F1フォーミュラ

【川井式F解剖学】今年のフェラーリは戦略で抜ける?

Written by KAZUHITO KAWAI
グランプリレポーター“川井ちゃん”の好評連載。各GPのキモとなったポイントを解剖する素人厳禁マニアックコラム、2017年シーズン第3回バーレーンGPのテーマは「昨年と今年のDRS効果比較」だ。
Kimi Räikkönen
Kimi Räikkönen
バーレーンGPはメルセデス陣営の不幸が全てだった。グリッド上のバルテリ・ボッタス側のジェネレーターの故障、ピットストップ時のホイールガンの問題、そしてルイス・ハミルトンのスロー走行による5秒のタイムペナルティ……。すべてがセバスチャン・ベッテルに有利に働いた。
また、メルセデス勢は良かれと思って選んだややダウンフォースの少ないリヤウイング(=空気抵抗の少ない)のセッティングが、レースではやや裏目に出たのかもしれない。なぜ、そのようなリヤウイングをメルセデスが選んだのか? これはフォーメーションラップ中のハミルトンへの無線に答えがある。
覚えているだろうか、彼のエンジニアが「まだターン1に対して向かい風で10~20km/hの間だ」と言ったのを。向かい風、特に強い向かい風だとDRSを使える後方のクルマが有利になる。DRSを使っていない前のクルマは早めにスピードが「サチって」しまうからだ。スピードが「サチる」とは、レース関係者が使う言葉だが、この場合、クルマのスピードが空気抵抗によってエンジンの出力とつりあってしまい、それ以上スピードが伸びないこと。
最前列からスタートするメルセデスは、天気予報から決勝日にメインストレートは強い向かい風「後ろのクルマにDRSを使われても抜かれないように」と考えて、このリヤウイングを選んできたと思われる。
シーズンが始まる前は「DRSの効果が増す」と考える人達がパドックに何人かいた。ケビン・マグヌッセンもそのひとりだ。リヤウイングの位置は低くなっているが、その幅は大きくなっており、クルマ全体でのドラッグ(空気抵抗)が増えていることもあって、DRSを使った場合のスピードゲインが大きいと考えていたわけだ。
ところが3戦を終えてみると、DRS使用時の数字的なスピードゲインはともかく、実際には抜きにくくなっているようで、中国GP後、レッドブルのダニエル・リカルドは、「今年はDRSの効果がかなり少なくなっていて、役に立たない」と発言していた。下の表1を見て欲しい。この表はレース中の DRSゾーンがあるメインストレートでのキミ・・ライコネンとボッタスの速度を表している。ボッタスの下のほうの数値は、彼が全くDRSを使えないトップを走っていたレース序盤のものだ。
まず、表の見方を説明しよう。「前のドライバー」だが、これはメインストレートに入った時に前にいるドライバーのことであり、「ギャップ@フィニッシュライン」というのはフィニッシュライン上での前のドライバーとのタイム差。3番目の「スピード@フィニッシュライン」の数値はそのフィニッシュライン通過時のライコネンのスピード。そして最後の「スピード@トラップ」はメインストレート終盤にあるスピードトラップでのスピードの数値だ。
緑色の文字は DRSを使っていることを示している。例えば、ライコネンの21~22周目だと、順位は5位(21周目終了時)で、前にいるドライバーはフェリペ・マッサ。フィニッシュライン通過時のマッサとの差は0.636秒、そこの通過スピードは287.5km/hでDRS使用中。そしてスピードトラップのスピードは318km/hとなる。ちなみにスピードトラップは1コーナーの手前144m、フィニッシュラインからは約580m、DRS作動ラインからは670mのところにある。つまりDRSを得るとフィニッシュラインを通過する時までに、すでに90mの区間、フラップを上げたまま走行することになる。
ライコネンの21周目から27周目のトラップの通過スピードを見ると、単独(目の前に誰も走っていない状態)で走っている時に較べ、DRSを使っている時は使ってない時に較べ、20~30km/h以上速い速度を記録している。もちろん、これは前のクルマ(マッサ)のスリップストリームも使った数字であるので、純粋なDRSによるスピードゲインではないが、大きなものだ。逆に見れば、フェラーリはDRSを使わないと300km/hに達するかどうかというリヤウイングを採用していたわけだ。
