八海山クーロワール
© Takumi Nagai
スノーボード

【ジャパウ探報】八海山クーロワール:刹那の雪面に記した情熱 | 映像作

バックカントリーへの情熱と手つかずの雪山が”ひとつになる”映像プロジェクト『Local Exploring』の第2作。八海山に記録された人と自然の雪山ドキュメンタリー。
Written by Takumi Nagai
読み終わるまで:8分公開日:

「誰も滑ったことがない谷」

南魚沼市の象徴ともいえる山、それが八海山だ。急峻な斜面に新潟ならではの湿った雪が積もるため、斜度があっても滑ることができる面が多い。新潟は雪が重いとよくいわれるが、“雪が重く湿っているがゆえに雪の着きが良いこと”を、僕は逆手にとってスノーボードを楽しんでいる。
急斜面は山岳滑降の一番の魅力だと感じている。なかでも急峻な谷間に雪がたまる場所は魅力的だ。そして、八海山クーロワール。いつかは滑らなければと思い続けた場所だ。クーロワールとは山腹を上下に走る岩溝のこと。この岩溝に雪がたまり滑ることができるようになるのはシーズンの中旬のみで、2月末になると雪は悪くなり、岩溝内で雪崩が起きるため滑ることができなくなる。ほんの一瞬のチャンスしかないのが、八海山クーロワールなのだ。
2018年春 硬い雪を登る永井と腰越
2018年春 硬い雪を登る永井と腰越
■2018年2月 下旬
この年は雪が本当に降らなかった。最後の降雪のチャンスと、自分たちのスケジュールを考え、アタックすることにした。この時は様々なことが初めてのため、何の事前情報もない。とにかく自分たちの経験をフルに活かしての行動をしなければならなかった。まずはどのルートから登るか。そして、僕たちは麓から上り詰めるという選択をした。それが山岳滑降の基本中の基本だからだ。
朝4時に集合し、ヘッドライトをつけ登り出す。思ったよりも雪が硬かった。前日の新雪はどこに…。やがて夜が明けてきた。いつもよりも近い距離にある八海山クーロワールに圧倒された。雪が予想以上に固く、アイゼンをブーツに履いての登行になった。正直、予想を大きく上回る硬さに苦戦していた。
2018年3月春のチャレンジで細い尾根を登る腰越一秋
2018年3月春のチャレンジで細い尾根を登る腰越一秋
クーロワールの中腹についたとき、時間とのバランスや雪の硬さなどを考慮して、このアタックは失敗とし、一度退却せざるをえなかった。僕たちの予想とはまったく違う雪質、行動可能な時間に山岳滑降の難しさを痛感した。正直ここまで滑ることができない雪質にしばらく出会っていなかったので、この日の敗退は僕の中で山岳滑降を考える大きな転機となった。
八海山の象徴的なクーロワール。 10年以上前から、いつかは滑りたいと思っていた場所
八海山の象徴的なクーロワール。 10年以上前から、いつかは滑りたいと思っていた場所
■2018年 秋
ビデオカメラマンと僕は秋の紅葉を楽しむための登山をしながら、八海山のロープウェーを使い、八海山クーロワールへアクセスする方法がないかを模索した。登山道から角度を変え、何方向かをチェックして、僕は上からアプローチする方法があることを確信した。
■2019年2月 中旬
去年の教訓から学んだ全てのことをクリアし、上部からアタックすることにした。週間天気予報はアタック先日まで雪、当日は晴れの予報だった。八海山クーロワールの斜面は南東なので、日射の影響を受けるとすぐに雪が重くなる。これを避けるためには早朝から行動しなければならない。今回のアタックには避難小屋を利用し山の中で1泊することを選択し、各方面への連絡や届出を行なった。
2019年2月末六日町八海山スキー場のロープウェーを使って斜面へアクセスすることを選択した
2019年2月末六日町八海山スキー場のロープウェーを使って斜面へアクセスすることを選択した

