マイク・メッツガー、ラリー・リンコグル、ブライアン・マンレイといったかつてのレジェンドライダーたちが “ノーハンダー” や “キャンキャン” などのトリックを考案して以来、FMX(フリースタイルモトクロス)の進化はとどまるところを知らない。旧来のトリックが今も引き継がれる一方で、完全に新しいトリックも続々と発明されている。
初心者には把握しにくいFMXトリックを理解するために、今回はオールドスクールな定番トリックから昨今のイベントを席巻する最新トリックまで、知っておくべきFMXトリックの基礎知識をまとめてみた。
《ウィップ / Whip》
ウィップはFMX史上最古のトリックで、ライダーが空中でバイクを横方向に倒した状態を指す。バイクをできる限り後方に振ったり、逆にしたり、ひねりを加えたりすることでバリエーションが生まれる。
ウィップをメイクする方法は数多く存在し、各ライダーは時間をかけてそれぞれ独自のスタイルを磨いていく。ターンアップやターンダウン、スーパークロス・ウィップなど、ビッグでダーティなウィップほど観客を沸かせるものはない。
アップライト(直立)系トリック
《ヒールクリッカー / Heelclicker》
FMX初心者が学ぶのに最適なトリックとして知られるヒールクリッカーは、ライダーが両脚を持ち上げて両腕の外側から包み込み、胸の前でかかとを合わせる(クリックする)状態を指す。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ナックナック / Nac-Nac》
“キング・オブ・スーパークロス” とも称されるジェレミー・マクグラスのシグネチャートリックとして有名なナックナックは、最高にスタイリッシュなトリックのひとつで、片方の脚をステップから外してバイクの反対側まで弧を描くように振り出し、着地直前に元の位置へ戻してメイクする。
ドレイク・マクエルロイのような新世代ライダーたちがこのトリックをネクストレベルへ押し上げている。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《アップナック / Up-Nac》
ナックナックの “ニュースクール・バージョン” のアップナックは、バイクを縦軸でひねるターンダウン・ウィップをメイクしながら下側の脚をバイクの上側まで引き上げてナックナックの姿勢に持ち込むトリックだ。
アップナックのパーフェクトなお手本が見たいなら、リーバイ・シャーウッドのライディングをチェックしてみよう。
《ナイン・オクロック・ナック / Nine O’Clock Nac》
ナックナックから派生したバリエーション。ナックナックのメイク中にもう片方の足もペグから外し、両脚を揃えてバイクに対して9時の方向へ振る。
《エアプレーン / Airplane》
基本はナイン・オクロック・ナックと同じだが、さらに片手をハンドルバーから外した状態をエアプレーンと呼ぶ。
《スーパーマン / Superman》
スーパーマンも古くから存在するオールドスクールトリックだ。ジャンプ中に両脚を後方に伸ばし、バイクの上で水平飛行しているような姿勢になる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《スーパーマン・シートグラブ / Superman Seat Grab》
スーパーマン・シートグラブはスーパーマンに似ているが、スーパーマンのメイク中に片手でシートを掴む(グラブする)。ここからさらに空中で脚を交差させればスーパーマン・シートグラブ・インディアン・エアとなり、スコアが加算される。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ダブル・スーパーマン・シートグラブ / Double Superman Seat Grab》
ダブル・スーパーマン・シートグラブとスーパーマン・シートグラブはほぼ同じだが、ライダーが両手でシートを掴む点が異なる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ハートアタック / Hart Attack》
考案者のケアリー・ハート(シンガーPinkの夫としても知られる)の名前が付けられているハートアタックは、スーパーマン・シートグラブの発展形で、ジャンプ中に身体を水平にするかわりに、ほとんど倒立に近い垂直姿勢を取る。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ダブル・ハートアタック / Double Hart Attack》
ハートアタックをメイクしながら、両手でシートを掴めばダブル・ハートアタックになる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ワンハンデッド・ハートアタック / One-Handed Hart Attack》
“ワンハンデッド(片手)” という名がついている通り、ハートアタックをメイクしながらハンドルバーから片手を離し、さらに身体を伸ばせばワンハンデッド・ハートアタックになる。
《オックスキューショナー / Oxecutioner》
