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【MODとは?】ビデオゲーム改造カルチャーの影響

オンラインシューターのチートだけがMODではない。特徴や業界との関係などこのユニークなカルチャー全体について掘り下げていく。
Written by Yassin Hussein
読み終わるまで:11分公開日:
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MODとは?

「なぜ人はMODを作るのか?」と訊ねるなら「ではなぜ人はビデオゲームを作るのか?」と続けたい。
自分のイメージを体験に変えることは多くの人たちが望んでいることで、消費者からクリエイターへのごく自然な進化の一部でもある。
ビデオゲームにおいては、自分の経験や好み、クリエイティブなアイディアが「自分がプレイしたいビデオゲーム」を考えるきっかけになる。しかし、その中にはビデオゲームをいちから開発するのは気が進まず、既存の好きなビデオゲームのシステムを活用したいと思う人もいる。ここで登場するのがMODだ。
既存のフレームワークを活用することで、ビデオゲームの開発にさらに興味を持つことができる。ビデオゲームの開発にはすべてのステップにハードルが存在するが、MODでは開発チームがすでに用意した素材やコンセプトを使用できる。自分がいるステップによって異なるが、サンドボックスを作り上げるのが簡単になるのだ。誰かの研究所を訪れて、そこで研究を始めるようなものだ。
MODの中には、いくつかのちょっとした変化を追加してゲーミングエクスペリエンスを高めることだけを目的としたものが存在する。そこにはカラーパレットの入れ替えや背景アニメーションの変更などの小さなものから、ホラーゲームを笑えるものにするためのスプライトの変更のようなMODDER(モッダー / MOD製作者)たちが好む奇天烈なギャップなどが含まれる。
一方で、それらとは違うタイプのMODもある。一部のプレイヤーは、ベースがしっかりしていてモダンな機能が備わっているビデオゲームの中にまた別のポテンシャルを見出している。このようなプレイヤーたちが生み出しているのが、『大乱闘スマッシュブラザーズX』を『大乱闘スマッシュブラザーズDX』風に改造した『Project M』をはじめとするオリジナルとは完全に異なるバージョンとしてのMODだ。
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アクセシビリティ

MODの重要な機能のひとつがアクセシビリティだ。プレイヤーたちはすべてのシステムやボスのパターンを細かく学んだり、ハイレベルなバトルを繰り返したりする時間を常に持ち合わせているわけではない。
そのため、高難度のビデオゲームにアシストモードを追加すれば、学習の壁の高さに辟易してしまうプレイヤーたちが最後までプレイできるようになる。また、ミスの繰り返しは多くのプレイヤーにとって素晴らしい学習ツールになるが、そのような繰り返しを望んでいないプレイヤーもいる。
このようなアクセシビリティを高めるMODを通じて、プレイヤーたちはこれらが存在しなければ出会えていなかったストーリーや瞬間を楽しめるようになる。心配無用だ。容赦ないチャレンジが好きなら、デフォルトの高難度モードをプレイすれば良い。そのような人たちにMODは必要ない。
しかし、MODは “簡易化” のためだけに存在するわけではない。
年月を追うごとに状況は良くなってきているものの、ビデオゲームはまだすべてのプレイヤーに対応できていないので、コントラストをより明確にしたり、色ではなく形状によって完全に新しいシグナルを発信したりすることで色盲のプレイヤーたちをアシストするMODが存在する。同様に、シグナルをより大きな音で慣らして重要な局面をより明確に認識してもらえるようにしているMODも存在する。
MODは非常にオープンなシーンだ。よって、「このタイトルにあの機能があったらな」という意見が存在するときに、そのタイトルの開発チームがその機能を実装しなかったとしても、必要な知識を持った人がいるだけで実装させることができる。
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MODの影響

