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PS4 Proの限界に挑む『グランツーリスモSPORT』

「リアル・ドライビング・シミュレーター」はどこまで “リアル” になるのだろうか?
Written by John Robertson
読み終わるまで:8分Published on
美しいグラフィックスの『グランツーリスモSPORT』

美しいグラフィックスの『グランツーリスモSPORT』

© Sony

高速フレームレート、解像度4K、HDR対応が特徴のPS4の上位機種PlayStation 4 Proは多くの人に愛されるだろう。しかし、ハードウェアが改良され、パフォーマンスが向上し、素晴らしいポテンシャルを備えていても、デベロッパー側が活用するつもりがなければ、または活用できなければ、それらは意味をなさない。結局のところ、どんなゲームでも開発費がかかる。そして、新しいゲーム機に対応するためには、追加の時間とコストが必要になるのだ。

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従って、PS4 Proはデベロッパーごとに異なる形で扱われている。予算、ハードウェアの使い方、そしてリリースまでに残された時間などによって、PS4 Proの扱い方が変わってくるのだ。たとえば、Ubisoft Montrealが手がける『フォーオナー』は2017年2月のリリースを予定しているが、中核となるアートワークが4Kを前提に描かれていたため、4K対応としてリリースされるものの、リリーススケジュールの問題から、HDR対応は先送りされている。
また、『NINJA GAIDEN』シリーズで知られるTeam Ninjaが手がける『仁王』は、プレイヤー側がPS4 Proのクオリティを使用するかどうかを決めることができる。このゲームにはメニュー内に「アクションモード」と「ムービーモード」が用意されており、前者は60fpsだが解像度が下がり、後者は30fpsになるが解像度は上がるモードとなっている。
しかし、我々が調べた限り、現時点では『グランツーリスモ』シリーズの生みの親、Polyphony Digitalのような形でPS4 Proの性能を限界までプッシュしているデベロッパーは存在しない。2017年内のリリースが予定されている彼らの最新作『グランツーリスモSPORT』は、PS4 Proの性能を最後の1滴まで絞りだそうとしており、その目標を達成するために専用の開発ツールさえも用意している。『グランツーリスモSPORT』のPS4版とPS4 Pro版の開発画面を比較すれば、その違いは明確に理解できる。
Polyphony DigitalのCEO、山内一典は次のように説明する。「最先端のテクノロジーには常に目を向けていますから、HDRや4Kも以前から挑戦したいと思っていました。もちろん、開発は簡単ではありませんが、楽しみながら仕事ができています。開発において “楽しめているかどうか” というのは、僕たちにとっては非常に重要なポイントです」
「4K、HDR、Wide Colorなどは新しい世界ですが、それらの最先端技術を使用した映像を非圧縮で提供できるのは、現時点ではビデオゲームだけです。ビデオゲーム業界がテレビ業界・映画業界に先行して新しいテクノロジーを導入するのは今回が初めてですし、このタイミングでそこに寄与できているのは非常にエキサイティングですよ」
HDRは輝度に大きな差をもたらす

HDRは輝度に大きな差をもたらす

© Sony

Wide Colorというのは、「Wide Gamut RGB Color Space」の略称で、このテクノロジーを使用すれば、現在普及しているsRGBよりもワイドな色空間を提供できるようになる。ビデオゲームがWide Color対応になれば、HDRテレビを通じてより多くの色数をプレイヤーに届けられようになるというわけだ。山内は「今作の『グランツーリスモSPORT』は、これまでのsRGBよりも1.64倍も大きい色空間を使用しています」と説明している。
その豊かな色空間に4Kの解像度、HDRの明度を組み合わせれば、ディテール、輝度、色彩など、視覚的インパクトのあらゆる部分が拡張されることになる。しかし、『グランツーリスモSPORT』のPS4 Pro版の映像を見ると、その効果が最大レベルで確認できるのは、色彩と輝度であることが分かる。
たとえば、各車のボディペイントを見てみるだけでも、PS4とPS4 Proでは大きな異なることが確認できる。最近のMcLarenの市販車のボディに頻繁に使用されているタバコオレンジは、PS4版ではどことなく輝きが感じられないが、PS4 Pro版では非常に明るく、また、色空間が広くなったことで深みも感じられる他、ボディの上で光がリアルに反射しているように見える。また、Ferrariお馴染みのレッドカラーも、PS4 Proでは同じようなインパクトが感じられた。
輝度の豊かさがもたらすクオリティの差は、車がヘッドライトを点灯するナイトレースで最も明確に把握できる。車のヘッドライトとその周囲の暗闇が作り出すコントラストは非常にハイレベルでまさに見目麗しい。HDR非対応でこのようなコントラストを表現する際の生じる問題のひとつは、画面上で最も明るい部分のディテールが失われてしまうことにある。HDRでは可能な「暗闇」と「やや暗い」、「まぶしい」と「明るい」などの輝度のバリエーションが不足してしまうのだ。具体的な例をひとつ挙げるとすれば、ヘッドライトの外縁と内側の差で、HDR非対応では両方が同じに見えてしまうのだが、HDRでは明確な差が確認できる。
圧倒的なディテールを実現する解像度4K