ところが、33~39周目のメルセデスのほうはもともと軽めのウイングなので、DRSを使ってない単独で310km/h(1~6周目はまだ燃料満載で最終コーナーの通過スピードが遅いためか306~307km/h)も出ているが、DRSを使った場合のスピードゲインはやや限定的で15~22km/hだ。36~37周目の331.5km/hは、前のリカルドのスリップストリームを大きく使っての数値なので、DRSだけのゲインは15knm/h程度かもしれない。
メルセデスのDSR使用時のスピードゲインはフェラーリに較べれば少ないが、これはもともとダウンフォースの少ない、言い換えればドラッグの少ないウイングを使っているということを考えれば当たり前。ただし、その分、リヤのグリップは低速であっても少なくなるので、これが、彼らがレースで苦しんだリヤタイヤのオーバーヒートに繋がった可能性がある。
さて、今回のテーマである「昨年と今年のDRS効果の比較」だが、フェラーリが使った時に20km/h以上ゲインしていることを考えると、効果が少ないとは言い難いと思う。それよりも今年のクルマはタービュランスが大きいため、前を走るクルマとのギャップが1秒以内という、DRS圏内に入るのが難しいのではないか。
これは中国GPで、周回遅れのロマン・グロージャンをなかなか抜けなかったマックス・フェルスタッペンを見ても明らかである。もう数戦すれば、この辺りがもっとはっきりしてくると思う。そうは言ってもフェラーリは別のようだが……。上の表のボッタスの1~6周目、2番手を走るベッテルは、全てのラップでボッタスの0.8秒以内でついてきた。見ているほうとしては、「あれでタイヤを労わることができるのか?」と疑問に思ってしまったが。これをいつもできるとしたら、今年のフェラーリは強いだろう。コース上でメルセデスを抜けなくても、戦略で抜けるからだ。
ところで、今回のバーレーンGP、もうひとつ注目(?)を集めたのが、エンジンのパワー不足をもの凄い表現でけなすフェルナンド・アロンソのチーム無線だろう。
Fernando Alonso
Fernando Alonso
24周目にジョリオン・パーマーとダニール・クビアトに抜かれたアロンソは、「連中はストレートのスタート時に300mも後方にいるのに、どうやって奴らは俺を抜いていったんだ? こんな低いパワーでレースをしたことなんてない」と、無線で愚痴った。これは1回だけでなく、ピットでクルマを停める直前、クビアトに再び抜かれた直後にも同じような無線をチームに入れている。
誰でもわかることだが、300mも後方にいるクルマが、DRSを使って追い抜いていくとしたら、そのクルマはDRS検知ポイントを音速に近いスピードで通過したことになる。それだけに、彼の言い方は非常に大げさではあるが、パワー不足に対してアロンソは爆発寸前なのだろう。
下の表2にアロンソが不満を言った時のフィニッシュラインでのスピードとトラップでのスピードを記しておいた。単独走行時にストレートエンドで290km/hに達しないクルマでは、防戦しようにも全く不可能だ。ちなみに、今回のバーレーンGPでの他のチームの同地点でのDRSを使ってない単独走行時のスピードをあげると、レッドブルは302~304km/h、ハースは297~299km/h、フォース・インディアが299~303km/h、ウイリアムズが303~304km/h、そしてルノーは301~303km/h。ウイングのセッティングにもよるが、ホンダと他のメーカーとのパワー差は、非常に大きいと言わざるをえないのだ。
◆AUTHOR PROFILE
KAZUHITO KAWAI
KAZUHITO KAWAI
KAZUHITO KAWAI
F1のテレビ解説&レポーターとしてお馴染み、“川井ちゃん”こと川井一仁。多くのF1ドライバーやチームスタッフから「Kaz」のニックネームで親しまれる、名物ジャーナリスト。1987年からF1中継に参加し、現在まで世界中を飛び回り精力的にグランプリ取材を続ける。
◆INFORMAITON
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