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どうすればゾンビゲームの陳腐化を防げるか
『Dead Rising 3』のエクゼクティブ・プロデューサーが、殺人ファンタジー、ハイレグ水着、『トワイライト』について語る。
「誰もが、こういうファンタジーの世界で生きたいと思うだろう。それが前提にあるんだ」
我々は暗い部屋で、カプコン・バンクーバーの Josh Bridge と話をしている。Xbox One のプレビューイベントが行われているこの場所は、ロンドンのワン・メリルボーンの地下だ。アーチ型の天井を持つ洞窟のような空間に、Xbox カラーであるグリーンの照明がぼんやりと灯されている。『Dead Rising 3』がホラーゲームだったら、これ以上に不気味な場所はないだろう。幸いにも 90 分のプレイでショッキングだったことといえば、次から次へと迫りくるゾンビの群れをいかに快適に粉砕し、赤と灰色の破片に変えてやれるかという点だった。
Bridge は本作のエクゼクティブ・プロデューサーだ。このイベントにやってきた他の関係者たちとは異なり、彼は我々とともに座って、歩く死人の街について詳しく語り、新しい奇妙なコンビネーション武器を紹介し、我々がその武器をゾンビの群に使ったときは、惨劇を眺めて一緒に大笑いをした。今回はいくつもの高レベル武器が序盤からアンロックされており、我々はバイクとロードローラーを組み合わせたような乗り物でゾンビをピザ生地のように引き伸ばし、ニンジャ武器のようなデュアルブレードの武器でゾンビを真っ二つにし、バイクのエンジンとボクシンググローブを組み合わせた『冒険野郎マクガイバー』風の武器でゾンビを殴り飛ばすことに忙しかった。もちろん Bridge はご満悦だ。彼には何かしら『ゾンビランド』に登場するタラハシーを思わせるものがあり、我々がゾンビどもをバラバラに解体していく様子を、実に楽しそうに眺めていた。
「ゾンビだから、というのはファンタジーにおける一つの逃げ道だ」 ゾンビの一団を即席の火炎放射器で燃やしていると Bridge はそう語った。「『法律がなかったら? ゾンビを殺したらどうなる? このゾンビを殺してもいいのか?』と誰もが考える。そこには動物的で、しかも何か面白いと思わせるものがあるんだ。このゲームではゾンビを使って、そういう感情を刺激するんだよ」
画面では、主人公の Nick Ramos がゾンビの一団を凍らせ、ハンマーで粉砕している。Bridge は再び笑う。
シリーズとしての『Dead Rising』の起源は、George Romero が 1978 年に手がけた映画『ゾンビ』にまで遡ることができる。ゲームの 1 作目でも、フォトジャーナリストの Frank West は、死者に占拠された典型的なショッピングモールに閉じ込められることになる。プレイヤーはわずか 72 時間以内に、生き残った買い物客を救出し、ゾンビ発生の謎を解き明かさなければならない。しかし開発にあたったカプコンはファンの予想に反して、『バイオハザード』シリーズのような狭い空間や厳しい弾薬数を選択せず、代わりに Xbox 360 の能力をフルに引き出して、可能な限り多くのゾンビを表示させる方針をとった。おかげでプレイヤーは、存分にチェーンソーを振るえるのだ。
このプラットフォームでは初めて、何百体ものアンデッドたちがゆらゆらと全方向から迫ってくる。プレイヤーは放棄された商店にあるもので様々な即席武器(解体ハンマーに巻きつけた消防斧、釘を巻きつけたプロパンタンク、インディアン・カジノの景品だった弓矢で飛ばすダイナマイトなど)を作り、その大群に立ち向かう。これが『Dead Rising』の本領だろう。世界の終わりであっても、人はちょっとしたことを楽しめるのだ。
しかし初代にもその続作にも、腹立たしいほどの欠陥があった。ウィラメッテ・モールでも『Dead Rising 2』のフォーチュン・シティ・カジノでも、隠れ場所から仮のセーフハウスに逃がそうしている生存者たちが、アンデッドの群に真正面から突っ込んでいくという悪癖があった。さらにボスといえば、イカれたピエロや悲しいほど愛に飢えたマスコットも含めて、ほぼ全員が正気を失った生存者だった。さらにカジュアルなゾンビ撃退ゲームプレイの中でボスの難易度だけが理不尽に強く、失敗する→ロード→失敗する→ロードを繰り返す羽目になり、バランス面でも問題があった。キャラクター面ではどうかといえば、カットシーンでの台詞は高校の演劇部が『ショーン・オブ・ザ・デッド』を演じたような有様だった。しかも侮辱的なレベルで。
Xbox One にゾンビ病を広めるにあたって、カプコンはこうしたクレームを真剣に受け止めた。『Dead Rising 3』では、他のスタジオであればそのまま使っていたであろうエンジンに、大幅なチューンアップを施している。声の演技においても、たとえばハリウッドのタレントや収録ディレクターを動員して、モーションキャプチャーや収録の監修に当たらせた。
「[声の演技]は改善したい点の一つだった。」と Bridge は正直に認める。「ファンではなく自分たちの目から見ても、[あれはマズかった]と感じていた。だから改善したかったんだ」
