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『Firewatch』:大自然とミステリー

2016年最大の話題作のひとつ『Firewatch』の開発者に話を聞いた。
Written by Pete Dreyer公開日:
『Firewatch』の森
『Firewatch』の森
「やるべきことさえ把握できていれば、『Firewatch』は1年半集中すれば作れるゲームなんです」
PS4とPCでリリースされる予定のミステリーアドベンチャーゲーム『Firewatch』の開発を手がけるデベロッパー、Campo Santoの共同設立者のSean Vanamanはこう説明する。この言葉は今年最大の注目作のひとつと世間が期待している作品に対する説明としてはあまりにも控えめだと感じるかも知れないが、Vanamanは決して『Firewatch』を低く評価している訳ではない。2年半前にはCampo Santoも『Firewatch』のアイディアもこの世に存在さえしていなかったのだ。では余りの時間は何をしていたのだろうか? 「仲間との人間関係を勉強していました」Vanamanは笑う。
『Firewatch』は昨年までそこまで注目されていなかったが、ここ数ヶ月は大きな注目を集めていた。しかし、このゲームに以前から注目していた人の中でも、このゲームが一体どんなゲームなのかについて分からないという意見は多かった。それは仕方のないことだ。
「Steve Gaynor(ゲームデザイナー。元Irrational Games・現The Fulbright Company創設者)が半分酔っ払って『Firewatch』を “システムを組み込んだアドベンチャーゲーム” と表現していたんですが、今でもその表現を気に入っていますね」『Firewatch』がどんなカテゴリに入るのかという質問に対してVanamanはこう回答する。「ですが、確かに『Firewatch』は特定のジャンルに入りません。世間はこのゲームついて色々な想像をしています。このゲームは2人の主人公に重きを置いたストーリーなので、映画ならヒューマンドラマに相当するのではないかと言われることもありますが、個人的には映画ならサスペンスに相当すると思っています。ですが、同時に世間の予想以上に笑える部分もありますし、僕としては何とも表現しにくいゲームなんです!」
具体的に言えば、『Firewatch』は、森林火災の警備員を務めるDelilahとHenryという2人のキャラクターの人間関係に主眼を置いたファーストパーソン・アドベンチャーだ。しかし、この説明だけではこのユニークな『Firewatch』を説明し切れていない。芸術性や実験性が高いゲームが増えてきている今、自分たちのゲームを特定のジャンルを指定しないことは特に問題にはならず、『Firewatch』のどこにも当てはまらないという特徴は、何かが欠如しているからでもない。むしろ、これはこれまでとは異なる様々なアイディアやシステムが盛り込まれた美しいメルティング・ポットとも言えるゲームだ。アイスクリームに喩えるならば、シンプルなバニラではなく3色アイスに近い。
さて、Sean Vanamanという名前を知らないという人もいるかも知れないが、彼が手がけた作品は恐らく知っているだろう。Campo Santoを立ち上げる前、VanamanはTelltale Gamesで『ウォーキング・デッド』のリードライターとして働いていた。つまり、2000年以降のゲーム業界における最高のストーリーのひとつを生み出したのは彼なのだ。これだけでスクリーンショットを見る前から『Firewatch』に期待してしまう人もいるはずだ。
「Telltaleはクリエイティブになれるチャンスを与えてくれたという点では非常に懐が深かったですね。ですが、『ウォーキング・デッド』を終えた後、自分の環境が快適すぎると感じてしまったんです。『ウォーキング・デッド』の開発をスタートさせる前は、色々と心配な面がありました。全員がハードワークをしたにも関わらず、失敗する可能性、駄作を作ってしまう可能性がありましたからね。ですが、その恐怖心が逆にモチベーションになっていたんです。そして、『ウォーキング・デッド』を終えた僕にそのモチベーションをもたらすその恐怖心を与えてくれる唯一の方法に思えたのが、Telltaleを去って、Jake(Rodkin。TelltaleにおけるVanamanと共同で脚本を務めた)と新しいスタートを切ることだったんです」
