クルマが欲しい!
……っていう意見、割と日常でよく聞く。
「若者のクルマ離れ」だなんて嘘だ。
最新のエコカーには食指が動かない。「通っぽい、オシャレ」と言われたい。「俺の愛車だ!」と胸を張りたい。
おっと。せっかく愛車を手にするなら、女の子にも好評な一台を。お迎えに行ってドン引きされないこと。これ、マストである。
そんなワガママを並べ立てても、お金は極めて限られている。
だからといって、諦めるのはまだ早い。時代が平成からまた次の世代へと移り変わろうとするいまこそ、90年代の傑作品、“平成クラシック”があるじゃないか。
たとえば、
日本を代表する2ドアクーペである2代目トヨタ・ソアラ(Z20型)。
【必見】当時のCM映像はこちら!
マルミオートにポツンとたたずんでいた、1990年式(平成2年式)の個体なんて、お値段ズバリ79万円のお手頃価格で、まさに"平成クラシック"にドンズバだ。
数千万円でもさほど見向きもされず、半年も経てばもう型落ちになってしまう最新のスーパーカーや高級SUVよりも、ずっとクールな選択肢である。
では、本題。
まずはいきなりこちらのショートクリップで、いかにこのソアラがイケてるかを実感いただきたい。
◆◆2018年の街をゆくソアラ(Z20)◆◆
1分
Toyota Soarer Short Clip
すごくカッコイイことが伝わったのではないだろうか? ではここからは、そんなソアラが今こそイケてる訳をタップリと語ってみたい(絶対読んでネ)。
このソアラがイケてる、5つの理由
【その1】大人たちが憧れた高級車
スマホの最新ゲームには疎くとも、ソアラを知らない大人はいない。
それほどソアラはビッグネームだった。レクサスの台頭に伴って今でこそ途絶えた名前だが、もともとはメルセデス・ベンツSLクラスやBMW6シリーズと真っ向勝負するための、トヨタの一大勝負として生まれたクルマだ。日本人の誰もがその大和魂に惚れ込んだ。
90年代当時、若者には身分不相応などと言われたりもしたが、今じゃそんな心配をする必要もなし。堂々と日本を代表するフラッグシップクーペを味わえる。現代でいうところのレクサスLC500といっても大げさじゃない存在なのに、どこか愛くるしい雰囲気すら感じるのが平成クラシックならではのレトロフューチャー感である。
純然たる温度で言えば最新ユニクロ製フリースのほうが暖かいけれど、同じ値段で選ぶのなら当時のブランドモノのコートをメルカリでポチって冬の季節をエンジョイする。
どこからかスキマ風が吹き込んでも、きっと脳内温度は高いはずである。
【その2】当時モノのエアマックスみたい
エンジンがうごめいているのに、車体に振動を一切伝えないってヤバいかも……?
これが自動車黎明期から高級車にのみ許されたストレート・シックス(直列6気筒エンジン)だ。一次振動、二次振動および偶力振動を完全に打ち消すことができるから物理的に振動が発生しなくて云々……という技術解説はさておき、この絹のような感触は病みつきになりそうだ。
それに、初代からのTCCS(エンジンコンピュータ)、ECT(電子制御オートマ)、TEMS(電子制御サスペンション)、エレクトロマルチビジョン(マルチAVシステム)や、2代目からのスペースビジョンメーター、エアサスなどの技術は、現在のトヨタ車にも進化しながら採用され続けていることを忘れてはいけない。つまりクルマオタク的には「伝統と革新が同居した」クルマ。
いざ語り出したら止まらなくなるほどネタには困らないが、残念ながら「メカを語りすぎて引かれるのを阻止する」リミッターだけは装備されていない。
【その3】縦列駐車が一発でキマる
高級クーペだからといって、仰々しく接したり腫れ物を触るような扱いをする必要はない。
エンジンは実用車然とした耐久性を持っているし、インテリアに繊細なレザーとかアルカンターラを使っているわけでもない。なんといっても、モケット張りのルーズクッションシートは最高の癒し。多少のくたびれた感じをダメージジーンズのごとく"味"と割り切れば、軽自動車のようにガンガン使い倒せる実用性を持つ。もちろんオートマでイージードライブである(一部に5速マニュアル設定もある)。
イイ感じの旧車なのに、中身はきちんと現代レベル。だから乗り手が我慢するも必要はない。この辺の絶妙なさじ加減も、平成クラシックの魅力である。
それに、今、あらためて日本のストリートへ持ち出すと、とても小さく感じる。ボディが5ナンバーサイズのうえに、真四角のボディは簡単に見渡せて、自分の手足になったような錯覚を抱く。4人ならば長距離移動もできそう。
前席と後席が完全に遮断されて会話のない広大なミニバンに乗るくらいなら、程よく車内がタイトなソアラで乗員全員が仲良くなれそうなソアラのほうが幸せかもしれない。
【その4】モケットソファーでインベーダーゲーム!?
