F1
F1マシン:馬力の進化の歴史
F1 2026シーズンは世界最高のレーシングドライバーたちが新エンジンを積んだ新マシンを駆っている。そのパフォーマンスに大きな影響を与える “hp” にフォーカスし、その歴史や他のカテゴリーとの違いを見ていく。
F1はモータースポーツの頂点に位置しているが、その理由は世界最高のレーシングドライバーたちが競い合っていることはもちろん、F1マシンがそれぞれ異なるところにもある。各チームは最速マシンを生み出すという技術戦争を戦っているのだ。
このような戦争が存在するのは、F1が純粋なスポーツとしてだけではなく、より優れた市販車を生み出すためのテストスペースとしても機能しているからだ。また、F1は競技の再編と技術革新の促進を目的として数年ごとにレギュレーションを変更している。2026シーズンは、統括団体FIAとF1が史上最大級のルール変更を行い、よりクリーンでより高速でより耐久性の高いエンジンの開発が義務づけられた。
そこで本記事では、エンジン、つまりパワーユニットについてより詳しく見ていくことにする。
01
馬力とは?
馬力(Horsepower / hp)とは出力単位で、エンジンが出力できるパワーの大きさを表す。スコットランド人エンジニアのジェームズ・ワット(1736-1819)が、蒸気エンジンのパワーを馬のパワーと比較するために考案した。
1馬力は1分間で250kgを30cm動かせるパワーを意味する。F1における馬力はF1マシンのトップスピードと加速に影響し、大きければ大きいほど高速走行できるようになる。
しかし、複雑なことに、最近のF1マシンのエンジンはハイブリッドなので、馬力の半分が内燃機関(ICE)、半分が運動エネルギーから出力される。そのため、エンジンよりも “パワーユニット” の方が適切な名称であり、出力もキロワット(kW)に置き換えて表現されるときも少なくない。
ひとまずはトリビアとして、ワットの後継者たちが、馬力を考案した彼のにちなんでまた別の力の単位(ワット)をつけたことを覚えておこう。
02
F1マシンの馬力
F1グランプリで優勝するために、ドライバーたちは十分な馬力を得る必要がある。勝敗がコンマ数秒で決するF1では、パワーが劣るマシンは後塵を拝するからだ。
つまり、F1に馬力は不可欠なのだが、馬力だけですべてが決まるわけではない。高効率のパフォーマンスのためには空力も不可欠だ。たとえば、日本で開催されているスーパーフォーミュラで採用されているマシンの馬力はF1マシンの半分しかないが、優れた空力で大きなダウンフォースを得ているため、最高速度は320kmに達する。
そしてマシンを扱うドライバーも重要だ。マックス・フェルスタッペンのようなトップドライバーは、すべてのチャンスをものにして最高のパフォーマンスを披露できる才能の持ち主だ。2025シーズンの日本GPでの勝利は彼のキャリアベストのひとつに数えられているが、このレースの彼は、マシンが最速ではなかったにもかかわらず、見事なドライビングで順位を上げて勝利を収めた。
03
F1マシンの馬力の進化
F1のエンジンのレギュレーションは、75年に及ぶこのスポーツの歴史を通じてパワー・効率・サステナビリティを進化させてきた。
F1世界選手権初年度の1950シーズンと翌1951シーズンは、350馬力を出力できるスーパーチャージャー搭載1.5リッター・8気筒エンジンを積んだアルファロメオ158 / 159が圧倒的な強さを見せた。
それから15年後、1967シーズンのオランダGP(ザントフォールト)でF1デビュー戦優勝を飾った3.0リッター・V8エンジンのフォード・コスワースDFV(ダブル・フォー・バルブの略)とともにF1エンジンは飛躍的に進化していった。この強力なエンジンは155勝・12タイトルに貢献し、15シーズンに渡りF1で使用された。
フォード・コスワースDFVは、信頼度が高く導入も簡単なパワーユニットとして評価され、ロータス、マクラーレン、マトラ/ティレル、ウィリアムズのようなチームにワールドタイトルをもたらした。出力は400馬力に留まっていたが、その優れたデザインは1,000馬力超を実現できるターボチャージャー搭載エンジンのひな形となった。
04
ターボ時代
1970年代後半、フランスのルノーがターボーチャージャー搭載エンジンを考案したが、彼らがこの技術をものにするまでは2シーズンがかかった。
しかし、一旦ものにしたあとは圧倒的なパワーを発揮し、フランス人ドライバーのジャン=ピエール・ジャブイーユが母国フランスGPで母国チーム・母国製マシン・母国製エンジン・母国製タイヤで優勝。チームメイトで同じくフランス人ドライバーのルネ・アルヌーもフェラーリのジル・ヴィルヌーブとの接戦を演じたあと3位に入った。
ターボチャージャー搭載エンジンは1,000馬力を出力できたが、ターボ発動までのタイムラグが大きく、F1マシンを御しにくくした。結果、安全面が憂慮されるようになり、1980年代のF1ターボ時代は短命に終わった。しかし、その裏で自然吸気エンジン(NAエンジン)がターボエンジンとの差を詰めていき、2005シーズンには900馬力以上を出力できるようになった。
現在のF1パワーユニットはボア80mm・ストローク53mmの1.6リッター・V6ターボエンジンに電気モーター2基(MGU-K / MGU-H)を組み合わせている。MGU-Kは160馬力を追加で発生させ、MGU-Hはターボチャージャーを管理する。エンジン単体の出力は約840馬力で、効率とパフォーマンスが大幅に向上している。
05
小型化
F1が掲げる大きな目標のひとつは、市販車用高性能エンジンの開発だ。化石燃料の環境への影響と資源不足、さらには世界的な経済危機が考慮され、1,000馬力以上出力できるがより小型でより高燃費のパワーユニットの開発に向けた新しいレギュレーションが設定された。