そして、2013年9月にVanamanとRodkinはTelltaleを去り、サンフランシスコにCampo Santoを立ち上げた。しかし、Campo Santoは彼ら2人だけではなかった。むしろ、Campo Santoに集まっている才能は突出している。彼らが自主的に集まったことを考えれば、驚きに近いラインアップだ。Campo Santoには、VanamanとRodkinの他にも、『Mark of the Ninja』のリードデザイナーNels Anderson、そして数々の名作ゲームや映画にビジュアルデザイナーとして関わってきたOlly Mossが参加している。
Campo SantoがスタートしたプロセスについてVanamanは次のように説明する。「非常に自然かつ有機的な形で生まれましたね。Jakeと僕はスタジオを立ち上げて、自分たちのゲームを作りたいと考えていました。そこで、Nelsがサンフランシスコに来ていたタイミングで彼にその旨を話すと、彼も同じことをしたいと言ってくれたんです。そして、Ollyもすぐに賛同してくれました。Ollyに関してはお互いに尊敬する仲だったんです。たしか、Jakeがチャットで頼んだんだと思いますよ。引っ張りだこの優秀なデザイナーの予定を2年間も押さえるのに、なんとも適当な頼み方ですよね(笑)」
見張り台
見張り台
「『Firewatch』はTelltaleで費やした時間とあそこで学んだすべてがそのまま反映されているゲームです。外側からは非常に野心的なゲームに思えるかも知れませんが、内側から見れば − 最低でも僕の頭の中では − 非常に保守的なゲームですよ。Telltaleで優秀なゲームを生み出すために何が必要なのかについて色々と学んできたので、『Firewatch』でも自分が得意としてきた、ストーリー、セリフ、キャラクターに重点を置きました」
Campo Santoはそのストーリーのディテールに関しては口を閉ざしているが、基本的なストーリーは次の通りだ。『Firewatch』は、1988年にイエローストーン国立公園で発生して数ヶ月間燃え続け、この公園を崩壊直前の状態まで追い詰めた山火事(訳注:実際に発生した)が消火されたあとの、1989年のワイオミング州の森(訳注:イエローストーン国立公園はワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州にまたがっている)が舞台となっている。VanamanとAndersonは共にワイオミング州で生まれ育ったため、彼らにとってはこの設定はパーフェクトだった。「自分のわがままが貫けるのはこれが最初で最後のチャンスかもと思ったんです。僕の両親は、あの山火事のあと公園について色々と心配していたんですが、彼らと同じ気持ちのキャラクターを作りたいと思いました。社会的に話題になった非常に興味深い時代でしたので、ストーリーにするには良いだろうと思えました」
『Firewatch』のメインキャラクターの2人は森林火災の警備員だが、山火事の消火のストーリーが展開されると思ったら、それは大間違いだ。そうではなく、このストーリーはワイオミング州の森林で連続して起きる奇妙な出来事を中心に展開されるのだが、このゲームがスペシャルである理由は、そのストーリーの複雑さとHenryとDelilahの人間関係にある。Henryはプレイヤーが操作するキャラクターで、Delilahは無線で連絡を取り合うHenryの同僚だ。Delilahは『バイオショック』のアトラスに近い存在と言えるが、プレイヤーは自分の好きなタイミングであらゆることについて彼女と会話ができるという点が違う。たとえば、森の中で何かを見つけた時は、それを彼女に連絡するかどうかの判断はプレイヤーに委ねられる。また、彼女に個人的な質問をして、彼女の過去を知ることができる一方で、彼女を完全に無視してゲームを進めることもできる。これがこのゲームの奥深さだ。あらとあらゆるプレイヤーの選択やインタラクションがストーリーの展開、そしてHenryとDelilahの人間関係に大きく関わってくる。
「セリフのレコーディングには少なくとも40時間を費やしました。面白い話なんですが、この作品で初めてビジュアルツリー(訳注:ストーリーを視覚的に示すチャート図)なしで、脚本を書いたんです。もちろん、シナリオを視覚化する他のツールは用意していましたよ。ですが、セリフのツリーは後半に行くに従って巨大になっていきましたね。なぜなら、このゲームはプレイヤーの過去の選択や行動に基づいて、常に最も可能性が高い選択肢を表示するシステムになっているからです」
ワイオミング州が舞台の『Firewatch』
ワイオミング州が舞台の『Firewatch』
