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『平安京エイリアン』(1980年/電気音響)と聞いて「懐かしい!」という感覚になるのは、間違いなくアラフィフ世代のはずだ。何せ1980年にゲームセンターで話題となった作品なので、当時10歳だったとしても今年で47歳。ちなみに筆者は、このゲームを遊んだときは小学6年生だったが、それまで遊んできたゲームとは「まったく違う!」という印象だったのをよく覚えている。
本作を知らない人のために、ゲーム内容を簡単に紹介しておこう。平安京のような(碁盤の目状)のマップ内をエイリアンが闊歩しているのだが、そのエイリアンを全滅させればステージクリアーとなる。プレイヤーは検非違使(けびいし)を操作し、道路に穴を掘って落とし穴を作っていく。その穴にエイリアンをおびき寄せ、エイリアンが落ちたら這い出てくるまえに穴を埋め、倒していくというルールだ。
このゲームは東京大学の学生が作ったという触れ込みだったが、それを聞いて「やっぱり!」と大きくうなずいたものだった。当時のそれまでのゲームは、「敵を撃って倒す」のが当たり前だったし、それ以外の方法はないと思い込んでいたところに「穴を掘って埋めて倒す」というゲームが登場したもんだから、本当にビックリしたし、夢中になった。
攻略法としては、十字路の中心に立って四方に穴を掘っておく、という戦法がメジャーだった。その穴ににエイリアンが落ちるのを待ち、穴にハマッたら即埋めて再び穴を掘る……を繰り返していくだけでいい。ただこの作戦はひたすら「待ち」であるため、制限時間がある本作では、この戦法だけでは決してクリアできなかった。
また、本作を語るうえで忘れてはいけないのが、2人協力プレイである。それまでのゲームの2人プレイは交互ブレイが基本だった。たとえば『スペースインベーダー』の2人プレイは、自機がやられたらプレイヤーが交代し、もうひとりがプレイする番になる。いまとなってはこういうスタイルのゲームが皆無なのでピンとこないかもしれないが、当時はこれが当たり前のゲームシステムだった。
それが、この『平安京エイリアン』は、交互ブレイとは別に「2人同時プレイ」モードがついていた。当時、これがすごく新鮮なプレイ感覚で、何度も友だちと遊んだのを覚えている。
さて、そんな『平安京エイリアン』だが、じつはこれまで家庭用ゲーム機に移植されたのはゲームボーイ版とスーパーファミコン版のみだった。もっといろいろな機種に移植されてもおかしくない名作なのだが、少なくとも『平安京エイリアン』と名前が付いたコンシューマーゲームはそれっきり。
ファミコン版もありそうなのになかったのである。そもそも『平安京エイリアン』のオリジナルはパソコン版なのだが、それこそ時代が時代なだけにPC-8001版だったので、いまどきのWindowsで遊べるものではない。
「だったら、作ってしまおう」と、偶然にも時を同じくして立ち上がった2人のゲームクリエイターがいた。
そのうちのひとりは、FC/FC互換機版の『NEO平安京エイリアン』(9月7日発売/コロンバスサークル)を作った中潟(なかがた)憲雄氏。
中潟氏は、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)時代に『源平討魔伝』や『サンダーセプター』のサウンドを手がけ、『超絶倫人ベラボーマン』ではディレクターも務めたレジェンドクリエイターだ。
ナムコ退社後は『暴れん坊天狗』や、デジタルピンボールシリーズの『ラストグラディエーター』を作って世間をあっと言わせ、2002年に有限会社デジフロイドを設立、『仮面ライダー』シリーズや『よゐこの無人島生活』など、現在もゲームソフトウェアの企画・開発を行っている。
FC/FC互換機版『NEO平安京エイリアン』を作るキッカケとなったのは、コロンバスサークルとの出会いだったという。同社はテレビゲームの周辺機器を発売しているメーカーだが、『8bit MusicPower』シリーズや『キラキラスターナイトDX』をはじめ、また先日SFC/SFC互換機用『改造町人シュビビンマン零』をリリースしたように、レトロゲームの新作を発売する事業も行っている。
中潟氏はコロンバスサークルの社長から、「何か面白そうなタイトルありませんかね?」と訊かれたとき、すかさず「『平安京エイリアン』はどうですか?」と答えたという。それがとんとん拍子に企画が進み、『NEO平安京エイリアン』が実現したということだ。
なぜ中潟さんは「『平安京エイリアン』」と即答したのか。じつはゲームボーイ版『平安京エイリアン』は中潟さんがディレクターを務め、さらにオリジナル版『平安京エイリアン』を作った東大生プログラマーが中潟さんの義理の兄(!)というつながりもあり、このゲームにははとくに思い入れが強いという。
