エクストリーム・カープ女子
© Maruo Kono
野球

エクストリーム・カープ女子、古田ちさこの人生

たかが野球。試合に勝っても自分に得があるわけじゃない。けれど彼女は人生を掛けて広島カープを応援する。流行の「カープ女子」なんていう言葉じゃ片付けられない、古田ちさこの生き様に迫る。
Written by 内野宗治
読み終わるまで:9分公開日:
エクストリーム・カープ女子

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2016年10月13日、広島。
マツダスタジアムにて、プロ野球セ・リーグのクライマックスシリーズ第2戦が行われたこの日。
日本シリーズ進出を目指すカープの戦いを最後まで見届けるべく、東京から球場を訪れていたひとりの「カープ女子」がいた。
古田ちさこさん、30歳。
都内でジュエリーショップ店員として働く彼女は、超がつくほどの熱狂的なカープファンだ。
千葉県在住ながら、今年は42試合のカープ戦を現地で観戦。
神宮球場や東京ドーム、横浜スタジアムなど首都圏の球場を中心に、時間が許す限り足を運ぶ。
仕事の合間を縫って今年は6度、広島も訪れた。
クライマックスシリーズやオールスター戦を含めると、年間のプロ野球観戦は50試合を超える。
まさに「エクストリーム・カープ女子」と呼ぶに相応しい、自他共に認める筋金入りのカープ狂である。
「カープ女子」という言葉がメディアを賑わせはじめたのは、カープが球団初のクライマックスシリーズ進出を果たした2013年の秋頃。
しかし古田さんは、その遥か前からカープファンとして、カープの応援に人生を捧げてきた。
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新潟で生まれ、千葉で育った古田さん。
両親は共にカープファンで、初デートは神宮球場のカープ戦だったとか。
「カープがなければ、私は生まれていませんでした(笑)」
物心がつく前から両親に連れられ、ベビーカーで神宮球場に通っていたという。
文字通り「生まれがらの」カープファンだ。
1985年生まれの古田さんが育ってきた時代は、長きに渡るカープの低迷期とほぼ重なる。
1991年に優勝したのを最後に、今年まで優勝から遠ざかっていたカープ。
1997年から2012年は、16年連続Bクラスに沈んだ。
そんなカープを古田さんは、広島ではなく関東で、アウェイのスタンドで応援し続けてきた。
「負け試合の多い人生だった」と、自虐交じりに語る。
当時は周りにカープファンも少なく、神宮球場で「ソロ観戦」することもザラだったという古田さん。
敵地で何度も負け試合を見ているうちに、逆境にもめげない打たれ強さを身につけた。
ホームゲームではないからこそ、カープが勝ったときには「応援した甲斐があった」と強く思える。
弱いからこそ、いつか輝くときを信じて、辛抱強く支え続けた。
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苦難続きだったカープファンライフに変化が訪れはじめたのは、2013年。
この年、カープは16年ぶりのAクラス入り、球団初のクライマックスシリーズ進出を果たした。
古田さんは敵地、甲子園球場で行われたクライマックスシリーズを、日帰りで観戦。
カープファンで真っ赤に染まったレフトスタンドで応援し、カープは阪神タイガースに2連勝でファイナルステージに進出。
「応援が選手の力になる」と、肌で感じた瞬間だった。
ちょうどこの頃から「カープ女子」という言葉が、メディアに多く取り上げられるようになった。
カープが弱かった時代から応援を続け、ブログやツイッターでカープの魅力を発信し続けてきた古田さん。
いつしか「今をときめくカープ女子」として、メディアの取材や出演のオファーを受けるようになった。
2014年に「カープ女子」が流行語大賞を受賞した際には、他のカープ女子仲間と共に授賞式にも登壇。
観戦に訪れた球場で、他のファンから声をかけられる、記念撮影を求められることなども増えた。
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もっとも、思わぬ注目を集めたことで、誤解されることも増えた。
ジュエリーショップで働く傍ら、モデルとしても仕事をしている古田さん。
インターネット上で「売れないモデルがカープを使って売名している」などと、心ない誹謗中傷も書き込まれた。
マスメディアの「今どき流行りのカープ女子」という、わかりやすい絵を作りたがる報道姿勢に違和感を覚えることもあった。
取材を受けても、自分が本当に伝えたいことがうまく伝わらず、もどかしい気持ちになることもあった。
それでも古田さんは、いや、だからこそ、カープファンとして自ら発信することをやめなかった。
カープ女子として自分がメディアに出るようになったのも、ブログやツイッターでカープ愛を綴り続けてきたからこそ。
表舞台に出ることで批判もされたが、応援してくれる人、サポートしてくれる人も確かに増えた。
神宮でひとり観戦していた時代に比べ、周りにカープ仲間が格段に増えた。
周りの目を恐れず、自分が好きなものを堂々と「好き!」と宣言することには、勇気がいる。
でも、勇気を出して声をあげれば、伝わる人にはちゃんと伝わり、仲間は確実に増えていく。
古田さんは大好きなカープを通じて、自分の世界を確かに広げていった。
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カープが2年連続のクライマックスシリーズ進出を果たした2014年の年末。
全国のカープファン、野球ファンにとって、嬉しいニュースが舞い込んだ。
メジャーリーグで活躍していたカープの元エース、黒田博樹が、8年ぶりにカープに復帰。
いよいよ優勝への気運が高まる中、古田さんは自分の決断が間違っていなかったと確信した。
