HYROXイベントのためにトレーニングをしている人、あるいは単純に自分のフィットネスをネクストレベルに高めたい人を問わず、ハイブリッドトレーニングは自分をプッシュして、バランスを取れた肉体を手に入れるのに役立つ。
HYROXチャンピオン / マスタートレーナーのジェイク・ディアデンは次のように語っている。
「ハイブリッドトレーニングに取り組むと満足感が得られます。なぜなら、ストレングスとフィットネスの強化を両立できるからです。私たちはどちらかに偏るときが多いですが、息を切らせることなく階段を上れるフィットネスがなければ、ストレングスがどれだけ優れていてもあまり意味はありません」
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HYROXとは?
HYROXを知らない人のために記しておくと、このコンセプトは非常にシンプルだ。HYROXとは、「1km走ったあとファンクショナルトレーニングメニューを1種類行う」を繰り返すレースで、ラン8kmとメニュー8種類で1レース完了となる。
HYROXは、サイクリング、マラソン、トライアスロンのベテランアスリート、クリスチャン・トーツケ(Christian Toetzke)と、オリンピックメダル3個を誇る元ドイツ代表ホッケー選手、モーリッツ・フュースト(Moritz Fürste)、そしてマーケティングのプロ、ミヒャエル・トラウトマン(Michael Trautmann)によって2017年に立ち上げられた。
それ以来、このトレーニング / レースは急速に人気を獲得しており、2023年にはロンドン、シドニー、台北などの世界各地で40レースが開催され、アスリート9万人・観客5万人が参加した。
ディアデンは、HYROXのメリットは、ルックスが指標ではないところとしている。HYROXは過去のレースとのパフォーマンス比較なので、自分がどれだけフィットできているのかが簡単に把握できる指標が手に入る。
以下に、HYROXのようなレースに役立つハイブリッドトレーニングについて解説していこう。
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ハイブリッドトレーニングとは?
ハイブリッドトレーニングとは複数の領域をトレーニングすることを意味する。
たとえば、世の中にはバイクライドをする人、ランニングをする人、ウェイトトレーニングをする人がいるが、ハイブリッドトレーニングでは、ランニングで有酸素運動に取り組みながら、ファンクショナルトレーニングメニュー全般に取り組んで全身をプッシュしていくことになる。このようなトレーニングはHYROXなどに効果的だ。
ハイブリッドトレーニングに取り組むと満足感が得られます。なぜなら、筋力強化とフィットを両立できるからです
ハーフマラソンより短い距離を走る程度の有酸素トレーニングは新陳代謝を活発にする。一方、ウェイトを使用するレジスタンストレーニングのようなファンクショナルトレーニングは、バランス、ストレングス、持久力を同時に鍛えることができる。
つまり、ハイブリッドトレーニングではほぼすべての筋肉に刺激を入れつつ、肺も鍛えることができるのだ。
ちなみに、余計な心配は不要だ。HYROXはトップレベルのアスリート専用ではない。自分と同レベルの参加者と一緒に自分のペースで参加することができるので、誰もがハイブリッドトレーニングの目標を設定できる。
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ハイブリッドトレーニングで筋肉を増やせるのか?
「有酸素運動は筋肉増強にはマイナス」という考えがある。ウェイトトレーニングだけにフォーカスする代わりにランニングも取り入れると、新しく得た筋肉量をランニングの燃料として消費してしまうので、身体を大きくすることができないというわけだ。
上記の考えは部分的には正しい。しかし、HYROXの参加者たちを見れば、レジスタンストレーニングと有酸素トレーニングを並行して行っても身体を大きくできることが理解できるだろう。
では、科学の世界ではどう判断されているのだろうか? ハイブリッドトレーニングはパフォーマンスを高めてくれるばかりか、全身のフィットネスと心肺系の健康維持にも役立ち、さらには怪我の確率を下げるという結果が出ている。
まず、2022年6月に『AHA Journals』で発表された研究では、81件の無作為比較試験の統計によってトレーニングの種類ごとの心肺系の健康に及ぼす影響を調べている。研究対象は4331人にも及び、その59%を女性が占めた。
この研究は、「複合トレーニングは最も効果的なモダリティ(手法)で、ハイブリッドタイプのトレーニングは、研究対象における心代謝的健康の向上において2番目に効果が大きかった」と結論づけている。
つまり、ハイブリッドトレーニングはHIIT(高強度インターバルトレーニング)よりも評価が高く、一定のペースのジョギングとシンプルなウェイトトレーニングの組み合わせは、心肺の健康を守ってくれることを意味する。
