ゲーム

スマブラプロプレイヤー列伝:SFAT

PewPewUとのコンビで知られるフォックス使いを紹介する。
Written by Barrett Womack
読み終わるまで:8分公開日:
最近までMIOMに所属していたSFAT

最近までMIOMに所属していたSFAT

© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com

『スマブラ』シーンのトッププレイヤーの多くにはストーリーがある。彼らはこのゲームを好きになり、地元のトップになるとすぐにトーナメントに参加し、ランキングを上げることでそれぞれのコミュニティを感嘆させてきた。そして世界屈指のプロプレイヤーたちの多くは、このゲームに対する鋭い洞察力を備えており、その才能は時として人知を超える。しかし、このような華やかなストーリーを持っていないプレイヤーもいる。
Zac “SFAT” Cordoniがそのひとりだ。彼は一夜にしてNorCal(北カリフォルニア)シーンのトップに躍り出たわけではなく、実際、絶対的王者になったことさえなかった。しかし、SFATはハードワークと、そのハードワークが証明するこのゲームへの愛情で、自身を立ててきた。

「彼のようになりたい」

現在21歳のSFATは、シーン最年少のエリートプレイヤーのひとりだ。つまり、WifeやChudat、PC ChrisたちがMLG 2006で活躍していた頃、まだSFATは彼らを興奮した眼差しで追っていた小学校6年生だった。「2006年にPC Chrisが優勝したMLGの映像を友人に見せてもらった時、僕も彼のようになりたいって思ったんだ」
SFATは元々勝負好きで、彼は『スマブラ』以前からゲームでの勝負にいそしんでいた。「5歳のクリスマスにNINTENDO64をもらってからカジュアルにゲームを楽しんでいたんだ。9歳の時に『Texas Hold ’em』を母親から教わってからは、しばらくこのゲームで遊んでいた。昔からスポーツや勝負が好きだったんだ」と振り返るSFATだが、すべてのゲームをカジュアルに楽しんでいたわけではなかった。『スマブラ』に出会う直前、彼が真剣に取り組んでいたもうひとつのゲームがあった。「『スマブラ』を本格的にプレイする前は、PCの『Warhammer 40,000』にのめり込んでいた。ひと夏で、3000時間はプレイしたと思うよ」
Genius 1でのPewPewUとSFAT

Genius 1でのPewPewUとSFAT

© Zac Cordoni

PewPewUとの出会い

『DX』をプレイし始めると、SFATはすぐにこのゲームにのめり込んだ。プレイ出来るあらゆるチャンスを探し、その過程でKevin(PewPewU)に出会った。「小学校6年生の時に、算数の授業でKevinと出会ったんだ。出会った頃はそこそこの仲良しだったけど、お互いに『DX』をプレイしているということが分かると、更に仲良くなったんだ。毎週金曜日になると、2人で誰かの家へ遊びに行って、みんなで『DX』をプレイしていた。時間が経つと共に他の友人は『DX』から離れていったけど、僕とKevinはプレイを続けたんだ」。『スマブラ』で友情を深めていった彼らは、その年の後半には一緒にトーナメントへ出場した。しかし、そこにはひとつ問題があった。彼らはまだそこまで上手くなかったのだ。
「2006年に最初のトーナメントに参加した時、僕は12歳で、まだまだ小さな存在だった。単純にプレイが下手だったんだ。トーナメントで初勝利を挙げるまで2年かかったよ」。大事なことなので2度言うが、「SFATがトーナメントで初勝利を挙げるまでは2年もかかった」のだ。しかし、その間も彼は目標を持ちながら、笑顔を絶やさずプレイを続けた。「その頃に練習を重ねて、テクニックを磨いていった。素早い操作ができるようになったけど、テクニックが上手くても勝てない人がいるのさ。でも、成長スピードは遅かったけど、賢いゲーム運びができるようになっていった。ゲームのパターンを理解するようになり、相手の癖が把握できるようになっていったんだ」。こうして、勝てるテクニックを身に付けていなかった彼は、「読み」に頼ってプレイするようになっていった。しかし、これが彼の将来を大きく助けることになった。
また、SFATの親友Kevinの存在も彼を助け、成長を促した。「当時は参考にできるものが少なかったし、成長するのは難しかった。僕はトーナメントへ参加したり、対戦相手に自分のどこが悪かったのかを質問したりすることで自分を成長させていった。でも、僕の成長を一番助けてくれたのは、とにかく沢山プレイしたということだね。誰が相手だろうと、とにかく何時間もプレイして、細かな部分まで学ぼうとしたんだ。この点においてはKevinが大きな助けになったよ。彼は僕と同じ位このゲームに情熱的に取り組んでいたし、僕と同じ位負けず嫌いだったからね」
SFATとPewPewUはコンビを組んでプレイする時も多い

