イスタンブール・パークを攻略するデビット・クルサード
© GEPA Pictures/Mathias Kniepeiss
F1

ティルケ・デザインの5大傑作サーキット

常に賛否両論がつきまとうヘルマン・ティルケのサーキットデザイン。そんな彼が過去に設計した傑作サーキットを紹介する。
Written by Greg Stuart
読み終わるまで:7分公開日:
The Red Bull Ring in all its glory
The Red Bull Ring in all its glory
現在のF1開催サーキットにおける大多数のデザインおよび改修/再設計は、 ヘルマン・ティルケ率いる建築設計事務所が担当している。
1997年以来、ティルケが新規に設計してきたF1サーキットは韓国、中国、バーレーンをはじめとする計10カ所。そのうち6カ所のサーキットでは、2015年現在でもF1開催が続けられている。
また、ティルケはハンガロリンクやスパ、モンツァ、そして今年久々にF1カレンダーへ復帰するメキシコのエルマノス・ロドリゲスといったオールド・サーキットの改修と再設計も手掛けている。
その手腕は一定の賞賛を得てしかるべきものではあるが、同時に彼に対する批判の声も根強い。たとえば、深い森の中のセクションを駆け抜ける長大なストレートというホッケンハイム旧コースの魅力をあっさりと切り落とし、味気ないショート・トラックに改修した際にはティルケに対する非難が相次いだ。
下の衛星写真からは、ホッケンハイム旧コースの長大なストレートの面影がかすかに確認できる。
また、彼が新規に設計するサーキットに対しても批判の声は多い。彼のサーキットデザインでは長いストレートの後に低速ヘアピンを配置するレイアウトが常套的に多用されるが、それらはまるで金太郎飴のようだとも揶揄される。サーキットの安全性向上の先駆者的存在のジャッキー・スチュワート卿でさえ、「最近のサーキットはあまりにも安全すぎるようじゃな」と苦言を呈したほどだ。このように、ティルケがデザインしたサーキットの中には退屈なものが存在することは否定できない。しかし、彼が正しく判断を下した時には素晴らしい傑作サーキットが生まれるのも確かだ。
まずは、以下の映像でソチ・オートドロームの見事な高速コーナー(ターン3)をチェックしてもらいたい。
ドリフト · 2分
Nikita Shikov performs first ever drift of Sochi
回は、ヘルマン・ティルケがこれまでデザインした5大傑作サーキットを紹介する。

レッドブル・リンク:シュピールベルク(オーストリア)ベストコーナー:リント

レッドブル・リンクを攻めるダニエル・リカルド
レッドブル・リンクを攻めるダニエル・リカルド
手前味噌と呼ばれるのは承知の上だが、やはり レッドブル・リンクは素晴らしいトラックだ。オールドファンにとっては、ここがかつてエステルライヒリンクという名で呼ばれていた時代の様々な記憶が蘇るはずだ。オーストリアGPは1997年に一度F1カレンダーに復帰しているが、その2年前の1995年にこのサーキットの改修を行ったのがティルケだった(当時、このサーキットはA1-リンクという名で呼ばれていた)。しかし断っておくが、ここがかつてエステルライヒリンクと呼ばれていた時代、このサーキットは世界でも最も危険なレーストラックとして知られていた。嘘だと思うなら、1985年にアンドレア・デ・チェザリス(Ligier)が演じた壮絶なクラッシュを下の映像でチェックしてもらいたい。
シュピールベルクの美しい丘陵地帯に造られたこのサーキットは、レッドブル・リンクと名を変えた現在でも起伏に富んだ地形という特徴を残しており、長いストレートの後に待ち受けるタイトなレムス・コーナーは素晴らしいオーバーテイクが行える機会を数多く提供し、ブラインドの右カーブであるリント・コーナーはその名に相応しい存在感を放ちつづけている(オーストリア人であるヨッヘン・リントは死後にチャンピオンを戴冠したF1の歴史上唯一のドライバーとして広く知られる)。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズ:オースティン(米国)ベストコーナー:ターン1

