A photo of F1 commentator David Croft interviewing Red Bull Racing's Christian Horner at Goodwood.
© Getty Images / Red Bull Content Pool
F1
【有名 F1 実況者】デビッド・クロフトが語る自身の仕事のルールと楽しみ
Sky SportsのF1中継やCodemastersのゲーム『F1』シリーズでお馴染みの英国人実況者が、レースウィークエンドの興奮を適切な言葉で伝えるために心がけているルールを教えてくれた。
Written by Ali McCarthy
読み終わるまで:9分Published on
F1ファンなら、レースウィークエンドの各セッションを興奮を帯びたトーンで実況するデビッド・クロフトの快活な声に慣れ親しんでいるはずだ。
パドックの友人やファンから “クロフティ(Crofty)” というニックネームで親しまれている彼は、英国のBBC Radio 5 LiveでF1実況のキャリアをスタートさせたあと2012年にSky Sportsへ移り、現在はマーティン・ブランドルジョニー・ハーバートアンソニー・デビッドソンをはじめとする元F1ドライバーと共に実況席に座っている。
またクロフトは、Codemastersが手がけるビデオゲームシリーズF1』でも、『F1 2010』以降の全作品で実況を担当している。6月28日に世界同時リリースされたばかりの最新作F1 2019(日本国内PS4パッケージ版は9月13日リリース)について、クロフトは次のように語る。
「最新作の『F1 2019』は限りなくリアルなゲームに仕上がっています。ペナルティも現実のF1と同様に厳しく適用されます。ルールも現実のF1と同じですし、エンジニアと一緒にマシンをセットアップする作業も変わりありません」
「今回リリースされた『F1 2019』では、初めてプレイヤーがチームを移籍できるようになりました。キャリアモードの進め方によって、プレイヤーは複数のチームへ移籍できるのです。毎年リアルさが増していますね」
また、『F1 2019』にはF1昇格前からキャリアをスタートさせることができるオプションも用意されている。
「今回の『F1 2019』ではF2マシンとF2のキャリアストーリーが用意されていますので、プレイヤーがF1からキャリアを始める必要はありません。F2からF1へ進めます」
「12歳になる息子にも、『父さん、やっぱりF2から始めなきゃダメだよね!』と今日言われたばかりなんです。息子は『いきなりF1のスタードライバーになれるわけないよ。まずはちゃんと経験を積まなきゃ』とも言っていました。我が息子ながらなかなか賢いですよね(笑)」
ダニエル・リカルド&マーカス・エリクソンとセルフィーを撮影するクロフト
ダニエル・リカルド&マーカス・エリクソンとセルフィーを撮影するクロフト© Mark Thompson/Getty Images
このゲームシリーズのファンたちは、新DLC『F1 2019 Legends Edition』にも興奮を覚えている。このDLCではアイルトン・セナアラン・プロストの伝説的なチャンピオンシップ争いを体験できる上に、多彩なレジェンドマシンも用意されている。
長年に渡るCodemastersとのコラボレーションについて、クロフトは次のように打ち明ける。
「Codemastersとの仕事で個人的に最も気に入っているのは、彼らが可能な限りリアルなゲームにしたいと考えているところです。ですので、彼らからの指示はいつも同じです」
「彼らからはいつも『セリフは用意してありますが、普段のあなたらしく話してください。普段使わないような言い回しは避けてください。私たちが求めているのは、あなたらしさとあなたの実況スタイルなのですから』と頼まれます」
「実際のサーキットにいる自分や視聴者に直接語りかけている自分を想像して、できるだけリアルに聞こえるよう努めています」
このように語るクロフトはこの仕事を心底楽しんでいる。なにしろ、彼はF1実況の達人なのだ。
そこで今回は、彼がF1レース実況でいつも心がけている5つのルールについて話してもらった。

1:使えるツールはすべて活用する

コース上のドライバーの位置を正確に把握し、レース展開を誰よりも早く予想しながら、F1にまつわるあらゆるスタッツを説明していくデビッド・クロフトとマーティン・ブランドル。彼らの声を聞いていると、全知全能の神のように思えてくるかもしれない。しかし、実際は違う。
クロフトは、Sky Sportsの実況解説チームはGPSによるドライバー位置表示タイミングスクリーンピットレーンカメラはもちろん、非公式のタイミングスクリーンも活用していると説明している。
また、当然ながら、あらゆるスタッツとニュースをパドックから集めているスタッフ陣や実況チームの他のコメンテーターもクロフトの仕事を支えている。
クロフトは2019シーズンモナコGPを例に出し、次のように語る。
「実況席からは外の様子も見えます。モナコでは、マックス・フェルスタッペンのピットストップがレースの重要な場面になったというのに、地元局のディレクターはそこに映像を切り替えませんでした」
「マックスがバルテリ・ボッタス(メルセデス)と同時にピットレーンへ入ってきた時、私は『これはエキサイティングな場面になるぞ』と確信しました。それで実況席の窓から身を乗り出してその様子を実況したのですが、これが中継にフレッシュな変化を生み出しましたね」
週末はパドック内を駆け回って取材する
週末はパドック内を駆け回って取材する© Getty Images / Red Bull Content Pool

