バーディーのブルリベンジャーは反応不可能

『ストリートファイターV』:入力遅延の影響

© Capcom

Capcomの最新格闘ゲーム『ストリートファイターV』の入力遅延の大きさが話題となっている。

入力遅延の大きさがゲーム自体を変えている
入力遅延の大きさがゲーム自体を変えている

先日、『ストリートファイターV』のトーナメントシーン界隈のソーシャルメディアは入力遅延(インプット・レイテンシー)の話題で大いに盛り上がった。入力遅延をテーマにしたいくつかのツイートがきっかけとなって連鎖反応が起き、トーナメントにおいてどんな影響を与えるのかについてシリアスな質問が飛び交っていた。

これまでも入力遅延は格闘ゲームコミュニティ(FGC)において非常に大きなトピックとして存在してきたが、今回の盛り上がりを見る限り、どうやら今後も存在し続けるようだ。これまで、入力遅延は基本的にはディスプレイやコントローラにまつわる問題として扱われており、その対処法が分かりやすく提示されていたのだが、『ストリートファイター』の入力遅延は別の問題を引き起こしている。

どんな問題なのか?

入力遅延(インプット・レイテンシー)とは文字通り、入力からゲーム内でアクションが発生するまでの時差のことを指す。つまり、その時差とはボタンが押されてからキャラクターが画面内で動き出すまでの時間であり、その数値が大きいほど遅延が大きいということになる。この数値は入力ごとに多少異なるが、基本的には似たような数値が記録される。入力遅延が発生する原因は複数存在するが、今回注目されているのは、ゲーム自体にデフォルトで組み込まれている入力遅延だ。格闘ゲームは60fps(フレーム/秒)で動作するように開発されており、プレイヤーもフレームが何を指すかを理解しているため、FGCでは遅延の数値がms(ミリ秒)で計算されたあと、フレームに置き換えられて表現される。

かつて、入力遅延はゲームのバージョンの違いがもたらすものとして扱われていた。最初に問題になったのは、『IV』のPS3版とXbox 360版の入力遅延の違いだった。PS3版は長年EVOで起用されており、トーナメントにおけるスタンダードになっていたが、実はXbox 360版の方が、PS3版よりも約2フレームも遅延が小さかった。タイトな入力が求められる格闘ゲームにおいて、2フレームも遅延が大きいPS3版は、Xbox 360版に慣れ親しんだプレイヤーのプレイを台無しにする恐れがあった。そこで、コミュニティはできるだけ遅延がないバージョンの使用を求めることになり、結果的にEVOはPS3版からXbox 360版に切り替えた。

その後、『ウルIV』のPS4版がリリースされた時も、コミュニティは入力遅延の問題に直面した。『ウルIV』のPS4版の入力遅延が約8フレームだったのに対し、Xbox 360版は約5フレームだった。これはプレイヤー側にとっては受け入れがたいフレーム差であり、CapcomはPro TourのトーナメントでPS4版を使用すると発表していたにも関わらず、FGCはトーナメントにおけるPS4版の導入を拒否。結果的にPS4版で修正パッチが配布され、Xbox 360版と同じ入力遅延に引き下げられた。

この一連の流れの中、入力遅延の差は大きな問題としてプレイヤーたちの前に立ちはばかり、「完全に違うゲームをプレイしているようだ」という発言が出た他、その遅延があまりにも酷いということから、「『ストリートファイター』をプレイしている気分にさえなれない」という発言も出るようになっていた。その差を理解したいという人は、Xbox 360で『ウルIV』を立ち上げ、トレーニングモードの設定でネットワークシミュレーションを3に変更してみよう。明らかに違うゲームになることが理解できるはずだ。

さて、『V』のPS4版に話を戻そう。修正後の『ウルIV』のPS4版の入力遅延が約5フレームだったのに対し、『V』のPS4版の入力遅延は約7~8フレームとなっている。他の家庭用ゲーム機版が存在せず、Capcomもこの遅延を修正していない今、この入力遅延は『V』にどのような影響を与えているのだろうか?