のし掛かる重圧、そして迎えた朝

六日町八海山スキー場のロープウェーで荷揚げを行い、小屋へ寝袋や食料などを運んだ。雪に埋没した小屋を掘り起こすのはひと苦労あったが、無事に小屋の戸を開けることができた。小屋の中は広く、夜を過ごすに十分な快適さがあった。ひと通りの支度をしたところで外を見ると一瞬の美しい夕焼けが現れた。
夕焼けをずっと見ていたかったが、夜を過ごす準備をしないと。本番は明日なのだ。暖をとるため、夕飯は鍋に。日が暮れると時間感覚が変わり、まるで夜が更けていると錯覚するほどの闇がそこにはあった。外はまだ小雪が舞っていた。低気圧が日本を抜ける際に最外各部で起す風が、闇とともに僕たちのハートにプレッシャーをかけてきた。
夜は仲間同士、次はどこを滑りたい、どんな板を作りたいなど、話は尽きなかった。しかし、昨年のアタック失敗から情報を共有あう時間は、明日へのプレッシャーとなり皆を緊張させた。僕は昨年の教訓をもとに、八海山クーロワールを滑るための板を作るなど、ありとあらゆることに時間を費やし準備を整えていたから、なおのこと緊張した。
束の間の癒しの時間。夕焼けを見ながら翌日のアタックに向けて心を鎮める
束の間の癒しの時間。夕焼けを見ながら翌日のアタックに向けて心を鎮める
早朝4時、アラームが小屋に鳴り響く。
起きなければという気持ちと、眠っていたい気持ちが入り混じる。だが現実と向き合わなければ。まずはガスストーブに火をつけ朝食の準備だ。湯を沸かし、暖かい物を飲み、胃を温める。ウェアを着込み、ブーツを履き、登る準備をして小屋の外に出る。早朝5時の気温は肌を刺すようだった。
無線機の電源を入れ、麓で準備しているドローンパイロットと連絡を取る。ヘッドライトの明かりだけを頼りに目的地へと進む。雪は放射冷却で湿気が抜け、羽毛のように軽かった。夜空がだんだんと薄れて、淡いピンクの空へと変わってきた。八海山は冬の間毎日のようにいる場所だが、このような色の空や景色は見たことがなかったので、まるで初めての土地に来たかのような新鮮な気持ちになった。
完全に夜が明けた頃、目的地がハッキリと見えてきた。さて、どこからどのようにアプローチをするか。最終的には急斜面を慎重に横切り、裏側に取り付き、最後は急斜面を直登する選択をした。ただ、ここで忘れてはいけない重要なことがある。それはイヌワシの営巣を邪魔しないことだ。
滑る予定の斜面を単眼鏡で覗き込む永井
滑る予定の斜面を単眼鏡で覗き込む永井
八海山の急峻な崖にはイヌワシが生息しており、僕たちのような騒がしい動物が彼らのテリトリーに入った場合、ストレスを与える可能性がある。中越森林管理署のイヌワシの保護に関する資料を読み、理解し最大限の配慮をした上で目的地への到着を目指した。大声を出さないようにし、迅速な行動をした。上空を見渡してもイヌワシらしき鳥は飛んでいなかった。
途中、氷の斜面にエッジを食い込ませながら1人ずつ、安全を確保しながら進む。安全といっても下界の安全ではなく、常にギリギリの安全なのかもしれない。最後の急斜面の下に全員集まり、その斜面をよじ登る。そして登りきると、そこには予想通りの斜面が僕たちを待っていた
日の光が入り込み、雪質が悪くなる前に滑りたい。素早く、そして確実に準備をする。同行しているビデオグラファーは少し高い位置に移動し、俯瞰で映像を撮る。アシストガイドは万が一に備えた準備をする。ライダー3名は誰が最初に滑るかをジャンケンで決めた。麓のカメラマン、ドローンパイロットも準備が整った。

いざ、八海山クーロワールへ!

実際に滑った斜面の俯瞰。予想通りの急斜面。雪崩に気をつけながら滑り込む永井
実際に滑った斜面の俯瞰。予想通りの急斜面。雪崩に気をつけながら滑り込む永井
ドロップイン……。
予想通りではあったが、今までに経験したことがないような急斜面で一瞬にしてトップスピードになった。この日のために作った短く取り回しが良い、硬い板が僕に安心感を与えてくれた。トップスピードのまま、ターンを繰り返す。標高差約1000mを一気に滑り降りる。3分間全力で走ると、麓の安全な場所へ辿り着く頃には肩で息をするくらいだった。
滑り出しから見た南魚沼市内。見慣れない景色に新鮮な八海山を感じることができた
滑り出しから見た南魚沼市内。見慣れない景色に新鮮な八海山を感じることができた
残りの2名も各々のラインを刻み降りてきた。アシスタントガイドや同行したビデオグラファーも順次降りてくる。お互いに健闘をたたえ、安堵した。対面から撮影をしているカメラマンたちからも連絡が入り、良い絵が撮れたと報告を受けた。ここからは林道を目指し滑り、歩く。
帰路の途中は、カモシカやウサギ、ニホンジカに出会い、自然環境が豊かな土地だということを再認識する朝のひと時だった。この豊かな自然環境を後世に残しながら、新たなことに挑戦することの難しさを考える良い機会となった。
早朝のミッションを終え、僕はまた八海山でのバックカントリーガイドの集合地点へと向かった。
◆Author Profile
永井拓三(Takumi Nagai)
スノーボーダー / 山岳ガイド。20代前半はスノーボードクロスの選手として活動し、20代後半からスノーボーダーとしての活動をゲレンデから山岳地へと移行。山岳ガイドとなる。現在は山岳スキーやスノーボードの魅力を伝えるガイド活動やメディア露出に力を注いでいる。永井拓三 SNSアカウント:Instagram / Facebook
◆Special Thanks
【Videographer 】 Hayato Hoshino / Daisuke Sakuma / Naoya Otsubo
【Photographer】 Yoshito Yanagida
◆Information
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