プロフェッショナルあるいはアマチュア・アスリートであるかどうかに関わらず、スポーツにおける目標設定の重要性はすでに知っているはずだ。
また、「ベストを尽くすよう努力する」といったあいまいな意志よりも、具体的な目標設定こそがモチベーションを飛躍的に高めることもおそらく知っているだろう。
目標は、臨機応変に対応し、意識を集中させ、辛抱強く取り組むことによって実現される。これら3つを組み合わさると行動全体に変化が起き、目標達成が可能になるのだ。
しかし、自らを奮い立たせる具体的な目標を設定しても、目標が達成できない時があるのはなぜなのだろうか? 新年に立てた "一年の計" の効果を高めるためには、どうすれば良いのだろうか?
1. 比較的高い目標を設定する
「多くの人が陥ってしまいがちな間違いは、高すぎたり、逆に無難すぎたりする目標を設定してしまうことです」と語るのは、スポーツ心理学者・ヘルス&エクササイズコーチのバーナデット・ダンシーだ。
「理想的なパフォーマンスを発揮するためには、オーバーリーチ状態(パフォーマンス向上を狙って意図的に過度なトレーニング負荷をかけること)になる必要があります。身体を目標に適応させて強化していくのです」
「目標設定にも同じことが言えます。自分を背伸びさせる、 “ストレッチゴール" が必要です。したがって、自分には少し手が届きにくいと思えるような目標を設定した方が、よりモチベーションを維持しやすいですし、達成感も得られます」
「ここで難しいのは、適切な難易度の設定です。簡単すぎると興味を失ってしまいますし、難しすぎればタフなトレーニングセッションについていけなくなる恐れがあります」
2. 過去のパフォーマンスを見直す
では、設定した目標が適正かどうかをどのように判断すれば良いのだろう?
ダンシーは、ランニングやスイミング、サイクリング、ウエイトリフティング、全体的なフィットネスレベル向上などでは、過去のパフォーマンスを振り返ることが次の目標設定に役立つとしている。
「過去に達成した内容を見直してみましょう。それを達成するためにどれだけの時間がかかったでしょうか? そのあとで、少し難しい、ハードワークをすれば達成できる目標を設定してみましょう」
「自分だけではパフォーマンス評価が難しい場合は、コーチにアドバイスしてもらいましょう。優れたコーチは、過去のパフォーマンスから伸びしろを予測してくれます」
3. “SMART” を基本にする
目標設定の際は、“SMART” という5文字を念頭に置いておくと良い。
Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Attainable(達成可能)・Realistic(現実的)・Timely(時間的)の5要素を満たす目標、つまり、 "具体的で、測定可能(数値化できる・判断できる)で、達成可能で、現実的で、時間や期限が定まっている目標" を用意すれば、モチベーションを維持しながら達成できるようになる。
しかしダンシーは、この5要素だけでは十分でない場合もあるとし、「モチベーションを最適化するためには、目標設定のプロセスで考慮すべき要素がいくつかあります」と語る。
ダンシーは、目標設定の際に先に説明したSMARTの5要素に加え、以下の要素を考慮することで、最高の目標を達成できるとしている:
- 目標の種類を理解する
「目標には、結果にフォーカスした “アウトカムゴール” と、過程にフォーカスした “プロセスゴール” の2つがあり、どちらも不可欠です」
「アウトカムゴールは、レースで目指すタイムや順位、ポジションなどを意味します。これは非常に具体的な長期目標です。一方、プロセスゴールは1日単位で設定するような、小規模でより達成可能な短期目標です」
「プロセスゴールの積み重ねによって、アウトカムゴールを達成できる可能性が増します」
- 専門家のアドバイスを仰ぐ
「自分で目標を設定することに問題はありません。おそらく目標は達成できるでしょう。ですが、過程を報告する相手がいないと失敗する可能性が高まります」
「自分ひとりで設定した目標や、他者に設定された目標よりも、コーチや専門家と一緒に設定した目標の方がモチベーションを維持しやすく、成功につながりやすいという研究結果が出ています」
