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『Gwent: The Witcher Card Game』:開発者インタビュー

2015年最高のRPG『ウィッチャー3 ワイルドハント』で大人気だったカードゲームのスタンドアロン版について開発側が語った。
Written by Damien McFerran
読み終わるまで:11分公開日:
シンプルだが奥の深いゲームプレイがイェネファーにも人気

シンプルだが奥の深いゲームプレイがイェネファーにも人気

© CD Projekt Red

『ウィッチャー3 ワイルドハント』はこれまでに出荷本数約1000万本を記録し、更には数々の賞も受賞したことで、近年最大のアクションRPGのひとつであることを証明した。我々はこのゲームの広大な世界、様々なストーリーライン、そして大量の敵に対し、ここ1年近くをかけて多くの時間を割いてきたが、すべてのクエストをこなしていく中で大きな障害になるものがひとつあった。やらずにはいられない魅力的なカードゲーム、『グウェント』だ。
『グウェント』がゲーム内に盛り込まれた理由について、CD Projekt Redのゲームデザイナー、Michał Dobrowolskiは次のように説明する。「『ウィッチャー3』はその大半がストーリー重視のオープンワールドゲームなので、プレイヤーがすべてのクエストや世界を救うという目的から少し距離を取って楽しめるようなミニゲームをプレイするチャンスを用意したかったんです」
「『ウィッチャー』と『ウィッチャー2』にはダイスポーカーを用意していました。これはこれで面白かったのですが、『ウィッチャー3』にはもっとスケールが大きくて新しいゲームを盛り込みたかったので、カードゲームのフォーマットを使用しました。このフォーマットはゲームの世界観にピッタリと合いましたし、プレイヤーに世界を更に掘り下げるチャンスと、世界に関するクールな考証を提供できたので、パーフェクトなチョイスでした」
『グウェント』に数多くの時間を費やした『ウィッチャー3』のプレイヤーならば、その世界観を更に広げてくれるPC・PS4・Xbox One対応のスタンドアロン版『Gwent: The Witcher Card Game』が開発されているというニュースは嬉しいはずだ。Dobrowolskiは『ウィッチャー3』のリリース直後から『グウェント』のスタンドアロン版の要望がCD Projekt Redにひっきりなしに届いていたことを明かす。
「世界各国のファンからスタンドアロン版をリリースして欲しいというリクエストのメールが届くようになりました。彼らは『グウェント』を心の底から楽しんだので、友人と一緒にもっとプレイしたいと感じてくれたのです。『グウェント』用のテーブルとカードを実際に作ったファンもいるくらいですよ」
『ウィッチャー3』に収録されている『グウェント』自体が高い完成度を誇っているのに、わざわざスタンドアロン版をリリースする必要はないのではないかと考える人がいるかも知れないが、Dobrowolskiは、スタンドアロン版はコンセプトを改良していると強調する。
「スタンドアロン版は対戦要素を強めています。ですので、振り出しに戻って、プレイヤーのスキルに影響するゲームバランスの再調整を行っています。完全に新しいマルチプレイヤーモードが用意されているので、オンライン上で他のプレイヤーと対戦できますし、ストーリーが組み込まれたシングルプレイヤー用キャンペーンも開発しています。また、新しいシステム、スキル、カードも組み込まれます。基本的には、『ウィッチャー3』の『グウェント』のコアなゲームプレイとルールを使って、新しいゲームを作り上げたというところですね」
アップデートされたゲームボード

