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ドラムンベース 2018:MCの今

© Sophie Harbinson

ドラムンベースMCは、好む人がいれば嫌う人もいる賛否両論な存在だ。新世代MCが台頭してきている今、彼らの重要性と彼らが抱える問題に光を当てる。

ドラムンベースMCカルチャーが最高の瞬間を迎えている。
SaSaSaSのビッグルームなエナジー、DRSのソウルフルな声、そしてGQをはじめとするグランドマスターたちの圧倒的な存在感など、2018年のドラムンベースMCカルチャーは、過去に見られなかったバラエティ豊かなスタイルを提供している。
BassmanEksman、または現在絶好調のAzza & GrimaのようなMCたちのハードなリリカルスピットを好む人がいれば、SPVisionobiにような数よりも質で勝負するタイプのMCが好きという人もいるだろう。または、FatsStaminaor、そして今年最大のサクセスストーリーを生み出したDegsのような歌って煽れるMCが好きという人もいるだろう。
ドラムンベースMCが嫌いな人もいるかもしれないが、生まれた時代が悪かったと諦めてもらうしかなさそうだ。
現在のドラムンベースとその全てのサブジャンルをどこから見ても、MCがアクティブに活動しているのが分かる。ドラムンベースMCカルチャーはまさに満開の時を迎えており、トップクラスのMCたちが、このカルチャーをエキサイティングなステージへとプッシュしている。
KyristのDJにInja & FocusがMCで参加したRed Bull Music Odysseyスペシャルクリップをチェック!
Roni Size & Reprazentでブレイクして以来、ドラムンベースMCとして活躍を続けてきたDynamite MCが語る。
「パフォーマーとしてのMCは常にニーズがあったと思うが、トラックのリリースやパフォーマンスコラボレーション、ヴォーカルという意味では、今がエキサイティングだな。こうなるのは必然だったとも言える。というのも、グライムが大成功を収めているからさ」
「グライムの成功によって、世間はMCの存在を思い出し、ドラムンベースにおけるMCの役割を再評価したのさ。むしろ、昔よりもリスペクトされているかもしれないな」
ドラムンベースとMCの関係は非常にユニークで複雑だ。MooseGQFize-0Stevie Hyper Dなどが25年前にそのひな形を作り上げて以来、その関係性は変わっていない。
ドラムンベースは、グライムやラップのようにMCが中心に置かれていない音楽だが、一方でハウスやテクノ、トランスのようにMCが一切存在しない音楽でもない。
ドラムンベースとMCのこの微妙な関係は、正しいバランスで配合されれば、DJを主体にした他のどの音楽とも異なるダンスフロア体験を作り出してくれる、唯一無二の錬金術なのだ

ドラムンベースMCの誕生

「多種多様なスタイルと方法論が存在するから、ドラムンベースMCをひと言でまとめて表現するのは不可能だね」と語るのはSP:MCだ。
SP:MC(本名:Stewart)は、2000年代初頭にGQに認められて以来、ドラムベースシーンを代表するMCのひとりとして活動している。
「とはいえ、俺がまとめて表現するなら、ドラムンベースMCはこの音楽を伝え、祝う存在ってことになる。俺はこの2点を最重要視しているのさ。他はどうでも良いね」
Red Bull Music Odysseyにも出演したHospital RecordsInjaは、DJがシェフなら、MCは皿の盛り付けを確認し、足りなければ多少の飾りや味付けを加えて客に提供するウエイターのような存在だとしている。
Injaが説明する。
「MCが最高に美しい皿を差し出し、オーディエンスは欲望に打ち震えながらそれを味わうのさ。MCは指揮者のようなもんだね。オーディエンスとDJの隣にいて、全員を結びつける。ターンテーブル2台とマイク1本というDJカルチャーのオリジナルを体現しているのさ」
Inja
Inja
MCは指揮者のようなもんだね。オーディエンスとDJの隣にいて、全員を結びつけるのさInja
Dynamite MCが続ける。
「俺たちはオリジナルのヒップホップコンビと同じなのさ。Jazzy Jeff & The Fresh PrinceEric B & Rakimと同じだ。ドラムンベースは昔からそういうコンビが多かった。俺とRoni Sizeもそうだし、Brockie & DetGQ & Micky FinnConrad & Bukemもそうさ。芸人みたいなもんだな」
上記のような長期のコラボレーションや、Dub Phizix & StrategyCalibre & DRSFriction & Linguisticsのような最近のコンビは、ドラムンベースシーンにMCが存在する理由を説明している最高の例だ。
彼らの音楽性はタイトに結びついており、お互いを良く理解している。お互いのアートに感謝しており、お互いを輝かせるタイミングを知っている。
Linguisticsが語る。
「DJとMCがバッチリ合った瞬間は誰でも理解できると思うよ。お互いを刺激し合っている姿がオーディエンスを刺激するのさ。あの興奮はフェイクでは生み出せないし、2人が生み出す強烈なコンボは絶対に消えてなくならない。FrictionSPのコンビはレジェンドクラスだったし、俺に大きな影響を与えたよ」
新世代MCを代表するひとり、Linguisticsは7年前からそのFrictionのメインMCを担当している。
「俺はFrictionのスタイルとセットを完全に理解している。だが、今でもブースの方を振り返って “マジかよ! さすがFriction!” って叫ぶ時があるね。Frictionは常に変化を加えて音楽を面白くしようとしている。俺もフロアのみんなと同じくらい彼のその音楽を楽しんでいるんだ
「あのエナジーは中毒的だよ。俺たちの関係はまだ日が浅いのにさ。GQやSPのようなMCたちは、様々なDJと強力な関係を築いていた。現場で感じるあのエナジーとパワーは友情と音楽的な深い繋がりから生まれているんだ。そんじょそこらの関係じゃないのさ」 

