T-Pain
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ミュージック

Auto-Tuneの歴史を作った名曲 ベスト7

1990年代に登場したAuto-Tuneは、それ以降のポップミュージックをがらりと変えた — あらゆるジャンルでの活用例を7つの名曲を通して振り返ってみよう。
Written by Emma Madden
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地球物理学者として石油会社で数十年間働いてきたAndy Hildebrandがディナーパーティで退職後のセカンドライフについて意見を交換していた時、彼はその後の人生に起きる変化を全く予想していなかった。
独創的な発想を持つ数学者でもあったHildebrandは、そのキャリアの大半を石油会社での地震データ解析に捧げてきた。彼は “自己相関(オートコリレーション)” として知られる解析法を用いて海上から海底へ音波を送り、その反響を記録していた。
しかし、長年を石油探査に捧げてきたHildebrandは、突如としてT-PainCherEiffel 65などが大ヒット曲を生み出す手助けをすることになった。
一体どうやって?
実は、この自己相関が「Auto-Tune / オートチューン」誕生のきっかけになったのだ。ソフトウェア企業Antares Audio Companyによって製品化されたこのプラグインは、Hildebrandが特許を所有している。
そのディナーパーティーで、ある友人が「自分の歌を補正してくれるデバイスはないかしら?」と冗談を言ってから数カ月後にHildebrandが編み出したAuto-Tuneは、音程の揺れているサウンドを最も近い高さへ補正する機能を備えていた。
1997年のNorth American Music Conferenceで初公開されたAuto-Tuneは、その直後から静かなブームを巻き起こし、その後20年に渡って音楽に変革をもたらし続けている。今回は、Auto-Tuneの歴史を形作った7つの名曲を紹介しよう。

Cher「Believe」

Auto-Tuneがリリースされると、音楽業界全員が飛びついた。
このプラグインはスタジオの作業時間を短縮し、最小限の作業で楽曲に美しい輝きを与えることができたため、1997年のサウンドクオリティはパーフェトになった。そして、さらに良いことに、音楽を新しい方法で高めていたこのプラグインの存在は気付かれていなかった。
その存在を気付かせたのが、Cherだった。
電話越しのように聞こえる音声エフェクトをTVで知ったCherは、1998年のダンスアルバム『Believe』で似たサウンドを再現したいと考えており、プロデューサーのMark Taylorは、そのアイディアを実現するプラグインを持っていた。
しかし、それがあまりにもラジカルな製品だったため、TaylorはCherのリアクションを案じていた。
サビ前の「sad that you’re leavin’」をCherは揺れるヴォコーダーボイスで歌っているが、これはプラグイン生みの親であるHildebrandでさえも予期していないAuto-Tuneの使い方だった。そして、それまでAuto-Tuneは知られていない存在だったが、「Believe」によって、このプラグインが持つロボット的な壮麗さが世に広まった。
Taylorは、Auto-Tuneの音程補正スピードゼロに設定することで、音程の自然な移行をギクシャクとさせ、まるで扇風機越しに歌っているようなサウンドを実現した。これは、Taylorがひた隠しにしておきたいトリックだった。

Eiffel 65「Too Much Of Heaven」

ちょうど数十年前にエレクトリックギターがロックンロールを変えたように、Auto-Tuneは1990年代後半のダンスミュージックに変革を起こした。Jimi Hendrixがエレクトリックギターで成し遂げたのと同じ革新を、Eiffel 65がAuto-Tuneでやってのけたのだ。
Eiffel 65をヒット曲「Blue(Da Ba Dee)」で記憶している人は間違いなく多いはずだが、この曲は、Eiffel 65がその後に残した楽曲の大半を定義づけることになるAuto-Tuneサウンドの始まりだった。
2000年にリリースした「Too Much Of Heaven」で、Eiffel 65はAuto-Tuneをダンスミュージックの外側に持ち出し、ラップにAuto-Tuneをかけた最初のミュージシャンとなった。
Auto-Tuneの効果を引き出すために彼らは意図的にフラットな音程で歌い、期せずして、Auto-Tuneをヒップホップ / R&Bに応用する新たなムーブメントの先駆者として名を残した。