「以前は 1 人がブースで音声を収録し、1 人がモーションをやり、それを我々[デベロッパー]が何とか組み合わせていた」と彼は語る。「今回は複数の演技者が一緒に演技をして、同じサウンドステージで音声を収録した。結果として、より自然な演技と予想外のアドリブが実現したんだ。キャラクターがちょっとだけ死体を転がしてみるような感じとかね。予想外だったけど、それが実によかった」
だがそう聞いて、真面目くさったデヴィッド・ケイジ流のビデオゲーム表現を思い浮かべるようなら、それは想像力の不足というものだ。あるいは、多彩で愉快な『Dead Rising 3』のコスチュームを使ったことがないのだろう。
「演技は説得力のあるものにしたかった」と Bridge は語る。「あまりにも馬鹿げた状況でも、俳優たちはそれを信じて演技をしてくれた。リアルで説得力のある演技と、ハイレグビキニをはいた自分のキャラクターが登場するところをぜひ見てほしい。自分がうっかりゲームの中に写ってしまったような気分になるはずだ」
また、プレイの面でも次世代機に向けてファンからのフィードバックが反映されており、腐った指先でコアなファンを鷲づかみにしつつも、より一般的なゲーマー層にもアピールできる内容となっている。最初の 2 作品においてプレイヤーは、ゲーム内の時間に沿って動くことを強いられた。ウィラメッテ・モールで発生した感染の真相はフランクが特定イベントの時間に間に合わなければ消えてしまうし、『Dead Rising 2』のチャック・グリーンは、愛娘ケイティーに与えるゾンブレックス(感染の拡大を防ぐことのできる特効薬)を手に入れるために何度もゾンビ殺しから離れなければならなかった。とはいえ大半のプレイヤーにとって、残酷なタイムリミットは一騎当千の乱戦にさらなる緊張感をもたらすものだった。『Dead Rising 3』の「Nightmare Mode」でもタイムリミットの緊張感を楽しめるが、Bridge によると、この実装にあたってはデベロッパーの間でも議論があったという。
「[プレイ仕様の決定]で最大のものは、タイムリミットだ。なにしろ本当に賛否両論だったからね」と Bridge は言う。「チームの中でも『好きだ』という連中と、『ふざけるな! 俺は自由が欲しいんだ』という連中に分かれていたんだ」
『Dead Rising』の伝統にそういった変更を加えるのは、当初かなり乱暴な決断だった。Microsoft が 6 月に E3 でプレゼンテーションを行ったとき、『Call of Duty』側に寝返ったのかという叫びが巻き起こった。それはかつて『バイオハザード』や『デッドスペース』といったシリーズが、売り上げのために独自性を削り落とし、大衆に迎合する方向に走ったことを思い起こさせたのだろう。しかしそれは方向転換ではなく進化だった。スムーズになった操作、よりフェアになったボス戦、そして圧倒的な数のゾンビがプレイヤーを待ち受けているのだから。当初の批判や、茶色と灰色の悲惨なほど地味なボックスアートにも関わらず、『Dead Rising 3』は新鮮なゲームだ。もっとも、登場するゾンビはこれまで以上にたっぷりと腐敗しているが。
ちなみに本作は 10 年目を数えるシリーズの 3 作目となるわけだが、ゲームソフトの3文の1がゾンビものという印象を受けてしまうほどゾンビゲームが多く出ている(ゾンビを撃つのであれ、 ゾンビから庭を守るのであれ、 飼いならしてカフェで働かせるのであれ)傾向がありますが、ゾンビゲームというジャンルそのものが腐敗してしまう危険性はないのだろうか? このジャンルの陳腐さの重みで大たい骨が裂け、膿んだ両足が潰れてしまうことはないのだろうか?
「ゾンビカルチャーには、ゲーム作品よりも長い歴史がある。 終息するものだとは思わないよ」と Bridge は言う。「『君ならどうする?』というシチュエーションには大きな魅力があるんだ。しかしプレイの面では、常に改良の余地がある。要素の面での進化は必要なんだ。たとえばヴァンパイアの話をしよう。好き嫌いは別として、『トワイライト』はヴァンパイアを題材にしながらも、ちょっとした要素を取り除き、ちょっとした新しい要素を取り入れ、見事なヒット作になった。今どきの観客をヴァンパイアに夢中にさせたんだ。何かを取り除いて少しばかり調整してやれば、誰でも非常に新鮮な作品を作れるんだよ」
「もう一つの要素は、我々が今暮らしている環境だろうね。社会的な不安、経済への不安… そこには『恐れ』や政府への不信がある。[こういうゲーム]は、一つのガス抜きだ。こういう作品は、ほころびていく世界を見据える窓なんだ」
というわけで、経済が再び破綻し、我々の社会が終わりなき略奪と暴力の渦に呑まれ、釘やバイクのエンジンやボクシンググローブを探し回るようなディストピア的未来を迎えたら… まずはこの記事を読んでほしい。
『Dead Rising 3』は Xbox One 限定で好評発売中だ。
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