賛否両論の存在

Linguisticsの発言は、ドラムンベースにおけるMCのユニークな役割を捉えると同時に、彼らがなぜドラムンベースシーンで重要視されてきたのかを説明している。
しかし、残念ながら、これはドラムベースMCに対する満場一致の意見ではない。ドラムンベースMCはマーマイトのような存在で、彼らをパーティに欠かせない存在として捉えている人がいれば、パーティを台無しにする可能性がある存在として捉えている人がいる。
DRSはこのテーマを鋭い視点で取り上げており、2012年のデビューアルバムのタイトルを『I Don’t Usually Like MCs But…』(『普段はMCが好きじゃないんだが…』)と名付けた。
ではなぜ、MCは賛否両論の存在なのだろうか?
DRSが説明する。
「何年も前に、MCカルチャーは非常にネガティブで醜いものになった。ジャングルが人気を獲得して、あらゆるキッズがジャングルMCになろうとしたんだ。言いたいことは分かるだろ? 20人のMCがマイクに集まってベチャクチャ喋るようになったのさ」
「流行好きのキッズが集まり、マイクを奪い合った。サルフォードやモス・サイドなど、地元の名前を叫び合い、やがて銃撃が起きて、クラブは閉店。パーティはなくなった」
「こんなことがあったから多くの人がMCをまともな目で見なくなった。俺たちは20年経った今もそのイメージを引きずっている。あの時の厄介事を今も背負っているのさ」
DRS
DRS
ジャングルが人気を獲得して、あらゆるキッズがジャングルMCになろうとしたんだ。言いたいことは分かるだろ? 20人のMCがマイクに集まってベチャクチャ喋るようになったのさDRS
「正直に言えば、MCを嫌いな人は多い。ノンストップで喋っているからさ」と続けるのは、DRSの長年の友人で、Broke ’n’ Englishでコンビを組んできたStrategyだ。
マンチェスター出身のStrategyは、他のベストMCと同じく、独自のロックンロール的なスタイルを打ち出してMCを再定義した。オーディエンスからその場で伝えられる “お題” に合わせて彼がフリースタイルを披露する姿は日常茶飯事だ。また、オーディエンスに「隣の奴とハグしろ」と呼びかけることも多い。
「正直に言えば、MCを嫌っている奴は多いよ。だが、ちゃんと考えられているライムを聴いたり、MCがパーティを盛り上げている様子を確認できたりすれば、MCへのイメージが変わるんだ