ドライバーたちから支持されるサーキット・オブ・ジ・アメリカズ
ドライバーたちから支持されるサーキット・オブ・ジ・アメリカズ
テキサス州オースティンの サーキット・オブ・ジ・アメリカズは、過去にティルケがデザインを手掛けた中でも、F1ドライバーやMotoGPライダーの間で非常に評判の良いサーキットだ。ダニエル・リカルドもこのサーキットとオースティンの大ファンであることを公言している。リカルドが昨2014年アメリカGPのレースで表彰台に上がった際には、こう語っていた。「(FOMが)このサーキットをアメリカGPの開催地に選んだのは、大正解だったね」
マシンのハンドリング能力を極限まで試す、度胸試しのコーナー群が連続するこのサーキットは、2012年建造とまだ歴史こそ浅いながらも、既にティルケの最高傑作との呼び声も高い。
ターン5から8まで連続するS字複合カーブが、難所として知られる鈴鹿のセクター1を彷彿とさせる中、せり上がるような上り坂の頂点に位置するターン1はF1とMotoGPの両方で、息をのむようなオーバテイク・シーンを数多く提供している。

マリーナ・ベイ・ストリート・サーキット:シンガポールベストコーナー:ターン6

シンガポールGPは一見の価値あり
シンガポールGPは一見の価値あり
マリーナ・ベイ・サーキットを舞台に開催されるシンガポールGPは、いまやF1カレンダーにおけるハイライトのひとつとなっている。1600個を越える照明の下で開催されるナイトレースという特長も、このGPにファンが魅了される大きな一因だろう。
サーキットレイアウトは小気味良いほどにタイトにまとめ上げられているが、全長5kmの大半でバリアすれすれの精密なドライビングが要求されるという、タフな一面も併せ持っている。それはまるでドライバーたちにカート時代のドライビングを思い出させようとしているかのようだ。とりわけ、ターン5から7にかけてラッフルズ通りを疾走するF1マシンの姿は圧巻だ。

ブッダ・インターナショナル・サーキット:デリー(インド)ベストコーナー:ターン10

インドのストレートは1060mにも及ぶ
インドのストレートは1060mにも及ぶ
残念ながら2013年以降のF1カレンダーからは外れてしまったが、デリー近郊に位置するこのブッダ・インターナショナル・サーキットは最大8%の上りと10%の下りを有するダイナミックなジェットコースター型サーキットだ。中でも見所はターン11と12に繋がるターン10で、ほとんど無限に続いているかのように思えるほどの長い右カーブの外側には、インド国旗の色に塗り分けられた特殊舗装のランオフ・エリアが設けられている。このコーナーはフォトグラファーに絶大な人気を誇る一方、ドライバーたちには本気のチャレンジを要求する。このサーキットで過去3回行われたインドGPは、すべてセバスチャン・ベッテルが優勝している。

イスタンブール・パーク・サーキット:イスタンブール(トルコ)ベストコーナー:ターン8

イスタンブール・パークを攻略するデビット・クルサード
イスタンブール・パークを攻略するデビット・クルサード
かつてのトルコGP開催地として知られるこのサーキットについて語る際、必ず話題に上るひとつのコーナーがある。これまでティルケがデザインした数あるサーキットの中で、鈴鹿の130Rやスパ・フランコルシャンのプーオン、シルバーストンのマゴッツ~ベケッツ・セクションといった世界に名だたる難コーナーと唯一肩を並べることができるのが、このイスタンブール・パーク・サーキットのターン8であることに異論はないだろう。
ターン8は3つのエイペックスで構成される左回りの高速コーナーで、ここではマシンの空力ポテンシャルが極限まで試され、ドライバーにありったけの度胸を要求する。F1マシンは平均時速270km/hでこのコーナーを約8秒間疾走したあと、続くショートストレートに向けて勢いよく飛び出していく。
かつてバーニー・エクレストンはこのイスタンブール・パークを「世界最高のサーキット」と評した。2011年にトルコGPがF1カレンダーから脱落してからしばらく経つが、このサーキットをF1マシンが疾走する姿が見られないのは寂しい限りだ。