トップカテゴリーまでの道のりは、ドライバーによって様々だ。シナリオがあらかじめ用意されていたかのように、ごく順調にトップカテゴリーへ到達するドライバーもいれば、混沌とした苦難の道のりを経てようやくトップまで上り詰めるドライバーもいる。しかし、フルタイムでのF1参戦を目標にするピエール・ガスリーのようなドライバーにとっては、それがどれほど苦難に満ちた道のりであっても、偉大なドライバーになるために必要なステップに過ぎない。
弱冠21歳でありながら、ガスリーはプロフェッショナルなレーシングドライバーとして既に目を見張るべきキャリアを築いている。2016シーズン、彼はGP2フル参戦2シーズン目にしてチャンピオンを獲得した。2017シーズンはRed Bull Racing / Toro Rossoのテスト&リザーブドライバーとして3年目を迎え、並行してTeam Mugenから全日本スーパーフォーミュラ選手権(以下SF)に参戦している。
2017シーズンのSFはまだ3レースを消化しただけだが、Hondaエンジン勢として常に上位につけるなど、ガスリーのリザルトは上向きだ。8月20日に開催される第4戦ツインリンクもてぎで念願のSF初優勝を期しているガスリーに、ニューヨーク・ブルックリンで開催されるフォーミュラEのダブルヘッダーレースへの参戦オファーがRenault e.damsから届けられた。ガスリーと同じくRed Bull Racingでリザーブを務めるセバスチャン・ブエミが、WECとの日程重複でニューヨークePrixに参戦できないことが判明したからだ。ガスリーがこのチャンスを見逃すはずがなく、彼はブルックリンの公道を使用して初開催されるモータースポーツレースに未体験のマシンで臨むことになった。
まさにぶっつけ本番でフォーミュラEデビュー戦を迎えたガスリーは、初日の土曜を終えて次のように語った。「レースウィークエンド前夜にニューヨークに到着したので、シェイクダウン(練習走行)ができなかった。だから、今日(土曜)はすごく忙しかった。昨夜遅くに英国からニューヨークに到着したばかりで、睡眠時間は5時間にも満たなかったから、今日は調子が良くなかった。今夜はちゃんと睡眠を取るから、明日(日曜)はもっと調子が良いと思うし、グッドレースを見せたい」
初めて乗るフォーミュラEマシンだったが、ガスリーは土曜のレース1で予選7位を記録し、続くレース1決勝でもそのまま7位でフィニッシュした。「忙しかったけれど、すごくエキサイティングな1日だった。学ばなければならないことが沢山あったけれど、個人的にはすごく楽しめたよ。土曜のレース1はクレイジーな展開で、(他のマシンとの)接触も多かった。かなり接近したバトルもあった。フォーミュラEはこれまで僕が慣れ親しんできたレースとはかなり異なる。バトルが多いし、非常に楽しかった。日曜にレース2があることは僕にとって好都合だ。今日でかなり多くのことを学べたからね。ラップを重ねるごとに自信を深めているから、明日のレース2ではもっと上位を狙っていけるんじゃないかな」
ガスリーがより大きな自信を持って臨んだレース2は、まさしく彼が予想した通りの展開となった。予選でトップタイムを記録したあと、ガスリーはスーパーポールで4位グリッドを手にいれた。49周の決勝では、ファイナルラップ最終コーナーで目前を走るニック・ハイドフェルド(Mahindra Racing)と接触する危うい場面もあったが、ガスリーは4位で完走した。ハイドフェルドとの接触によりガスリーのマシンは大きくダメージを受けたが、辛うじてフィニッシュラインまでマシンを運んだ。
ハイドフェルドとの接触はレーシングインシデントと見なされペナルティ不問となり、ガスリーの4位フィニッシュが確定した。ガスリー本人とRenault e.damsチームの双方はこの週末のパフォーマンス全体に満足しているようだ。初めてのコース、初めてのエレクトリックカーでのレースウィークエンドを振り返り、ガスリーは次のように語る。「今までとは全く異なる体験になった。フォーミュラEは、F1やSFとは別物だ。フォーミュラEのコース幅は狭いから、コックピットでは外から見ている以上のスピードを感じる。ウォールにかなり近いところを走るから、普段のサーキットとは感覚が全然違う。マシンのダウンフォースもないし、一般車に近いタイヤを履いているからグリップも少ない。もちろん、F1に比べればストレートのスピードはかなり遅いけれど、フォーミュラEは全く違う性質のレースだから、単純比較はできない」
果たして、フォーミュラEの “静かな” コースで今後もガスリーの姿を見ることはできるのだろうか? Renault e.damsはガスリーが初めての環境で見せた適応能力に感銘を受けているようだが、ガスリーの目標が変わることはなさそうだ。「僕が定めている目標は2018シーズンのF1参戦だ。僕は今この目標に向けて集中している。今週末にフォーミュラEのレースを初体験できたのは良い経験になったと思う。未体験のカテゴリーのマシンに乗るのはエキサイティングだし、学べることもあるからね。でも、真のゴールはあくまでもF1なんだ」
9月29・30日、レッドブル・リンクでフォーミュラEをはじめとするあらゆるエレクトリックカーが一堂に会するフリーイベント「Krone E-Mobirity Play Days」が開催される。フォーミュラEのデモランが行われる他、2016年ワールドチャンピオンのセバスチャン・ブエミをはじめ2017年新チャンピオンのルーカス・ディグラッシ、ダニエル・アプトらに直接会えるチャンスもある。イベント詳細はこちら>>