カープのために、会社をやめたのだ。
正確には、それまで派遣社員としてフルタイムで働いていたジュエリーショップで、自らアルバイトとして働くことにした。
勤務日数を減らし、カープの応援に本気でエネルギーを注ぐためだ。
「仕事優先で観戦できずに来年カープが優勝しなかったら一生後悔するし、優勝しても一生後悔すると思いました」
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10年間続けていた大好きなジュエリー販売の仕事を、カープと同じくらい愛していた古田さん。
ジュエリーは購買後もメンテナンスが必要なもの故、一度買ってくれたお客様の人生に、その後何度も関われることが喜びだという。
「本来の美しさがかげってしまっているジュエリーが息を吹き返す瞬間は、扱うものとしてたまらなく快感」なのだとか。
「長きに渡ってサポートし続ける」という点は、カープファンとしての姿勢に通ずるところがあるような気もする。
もっとも、ジュエリーショップでの仕事は、ヒールを履きながらの立ち仕事。
ただでさえ忙しい上、仕事帰りに球場でスクワット応援をするには、あまりに体力の消耗が激しい。
仕事が忙しい時期は自然と、球場から足が遠のいてしまったという。
職場の上司には「野球を第一優先にしたい」という素直な気持ちを伝え、退職を申し出た古田さん。
幸いにも「いて欲しいから、何とかする」と、出勤数を調整してアルバイトとして働くことを提案された。
こうして社会保険や厚生年金、ベテラン販売員としてのプライドも捨て、アルバイトとして働くことに。
30歳手前にして、黒田にも負けぬ"男気"で自らを追い込んだ。
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こうして古田さんは、月10日ほどジュエリーショップで働きながら、カープの応援に駆け巡る生活をはじめた。
カープ中心の生活とはいえ、決して仕事を疎かにはしなかった。
前例のない働き方をしている以上、今まで以上に結果を出さなければならない。
好きなことに全力投球できているからこそ、仕事中はカープのことを考えず、より集中して働けるようになった。
また、大好きなカープを思い切り応援するための環境も、自分で作っていった。
都内の職場から千葉の自宅までは、電車で1時間ほどかかる。
夜、仕事が終わってから帰宅し、家でカープ戦を見るのは難しい。
広島であれば街中にカープ戦を映している店がいくらでもあるが、都内ではそうはいかない。
外で気軽にテレビ観戦できる場所が欲しかった。
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そこで古田さんが向かったのは、職場近くにある行きつけのバー。
仕事帰りに手書きの企画書を持ち込み、馴染みのマスターに「店内でカープ戦が見れるようにできないか」と直談判した。
野球に興味がなかったマスターだが、古田さんの熱意に押され「わかった」と即答。
お洒落なバーの店内にケーブルテレビの回線が導入され「隠れカープ観戦バー」となった。
好きなものを楽しむ場所は、誰かに与えられなくても、自分で作ることができるのだ。
もっとも、古田さんの熱意虚しく、2015年のカープは3年ぶりのBクラスという不甲斐ない結果に終わった。
開幕前から「今年は優勝!」と期待されていただけに、ファンの落胆は大きかった。
オフにはエースの前田健太が退団し、メジャーリーグに移籍。
最高潮だったカープファンの盛り上がりは一瞬、冷めかけたかにも思えた。
それでも古田さんは「カープを本気で応援する」ことを諦めなかった。
2016年も引き続き、カープ中心の生活を続けることを決意。
そして今年、ついに悲願の優勝を迎えた。
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古田さんのカープファンとしての生き様を通じて、見えてくるもの。
それは「誰になんと言われようと、自分が好きなことを徹底して追求する」ひとりの女性の姿だ。
好きなことを真剣に追いかけ続けることは、簡単なようで難しい。
子供の頃は純粋に好きでやっていたことも、大人になると色々な理由をつけて諦めてしまう。
周りに理解されず、苦労を伴うこともある。
好きなものを好きでい続けるためには、多大なエネルギーを要する。
それでも、好きなことをどこまでも突き詰めていく人生は、豊かで幸せなのだと思う。
もちろん「好きなことを追求する」ことと、「好き勝手に生きる」ことは違う。
好きなことをし続けるためには、それができる環境を、自分自身が作り続けていかなくてはならない。
古田さんは、ちゃんと仕事でも結果を出し、周囲の人たちのサポートも得ながら、そうした環境を作り続けてきた。
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古田さんから以前、こんな言葉を聞いたことがある。
「カープが私を、色んなところに連れて行ってくれる」
好きなことを真剣に突き詰めている人は、周りの人の心も動かす。
自分が心から楽しんでいるからこそ、周りを楽しませることもできる。
そうしてどんどん、世界が広がっていくのだろう。
好きなことを真剣に追求する人生は、素晴らしい。
古田さんの真っ直ぐな生き様を見ていると、そう思わされる。
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Profile
古田ちさこ
1985年12月20日生まれ。千葉県在住のカープファン。広島カープが好きすぎて昨年、会社を退職。都内のジュエリーショップでアルバイトをしながら、応援のため日本全国を駆け回る。一家全員カープファンだが、なぜか弟は「アウェイチームのファン」でもある。サウスポーが好き。
Twitter( @chisakofuruta)でつぶやくほか、 ブログも随時更新。