車を改造するという行為は、自動車愛好家たちの意見を二分する。車を懸命に開発・設計したエンジニアたちへの冒涜行為と捉え、そのルックスやサウンドも見苦しいと眉をひそめて断じる人々がいる一方、スラムド(車高を極端に下げる改造。日本で言うところの “シャコタン” とほぼ同義)やスタンス(極端なネガティブキャンバーを4輪すべてに施す改造。日本で言うところの “鬼キャン” とほぼ同義)を愛車に施すことはそのドライバー個人の生き方の表現であり、膨大な時間と投資によって自分なりの理想のマシン像を表現しているのだという意見もある。
こうした改造車の愛好家たちは、このカルチャーをさらなる高みへと押し上げつつある。スタンス・カスタムが施されたフェラーリなどという前代未聞のマシンが登場している、このシーンが見せる洗練ぶりは控えめに言っても素晴らしい。
この進化ぶりに俄然興味を持った我々は、英国の改造車シーンの実情を知るべく、ジョーダン・クラークという人物を訪ねてみることにした。クラークは改造車カルチャーをテーマにしたアパレルブランドSlammedUKのオーナーで、スタンスカー・イベントGravityを毎年主催している。今回はクラークにこのカルチャーの源流や、英国が世界で最もホットな改造車シーンを抱えている理由、このシーンへの入り方などについて話してもらった。
改造車シーンは、どこが発祥の地なのでしょう?
これは僕の意見だけど、このスラムドやスタンスといったカルチャーの源流はすべて日本にある。Bosozoku(暴走族)は日本のアンダーグラウンドなストリート・ギャングで、彼らは自分たちの車に奇抜でクレイジーな改造を施していたんだ。彼らは日本の警察にとってはちょっとした厄介者になっていたようだけどね。彼らはとにかく自分たちが目立ち、他人とは違う存在であることを主張できるユニークな車を仕立て上げることに没頭していて、「シャコタン」と呼ばれた常軌を逸した改造もそうしたカルチャーを下敷きにして生まれたんだ。Bosozokuのルーツは第二次世界大戦の終戦直後に遡る古いものなんだけど(※編集部注:あくまでクラークさんの見解です)、今の英国で人気を博しているスラムドやスタンスシーンにそのようなルーツはほとんど引き継がれていない気もするね。
ヨーロッパでは、エンジンベイやボディワークをなるべくスムースにして、ホイールはタイトにフィットさせ、クレイジーなオフセット量と扁平タイヤ、エアサスペンションを装備することが重視されている
あとは、日本車の改造車/チューニングカー・シーンを米国流に解釈した映画『ワイルド・スピード』シリーズの影響も大きいと思う。米国では日本から輸入されたニッサン・スカイラインが高い人気を誇っていて、エンジンごと交換してパワーアップを図る改造なども流行している。一方、ヨーロッパでは、エンジンベイやボディワークをなるべくスムースにして、ホイールはタイトにフィットさせ、クレイジーなオフセット量と扁平タイヤ、エアサスペンションを装備することが重視されているね。
では、特定の車だけが対象になっているわけではないのですね?
思いつく限りのあらゆる車がワイドなホイールと扁平タイヤを装着し、車高を下げているよ。ショーカーや改造車を作るときは、誰もがこれまで誰もやったことのないようなことをやろうとするか、これまで改造されたことのない車を使おうとするんだ。決して簡単なことではないけれどね。より良いホイールやよりワイドなホイール、車高がさらに低い車、もっと大きなエンジン、もしくは極端に小さな車などを使って、なんとかライバルを出し抜こうとしているんだ。でもこれは健全な競争だと思うし、楽しみながら他人とは違うことをやろうとしているだけさ。あまりに他と違い過ぎる車を仕上げてしまうと、嫌われてしまう時もあるけど、それでも注目を集めることには変わりない。
ホイールのリムがフェンダーアーチに接触してしまうこともある
どんなアイディアを元にクレイジーな角度でホイールを装着しているのでしょう?
ホイールを外側にオフセットして、たっぷりとキャンバー角を付ける時は、どれだけタイトに装着できるか、もしくはどれだけ低い車高で走らせることができるかという点が大事になってくる。ホイールのリムがフェンダーアーチに接触してしまうこともあるよ。でも、これは日本ではより見られるスタイルだよね。英国やヨーロッパでは、フォルクスワーゲンなどをベースにできるだけ真っすぐにホイールを装着するケースが多い。だから、ホイールはほぼ直立状態のまま、アーチ内に完ぺきに収まっている。クローム処理が施されたBBSタイプのホイールを使ってね。
これまであなたが見てきた中で、最も奇妙な改造が施された車は?