圧倒的なディテールを実現する解像度4K

© Sony

『グランツーリスモSPORT』はどうやってこのようなディテールの細かい輝度を可能にしているのかという質問に対し、山内はその要因は「nit」にあると回答し、次のように説明する。「『グランツーリスモSPORT』は最大輝度10,000nitです。これはかなり巨大なダイナミックレンジとなります。このレベルの輝度を上手く引き出して扱えるのは、HDR環境下のみです」
「nit」とは輝度の単位で、大きければ大きいほど、細かな光量差を表現できるようになる。山内の言う10,000nitの輝度がどれほどのものなのかを分かりやすくするために例を挙げると、現在市販されている1080pのテレビの大半は最大100nitで、ハイクオリティな映画館でも1,000nitだ。さらに言えば、現在市販されているテレビの中で10,000nitに近い輝度の製品は存在しない。山内は、『グランツーリスモSPORT』のこの輝度は、HDRテレビが近い将来市場に出回った時に、その性能をフル活用できるように用意されているとしている。
解像度、明度、色空間を向上させれば、フレームレートの低下に繋がる可能性が出てくるのではないかと訊ねると、山内はそれらの間に関連性はないと即答する。「Wide ColorとHDRに対応するゲームを開発することが、レンダリングの低下を招くことはありません。むしろ、問題になっているのは、開発のワークフローですね。開発のあらゆるステップを4K・HDR・Wide Color対応にする必要があるので、開発コストがかさんでしまうんです」
Polyphony Digitalの開発コストの増加は、彼らが『グランツーリスモSPORT』の開発に使用する未加工データをキャプチャするための専用カメラを開発したことも影響している。彼らがこのゲームの開発をスタートさせた3年前は、デザイナーが使用するためのレーストラックや背景のHDRイメージが存在していなかったため、自社で用意する必要があったのだ。しかし、山内は、この基礎工事とも言える経験は、今作以降の『グランツーリスモ』シリーズの開発に役立つはずだと自信を見せている。
PS4 Proについて山内が最もエキサイティングに感じているのは、このゲーム機が未来へ続く新たな地平線を切り拓いているという点のようだ。具体的に言えば、山内は、現時点でヴィジュアルテクノロジー競争の最前線に立っているのはビデオゲームであること、そして自分たちが最先端テクノロジーを活用するコンテンツを生み出せていることを誇りに感じている。
山内は次のように説明している。「他のメディアが4K・60fps・HDR・Wide Color対応になるまではまだしばらく時間がかかるはずです。放送業界がこのテクノロジーに追いついて使用できるようになるまではかなりの時間がかかります。ですが、PS4 Proはビデオゲーム業界がそれらをもたらしてくれるのです」
確かにPS4 Proはそれらをもたらしてくれる存在だが、それはあくまで、開発スタジオ側に最先端テクノロジーをフル活用するつもりがあるならば、の話だ。PS4 Proの性能を最大限まで引き出したいのであれば、Polyphony Digital以外のもっと多くの開発スタジオも、彼らを見習ってこのシステムの性能をフルに引き出すゲームを開発する必要がある。しかし、『グランツーリスモSPORT』が3年の時間をかけて開発されたことを踏まえれば、PS4 Proでのリリースを考えている他のスタジオがPolyphony Digitalと同じクオリティのゲームを開発できるようになるまでは、もうしばらく時間がかかるかも知れない。
『グランツーリスモSPORT』は2017年内にリリース予定。PlayStation 4 Proは現在発売中。