イマドキのカフェみたいな洗練された空間とはひと味もふた味も違う。
強いて言うなら昭和の喫茶店風情だ。
ぶ厚いモケットソファーを連想させるシートや、インベーダーゲームみたいなデジタルメーター(スペースビジョンメーターという)。そしてユーミンかサザンを流したくなるカセットデッキ、ドンと居座る大型の灰皿など。
そのどれもが昭和の名残を色濃く残しつつ、徹底的に未来を見据えたかのようなレトロフューチャー感を感じる。
そしてその空間が妙に落ち着くのである。
イマドキのカフェにありがちな、ちっぽけな硬いパイプ椅子に座って紙コップのコーヒー片手にモバイル機器を触るのではなく、ぶ厚いソファーに座ってブルーマウンテン飲みながら時間を忘れて世間話する。これぞ昭和の喫茶店的美学である。
【その5】綿棒でエンブレムを掃除したくなる
最新のレクサスLC500や日産GT-Rのオーナーが漏らしていたことがある。
「走りは確かに最高だけどね。キーの作りやボタンの操作感が、ヴィッツやマーチと同じなんだよね……」と。
平成クラシックならそんなことはない。
スペック表に表現されることのない微細な部分に伝統工芸品的魅力が詰め込まれている。
例えばボディ色が上下で異なるツートンカラー、
わざわざソアラだけに設えられた専用エンブレム、
テールランプの中に刻まれた車名やグレードのロゴなど。
すべてにちょっと時代を感じ、でもコダワリが感じられて面白い。
ライトを点けてブレーキ踏むと、もう後ろ姿全面が真っ赤に。HIDやLEDなどがない時代、電球だけでどこまで豪華に彩れるか、といった苦心の跡がうかがえる。
大量生産されたトヨタ車でありながらも、どこか人の作った温もりを感じさせるから不思議だ。
【結論】フェラーリよりもインスタ映え!?
独断と偏見タップリでソアラをアレコレ見てきたけれど、何よりもこの時代の、少々くたびれて枯れた感じのソアラを、イマドキの若者が颯爽と乗りこなしていたら最高にクールである。
数千万円の高級車が買えないから……と、ネガティブな意識でいる必要はまったくない。
まかり間違って宝くじが当たってポンっとフェラーリ買っても、そのヴィジュアルと性能に飲み込まれて、狭苦しい都内でどこか窮屈そうに「クルマに乗せられている」よりも、古着っぽく自然体でソアラを着こなして渋谷だ原宿だに乗りつけたら、きっと、最新型フェラーリよりもインスタ映えするシーンになるはずだ。
今回の個体、グレードは2.0GTだから、ソアラの中では割とベーシックな仕様だ。この上には2.0GTツインターボとか、3.0GTといったさらなるゴージャス&パワフル仕様も存在した。とはいえ、ベーシックといっても安っぽい雰囲気はどこにもなく、性能にしても必要充分。軽快に気持ち良くストリートを流せるのは新鮮な再発見だった。
ちなみに「少々くたびれて枯れた感じ」といっても、今回の個体はけっこうな極上モノ。でも、消耗品交換などちょっと手をかけてあげるだけで、さらに見違えそうだ。
ひと昔前のクルマを相棒にする魅力は、単に昔をなぞらえるだけじゃない。平成クラシックが平成クラシックじゃなかった時代の鮮度にまで蘇らせたくなる。
なにより、ハナから色あせているからこそ(失礼!)、今後もっと色あせていくことなんてない。貴方のこのソアラは今後いつまでも変わらぬまっすぐなボディでカッコいいのである。これもまた、買った時が何もかも最高潮で、あとは状態や価値、ともすれば愛着まで目減りしていきそうな最新のスーパーカーや高級SUVとは違うところ。
そんな付き合い方って、生まれ年の高級時計をオーバーホールしながら毎日使っているような、自分のモノ選びにコダワリが感じられてカッコいい。
平成クラシックは自分と共に成長できる、良き相棒になれそうである。
だから、もう一度いう。
若者よ、今こそ平成クラシックに乗れ、と。
(おしまい)
■取材協力
『MARUMI AUTO』(http://www.marumin.com/)
◆平成クラシックス
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