセイユの方がうんと硬い」との回答。いわく、「一気に固まった氷は表面が最も硬くできるけれど、その下には硬さの“ムラ”ができる。そのため、衝撃により弱い。一方、何層にも重ねて造り上げたマルセイユの氷層は、硬く、より溶けにくいんだ」。
ただし、マルセイユでは照りつける太陽という最大の“天敵”がある。
そのため、日中はシートを被せて遮光し、早朝と夜間に作業を繰り返さなければならない。トラック造りは「1.造って、2.メンテナンスをして、3.より良いコンディションにする」の3ステップを24時間体制で担うのだ。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© RED BULL CONTENT POOL

==========
【ハミダシトリビア】数字で見るトラック建造のスゴさ
  • 100,000本:トラック建造に使用されるネジの数
  • 650枚:トラック下地に使用されるプライウッドシートの数
  • 75,000m:トラック建造に衣装されるパイプの総距離
  • 12,000時間:トラック建造にかかる総作業時間
  • 30,000リッター:冷却システムに使用される塩水の量
  • 1,000缶:トラック建造に時に飲まれるレッドブル・エナジードリンク
==========

マルセイユのハプニング

どの場所でも臨機応変に対応することが出てくるというトラック造り。マルセイユでは予選直前に2カ所の修正が施された。
一つ目は、Red Bull Ice Crossで史上最も急な61度という斜度の「ハーバードロップ」の手前。選手たちも未経験の急傾斜は一番の見どころだったが、混戦状態でドロップへ突入すれば大けがをする選手が出てくるかもしれないとの問題点が浮上した。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© Red Bull Crashed Ice

そこで、選手たちとも話し合い、このドロップを降りる前にミニゲートを設置することにした。ひとりずつ滑ることを余儀なくし、ここでの接触プレーは厳しく失格処分を下すとルールを再設定したのだ。
ちなみに、このミニゲート設置にかかった時間はほんの2時間ほど(!)。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© RED BULL CONTENT POOL

「3.より良いコンディションにする」ため、すぐに対応策を話し合い、決定して、実行するという柔軟性を有しているのは、何よりの「アスリートファースト」だろう。いつの間にか出来ていたゲートに、私もただ驚かされた。
もう一つは、スタート地点のドロップ付近。こちらは実際にレースモードで滑ってみると、続くアップダウンとのトランジション(滑りの繋がり)が悪いことが判明した。そこで、急きょプラスチック板を重ねて傾斜の角度を変え、より滑りやすいトランジションに改善した。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© RED BULL CONTENT POOL

こうした修正が必要なことも、完成して何度か滑ってみて初めて判明する。今回はトレーニング日の前日だった。そのため、マークさんはマルセイユから、ヨーロッパ中の仕事仲間である専門家、そして運営側と話し合いを重ねた。
その結果、トレーニング日の午前3時(!)にスイスとスペインの専門家の仲間の助力を得て、プラスチック板をかき集めると、数時間後の朝には会場に届くようにしたという。そうしてプラスチック板は午前7時に会場に到着。8人のスタッフが7時間かけて修正を終えた。その甲斐あって、選手たちは予選前日の夕方にはスタート付近の練習を予定どおりに行っている。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© Red Bull

安全が第一

夜明けまで寝ずのドタバタ劇となったが、「これはちょっと大変だったね」と穏やかな笑みを浮かべるマークさん。聞けば、どこでも何かしら苦労はつきものだし、それを解決していくだけとやり甲斐すら覗かせる。
なお、トラック設営チームに携わるのは、トラックを設計するトラックデザイナー、選手たちや大会の詳細を取りまとめるスポーツディレクター、そしてトラック造りの専門家とスタッフ一同。このスタッフには、必ず開催国の現地スタッフにも協力してもらう。そうすることで、さまざまな難題に対応できる強力なチームができるという。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© RED BULL CONTENT POOL

「地元の人と協力しあって、デザイナーもディレクターもみんなで一緒になって解決して造り上げていく。7年ほど携わっているけれども、チームの一員として働けて最高だよ。それぞれの国や土地で問題に応じた対策が必要になるから、新しい見地も得られる。まだまだ、学ぶことばかりだよ」と充実感をにじませる。
Red Bull Ice Cross

Red Bull Ice Cross

© Red Bull

マークさんいわく、「最も大切なことは安全性」。選手にとって、危ないという可能性が浮上したら、最優先でそれは取り組むべき問題なのだ。そのためには昼夜問わず、すぐに最良の改善策を何としても見つけ出す。
アイスクロスのトラック専門家というキャリアを重ねているマークさんは、オランダ出身。この国の人はほとんどがバイリンガルで知られるが、聞くとマークさんは「ドイツ語、英語、オランダ語の3カ国語しか話せないんだ」と謙遜して言う。「フランス語も学ぼうとしているけれど、ちょっと難しくて」と続ける。
トラック造りに誇りを持ち、謙遜しつつ向上を目指すマークさんだからこそ、どんな問題でも様々な国の専門家とうまく連携して解決していくことができるのだろう。
縁の下の力持ち。選手たちも頭が下がる献身がそこにあった。

.

.

◆Information
・レッドブル・アイスクロス横浜 2020 の詳細&チケット情報はこちら >> Red Bull Ice Cross World Championship
・大会前にチェックすべき基本情報はこちら >> 【5分で読める】Red Bull Ice Crossを全力で楽しむための、5つのポイント