旧型のランドローバーの屋根部分を完全に切り飛ばして、さらに超小径ホイールに換えて文字通りボトムが路面に接触しそうになっている車を見たことがあるよ。また、フェラーリ348をワイドアーチに改造して、アーチギリギリにワイドなホイールを装着している車もあった。個人的には、みんなを唖然とさせるような改造車はとてもクールだと思っている。
極端な改造は、オリジナル車への冒涜だと考えたことはありますか? それとも、このような行為はフェアだと思いますか?
個人的には、スーパーカーを買った人がエアサスペンションやワイドな大径ホイールを装着しているのは好きなんだけどね。予算があれば、僕もそうするよ。ランボルギーニiを新車で購入して、エアサスペンションで車高を落として、ワイドなホイールを装着するのが夢だね。僕はこういう行為が好きでたまらないけど、その一方で大嫌いだと考える人々が沢山いることも理解している。
エアサスペンションとは何ですか?
僕らのシーンで一般的なサスペンション・パーツの一種さ。Air Lift PerformanceやAirREX、AccuAirなど複数のブランドがこのような専用キットを発売しているんだ。
Snoop Doggのミュージックビデオで見かけるようなものでしょうか?
あれはハイドロさ。あの飛び跳ねるような動き(ホッピング)を可能にするにはハイドロと呼ばれる油圧式サスペンションが必要なんだ。1967年型インパラのような車を所有していたら、こういう改造をやってみたくなるだろうね。対するエアサスペンションは、その名の通りエアバッグ内の空気圧を操作するものなんだ。
中古のディーゼル仕様のフォルクスワーゲン・ボーラ(ごく普通の没個性的な4ドアセダン車)を手に入れて、それをスラムド仕様に改造するとします。あなただったらどんな改造を行いますか?
手順は人によってそれぞれだろうけど、僕ならまずサスペンションから手をつけるね。車高調整に適したスプリングもしくはエアサスペンションを買って、他の人ならおそらく選ばないような個性的なホイールを見つける。ディッシュタイプやレーシングタイプ、ロータータイプ、1552(編注:改造車に適した個性的なデザインの鍛造ホイールを数多く発売するブランド)など、魅力的な選択肢がたくさんある。足回りの作業が終われば、次はチューニングを見ていく。まずは、その車にチューニングする価値があるかどうか見極めなきゃね。でも、ディーゼル仕様のボーラだったらあまりエンジン周りをいじれる余地は少ないから、そのかわりに大型スポイラーを付けたりするといいかもしれない。もしくは、普通のボーラとはかけ離れた個性的で目立ったルックスにするだろう。ただ、フォルクスワーゲンの改造はみんながひと通りやり尽くした感じもあるから、誰もやったことのない改造を施すのは難しいだろうね。
英国でこのような改造を依頼するとしたら、どのようなスペシャリストやガレージがおすすめでしょうか?
エアサスペンションを得意とした職人やガレージは英国にもいくつか存在する。中でも、Car Audio SecurityはAir Rideに関しては英国で右に出るものがいないほどのガレージだ。とはいえ、The Performance Companyもワイドボディキットやエキゾースト、CPUチューンまで幅広く手がけているので甲乙つけがたいね。
これまでの英国では、改造車への世間の評価は必ずしも良好なものではなかったと言えます。通常、改造車と聞けば、世間は青色のシトロエン・サクソのギアノブを電飾仕様にしたものなどを思い浮かべます。状況は変わりつつあるのでしょうか?
改造車の流行は常に変化している。僕が改造車の世界に身を投じてからまだ3、4年ほどしか経っていないけど、僕が始めた頃と比べても、流行は完全に変わっているよ。今年流行しているのは、大型のスポイラーやワイドボディキットだね。あらゆる種類の車に、通常のレースカーでも考えられないほどの巨大なスポイラーを付けたり、ボルトオンで装着するワイドなホイールアーチを付けたり、多彩なカラーリングやラッピングを施したりしている。これが今年の流行スタイルなんだけど、この流れは来年以降も続くと思う。かつて一世を風靡した『Max Power』(編注:1993年に英国で創刊し、第一次チューニングカー・ブームのきっかけを作った自動車雑誌)の時代への立ち返っているような感じだ。1990年代とはまた違った進化を遂げながらね。
世間は改造車に対する偏見を改め、「カスタムメイド」として認識すべきだと思いますか?