ゲームがファーストパーソンであること、そしてDelilahは無線でしか登場しないことから、両メインキャラクターはこのゲーム内で姿を現さない。よって、『Firewatch』を自分たちが目指すゲームにするという点において、声優の演技の重要性は非常に大きかった。先ほど、Vanamanが『Firewatch』を映画に喩えたのは決して偶然ではない。ビデオゲームがより複雑な社会性とダイナミックな表現に挑むようになってきている現代において、声優の演技は映画のそれと同じ重さを持つようになっている。Vanamanと彼のチームはこのストーリーとビジュアルに最適な演技ができる俳優を徹底的に探し、その結果、Rich Sommer(米国TVドラマ『マッドメン』のハリー・クレイン役)とCissy Jones(ゲーム版『ウォーキング・デッド』のカーチャ役)をそれぞれHenry役とDelilah役に抜擢した。
「Cissyについては、僕が脚本を手がける前から決まっていました。彼女にピッタリだと分かっていましたから、すぐに彼女に決めました。ですが、Richの場合は違いました。彼に決まるまで15人位オーディションしましたね。僕の頭の中では、Henryはすごく細かい部分まで決まっていたんですが、Richは僕のイメージとは完全に違うHenry像を見せてくれました。僕の頭の中のHenryを完全に変えてしまったので、凄く不思議な気分になりましたが、それ故に彼を選びました。たとえ自分のイメージと違っても、そこに対してオープンに構え、最適な俳優を見つける必要があるということを学べたのは素晴らしい経験でしたね」
では、最高の演技と非常に美しいビジュアルを備えた『Firewatch』は、2年前に自分が思い描いていたゲームなのだろうか? Vanamanは難しい質問だと前置きした上で次のように回答する。「Campo Santo全員、そして特に僕はイメージを元に開発していくタイプです。ですが、ここまでパーフェクトなイメージは持っていませんでしたし、実際、誰かのイメージに合わせるだけの開発は非常に退屈なものになったはずです。僕は『このエリアはこんなイメージ』、『ここはこんな感覚』、『ここではこれが起きる可能性がある』、『ここは以前こんな感じだった』など、抽象的な指示を出して、とにかく全員に自由にやってもらいました。結果として『Firewatch』は僕たちが最初に描いていたイメージを遙かに上回りましたが、それこそ僕たちが狙っていたことなんです」
無線を手に持つHenry
無線を手に持つHenry
『Firewatch』は2月9日にリリースされたが、現段階ではPS4とPCのみで、Xbox Oneでのリリースは予定されていない。Sonyはインディーゲームとの連携については評価が低かった過去があり、その評価は彼らが開発を始めたほんの2年前でも同じだったが、Vanamanは、ネガティブ体験はなかったとしている。「最初に言っておきますけど、陳腐な言葉を並べて、彼らとのプロフェッショナルな関係を良好に保とうとする人は僕以外にもいますからね(笑)! とにかく、Sonyは本当に良くしてくれています。ゲームが良い内容になるようにケアしてくれていますし、できる限りのヘルプをしてくれようとしているように感じています」そして、そのヘルプは開発面だけではない。『Firewatch』はE3 2015のPlayStationのプレゼンテーション、そして昨年末のPlayStation Experienceにもフィーチャーされた。「Sonyは最初の段階で、自分たちができることとできないことをはっきりと示してくれました。そしてそこにウソはありませんでした。プロフェッショナルな関係が上手く築けていますね」
しかし、『Firewatch』が他のプラットフォームでもリリースされて欲しいと願っている人たちにも希望は残されている。Campo Santoは現時点では何の予定も立てていないものの、開発チームは将来的には『Firewatch』をプレイしたいと望んでいるすべての人たちの手に届くようにしたいと考えている。Vanamanが説明する。「リリースがどうなるかを見守りたいと思います。そのあとで、他のプラットフォームでのリクエストが多いと判断できれば、その可能性を探っていく予定です」
また、Vanamanは近い将来の予定については、特に新しいゲームの予定はないとしている。「他のゲームを開発したいという気持ちは常にありますよ。ですが、タイミングを見計らって始めたいと思います。ただし、『Firewatch』の続編にはなりません。このストーリーはもうこれで終わりです。次がどんなゲームになるのか自分でも楽しみですよ」