シベリアでのフリークライミング
© Corey Rich/Red Bull Content Pool
クライミング

クライミング専門用語解説&基礎知識

フリークライミングとフリーソロの違いとは? レッドポイントとは? フラッシングとは? クライミングビギナーのために代表的な専門用語を解説する。
Written by Will Gray
読み終わるまで:10分公開日:
クライミングは “What” ではなく “How” のスポーツだ。
ロープ、ギア、ハーネス、チョークバッグなどの物 - “What” - を手に入れて岩壁に向かうのは誰にでもできる。しかし、スタイルフォームコミットメントなどを含むやり方 − “How” − が自分のクライミングを決めることになる。
また、クライミングを取り巻く専門用語は複雑で重なり合っているように感じられるという事実も踏まえると、それらを一度しっかりと理解しておく方が良いように思える。
というわけで、今回は自分の “How” を見極めるためのガイドとして、クライミング専門用語基礎知識を簡単に解説していく。

【テクニック】

ルートを登攀するクライマーが使用するもの、それがテクニックだ。岩壁に身体ひとつで挑むのも、ロープを使って挑むのもそれぞれ異なるテクニックで、登り方とも表現できる。
フリークライミング
ヨセミテ国立公園のエル・キャピタンをフリークライミングするトミー・コールドウェル

ヨセミテ国立公園のエル・キャピタンをフリークライミングするトミー・コールドウェル

© Corey Rich/Red Bull Content Pool

フリークライミングフリーソロと混同されがちだ。フリーソロはロープなどを一切使わず、完全に “自由” な状態で岩壁に挑む強烈なクライミングで、フリークライミングとは大きく異なる。
では、フリークライミングとは何なのか? これはごく普通のクライミングだ。ロープは使用するが安全確保が目的で、クライミングエイドとしては使用しない。つまり、ロープをつたって登ったり、ロープに自分の体重をかけたりすることはない。
エイドクライミング
ドーン・ウォールに挑戦中のトミー・コールドウェルとケビン・ジョージソン

ドーン・ウォールに挑戦中のトミー・コールドウェルとケビン・ジョージソン

© Corey Rich/Red Bull Content Pool

エイドクライミングはフリークライミングので、ギアを使用してクライミングをエイドする(助ける)登り方だ。
ナイロン製ラダーやハンドアッセンダー(ユマール)を使用する登攀からステップを配置する登攀まで、ギアを積極的に使用する登攀はすべてエイドクライミングに含まれる。
エイドクライミングは、ルート上に位置する “フリークライミングでは不可能なセクション” を通過するために使用される時がある。また、ギアをスピーディかつ安全に配置する方法など、エイドクライミングには独自のスキルが存在する。

【クライミングのタイプ】

クライミングのタイプは「安全確保の方法」によって変わってくる。
たとえば、トラッドクライミング(別名:クラッククライミング)のクライマーはカムナッツなどのナチュラルプロテクション(岩を傷つけずに配置し、使用後に回収できるプロテクション)を使用し、岩壁に埋め込まれているボルトには異議を唱えている。また、フリーソロはプロテクションを一切使用しない
ここに紹介しているどのタイプもフリーとエイドの両方で楽しめる。
トラッドクライミング
トラッドクライミングは “トラディショナル”、つまり伝統的なクライミングで、クライマーはルートを考えつつ、カムやナッツなどのナチュラルプロテクションをルート上に配置しながら登攀していく。また、ルートの通過・終了後にそれらのプロテクションをすべて回収するのも大きな特徴だ。
また、トラッドクライミングは非常にテクニカルでスキルが求められる。事前準備はなく、トップロープによる安全確保もなく、岩壁を傷つけずにその場を立ち去らなければならない。
スポーツクライミング
スポーツクライミングは初心者向き