一般の人々は改造車と聞けば、ネオン電飾仕様のフィアット・プントやシトロエン・サクソから流れる大音量のカーステレオなどをいまだに思い浮かべるだろうけど、それは今の改造車シーンとは程遠いものだよ。もちろん、そういうイケてない連中もいまだに絶滅せずに残ってはいるけど、僕が没頭しているシーンはそれとはまったく別のものさ。僕らが扱っている車は本格的なショーで披露するためのもので、地元のMcDonald’sの駐車場で目立つためのものではないんだ。僕がこんなステレオタイプな発言をするのもなんだか変な話だけど、実際そうなんだよね。
沢山の女性が参加していて驚いた
今の改造車シーンはすごく特別でカスタムメイドな側面が強いと言えると思う。彼らは貯金をはたいて、友達と一緒に週末を過ごしながら、自分だけの車を仕立て上げているんだ。改造車は、彼らにとって愛情や情熱の対象そのもので、一生をかけて取り組んでいる。僕がこのシーンに参加した時は、沢山の女性が参加していて驚いた。ショー・イベントでは、16歳の少年と60歳の老人が1台の車や1組のホイールについて会話をしている場面を見かける。彼らは年齢を超えて同じ興味を共有しているんだ。これって素晴らしいことだと思うよ。
英国の改造車シーンは、どれほどの盛り上がりを見せているのでしょう?
英国の改造車シーンはヨーロッパ最大だね。ルクセンブルクやベルギー、フランスやドイツのシーンもかなり盛り上がっているけど、やっぱり英国が最大だと思うよ。
自分の車につぎ込んだ改造費の総額は?
使おうと思えば何百万ポンドでもつぎ込めるけど、自分のやりたい改造と予算のバランスを考えなきゃいけないよね。車を買ってホイールを交換するだけで満足する場合も多いと思う。ホイールだけにしても、1セットで500ポンド(約6万3,000円)から5,000ポンド(約63万円)までピンキリだ。でも、今は色んなパーツが市場に出回っているし、ローンを組むのもありだからね。エアサスペンション・キットは3,000ポンド(約38万円)から5,000ポンド(約63万円)だよ。でも、0%金利のローンもあるから、手に入れるのは決して難しくない。質の良いマルチピースホイールを手に入れたいなら、3,000ポンド(約38万円)から4,000ポンド(約50万円)の出費を覚悟しなければならないけど、これも0%金利のローンがあるし、手軽に手に入れることができるんだ。
僕は500ポンド(約6万3,000円)ほどで中古のMazda MX-5を手に入れて、車高を下げてホイールを交換し、大型スポイラーを付けたけど、改造費は1,000ポンド(約12万7,000円)程度だよ。
高額をつぎ込んだ改造車が沢山あるけど、安く済ませようと思えばいくらでも安くできるものなんだ。僕は500ポンド(約6万3,000円)ほどで中古のMazda MX-5を手に入れて、車高を下げてホイールを交換し、大型スポイラーを付けた。改造費は総額1,000ポンド(約12万7,000円)程度だけど、僕はこの車に満足している。ひと夏の楽しみのようなものだけど、僕はそれを望んでいたんだ。この車をペイントし直して、ワイドアーチ仕様にしていたら、軽く10,000ポンド(約127万円)はかかっていただろうね。
改造車シーンに足を踏み入れてみたいと思っている人は、何から始めれば良いですか?
自分だけの1台を作り、ショーにも出してみたいと考えている人は、まず地元の改造車イベントに何度か足を運んでみるといいよ。英国だけじゃなく、ヨーロッパ全土でもこうしたイベントは数多く開催されている。入場料は15ポンド(約1,900円)から20ポンド(約2,500円)程度だし、気軽に足を運んでみてほしい。会場内をぐるぐると歩き回って、車のオーナーたちと直接喋ってみるのもおすすめだ。みんなフレンドリーだし、丹念に仕上げた愛車のことならいくらでも話してくれるはずさ。こうやって自分が仕上げたい車のイメージを掴んでいくんだ。みんながショーやイベントに足を運ぶのは、インスピレーションを得るためでもあるんだ。まずは地元のイベントに足を運んで、色んな人の話を聞きながら自分のイメージを固めていく。僕はこの方法をおすすめするね。