アップデートされたゲームボード

© CD Projekt Red

オンライン対戦が楽しめるカードゲームを語る場合、Blizzardの大ヒットタイトル『ハースストーン』を外すわけにはいかない。そして、『グウェント』と同様、『ハースストーン』も人気シリーズ『World of Warcraft』のスピンオフだ。しかし、Dobrowolskiはこの2本の細部は大きく異なっていると指摘する。
「CD Projekt Redのメンバーはゲームが好きですし、その多くが『ハースストーン』を楽しんでいます。ですが、ゲームプレイに関しては『ハースストーン』と『グウェント』は大きく異なります。『グウェント』では3戦中2戦を取れば勝利というシステムで、ブラフを入れたり、3戦目を取るために2戦目をあえて落としたりする戦略も必要になってきます。『ハースストーン』のマナのような、カードを出すためのコストは存在しませんが、10枚のカードだけで戦わなければなりませんし、カードの枚数を増やすにはそのスキルを備えたカードを使用するしか方法はありません。『グウェント』はこのようなルールを意識してプレイする必要があります」
『Gwent: The Witcher Card Game』と『ハースストーン』の共通点はリリース形式だ。Blizzardの『ハースストーン』と同じく、『Gwent: The Witcher Card Game』も基本無料・ゲーム内課金の形式が採用される。Dobrowolskiは、この決定はできるだけ多くのプレイヤーにゲームを楽しんでもらうためのものだったと説明する。
「ファンがスタンドアロン版をリリースして欲しいと願っていた理由のひとつは、『友人と一緒にプレイしたい』でした。ですので、基本無料の形式でリリースすることで、誰もが最初からプレイできるようにし、できるだけ多くの人に『グウェント』のベーシックな部分に触れてもらおうと考えました。そのあとで、このゲームを面白いと感じ、僕たちをサポートしたいと感じてくれるのであれば、もちろん、様々な機能を購入できます。ですが、現時点では誰もが楽しめる素晴らしいゲームを開発することだけを意識しています」
CD Projekt Redが『ウィッチャー3』のDLCを実に見事な形(ボリュームと価格の素晴らしいバランス)でリリースしたことを考えれば、Dobrowolskiのファンを大切に思う気持ちにウソがないことが理解できる。このスタジオは追加コンテンツがどうあるべきかについて正しいアイディアを持っている。
たったひとつの行動が大きな違いを生み出すカードゲームというフォーマットにおいて、各カードのデザインは非常に難しい。CD Projekt Redもここに多くの時間を割いている。Dobrowolskiは「(カードのデザインは)終わりがないですよね。『Gwent: The Witcher Card Game』のようなマルチプレイヤーの対戦カードゲームの開発では、プレイヤーが相手に対してどうカードを切るのか、そのすべての可能性を考慮する必要がありますし、更には各カードのバランスが正しいかどうかも考えながら進めていく必要があります。そして、1枚のカードを少し変えれば、他のカードも修正しなければなりません。また、ゲームをリリースして、プレイヤーが実際に使用しているのを確認しなければ、調整の必要があるのかどうかの最終判断はできません。このような作業はこの手のゲームの開発にはついて回るものです。クローズドベータを10月25日にリリースするのはそれが理由です」と説明する。CD Projekt Redはこのクローズドベータを通じてプレイヤーのフィードバックを集め、最終版に活かしていく予定だ。
また、他のオンラインゲームと同様、『Gwent: The Witcher Card Game』も負け惜しみを言うプレイヤーや、意地が悪いプレイヤーを抱えることになる可能性が高い。『ウィッチャー』のファンタジーの世界に “トロール” という言葉はフィットするが、上記の意味での “トロール” が存在しないマルチプレイヤーモードの開発は非常に難しい。Dobrowolskiは、CD Projekt Redもこの問題については認識しているとしている。「今作には、問題行動を取る “トロール” プレイヤーに対応するシステムを組み込む予定です。ですが、現時点ではまだお話できるようなものではありません」
『ウィッチャー3』と同じ濃さの日本語版を楽しみたい!

『ウィッチャー3』と同じ濃さの日本語版を楽しみたい!