SFATとPewPewUはコンビを組んでプレイする時も多い

© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com

『DX』村での修行

群を抜いて若かったSFATとPewPewUは、新たに参加するようになったNorCalシーンを非常に快適に感じた。NorCalシーンは彼らを温かく迎え入れ、彼らは今でも続く仲間との友情を育んでいった。「元から年上と遊ぶのが好きだったから、一番若かった僕たちには入りやすかった。感受性が強かった僕たちにとって、NorCalのコミュニティは素晴らしかったし、居心地も良かった。純粋にゲームを楽しむことができたからね」。トーナメント好きが集まるこのシーンは2人に成長する場所を与えることになった。ここは彼らにとっての『DX』村だった。
SFATが今のようなプレイヤーに成長できたのはこの “村” のお陰だったが、当時の彼はまだフォックスをメインとして使用していなかった。「最初はプリンだったよ。それから色々試したんだ。このゲームを極めるには、すべてのキャラクターを理解する必要があるって早くから気付いていたからね。その中でかなり長い時間使ったのはマルスだった。その頃のKevinはフォックスをメインにしていた」こう振り返るSFATだが、彼とPewPewUはショッキングな体験をすることになった。自分のキャラクターよりも相手のキャラクターの方が気に入ったのだ。「お互いのキャラクターを初めて交換した時に、2人共すぐに『こっちの方がいい』って思ったんだ。僕はフォックスのスピードが気に入ったし、Kevinはマルスの操作性を気に入ったんだよ」
こうして2011年頃までには、SFATとPewPewUは上位のプレイヤーに勝つことで周囲の注目を集めるようになっており、NorCalで話題のプレイヤーになると、2013年にはランクインを果たした。そして現在、2人はNorCalのトップ2として君臨しており、Shroomedを加えた3人で三つ巴のトップ争いを繰り広げている。
幸運は待つ者に訪れるのだ。

飛躍

ここ数年、SFATとPewPewUは地元と全米で結果を残してきた。彼らが成功を収められた理由のひとつが、『DX』を中心に据えたチーム、Melee It On Meの存在で、2人はこの団体からスポンサードを受けてきた。「MIOMは僕たちの友人、Scarが始めた団体なんだ。元々MIOMはプレイヤーたちが集まるFacebookページとして機能していて、Mangoのスポンサーをしていた。そこでKevinと僕が自分たちのスポンサーになってくれるかどうか訊ねてみると、Scarは喜んでイエスと言ってくれたんだ」。当時の『DX』にメジャースポンサーは存在しなかった。世界を代表するSoloMidsとTeam Liquidsもまだ登場していなかった頃の話だ。
APEX 2015でAxeに勝利したSFAT

APEX 2015でAxeに勝利したSFAT

© Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com

「当時はVGBC、MIOM、CTなどの小さなスポンサーしかいなくて、今の状況とはまったく違っていた。だからスポンサーがついて『DX』をプレイできるのは凄くエキサイティングだったんだ」。MIOMのお陰で、2人は足を伸ばして他のエリアのトーナメントに参加できるようになり、自分たちだけでは不可能だった広範なエリアでの認知度を獲得した。しかし、PewPewUはAPEX 2015でMIOMから離れることを発表し、そのあと直ぐにCounter Logic Gamingと契約した。
そしてSFATも自分の力を試すため、数週間前に平和的にMIOMから離れた。「MIOMは最初のスポンサーとしては素晴らしかったよ。eSportsの世界でどうやって自分を成立させるかについて教えてくれた。でも、自分の足で立って、フリーエージェントとして自分のゴールを目指す時が来たんだ」。SFATがPewPewUと同じ道を辿るかどうかは時間が経たなければ分からないが、相当の実力を誇る彼ならば問題ないだろう。

大事なのはゲームそのもの

SFATはプロプレイヤーとして台頭するチャンスを狙っているのかも知れないが、そのようなビジネスマインドを持っている彼でさえも、このゲームの価値はそこよりも深い部分にあるとしている。「『スマブラ』を続けているのは、誰かと対戦する度に、ゲームを通じてその人と会話をしているように感じられるからなんだ。どの対戦もユニークで同じじゃないんだよ」。しかし、SFATが価値を見出しているのはゲームプレイだけではない。トーナメントによって自分を育ててもらった彼は、『DX』を通じて培ってきたコネクションの重要性を誰よりも理解している。
「『DX』には良い思い出が沢山あるんだ。Mangoと数ヶ月一緒に練習したことから、トーナメントへ参加して色々な人に出会ったことまでね。僕はこのコミュニティと共に成長できる素晴らしいチャンスをもらえた。でも、一番の思い出は、地元の仲間のプレイだね。誰かのリラックスしながら明け方までひたすらプレイするあの時間だよ」
SFATは理解している。この先何が起きようとも、一番大事なのはそのような小さなことだということを。