MODはビデオゲーム業界のイノベーションに不可欠な存在だ。実際、世界で最も有名なビデオゲームの一部は、MODがなければ誕生していなかった。既存のビデオゲームのシンプルなMODとしてスタートしたビデオゲームは多い。
『Dota』『Team Fortress』『カウンターストライク』『Gary’s Mod』はそれぞれのジャンルを長年に渡って定義づけてきたタイトルだ。このような金字塔的タイトル群は、プレイヤーたちが何かを現実に存在させたいと思ったことで誕生した。このような作品群を私たちの元へ届けてくれた才人たちは、最初は私たちと同じようないちプレイヤーだったのだ。
先ほど、『スマブラ』の大型MOD『Project M』について触れたが、このMODは非常に活気のあるコミュニティを生み出しており、このコミュニティは自分たちの作品が新たな高みへ辿り着けるように定期的に対戦を繰り返している。
トーナメントシーンもこの『DX』と『X』のブレンドを高く評価している。プレイヤーたちがMODの開発を考えなかったら、シーンはここまで満足できるものを手にできていなかった。
『スマブラ』シリーズとMODの歴史は長い。多くのトッププレイヤーたちがトレーニングモードを追加するためにMODを開発している。そしてこれらには様々なQoL機能も備わっている。
そして、『DX』のトレーニング用MODの中にはひときわ奥が深いMODも存在する。それがゲームキューブ用エミュレータDolphinのMOD『Project Slippi』で、ロールバックネットコードを使用したオンラインプレイが楽しめる。最近、このMODはVIPユーザーのためのランクマッチベータテストをリリースした。
『DX』のリリースから20年後、右上がりで成長を続けるトーナメントシーン全体を受け入れられる環境が必要となり、この需要が革新的な開発に繋がったのだ。
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格闘ゲームとMOD

しかし、コミュニティの努力によってネットコードがアップデートされたレトロ格闘ゲームは『DX』だけではない。『Fightcade』もそのカタログの大半でロールバックネットコードを提供している。
パンデミックによって格闘ゲームコミュニティはロールバックネットコードが現代には不可欠だということを学んだ。
『Marvel vs. Capcom 3』のようなロールバックネットコードが備わっていない作品は、Parsecを仲介して良好な接続環境に近づけなければならないが、それでも不安定でバランスが悪い。一方、Slippiはプレイヤーたちに非常に良好なネットコードを提供することで『DX』コミュニティを再活性化した。
多くのプレイヤーたちに愛されてきた作品にロールバックネットコードが備われば、オフラインイベントも増えることになる。たとえば、『GUILTY GEAR Xrd』のロールバックネットコード実装が発表された【CEOtaku 2022】のあとに開催された【Frosty Faustings 15】では、このタイトルの参加プレイヤー数が大幅に増えている。
トーナメントのプレイヤーへの影響のひとつに、ルールセットの同意を形成してプレイ基準を設定することが挙げられる。デフォルトのルールセットが、よりシリアスにプレイしたいプレイヤーが求めているものではないときがある。この点において『Project M』のようなMODはプレイヤーたちと譲歩し合った。しかし、これは格闘ゲームに限ったことではない。
たとえば、MODとしてスタートしたシリーズ『CS:GO』は、ルールセットを小さなフォーマット用に調整したことで恩恵を得たトーナメントシーンのひとつだ。世界中で開催されている2v2トーナメントシリーズ【Red Bull Flick】では、2v2に適しているステージが作成できるMODが必要になった。
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AAAタイトルとMOD