- 自分にご褒美を与える
「適切な目標を設定すれば、かなりハードに努力してその目標を達成しようとするはずです。その際は必ず自分にご褒美を与えるようにしましょう」
「ハードワークを認識・評価することが、自信を深め、モチベーションを維持するためには必要です」
- テクノロジーのフィードバックを活用する
「テクノロジーが発達した現代は、Stravaをはじめとするパフォーマンス管理アプリのおかげで進捗の確認が便利になっています」
「このようなアプリでは心拍数・リカバリー・最大酸素摂取量(VO2 max)・ペース・スプリット・筋力への負荷・最大リフト量など、あらゆるデータが得られます。ですが、アプリの機能をどれだけ活用できているでしょうか?」
「ハードトレーニングのデータをソーシャルメディアに公開する人が増えていますが、問題は、そのデータを見せられても、こちらからは本人が目標に沿えているかどうか分からないという点にあります」
「データを確認したり、フィードバックを得たりする時は、自分の設定した目標(アウトカムゴールとプロセスゴールの両方)に沿って活用することが重要です。こうすれば、目標へ向かってモチベーションを維持できるようになるでしょう」
4. 柔軟に考える
「トレーニングデータが基準値を下回っている、またはトレーニングに適応できていない時は、がむしゃらに無理をしても効果はありません」
「自分の感覚に従い、短期的なプロセスゴールを定期的に見直してみましょう。体調が優れない、怪我を抱えている、または疲労が溜まっているなら、1日のトレーニング量を軽めにして、次の6週間の目標設定を見直してみましょう」
「短期目標を修正しても、最終目標を達成できなくなるわけではありません。むしろ、その正反対です。短期目標を柔軟に修正すれば、最終目標達成の可能性が高まります。当初のプランに拘り続けると、深刻な怪我やオーバートレーニング、“燃え尽き症候群” に陥るおそれがあります」
目標設定における柔軟さの必要性を熟知しているのが、レッドブルアスリートのケイティ・オームロッドだ。
スノーボードワールドカップで金メダル獲得経験を持つ彼女は、英国代表チームに選出されていたが、トレーニング中にかかとを複雑骨折してしまった。治療に専念することになった彼女だが、英国代表として活躍するというメインの目標は変わらないままだ。
ケイティは「わたしの最終的な目標は英国代表としてメダルを獲得することですし、すでに2022年へ向けて集中しているわ。4年なんてあっという間だから、それまでにマスターしておきたいトリックを先回りして練習しておかなきゃいけないわね」と語っているが、深刻な怪我のため、短期目標を大きく変える必要に迫られた。
「かかとを骨折したあと、メンタルへの負担がかなり大きかったから、短期目標を大量に用意して、ひとつずつ乗り越えていく必要があったの」
「最初は、歩行できるようになるためのリハビリを目標に設定して、歩けるようになったあとは、筋力強化トレーニングを目標に設定したの。タフなトレーニングを乗りきるモチベーションを得るために、具体的なジムワークを目標に設定したわ」
「長期目標はスノーボードへの復帰。これはリハビリを通じて意識している。目標を設定すれば、プッシュし続けるための強い意志が得られるけど、予測できない出来事が起きるから常に変化するの」
「これまでかかとを7回手術したけれど、術後の短期目標は毎回ルーティンね。痛みを和らげ、歩き方を学び、痛みを伴わない歩き方を学び、筋力を取り戻し、走る方法、ジャンプの方法を学ぶというプロセスを踏むの」
「あとは、物事をありのままに受け止めることも学んだわ。短期目標では、オープンマインドでいることがメンタルとフィジカルの大きな助けになる。そうしないと、目標に囚われて行き詰まってしまい、自分をプッシュできなくなるの」
バーナデット・ダンシーはスポーツ心理学の博士号を取得しており、行動変化に関する専門知識を有している。現在はヘルスコーチとして活躍中で、プレッシャーの大きな職種やスポーツ、または人間関係からくるストレスや極度の疲労に悩む人に生活習慣のアドバイスを行なっている。
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