An image of Max Verstappen racing at the 2018 Formula One Grand Prix of Austria with a stand packed with orange-clad fans in the background.
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F1
F1:物議を醸したレギュレーション
F1で導入されてきたレギュレーションには、効果を発揮したものとそうでないものがある。過去に物議を醸したレギュレーションをいくつかピックアップしてみた。
Written by Chris Parkin
読み終わるまで:6分Published on
F1の2018シーズンが折り返しを迎えようとしている中、2021シーズンに予定されている大幅なレギュレーション変更への前段階として2019シーズンから導入されるルール改訂が合意に達しつつある。
F1ファンは良い / 悪い / 醜悪なレギュレーション変更をこれまでに何回も目撃してきた。そこで今回は、導入されたあと大きな議論を呼んで撤廃に追い込まれたレギュレーションをいくつかピックアップしてみることにした。

合算タイム制の予選

F1史上最短で終わったルールのひとつが、2005シーズンの前半6戦のみで施行された “合算タイム制の予選” だ。
十分エキサイティングだった従来の予選形式を、当時のF1運営陣はなぜわざわざ複雑な形式に変更しようとしたのだろうか? 今となっては知る由もない。
ともあれ、彼らは燃料搭載量制限のない予選セッションを土曜日に実施し、さらに日曜日午前に決勝スタート用の燃料を搭載したマシンでもう一度予選セッションを行い、この2回のセッションで記録されたタイムの合算で決勝スターティンググリッドを決定するというプランを実行に移した。
この予選形式は過度に複雑でカオスだった。また、各TV局も日曜日午前のセッションを生中継する編成を組めなかった。結果、この予選形式は6レース限りで撤廃された
2018年フランスGP:スタートでホールショットを決めたルイス・ハミルトン
2018年フランスGP:スタートでホールショットを決めたルイス・ハミルトン© Getty Images/Red Bull Content Pool

ファステストラップを記録したドライバーにポイント付与

1950年代のF1黎明期は、まだ歴史の浅いスポーツに独自の地位を与えるべく様々な実験的ルールが実施されていた。
その中には、決勝レースで最速ラップを記録したドライバーにチャンピオンシップポイントを付与するというルールもあった。
残念ながら、このルールはあまりに先進的で、当時の計時技術では正確な運用が不可能だった。1回のレースでファステストラップを記録するドライバーが2人以上現れ、ポイントを分け合ったケースもあったのだ。
たとえば、1954シーズンのイギリスGPでは、実に7名ものドライバーが1分50秒という同一ファステストラップを記録し、結果として各自0.14ポイントを与えられることになった。
現代の正確な計時技術であればこのルールは機能するだろうが、そもそも誰がこのルール導入を望むだろう?
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1台のマシンを複数のドライバーでシェア

黎明期のF1で実施されたもうひとつの珍ルールが、1台のマシンを複数のドライバーでシェアするというものだ。
1950シーズンから1957シーズンまでは、ドライバーが望んだ場合、決勝レース中に1台のマシンを同チームのドライバー同士でシェアすることが認められていた。
また、両ドライバーが規定の走行距離を満たした場合、獲得ポイントは各ドライバーで分け合うというルールも設定されていた。
1956シーズン末、自身初のワールドチャンピオンを射程距離に捉えていたピーター・コリンズは、チャンピオンになったあとに起きる不必要な周囲からの重圧と要求を嫌がっていた。そこで、コリンズは同チームの大先輩ファン・マヌエル・ファンジオに自らのマシンを明け渡す決断を下した。マシンを引き継いだファンジオは2位でフィニッシュし、4度目のタイトルを獲得した。
このルールはその後もしばらく撤廃されなかったが、1958シーズン以降はマシンをシェアした場合はチャンピオンシップポイント付与の対象外となった。

レース中の給油

1983シーズン以来禁止されていたレース中の給油が1994シーズンに再度認められることとなったが、各チームからの反発の声は根強かった。
多くの専門家の予想通り、給油作業中の火災事故が相次ぎ、2009シーズン限りで再禁止されるまで、ピットクルーたちは不測の火災に脅かされ続けることになった。
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エリミネーション方式の予選

これもまた短命に終わった予選関連のルールのひとつだ。2016シーズン、エリミネーション(足切り)方式の予選が実施されたが、わずか1レースで撤廃された。
2016シーズン開幕戦のオーストラリアGPで実施されたこの新予選方式は、Q1でタイムシート下位7名がノックアウトされ、Q2でもさらに下位7名がノックアウト、そしてQ3でもあらかじめ設定されたタイミングでひとりずつノックアウトされるというものだった。
この新たな試みは大失敗に終わり、ルイス・ハミルトンは「サッカーのピッチに2個目のボールを投入しようとしているようなもの(=ナンセンス極まりない)」と酷評した。
第2戦からは従来までの予選形式に戻され、エリミネーション方式案は御蔵入りとなった。「壊れていないものを直そうとするな」という古くからの諺が真理であることがあらためて証明されたというわけだ。
サーキット・ジル・ヴィルヌーブを走るダニエル・リカルド
サーキット・ジル・ヴィルヌーブを走るダニエル・リカルド© Getty Images / Red Bull Content Pool

最終戦ダブルポイント制

F1で安全性向上が目的ではないルール変更が行われる場合、その多くの目的はレースのショーアップに設定されている。2014シーズン最終戦の獲得ポイントを通常の2倍にしようというアイディアの根底にも、ショーアップを目論む意図があったはずだ。
結果的に、2014シーズン最終戦アブダビGPはF1史上唯一のダブルポイント制で行われたレースとなった
元々、このルールは、2011シーズン / 2013シーズンのセバスチャン・ベッテル(当時Red Bull Racing)のような独走でのタイトル獲得を防ぐ目的で導入されたのだが、F1ドライバーズチャンピオンが最終戦で決定したシーズンは29例を下らない。
そのため、このルールは翌年にあえなく撤廃された。

今後導入が予定される空力レギュレーション変更案

ここまでは過去に物議を醸したレギュレーションを紹介してきたが、2019シーズンから導入される予定の新ルールもすでに物議を醸している。
ラップタイムの向上を目的に2017シーズンから導入された現行の空力レギュレーションは来シーズンより規制強化に傾き、フロントウイングやブレーキダクトがシンプルなデザインを強いられる一方、ライバルの後方で抜きあぐねたまま周回を重ねるレース展開を防ぐ目的でリアウイングはワイド化する。
2017シーズンのオーストラリアGP決勝で、オーバーテイクがわずか5回しか記録されなかったことが問題視されたが、上記の空力面の変更によってレースでのオーバーテイクが増えることが期待されている。
しかし、Red Bull Racingのチームプリンシパルを務めるクリスチャン・ホーナーはこのルール改訂案に反対の立場を表明している。
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