これまでの常識は通用しない

FGCは長年をかけて、格闘ゲームがどうプレイされるべきかについて様々なアイディアを生み出してきたが、そのすべては理想的な環境下でのプレイがベースになっている。入力遅延はタイトルによって異なるが、DisplayLag.comの調査により、入力遅延の平均値は5~6フレームであることが判明しており、HD系タイトルはこの数値を元にゲームプレイのスピードを調整している。まずは『ウルIV』を例に取って説明していこう。

PS4版の『ウルIV』の入力遅延は5フレームで、人間の反応速度は最速で11フレームとなっている。つまり、プレイヤーが何かに反応し、それがディスプレイに伝わるまでは最速で16フレームかかるということになる。また、キャラクターのアクションの発生にもそれぞれ時間がかかるため、実際には、10台後半から20台前半のフレーム数が経過したあとでキャラクターが動くことになる。もちろん、人間の反応速度に個人差はあるが、これが長年平均値として扱われてきた。

バーディーのブルリベンジャーは反応不可能
バーディーのブルリベンジャーは反応不可能

一方、『V』の入力遅延は7~8フレームなので、ディスプレイに伝わるまでは最速で18~19フレームとなっている。つまり、『V』と『ウルIV』では「最速」の定義が弱冠変わったことになり、キャラクターのアクションが発生するまでは最速でも20台前半のフレーム数が必要になっている。たとえば、バーディーのEX必殺技「ブルリベンジャー」などは発生までに25フレームかかる。これは『ウルIV』のプレイヤーならば余裕で反応できた数値だが、『V』ではほぼ100%の確率でこの必殺技をヒットさせることができる。なぜなら、キャラクターがアクションを発生するまでに最速で20台前半のフレーム数がかかる『V』では、25フレームというのは反応できるかどうかのギリギリの数値だからだ。ブルリベンジャーに対応するため、この技を出されたプレイヤーは素早いEXで反応してジャンプをしても、バーディーがEXハンギングチェーンを使えば、そのジャンプを捕まえることができる。もし、入力遅延が1~2フレームでも小さければ、このテクニックはハイレベルな対戦ではほぼ意味をなさなくなる。

これは『V』入力遅延による影響のひとつの例だ。入力遅延が大きくなるほど、相手の択攻めへの反応は難しくなる。また、相手の動きに対する反応が悪くなるので、相手との距離を完ぺきに保つのも難しくなる。更には相手のスカりにつけ込むのも難しくなり、対空の難易度も極めて高くなる。

現在、ハイレベルな対戦では上記のケースがすべて確認できる。リリース当初は、『V』は新しいゲームなので誰もが慣れようとしているだけだとプレイヤーたちは考えていた。ゲームデザインが変わり、誰もが間違ったアプローチを取っていると考えるのは当然の話だ。しかし、単純にそれだけでは片付けられないようなプレイが見られるようになると、全員の考えが変わってきた。たとえば、『V』のケンはこれまでなら簡単に刺し返されていたような攻撃が通用している。『V』では立ちの相手に対する飛び込みが圧倒的に有利になっているのだ。入力遅延によって、『ストリートファイター』のメタが変わってきており、プレイヤーたちもそこに気づき始めている。

プレイヤーたちの意見

入力遅延について調べていた我々は、DisplayLag.comのオペレーター、Fourwudeに連絡を取ってみた。DisplayLagは様々なディスプレイとゲームにおける入力遅延値を提供するデータベースとして高く評価されているサイトで、Fourwudeはプロレベルのテストを行ってこのデータベースを作成し、コミュニティが理想的な環境を用意できるように力を貸している。入力遅延の専門家であると同時に『ストリートファイター』シリーズのプレイヤーとしても活躍している彼は、この入力遅延問題に関する見解を述べてくれた。

『V』が世界各地のゲームショウで展示され始めた頃、プレイヤーたちは反応性が悪いゲームだという印象を持っていた。ゲームショウではラグが大きいディスプレイが用意されることが多いため、プレイヤーの多くはディスプレイを反応性の原因だと考えていた。実際、Fourwudeも最初はそう感じていたのだが、すぐにその違いに気付いた。Fourwudeは次のように説明する。「『V』の製品版がリリースされた時は、G-SYNC対応のディスプレイでPC版をプレイしていた。G-SYNCのディスプレイは、テアリングをすることなく、V-SYNC(垂直同期)OFFに近い入力遅延でプレイ可能だからね」

PC版の『V』はV-SYNC OFFの方が入力遅延の数値が少ないことを理解し、入力遅延の小さい環境を作り上げて練習をしていたFourwudeは、入力遅延の問題に直面した瞬間を次のように振り返っている。「僕は初日からG-SYNCのディスプレイで『V』をプレイしていたから、PS4版は一度もプレイした経験がなかったんだ。『V』の入力遅延の問題に気付いたのは、FilipinoChampの家にみんなで集まった時だね。この時はみんなでPS4版をプレイしたんだけど、個人的にプレイ不可能なゲームに感じた。もちろん、G-SYNCの環境に慣れていたというのもあるけど、PS4版の入力遅延はデフォルトのPC版よりも酷いと感じたよ」