2014年以降、F1は世界最高燃費のエンジンを使用している。ターボチャージャーを再投入しつつ、そこに洗練されたハイブリッドテクノロジーを組み合わせることで、1,000馬力超を達成している。
2014シーズンから2025シーズンまでのパワーユニットのサイズはフォード・コスワースDFVの約半分だが、2種類(運動エネルギー用と熱エネルギー用)のエネルギー回生システムが積まれている。また、電力で161馬力(120kW)を追加出力して、オーバーテイクやブロックに使用できる。
2026シーズンはさらなる向上が図られており、ハイブリッドパワーユニットの全出力の半分を内燃機関、残り半分を電力に規定することで、化石燃料の使用量を削減している。
06
2026シーズンのパワーユニット
F1エンジンのマニュファクチャラーはかつての約2倍に増えている。現在は、レッドブル・フォード・パワートレインズ、アウディ、フェラーリ、メルセデス、ホンダが製造しており、キャデラックも2029シーズンから内製を始める予定だ。
熱を動力源とするパワーユニットが、運動エネルギーからパワーを発生させるハイテクな電気モーター(MGU-K)に置き換えられた。この電気モーターは、クランクシャフトに接続されており、F1マシンのスピードが落ちたときに発生する運動エネルギーを集めて電気エネルギーに回生し、加速時にそのエネルギーをドライブトレインに追加で送り込む。
また、新たに “スーパークリッピング” も行われるようになっている。これは、ドライバーがアクセルをベタ踏みしながら、MGU-Kにパワーを回生させるテクニックだ。スーパークリッピングでは限界量までの回生はできないが、ドライバーが回生のためにいちいちスローダウンして自分のスタイルを崩してしまう心配がなく、燃費も高めることができる。
07
F1がレギュレーションとルールを変更する理由
第一の理由は、全チームがルールとレギュレーションを理解してしまい、マシンのパフォーマンス差が生じる余白がほとんどなくなってしまっていたからだ。ダウンフォースも極限まで高められ、スパ・フランコルシャンのオー・ルージュをはじめとするF1最高難度コーナーを全開で抜けられるようになっていた。
2025シーズンのマシンの性能差は1.4秒まで縮められており、同シーズンのイタリアGPでは、上位4台がそれぞれ0.4秒差以内にひしめき合っていた。
しかし、2026シーズンはパフォーマンス差が拡大しており、中国GPの予選は首位アンドレア・キミ・アントネッリが1分32秒64だったのに対し、最後尾セルジオ・ペレスは1分36秒906で、実に4.842秒差もついていた。
F1では技術革新が非常に重要なので、現行レギュレーションも「将来的に市販車にも搭載できる最高効率のMGU-Kの開発」のために施行されたと見ることもできる。たとえば、フォードはクーガとエスケープに2種類のハイブリッド(充電してパフォーマンス向上させるプラグインハイブリッドと、運動エネルギーを回生して燃費を向上させるハイブリッド)を用意している。
1998シーズンと1999シーズンのマクラーレンにドライバーズタイトル連覇をもたらすなど、数十年に渡り “勝てるレースエンジン” を製造してきたメルセデスは、パワーユニット時代のF1で先頭を走り続けている。
他の3チームにもパワーユニットを供給している彼らは、他のチームよりも多くのパワーユニットをサーキットに送り込むことで、開発に役立てられるより多くのデータとフィードバックを得ることができている。
しかし、他のチームもより大きな馬力を得るために日々努力を重ねており、たとえば、フェラーリのレーススタートはすでに最高レベルに達しており、レッドブル・フォードとアウディのパワーユニットもポテンシャルは高い。時間とともにパフォーマンス差は詰まっていくはずだ。
08
他のモータースポーツカテゴリーとF1の性能差
モータースポーツの各カテゴリーは特定のエリアを専門にしている。
性能比較
カテゴリー
車種
走行場所
エンジン
ターボチャージャー
ハイブリッド
出力
最高速度
市販車
フォード・クーガ / エスケープ
公道
2.5リッター・4気筒
なし
ハイブリッド(FHEV / PHEV)
190馬力・142kW(FHEV)
201km/h
WRC
フォード・プーマ・ハイブリッド・ラリー1
舗装路・グラベル・ダート
1.6リッター・ハイブリッド
あり
あり
500馬力以上 / 273kW以上
193km/h
ラリーレイド
フォード・ラプター T1+
ダート・砂丘・岩地
5.0リッター・V8エンジン
なし
なし
400馬力 / 300kW
180km/h
スーパーフォーミュラ
ダラーラSF23
レースサーキット
2.0リッター・直4ターボエンジン
あり
なし
550馬力 / 410kW
320km/h
NASCAR
フォード・マスタング
オーバルコース
5.0リッター・V8エンジン
なし
なし
700馬力 / 552kW
320km/h
インディカー
ダラーラDW12
オーバルコース / 市街地コース
2.2リッター・V6ハイブリッドエンジン
あり
あり(エネルギー回生ユニット:ERU)
750馬力 / 559kW
386km/h
F1
オラクル・レッドブル・レーシングRB22
レースサーキット / 市街地コース
レッドブル・フォードDM01 1.6リッター・V6ハイブリッドエンジン
あり
あり(MGU-K)
1,000馬力以上 / 745kW
370km/h
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