MC新時代

そして今、我々は “イメージが変わった” 時代を迎えている。
ドラムンベースの音楽性が幅広くなったことを受けて、MCたちも多種多様なスタイルを打ち出している。
昔からMCを重用してきたジャンプアップシーンでは、EksmanBassmanFunstaEvil BShottaSkibadeeShabba AzzaGrimaなどのMCが、自分たちをセンターに置いたライブやパーティを開催するようになっている。
また、MCがもっと大きなインパクトを生み出しているジャンルもあり、ニューロファンクヘヴィテックでは、CoppaKryptomedicのようなMCがリリカルなスピッティングで現場の雰囲気を盛り上げており、Hospital専属のDegsInjaは、メロディックでメインストリームなドラムンベースを盛り上げている。
「非常に興味深い状況だよ」とDegsは語り次のように続ける。
「俺がジャンプアップから離れた頃は、MCは他のスタイルではそこまで重用されていなかった。でも、ジャンプアップから離れたことで自分のスタイルを作り上げることができた」
「内容を意識したリリックや歌を披露するようになったあと、周囲から注目されるようになっていったんだ」
オンラインフリースタイルで人気を獲得してブレイクしたDegsは、現在はスタジオワークにも取り組んでいる。MCのトラック制作の必要性は、Pendulumと長年活動を共にしてきたベテランMC、Ben the Verseが長年言い続けてきたことだ。
MC Ben the Verseは次のように語る。
「トラックにフィーチャーされるMCの数が増えないと。グライムはトラックにMCがフィーチャーされている。このやり方をドラムンベースもやっていかないといけない。自分たちの声をトラックに吹き込むのさ」
NoisiaCalyx & Teebeeと組んで以来、俺は制作を続けている。トラックに参加すれば、歴史に残る。自分の生きた証を形として残せるのさ。プロデューサーたちはMCとの仕事を楽しんでいるし、単純に組む回数が少ないだけだ」
スタジオ以外に話を移すと、今回の記事にフィーチャーされているMCの多くが、最近はトップMCたちがリリックに以前よりもエナジーや意見を盛り込むようになっていると発言している。
Dynamite MCは、ソーシャルメディアに投稿される映像がMCに光を当て、MCのレベルアップを促したとしている。一方、MCカルチャーをギネスブックに刻み込んだHarry Shottaは、それは新世代の登場によって自然に促されたものだと考えている。
Harry Shottaが説明する。
今が昔と違うのは、MCがオーディエンスにベターなコンテンツを提供できているところだと思う。オーディエンスが繋がれるリリックになっているんだ。MCは全員に関係があることをテーマに持ってきている。ただDJや自分たちを盛り上げたり、パーティの調子を喋ったりしているんじゃないのさ」
俺たちの多くは、政治やニュースなど、大事なことについて語ろうとしている。時代がそういう流れなんだと思う。最近は、若い世代からロールモデル的MCが数多く台頭していて、さらに下の世代のMCたちに、自分たちでもやれるんだってことを示している。これまでのルールや土台を破壊したって構わない」
「俺はオールドスクールが好きだし、オールドスクールは基本だ。でも、その基本だけじゃ困る。なぜなら、先輩たちはいずれ引退するからさ」
新世代が台頭しなければシーンは死んでしまう。今のドラムンベースシーンはフレッシュだし、俺たちはこれまでとは完全に違うルールに沿って活動しているんだ」
ルール破りの常習犯的存在、Strategyは「ルールなんてファックだぜ!」と言って笑う。
既に存在するルールに沿っていたら、フライヤーの最下部に名前が載って終わりさ。最上部に載っているDJが3,000ポンドをもらっている間に、100ポンドをもらうだけ。これまでのやり方をなぞる必要なんてないね」

MCカルチャーが抱える問題

ドラムンベースのMCカルチャーはこれまで以上にエキサイティングでヘルシーになっている。シリアスで才能に恵まれたMCたちのスタイルの多様性が増しており、彼らのプロ意識も高くなっている。
しかし、このアートフォームがさらなる進化を続けるためには、ひとつの大きな変化が起きる必要があると多くのMCたちが信じている。
DRSが説明する。
クラブでヴォーカルやMCの役割が感謝されるようになっているのに、ふざけたギャラで扱われているのは悲しいよな。俺はこの現状に我慢できないし、DJやエージェント、プロモーターに疑問を感じるようになったのはこれが理由だ」
「俺は有名なDJのワールドツアーに半年間帯同した。DJと同じホテルに泊まったし、食事も一緒だった。ツアー中は全て同じ扱いだったんだ。だが、家に帰ると、手元には一銭も残っていなかった。一切儲からなかったんだ」
「この現状は家族や人間関係を破壊する。家も失う。俺はまだカウンシルフラット公営集合住宅に住んでいるんだぜ
「俺には、自分をリスペクトしてくれているDJがいる。俺を支えてくれるDJがいる。だから、この生活を長く続けることはないと思う。だが、俺みたいな立場にいない他のMCは、現状に疑問を持ち始めるべきだ」
アルバム2枚、シングル140枚以上をリリースしてきたDRSがMCカルチャーに及ぼす影響力は非常に大きい。しかも、彼は自身のレーベルEstate Recordingsを通じて、ドラムンベースを超えた領域で仕事をこなしながら、才能溢れるアーティストたちを支えてきた。
そのような百戦錬磨の彼がこの問題を提起するということは、これがシーンにはびこる風土病であることを示している。
「ファーストアルバムをリリースしたあと、俺のギャラは50ポンド上がった。その時に、当時のエージェントからこれが限界だと言われたんだ。俺がこの先何をしようと、これ以上のギャラをもらえることはないだろうってな。エージェントから聞きたいセリフじゃないよな」
DRSはアーティスト間の繋がりを深めて、全員がよりフェアなギャラをもらえるようにする必要があると信じている
彼は、他のMCよりも安いギャラで働くことに問題を感じていないMCがいる限り、MCは自分たちのアートで生計を立てられず、昼間の仕事に追われてそのアートを高める時間を得られないだろうとしている。
LinguisticsはDRSの意見に同意し、次のようにまとめている。
「別にMCの組合を作れって言いたいわけじゃない。でも、この問題に関しては全員で取り組む必要がある。口車に乗せられて安いギャラで働かされるのは簡単だし、ギグの数を増やしたいという理由で安いギャラで引き受けているDJは、MCカルチャーにとって逆効果だ」
「俺は、スケジュール的な問題で出演できないイベントがある時は、他のMCに仕事を回しているけど、必ず自分が受け取る予定だった金額をそいつに伝えている。自分の現状を包み隠さず教えているんだ。だが、これをしていないMCが何人かいる」
安売りして他のMCを出し抜こうなんて考えるべきじゃないみんなで一緒に動くべきだ。そうやってアートフォームを高めていくのさ。これが俺たちの未来には必要なことなんだ」