今回のFC/FC互換機版『平安京エイリアン』では、オリジナルアーケード版を忠実に再現したモードはもちろんだが、アレンジモードが大きな売りだ。追加仕様や隠れ仕様、隠しコマンドなど、いかにもな要素がギッチリ詰まっている。
そして豪華レジェンドクリエイターの参加も見逃せない。キャラクターを手掛けたのは小野"Mr.ドットマン"浩氏だし、サウンドは中潟氏自身をはじめ、川田宏行氏や細江慎治氏といった元ナムコ勢、そして『女神転生』シリーズの増子津可燦氏、元コナミのTECHNOuchi氏、、さらにはヨナオケイシ氏や塩田信之氏、BUN氏、東海林弘憲氏など、ゼイタクすぎるメンバーが参加しており、聞き応えがありすぎる音楽となっている。
◆ ◆ ◆
さて、時を同じくして、別の切口で『平安京エイリアン』リメイクを手掛けたクリエイターがいた。マインドウェアの市川幹人氏である。
同社はここ最近、1980年代前半のレトロゲーム移植を精力的に行っており、2016年にはSteamで『宇宙最大の地底最大の作戦』や『SPACE MOUSE 35th Anniversary edition』をリリース。いずれの作品も工学社発行のパソコン雑誌『I/O』に掲載されて爆発的な人気となったゲームがオリジナルだ。
この1980年代レトロパソコンゲームをリメイクしていく中で、市川氏が次に目を付けたのは『バグファイアー』だった。これも『I/O』に掲載された人気PCゲームで、同時のパソコン少年たちの間でかなり流行した作品だ。市川氏は本作の権利を獲得し、「よし移植だ!」という段階で、作者からこんな話を聞いてしまう。
「この『バグファイアー』は、『平安京エイリアン』を超えるぞ!という意気込みで作ったんです」
ここで市川氏は考えた。だったら、『バグファイアー』より先に『平安京エイリアン』を移植・リメイクするべきではないか、と。急遽方向転換し、開発中だった『バグファイアー』を一時中断して、『平安京エイリアン』に取りかかることにしたのである。
Steam版『平安京エイリアン』(9月上旬発売/マインドウェア)は、こちらもオリジナルモードとアレンジモードが入っている。アレンジモードは2つ用意されているが、配信開始時に収録されているのは1つだけで、もう1つのアレンジモードは後日アップデートで搭載される予定だという。
最初から収録されているアレンジモード『平安京エイリアン3671』は、穴を掘ってエイリアンを埋めて得点を稼ぐ、という基本システムはそのままに、大幅なアレンジが施されている。5分間という制限時間でどれだけスコアを稼げるかという内容で、オリジナル版のように面クリアー式ではない。
2体倒すごとにレベルと得点倍率があがり、レベルが5の倍数に到達すると穴を掘る速度がアップする。移動時にグルッと囲むように壁へ色を塗ると得点になり、ゲーム開始時に埋まっている7つのアイテムを掘り当てるとこれまた得点と、あれやこれやと点数を稼ぐ要素が劇的に増えている。5分というテンポのいいゲーム性もあって、つい「あともう1回!」と何度も遊んでしまう魅力がある。
試作段階である程度の手応えを感じた市川氏は、商品化のために『平安京エイリアン』の権利窓口である中潟氏に連絡をした。ここでようやく、お互いが同時期に別のハードで『平安京エイリアン』を作っていた事実を知るのである。
何という偶然であろう。レトロゲーム界隈で仕事を続けていれば、いずれは『平安京エイリアン』を作るタイミングが両者にきたかもしれない。だが、まさか同時に作っているとは……これを奇跡と言わず何と言おうか。
お互いのゲームを遊んでみてどう感じたのか、それぞれに訊いてみた。
「Steam版のアレンジは、タイム制や4人同時プレイにしたことで、ゲームとして別な面白さが出てますね。操作性も超クイックでもはやOLD平安京のテイストはなく、追加仕様もてんこ盛り(笑)。いい意味で期待を裏切る究極進化版と言えますね」(FC/FC互換機版開発 中潟氏)
「FCのハードを今の技術 / 技法で使いこなしたサウンドはもちろん、『源平討魔伝』以降も日本を舞台にしたゲームを造られている中潟さんプロデュースらしさが出てますね。正当派日本アートをファミコンで再現し、アーケード版同様のステージクリアー式が落ち着きます! 帰宅してから毎晩少しずつクリアーしていきたいですね」(Steam版開発 市川氏)
今回あらためてオリジナル版『平安京エイリアン』を遊んでみたのだが、やはり斬新なゲームデザインだ。その魅力は色あせることなく今もなお輝いている。
FC/FC互換機版『NEO平安京エイリアン』は2017年9月7日発売、Steam版『平安京エイリアン』は2017年9月上旬リリース予定なので、ぜひ両方ともプレイしてみてほしい。
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