スポーツクライミングは初心者向き

© alfred_crabtree/Flickr

1980年代中盤に生まれたスポーツクライミングでは、スクリューやハンマーを使ってボルトを設置しながら登攀する代わりに、すでに設置されているボルトにロープを掛けながら登攀していく。
ルートは分かりやすく、点繋ぎパズルのようにボルトを経由していく。また、最上部にはビレイ用アンカーポイントが設置されている。これらの特徴からビギナー向きと言えるが、自然の岩壁にボルトを設置する点に難色を示しているクライマーは少なくない。
スポーツクライミングでは、トラッドクライミングで求められる探索能力やバランス能力よりも柔軟性筋力持久力スピードが重要になる。尚、主な世界大会における競技としてのスポーツクライミングはボルダリング、リード、スピードをまとめた複合種目を指す便宜上のものである。
ボルテッド・トラッドクライミング
これはやや矛盾しているクライミングタイプだ。トラッドクライミングは「登攀をしながらプロテクションを配置・撤去していくクライミング」だが、ボルトがあらかじめ設置されているルートを登るトラッドクライミングが存在する。これがボルテッド・トラッドクライミングだ。
ボルテッド・トラッドクライミングのルートのボルトはリード(登り)時に配置されており、ボルト間が広く開いている時がある。一方、スポーツクライミングルートのボルトは懸垂下降(ラペリング)で設置されるためかなり整理されている。
コンテ / 同時登攀 / サイマルクライミング
これは複数のクライマーが同時に登攀するトラッドクライミングを指す。日本での英語名はコンテニュアス(Continuous)の略 “コンテ” が一般的だが、英語圏ではサイマルクライミング(Simul Climbing)と呼ばれている。
先行するクライマーがプロテクションを設置し、後続のクライマーがそれを外しながら登攀していくが、お互いの安全を瞬時に確保できるだけの高いスキルが必要になる。
ソロ / フリーソロ
ホールドをひとつ間違うだけでも命取りになる

ホールドをひとつ間違うだけでも命取りになる

© Free Solo Movie; Nat Geo

神の領域と言っても良いのかもしれない。フリーソロは一般人なら顎が外れ、胃がひっくり返ってしまうレベルの強烈なトラッドクライミングだ。
ロープで安全確保をせずに自分の身体ひとつで登攀するフリーソロは、フリークライマーのアレックス・オノルドがエル・キャピタンに挑んだ様子を捉えたアカデミー賞受賞ドキュメンタリー映画『フリーソロ』によって一気に一般世間に広まった。
ギアを一切使用しないことから、フリーソロを「最も純粋なクライミング」と評価する人たちがいる一方、「狂気の沙汰」という評価もある。
世界的に有名なフリークライマーだったブラッド・ゴブライトオースティン・ハウエルが揃って2019年に命を落としていることを踏まえると、後者の評価の方が的を射ているのかもしれない。
しかし、フリークライマーの多くが、フリーソロに取り組んでいる理由について単純なスリルではなく、自由な感覚と身体ひとつですべてをコントロールしている感覚を得るためだとしている。
また、フリーソロには下記のように複数のバリエーションがある。
  • アーバンソロ:高層ビルやタワーをロープなしで登攀するフリーソロ。フランス人フリークライマーのアラン・ロベール(別名:スパイダーマン)がこのシーンを有名にしたが、“セルフィー” の人気の高まりもあり、近年は多くのフリークライマーが話題を振りまいている。
  • ディープウォーターソロ:海に面した崖や岩壁で行うフリーソロ。ビギナーレベルでは海面がクラッシュマット代わりになるため通常のフリーソロより安全だが、中級者レベル以上になると切り立った崖や岩壁がクライマーに命の危険をもたらす。
  • ベースソロ:ロープの代わりにパラシュートで安全確保をするフリーソロ。パラシュートが用意される分、通常より危険なピッチに挑めるようになるという意見がある一方、「身体ひとつ」ではないため純粋なフリーソロとは呼べないという意見もある。
ボルダリング
ボルダリングの “課題” を解決するためには筋力と岩を読む力が必要

ボルダリングの “課題” を解決するためには筋力と岩を読む力が必要

© Teddy Morellec/Red Bull Content Pool

ボルダリングはその名前が内容を示している。ボルダー(巨石)を登攀するのがこのタイプで、どれだけ難しいルートを攻略できるかが評価のポイントになる。
ボルダリングのルートは “課題” と呼ばれており、クライマーはパワフルでテクニカルなムーブを繋げながら課題を解決していく。最低限の装備(チョーク&シューズ)だけで単独で挑む。
ボルダリングで有名なエリアには複数の課題が用意されている。また、課題の多くは高さがないため、安全確保はロープではなくクラッシュマットを使用する。ただし、近年はハイボールと呼ばれる高いルートも用意されるようになっている。