ジェフ・“オックス”・カーゴラが考案したオックスキューショナーは、ワンハンデッド・ハートアタックのメイク中にハンドルバーから離した手でブーツを掴むトリックだ。
《キス・オブ・デス / Kiss of Death》
スーパーマンの発展形として知られるキス・オブ・デスでは、ライダーがスーパーマンの姿勢を取りつつ、バイクのリアが地面に向けて下げられる。
ライダーのヘルメットがフロントのマッドガードに接触しそうになる距離まで近づくのが特徴だ。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ツナミ / Tsunami》
ツナミはキス・オブ・デスに似ているが、バイクのリアが下がりつつライダーの両脚が頭上まで高く上がる点が異なる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ルーラー / Ruler》
ルーラーはツナミとほぼ同種のトリックだが、ライダーの身体とバイクがほぼ一直線になる点が異なる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ロックソリッド / Rock Solid》
ロックソリッドは、ダブル・グラブをメイクしたあとバイクから両手を完全に離し、その後グラブホール(シート下にある)を使ってバイクをキャッチして、着地前にシートに着座するトリックだ。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《ホーリーグラブ / Holy Grab》
ロックソリッドよりも難易度が一段高いホーリーグラブは、スーパーマンのポジションを取ったあと、ハンドルバーから両手を離してバイクから完全に浮いた状態になり、最後にグラブホールを使って両手でバイクをキャッチして着座姿勢に戻るトリックだ。
《レイジーボーイ / Lazy-Boy》
レイジーボーイも観客を大いに沸かせるトリックだ。
ライダーはハンドルバーの下へ両脚を運び、シートに向かって身体を仰け反らせて、バイクの上で仰向けに寝ているような姿勢を取る。ハンドルバーから両手を離さないまま寝る姿勢を取るトリックは “コフィン / Coffin” と呼ばれる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《クリフハンガー / Cliff Hanger》
不朽のクラシックトリックに数えられるクリフハンガーは、ライダーのつま先をハンドルバーに引っ掛け、両手をバンザイの状態にしてバイクの上に浮くような姿勢を取るトリックだ。
両手をハンドルバーに戻さないで着地すれば、“ベースジャンパー / Basejumper” になる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《シューボックス / Shoe Box》
ベストライダーたちも驚愕するレアなトリック。
シューボックスはややクリフハンガーに似ているが、ハンドルバーにつま先を引っ掛けるクリフハンガーとは異なり、シューボックスではグラブホールにつま先を入れて両手を離すため、バイクの上に立つような姿勢になる。
《バーホップ / Bar Hop》
高度に進化した現代のFMXトリックの中ではかなりシンプルな部類に入るバーホップは、ライダーがつま先をハンドルバー越しに突き出してからペグに戻すトリックだ。
脚を上げたまま着地すれば、“ステリライザー / Sterilizer” と呼ばれる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《シャオリン / Shaorin》
“カンフー” の異名を持つロニー・ファイストが考案したシャオリンは基本的にはバーホップと変わらないが、両脚を揃えるバーホップに対し、シャオリンではハンドルバー越しにつま先を突き出したあとで両脚を左右に広げる。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《デッドボディ / Dead Body》
クラシックトリックのバーホップの発展形として考案されたデッドボディは、最初の動作はバーホップと同じだが、ハンドルバー越しに両脚を突き出したあと身体を後方へ反らし、バイクの上で仰向けに寝ているような姿勢を取る。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《リガモーティス / Rigamortis》
直訳すると「死後硬直」。デッドボディよりもさらに高難度なリガモーティスでは、ハンドルバー越しにつま先を通したあと脚を上方へ伸ばすトリックだ。ライダーの顔はシートの上あたりから後方を見ることになる。
《サランラップ / Saran Wrap》
クールだが最近はあまり見られないオールドスクールなトリックのサランラップは、片脚をハンドルバー越しに前へ突き出し、さらにハンドルバーから片手を離した瞬間につま先を外側に振り、着地前に脚と手を元のポジションに戻してメイクする。
《マクメッツ / McMetz》