2:伝えているのはストーリーだということを理解する

「マーティンと私がレースを実況する時は、自分たちは本当に恵まれているなと思っています。リビングルームやキッチンのTV、あるいはタブレットを問わず、視聴者の皆さんは私たちを自分たちの生活の中に招き入れてくれています」
「視聴者の皆さんは自主的に私たちの言葉に耳を傾け、私たちを彼らの時間の中に組み込んでくれています」
「私たちは視聴者の皆さんと対話しながら、私たちが理解し、楽しんでいることを同じレベルで彼らが理解し、楽しんでもらえるようにしています」
クロフトはF1中継を視聴者が日曜午後のひとときを割くだけの価値があるものにしたいと考えている。
「日曜の決勝レース前、私は多くの時間をパドックで過ごしています。多くの人に取材して、戦略やトラブル、レースに影響を与える要因などについて把握するようにしています」
「こうしておくことで、レース展開を事前に予想できるようになりますし、実際に何かが起きた時にその理由を説明できるようになります」
「私が『このドライバーは15周目にピットインするでしょう』と言うことはありません。そうなるとは言い切れないからです。20周目になる可能性もあります。またそうなれば、そのドライバーが別の戦略を選択していることを意味します」
「ストーリーを伝える時は、自分の言葉がすべてです。言葉の中に自分の視点が現れます。自分の視点が間違っていたら、今のようにこの仕事を続けることはできていなかったでしょう」
あらゆる事態を想定して準備に準備を重ね、どんなことでも説明できるようにしています
デビッド・クロフト

3:準備に準備を重ねる

当然ながら、実況中のクロフトは何も見ないですらすらとスタッツを引き出しているわけではない。本人は次のように説明する。
「今、私のデスクの上にはフランスGP用の未完成メモがあります。これは自分が手書きで用意したものです。あらゆる事態を想定して準備に準備を重ね、どんなことでも説明できるようにしておくためです」
全レース前にクロフトはかなり深いリサーチを行なっている。
「A4用紙1枚を12マスに区切り、全チーム&ドライバーのシーズンごとのスタッツを書き込んでいます」
「たとえば、『メルセデスは、フェラーリが過去10年で記録した回数より多くの1-2フィニッシュを2019シーズンだけで達成している』、『今シーズンでまだポイントを獲得できていないドライバーは3名』、『今シーズンのこれまでにチームメイトの予選順位を一度も上回れていないドライバーは3名』といったメモが、全ドライバー&チームの個別スタッツと並んで書き込まれています」
また、クロフトはレースや開催地周辺のスタッツを書き込んだトラックマップも用意している他、実況席の壁を過去20レースの出走数 / 優勝回数 / 表彰台獲得回数 / ポールポジション獲得回数 / 総獲得ポイントなどあらゆるデータを書き込んだ表で埋め尽くしている。
「F1の実況では、次に何を話すのか予想できません。ですので、手の届くところに情報を用意しておき、それらをすぐに見つけられるようにしておく必要があります」
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4:オープンマインドを保ち、直感を駆使する

「レースでは、自分のマインドをオープンにする必要があります。F1レースに筋書きはありません。あったとしても、私たちが事前に確認するのは不可能です! すべてが自分の目の前で、現在進行形で展開されます」
「オープンマインドな姿勢が保てていれば、レース展開の先入観に振り回されません。その時に起きていることに反応するのが基本です」
「自分の直感を信じる必要もあります。私がBBC 5 Liveで働き始めた年は、マーティン・ブランドルが授けてくれたアドバイスが大いに役立ちました」
「私たちはブラジルGPでランチをしたのですが、マーティンときちんと話すのはこの時が初めてでした」
「会話が途切れた時は天気などについて話せば何とかなります。ところが、TVではそうはいきません。何を話すべきか迷うことがあります」
「ランチ中にマーティンから『君の考えを汲み取るようにするが、話せることは常にある。話題にできるものは常にあるはずだよ』とアドバイスしてくれました。以来、この言葉は私のキャリアを通じて心に刻まれています」
F1レースに筋書きはありません。あったとしても、私たちが事前に確認するのは不可能です!
デビッド・クロフト

5:リプレイに惑わされない

クロフトは “コメンテーターの呪い(commentator’s curse:スポーツ実況である選手を褒めるコメントをした直後にその選手がミスを犯すこと)” を信じていないとしているが、レース中に大失態をしてしまった経験がある。
「2013シーズンのモナコGPで、マーティンと楽しく実況していた私は思わず興奮してしまいました」
ジェンソン・バトンセルジオ・ペレス(共に当時マクラーレン)がトンネルからシケインにかけて素晴らしいバトルをしていたので、私はものすごく盛り上がっていたのですが、マーティンが『おいおい、正気か?』という表情で私を見たのです」
「さらに興奮しつつも『どうしてマーティンは僕をあんな目で見ているんだ?』と考えました。すると彼はスクリーンを指差したのです。そのスクリーンには “replay” と表示されていました。要するに、私はリプレイを実況していたのです」
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