『British Journal of Sports Medicine』で発表された別の研究では、「プロアスリートが怪我を予防しながらより賢く、よりハードにトレーニングできるのか」というテーマに取り組んでいる。
この研究は “トレーニングと怪我予防のパラドックス” モデルを調査しており、時間をかけてトレーニングを強めながら、ワークアウトルーティンのバラエティを増やしていく(例:ハイブリッドトレーニング)ことが、全身のフィットネスの向上とストレングスの強化、怪我の予防に繋がるという考えを支持している。
ここまで読んでもまだ信じられないという人に、『Kurume Medical Journal』で発表された腕にフォーカスした研究を紹介しよう。
この研究では、3つの異なるコントロールグループ(統制群)に6週間に渡って週3回のトレーニングに取り組んでもらった。計測項目は握力、前腕屈筋・前腕伸筋の断面積、手の器用さ、指先のタッピングが含まれている。研究者たちは「ハイブリッドトレーニングは、健康的な男性被験者の手の機能に悪影響を及ぼさずに、前腕の筋力と筋肉量を増加させる」と結論づけている。
ディアデンは「ハイブリッドトレーニングでも筋肉を増やすことは可能です」と語っているが、注意点がひとつある。それは体内にカロリーを少し余らせておく必要があるということだ。ディアデンは次のように続ける。
「高強度で60分以上のトレーニングを行う場合は、セッションの途中でエナジーを補給してください。なぜなら、体内酸素は90分しか持たず、なくなってしまうと、身体が他の部分をエナジーとして使用しようとするからです。そしてこうなると、脂肪よりも先に筋肉が消費されるようになります。体内に炭水化物が残っていて、長時間になりすぎない限り、ストレングスは強化できます」
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ハイブリッドトレーニングプログラムの例
上記の通り、HYROXは1kmランと8種類のファンクショナルトレーニングを交互に行うという特徴から、近年非常に高い人気を獲得している。
より具体的に説明していこう。最初のファンクショナルトレーニングステーションでは、スキーエルゴでの1kmスプリントを行う。スキーエルゴは全身有酸素トレーニング機器で、おそらく多くの人がジムで見かけたことがあるはずだ。
そして次はウエイトを載せた50mスレッドプッシュで、さらに50mスレッドプル、80mバーピーブロードジャンプ、1kmローイング、200mファーマーズキャリー、100mランジ、75回あるいは100回のウォールボールと続く。
当然ながら、これらのステーションメニューに合わせてトレーニングを積んでいきたいところだが、ランニングもレースの半分を占めるので、しっかり練習しておく必要がある。
ディアデンは「まずはHYROXのすべてのメニューを快適にこなせるようになるべきです。そうすることで効率が高まります」と説明している。
尚、HYROXのメニューだけにフォーカスするのではなく、HYROXに必要な筋肉を強化できる他のメニューも取り入れたいという人のために、ディアデンはスクワット、デッドリフト、シングルレッグランジを勧めている。
まずはHYROXのすべてのメニューに慣れましょう。効率が高まります
「複合トレーニングメニューを大量に行うことを意識しましょう。スワップやデッドリフトを多くこなしましょう」とディアデンは続けている。彼を含むエキスパートたちは、HYROXデビューに向けて12週間の準備を推奨している。
また、トレーニングメニューは、10kmランのような中強度の有酸素運動、トレッドミルでのスプリントやスキーエルゴでのダッシュなどのより高強度の有酸素運動と、ベンチプレス、デッドリフト、スクワットなど全身の筋肉を鍛えられる複合メニューを中心としたストレングストレーニングをバランス良く組み合わせるべきだ。
ディアデンは、初心者はシンプルなトレーニングを心掛けるべきだとし、ストレングス20〜30分のあとコンディショニング20〜30分行うか、それぞれを別日に振り分けるかが良いとしている。
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避けるべきこと
すでに取り組んでいるストレングストレーニングにランニングトレーニングを別途追加するのは避けるべきだ。ディアデンは、このようなメニューはそれぞれを個別に行うだけで、ハイブリッドトレーニングとしての相互補完にはならないと指摘している。両方を調整して統合し、全体目標をクリアできるようにする方が効果的だ。
「私はストレングスに2日、ランニングに2日間費やしてスピードと持久力を高めています。ここにコンディショニングを1日足して、疲労が溜まっていても脚を動かせるようにしています。ひたすらより強くなることを意識しています」
このように語るディアデンは、最終的な成功のカギは弱点にフォーカスすることとしている。というわけで、ランニングが苦手なら、取り組んでいこう。バーピーを好きな人などいないので、頑張ってみよう。しかし、何よりも重要なのは楽しむことだ!
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