FMX界のゴッドファーザー、マイク・メッツガーが考案したマクメッツは、左右両足同時にサランラップをメイクするトリックだ。つまり、ライダーはバイクとの接点を一切なくし、一瞬宙に浮くことになる。
《ターンテーブル / Turntable》
マクメッツと同じで、ターンテーブルもバーホップの発展系だが、片手でハンドルバーを握ったまま両脚を外側に振る点が異なる。
《コルドバ / Cordova》
コルドバは、ライダーが両脚のつま先をハンドルバーの下に引っ掛け(両手はハンドルバーを握ったまま)、そのまま膝を押し出してエビ反りのような姿勢を取ってメイクする。
(バックフリップ中に上下逆さまでメイクする場合もある)
《スリーシックスティー / 360》
ランプに進入したあと、バイクごと空中で横方向に360°スピンをメイクしたあと、元のポジションで着地するトリック。
ボディバリアル(回転)系トリック
《ボルト / Volt》
最もリスクの高いFMXトリックと言われているボルトは、バイクの側面でライダーが360°スピンをしたあとハンドルバーを掴み直して着座・着地するトリックだ。
このようにライダーだけが回転するトリックはボディーバリアル系と呼ばれる。
《スペシャルフリップ / Special Flip》
最もテクニカルなFMXトリックのひとつ。元々は “スペシャル” の異名を持つグレッグ・パウエルが考案したBMXトリックで、のちにトム・パジェスがFMXに持ち込んだ。
ランプから飛び出してバイク上で身体を横に寝かせながら1回転したあとハンドルバーを掴んで着座・着地する。
《カリフォルニアロール / California Roll》
東野 “TAKA” 貴行が考案したカリフォルニアロールはスペシャルフリップのアレンジバージョンだ。カリフォルニアロールでは、スペシャルフリップよりもバイクを積極的に触りながら独自の回転を加えていく(ライダーごとに異なる)。
カリフォルニア・ロールは、最初に両脚がバイクの片側にあるサイドサドル状態でランプにアプローチする点も異なり、これが空中での素早い回転を可能にしている。
《バンディ / Bundy》
FMX史上最もテクニカルなトリックのひとつに数えられるバンディは、クリントン・ムーアのシグネチャートリックだ。
片手でバイクを掴んだままバイクのフロント上部でバックフリップをメイクし、着地前に素早く手をハンドルバーに戻す。
バックフリップ(後方宙返り)系トリック
《バックフリップ / Backflip》
バックフリップは、FMXを完全に変えるゲームチェンジャーとなった。
バックフリップは、ランプから飛び出すタイミングで身体を仰け反らせ、スロットルを少し開いて空中で後方一回転してメイクする。このトリックが考案されて以来、様々なライダーがそのバリエーションを開発していった。
《ダブル・バックフリップ / Double Backflip》
トラビス・パストラーナが考案したダブル・バックフリップもFMXの進化における大きなマイルストーンとなった。
このハイリスクなトリックは、今ではジョシュ・シーハン、トム・パジェス、リーバイ・シャーウッドなどをはじめとするトップライダーたちが完全にマスターしており、彼らは独自のバリエーションも加えている。
リーバイ・シャーウッドが世界初成功メイクしたノーハンダー・ダブル・バックフリップをチェック!
《トリプル・バックフリップ / Triple Backflip》
これはまだ世界でひとりしかメイクできていないトリックだ。
トラビス・パストラーナの助けを得たオーストラリア人ライダー、ジョシュ・シーハンがトラビスの自宅敷地内にあるコースで世界初のトリプル・バックフリップのメイクに成功した。この日以来、トリプル・バックフリップにトライしたライダーはひとりもいない。
クォーターパイプ系トリック
《フレア / Flair》
フレデリック・ヨハンセンが初めてメイクしたフレアは、斜め軸の540°だ。クォーターパイプから飛び出したライダーは、空中でバイクを1.5回転させたあと、クォーターパイプの真横のスロープに着地する。
《アリウープ・フレア / Alley-Oop Flair》
アリウープ・フレアはトム・パジェスが考案したトリックだ。パジェスはフレアも得意としているが、アリウープ・フレアはクォーターパイプから飛び出したあとノーマルとは逆方向に回転を加えてメイクする。
《エッグロール / Egg Roll》
リーバイ・シャーウッドが考案したエッグロールは、宙返りのクォーターパイプ・トランスファーだ。
ライダーはクォーターパイプを斜めに飛び出したあと、引き戻すような形でバックフリップをメイクして、フレアで使うスロープとは逆方向のスロープに着地する。
《バイクフリップ / Bike Flip》
カイル・ローザが初トライしたバイクフリップは、長い時間を経たあと、トム・パジェスが謎を解き明かしてメイクに成功したトリックだ。
通常のランプではなくクォーターパイプを使用することで、パジェスは自分を静止させながら自分の真横でバイクを1回転させるこのトリックをメイクした。
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