© CD Projekt Red

重厚なシングルプレイヤーモードの提供、これが『Gwent: The Witcher Card Game』とライバル『ハースストーン』の一番大きな違いになるはずだ。このようなシングルプレイヤーモードが用意されれば、ソロプレイヤーは何時間もゲームを楽しめるようになる。「シングルプレイヤー用キャンペーンには、『ウィッチャー3』の開発チームが生み出した、『ウィッチャー』の世界をベースにしたオリジナルストーリーのアドベンチャーが含まれます」とDobrowolskiは説明する。また、嬉しいことに、『Gwent: The Witcher Card Game』のクエストは『ウィッチャー』シリーズの予備知識がなくても楽しめるようになっており、新しいファンがこのゲームを通じて『ウィッチャー』シリーズの世界観に興味を持つ可能性もある。
「各ストーリーは独立しているので、『ウィッチャー』シリーズの予備知識がなくても楽しめます。逆にこのゲームをきっかけに『ウィッチャー』シリーズに興味を持つ可能性もありますね。シングルプレイヤー用キャンペーンのクールな特徴のひとつは、ゲーム内で出会う人や物のすべてがカードだということです。自分の行動によっては、それらを自分のデッキに組み込めるようになります。つまり、今作にも、難しい選択とその選択が生み出す結果が大量に用意されているということです」
Blizzardは新しいカードパックとアップデートを定期的にリリースすることで『ハースストーン』への興味を維持しているが、Dobrowolskiは『Gwent: The Witcher Card Game』も同じスタイルで展開されることを明かす。「リリース後に様々なコンテンツを追加することでこの作品をサポートしていく予定です。たとえば、シングルプレイヤー用キャンペーンでは、『ウィッチャー3』の脚本チームが仕上げた壮大なストーリーを追加していく予定です。また、シリーズを通じてゲラルトの声を担当してきたDoug Cockleをはじめ、様々な才能ある声優・俳優陣が戻ってきます。もちろん、新しい声優・俳優の皆さんにも参加してもらっています。つまり、今作の魅力はカードゲームだけではないということです。『ウィッチャー』シリーズの世界に新しい魅力を追加する意味のあるコンテンツが次々と追加されます。追加コンテンツに関しては “意味のある” がキーワードですね」
『グウェント』は『ウィッチャー3』のプレイヤーには人気だったが、このカードゲームがスタンドアロンとして成功するかどうかは未知数だ。『ウィッチャー3』の『グウェント』はNPCが相手であり、プレイヤーが勝利する回数も多いが、他のプレイヤーとのオンライン対戦ではそれは約束できない。また、このジャンルにおいては『ハースストーン』が圧倒的な強さを見せており、更には『Elder Scrolls: Legends』の追撃もあるため、ゲラルト一押しのこのカードゲームが成功を収めるのは簡単ではない。しかし、CD Projekt Redはこの挑戦を楽しみにしている。
「僕たちのようなクリエイティブな業界にとって、ライバルとの競争は良いことです。既に確立されているジャンルであろうと、そうでなかろうと、競争は新しくてエキサイティングなものを生み出そうというモチベーションになります。『Gwent: The Witcher Card Game』も同じです。このゲームは対戦カードゲームをユニークな形で表現していますし、何よりも重要なのは、プレイヤーたちが望んでいるゲームだということです。彼らが長年楽しんでくれるゲームになれば、感謝感激ですよ」
『Gwent: The Witcher Card Game』のクローズドベータは元々2016年9月にリリースされる予定だったが、先述した通り1ヶ月ずれこんだ。Dobrowolskiはこの遅れには悪意は含まれていないこと、できるだけポジティブな印象を持ってもらえるゲームに仕上げるために時間が必要だったことを強調し、「第一印象というのは文字通り1回で決まります。ですので、第一印象をできる限り良いものにしたいと思っているんです」と説明する。尚、Dobrowolskiは『ハースストーン』が大成功を収めたアプリ版を『Gwent: The Witcher Card Game』でもリリースするのかについては硬く口を閉ざしており、「現時点では既に発表したプラットフォームでの開発に注力しています。ですが、できるだけ多くの人たちに楽しんでもらえたらクールですよね」と説明するに留めているが、彼のこの言葉に異を唱える『ウィッチャー』シリーズのファンは少ないはずだ。