この経験によって、Fourwudeは入力遅延が『V』のゲームプレイに与える影響について真剣に考えるようになったとしている。「現時点での『V』の入力遅延はこれまでのメタを完全に破壊しているよね。ハイレベルな対戦ではこの入力遅延が致命傷になっているんだ。これまで反応できていた攻撃に反応できないんだ」と説明するFourwudeは、そこを利用して、フレームデータが不利なケンでリスクの大きい攻撃的なプレイを繰り広げているプレイヤーたちを例に出し、自分もリュウを使ってより攻撃的なプレイをしていると続ける。

今回のFourwudeとの会話でひとつ明確になったのは、『V』はその入力遅延によって、これまでの伝統だった「待ち」や「距離感」ではなく、積極的な攻撃が重視されるゲームになっているという点だ。『V』は入力遅延が大きいゲームとしてデザインされているため、プレイヤーたちは攻撃的なプレイを強いられている。Fourwudeは「現時点では、相手の動きに対する反応や読みを得意としていたプレイヤーが苦戦を強いられているよね」と説明し、入力遅延が原因で、早くもプレイヤー間にスキル差が生まれる可能性があると危惧している。

危惧と疑問

現時点の入力遅延問題を危惧しているのはFourwudeだけではない。Twitterはこの入力遅延の大きさと、トーナメントプレイにおけるその影響を嫌がるトッププレイヤーで溢れている。そこで、この問題を最初に提起したプレイヤーのひとりだったPanda GamingのFilipinoChampにも、個人的にどのような影響が出ているのかを訊ねてみた。

「入力遅延はハイレベルなトーナメントプレイのすべての面に影響を与えているよ。基本的には防御側がすごく不利になるんだ」と説明するFilipinoChampは、その例としてジャンプ、ダッシュ、距離の調整などで防御側に問題が生じていると続ける。では、以前から存在していたこの問題がなぜ今になって取り上げられているのだろうか? 彼は次のように見解を示している。「入力遅延は『V』のリリースから2週間後に知られるようになったんだ。この問題について映像を作ったプレイヤーがいたんだよ。最初はゲームに慣れている段階だったし、キャラクターの最適化もできていなかったから、誰も気付かなかったのさ」

One of the videos to introduce the heavy latency
One of the videos to introduce the heavy latency

現在、このような意見はコミュニティ全体で見受けられる。リリース当初は無視されていたこの問題に関する議論は今や沸点に達しており、大きな問題として考えられるようになっているのだ。一方、Capcomはまだこの入力遅延問題について何も見解を示しておらず、これが意図的に組み込まれたものだという可能性をにおわせている。プレイヤーの中には、これが意図的なものではないとし、『ウルIV』時代のように修正パッチが配布されることに期待している者もいるが、Capcomが見解を示すまで、今後の展開については謎に包まれたままだ。

もうひとつ分からない部分がある。それは「果たしてこれは修正されるべき問題なのか?」ということだ。結局のところ、現時点ではすべてのプレイヤーが同じ環境でプレイしており、その環境で問題なく練習を重ねている。もちろん、入力遅延はゲームプレイに大きな違いをもたらすが、ゲーム自体を悪くするものなのだろうか? 数値は大きいがブレはないので問題なくプレイできるという意見を持つプレイヤーや、入力遅延は負けた時の言い訳として使われているだけだとしているプレイヤーもいる。

答えはあるのか?

格闘ゲームに関するほとんどすべての問題と一緒で、この問題についても簡単に答えは出せない。たしかに『V』の入力遅延は大きいが、それがメタにどの程度の影響を与えるのだろうか? プレイヤーたちが今問題に感じている部分は、入力遅延の影響であると同時に、ゲームデザイン自体による影響とも言える。では、そのふたつが組み合わさって生み出されている問題なのだろうか? Capcomは開発時からこの入力遅延を狙っていたのではないだろうか? また、コミュニティの要望に応える形で入力遅延が変更されれば、彼らが意図していないゲームになってしまうのではないだろうか?

現時点ではこのようにいくつかの疑問が存在しているが、答えは出ていない。しかし、ひとつだけ分かっていることがある。それは『V』の入力遅延が『ストリートファイター』というゲームを変えたということだ。

たった3フレームがゲームそのものを変えてしまう。ゲームの世界は面白い。