自分たちが好きなゲームを限界までプッシュして独自の制約を用意したいと考えているコミュニティを抱えているタイトルは多いが、MODはそのようなコミュニティ内でさらに大きな存在感を放っている。彼らはアイテムドロップなどの特定の要素をランダム化できるMODを開発して自分たちに新たなチャレンジを課している。
AAAシリーズの『ゼルダの伝説』『ポケットモンスター』には、このようなランダム化されたバージョンをプレイ・視聴したいコミュニティメンバーが生み出したコンテンツが数多く存在する。
彼らは、アドリブと問題解決能力が問われるリニアなゲーミングエクスペリエンスに変化を加えてリプレイ性を大きく高めつつ、自分たちが大好きなゲームをユニークで新しいチャレンジが楽しめるものにしているのだ。このような変化が愉快な瞬間二度と再現できない独特のシーケンスに繋がっている。
そのような瞬間とシーケンスを手に入れる別の方法もある。マップの他のロケーションへランダムに移動できるワープや、ひんしのポケモンを落命として扱って使用を禁止する《Nuzlocke Challenge / ナズロック・チャレンジ》のようなユニークなチャレンジがそうだ。
『ポケモン』シリーズと言えば、ストーリーを変更するMODも人気が高く、オリジナルのフレームワークを使用して完全に新しいストーリーが用意されているものも少なくない。『ポケモン』シリーズのファンの多くは、オリジナルの設定とゲームプレイを楽しんでいる一方で、自分たちの頭の中にそれぞれのストーリーを持っている。結果、『ポケモン』シリーズには新しい地方やストーリーを備えているMODが無数に存在するのだ。
MODが開発されているのはAAAタイトルだけではない。クリエイティビティに対する制限がより少ないインディータイトルもオリジナルにアレンジを加えたいプレイヤーたちの連鎖反応を引き起こしてきた。
たとえば、リズムゲーム『Friday Night Funkin’ / フライデー・ナイト・ファンキン』は2020年にNewgrounds(Flash系投稿サイト)でデモがリリースされた直後に大きな話題となった。このタイトルの音楽的で高難度なアプローチがプレイヤーたちの共感を集めると、オープンソースだったことから次々とMODが開発されるようになり、彼らは独自のステージストーリー楽曲、そしてビジュアルを追加していった。
『Friday Night Funkin' / フライデー・ナイト・ファンキン』

『Friday Night Funkin' / フライデー・ナイト・ファンキン』

© Newgrounds

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才能の循環

MODとしてスタートしたあとゲーミングのリーダーまで成長したタイトルをいくつか紹介したが、ひとつ明確に分かることは、MODは「プレイヤーの方が開発チームより優れている」という不遜な考えを示すものではなく、尊敬と感謝を示すものだということだ。
また、この尊敬と感謝の気持ちは両サイドが備えているべきものだ。なぜなら、実際は、ビデオゲーム業界もMODからかなり多くの恩恵を得ているからだ。彼らは、MODからだけではなく、MODの開発に取り組んでいる人たちの個人的な成長からも恩恵を得ている。プレイヤーが消費する側ではなく作る側に回ることで、業界必須のスキルが身につくのだ。
そのスキルには、実際の開発だけではなく、情報の検索と公開のスキルも含まれる。MODDERたちは自分たちの興味を深く掘り下げながら、自分たちのポートフォリオを作成することで、積極的に自分たちを人気開発者へトランスフォームさせている。ビデオゲームの開発現場は経験を非常に重視しているが、MODDERたちは彼らが求める経験を積み続けている。
MODDERが人気開発者となった実例を挙げよう。先ほど触れた『DX』のトレーニングMODだが、その中のひとつ『20XX Tournament Edition』の開発者は、最も人気の高いインディータイトルのひとつとして知られる『ドキドキ文芸部!』の開発者でもある。
このタイトルは200万本を売り上げており、拡張版も2週間で50万本以上を売り上げた。そして、ファンたちは新しいストーリーやルートを追加してこのタイトルをさらに先へ進めている。
ちなみに、キャラクターたちのルックスに騙されてはいけない。このタイトルは気の弱い人には向いていない。本当だ。
ドキドキ文芸部!

ドキドキ文芸部!

© Team Salvato

年を追うごとに開発チーム側もMODを受け入れるようになってきている。たとえば、『Rivals of Aether』の開発チームはSteamワークショップ内のキャラクターをプレイアブルキャラクターとして使用できるようにしている。また、ベセスダに至っては、家庭用ゲーム機でもMODをプレイできるようにしている。
MODはゲーミング業界を成長させる方法のひとつだ。実際、ここから誕生したビッグタイトルの数を踏まえれば、成長の最大要因のひとつと言っても良いだろう。MODDERたちは多様なバックグラウンドを有しているが、彼らをひとつにまとめている大きな要素は、全員がビデオゲームを愛しているという事実だ。
ビデオゲームからインスピレーションを得て、自分なりのバージョンを作ること以上に感謝と愛情を示す方法はないのではないだろうか?
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