T-Pain「I'm Sprung」

2003年、Faheem Rasheed Najm(現在はT-Painとして知られる)は、初めてAuto-Tuneを手にした。入手当初の使用は控え目だったが、T-PainはAuto-Tuneを真に個性的に使いこなした最初のアーティストと言えるかもしれない。
現在Red Bull TVで『Remix Lab』のホストを務めるT-Painが2005年にファーストシングル「I’m Sprung」をリリースした際、そのサウンドは完全なオリジナルに聴こえた。
2009年の『Seattle Times』のインタビューで、初めてAuto-Tuneのエフェクトを耳にしたのはJennifer Lopezの楽曲だったと振り返っているT-Painがこのプラグインを使い始めた理由のひとつは、その特徴的なサウンド(2000年からしばらくの間、Auto-Tuneを活用した楽曲はほとんど存在しなかった)で、もうひとつの理由は、「自分が決して歌の上手い人間ではないことを自覚していたから」だ。
「I’m Sprung」は斬新だったが、同時に非常にエモーショナルでもあった。しばしの潜伏期間を経て、Auto-Tuneはついに流行の最先端へ躍り出た。

Kanye West「Love Lockdown」

Kanye Westは、2008年にリリースした4枚目のアルバム『808s & Heartbreak』で、Auto-Tuneに名声をもたらした。
それまでサンプリング(主にソウルミュージック)を中心に据えた音楽制作をしてきたKanyeは、長年の恋人との別離や実母の不慮の死を経て、メロディへの傾倒を強めていた。また、Kanyeは自身の苦痛をひとつの楽器として使いたいと考えていた。その助けとなったのが、Auto-Tuneだった。
T-Painに会うためにハワイへ向かったKanyeは、Auto-Tuneのサウンドが自分の傷心と共鳴することに気付くと、Auto-Tuneで実験を繰り返した。その結果が、『808s & Heartbreak』のリードシングル「Love Lockdown」だ。
Kanyeは、Auto-Tuneの助けを借りて驚異的な音域をカバーしながら、金属質なヴォイスとトラディショナルなドラムサウンドを並置することで、異様だが印象的で、切ないほどにリアルなサウンドを生み出し、自身の苦痛を表現した。

Britney Spears「Womanizer」

Britney Spearsが2009年にリリースしたアルバムには、それまでの彼女が抱えていたプライベートな苦しみはほとんど見受けられない。
Britneyが6枚目のアルバム『Circus』をリリースしたタイミングは、折しもアンチAuto-Tuneムーブメントの台頭と重なっていた。YouTubeやトーク番組にはAuto-Tuneへの揶揄が溢れ、Jay-Z「D.O.A(Death of Auto-Tune)」と題したシングルをリリースした。
しかし、Auto-Tuneを全面的に使用したBritneyのシングル「Womanizer」は1999年のデビュー以来初となるUKナンバー1ヒットを記録した。
ポップミュージック業界が自分に与えた影響について歌う彼女のヴォーカルは人間的なタッチが適度に排除されており、Auto-Tuneに新鮮でフラットな感情表現を与えていた。

Black Eyed Peas「Boom Boom Pow」

チャートのミュージックトレンドを目ざとく自分たちのものにしてしまうことで知られるBlack Eyed Peasは、BritneyがAuto-Tuneを使ってヒットを生み出したのを見て、「Boom Boom Pow」と題した未来的なトラックをリリースした。
レトロフューチャー的なクリシェを多用しつつ、リリックの中で “that future flow, that digital spit(未来的なフロウ、デジタルなスピット)” と主張するこの楽曲では、Auto-tuneが最大限使用されていた。
ともあれ、彼らはこの曲でグループ初のUKナンバー1を獲得し、Auto-Tuneが依然として幅広い大衆にアピールすることを証明した。

Bon Iver「Woods」

Auto-Tuneとオルタナティブミュージックが邂逅したのは、この曲が初めてではない。
Auto-Tuneをオルタナに取り入れた最初のバンドは、2000年リリースの『Kid A』でこのプラグインを控えめに使用したRadioheadだが、Bon IverのAuto-Tune活用法はポップミュージックのトレンドに絶大なインパクトを残した。
Bon Iverのデビューアルバム『For Emma, Forever Ago』は、完全にアコースティックで、苦悶を帯びた哀歌と共に彼の傷心が詰め込まれている作品だが、奇妙なAuto-Tuneトラックで終わる。
「Woods」スローなAuto-Tuneプリセットで、 “I’m up in the woods, I’m down on my mind” という歌詞が繰り返され、そのサウンドは、倦怠や悲しみ、ヒステリアの果てにある現実を変容させたものだ。
Bon IverのAuto-Tuneは、「Womanizer」に近いフラットで非人間的な響きだが、その組み合わせ方は唯一無二と言える。
生々しくアコースティックな楽曲にAuto-Tuneをわずかに加えるBon Iverの手法は、James BlakeHow To Dress Wellをはじめとする後続のオルタナティブポップ系ミュージシャンたちに影響を与え続けている。
また、あのKanye Westも、2010年のアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』で「Woods」をカバーした。