【クライミングロープのタイプ】

どのように安全確保をしたいのか」と「どれだけ高く登りたいのか」がクライミングロープのタイプを決める(もちろん、フリーソロを選ばない場合だが)。基本中の基本と言えるトップロープからマルチピッチまで、クライミングロープにはいくつかの選択肢が存在する。
トップロープ / ボトムロープ
このクライミングではクライマーの頭上にロープが確保される。ビレイヤーと呼ばれるパートナーがロープのコントロールを担当し、クライマーの落下時の安全を確保する。
本来はビレイヤーが壁や崖の最上部に位置して下方のロープをコントロールするクライミングをトップロープと呼ぶのだが、現在はビレイヤーが岩壁や崖の下に位置し、最上部のアンカーシステムを通したロープでつるべのようにクライマーの安全を確保するクライミング(本来のトップロープに倣えばボトムロープ)をトップロープと呼ぶのが一般的だ。
クライミング初心者やインドアクライマーの間で広く知られているトップロープ / ボトムロープではクライマーが高難度のムーブルートに挑戦しやすくなるが、行動範囲がロープの長さに制限される。
リードクライミング
マルチピッチクライミングでは交代しながら上を目指す

マルチピッチクライミングでは交代しながら上を目指す

© Klaus Fengler/Red Bull Content Pool

リードクライミングは通常2人1組で行う。クライマー(リード)がハーネスにロープを装着し、もうひとりのクライマー(ビレイヤー)がそのロープをコントロールしてリードの安全を確保する。
リードはロープをクイックドローやボルトに掛けながら登攀していく。スポーツクライミングのリードクライミングではボルトはあらかじめ固定されているが、トラッドクライミングでは自分で固定していく。
ビレイヤーはロープの長さやテンションをコントロールしながらリードが安全に登攀できるようにする。
マルチピッチクライミング
リードクライミングのバージョンで、ピッチ(ロープ1本の長さで可能な登攀範囲)を複数回繰り返していく。
たとえば、クライマーAとクライマーBのペアで行う場合、クライマーAがロープの長さまで登り切ったら、そこで支点を構築してビレイヤーになり、それまでビレイヤーだったクライマーBがクライマーAの上方へ登攀していく。これを交代で繰り返していく。
このようにピッチを繰り返すことでロングルートやビッグフェイスの登攀が可能になる。1日ではなく複数日に渡って行われることもあり、その際は崖の途中にポータレッジを設置して睡眠や休憩を取っている。

【アプローチ】

その登攀がどれだけ凄いのか、またどれだけ満足できるものなのかはアプローチによって変わってくる。多くの場合、究極レベルの称賛と満足感が得られるのは、何の準備もしないでロケーションに向かい、いきなり完登するクライミングだが、高難度のルートではこれはまず不可能だ。
このような事情から、高グレードでの「レッドポイント」と低グレードでの「オンサイト」が同等として扱われる時もある。
以下にアプローチの違いと用語を説明する。
オンサイト
最もチャレンジングなクライミングのひとつとして知られるオンサイトはいわゆる「初見クリア」で、見たことも調べたこともない岩壁を初見で一発完登することを意味する。
オンサイトの定義は人によって異なり、ルートのグレードを事前に知っていただけでオンサイトではなくフラッシング(下項参照)になるという意見もある。
フラッシング / フラッシュ
他人の登攀やベータ(beta:動画や書籍などの情報を意味する)をチェックしたあと初アテンプトで完登することを意味する。ベータを使用したフラッシングはベータフラッシュと呼ばれる。
レッドポイント / ヘッドポイント
難度9aのスピード・インテグラーレ(スイス)に挑むアレックス・メゴス

難度9aのスピード・インテグラーレ(スイス)に挑むアレックス・メゴス

© Thomas Ballenberger / Red Bull Content Pool

数回の練習やトライを経たあとでルートを完登することを意味する。
スポーツクライミングではレッドポイント、トラッドクライミングではヘッドポイントと呼ばれる。オンサイトやフラッシングでの完登がまず不可能と思われるルートで使用される機会が多い。