The many faces of Keiji Haino
© Pere Masramon/Red Bull Content Pool
ミュージック
灰野敬二インタビュー
さまざまな形態で幅広く活動し続けてきた彼が思う「音楽」とは?
Written by 青木竜太郎
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灰野敬二インタビュー
灰野敬二インタビュー© Yukitaka Amemiya/Red Bull Content Pool
70年代から現在まで、常に「今」を追求しつづけているアーティスト、灰野敬二。ロストアラーフ、不失者、NAZORANAIとしてのバンド形態や、DJ、ハーディーガーディー奏者としてのソロなど、さまざまな形態で幅広く活動し続けてきた彼が思う「音楽」とは?
灰野敬二と対面したのは、六本木SuperDeluxeで開催されたRed Bull Music Academyの”Wails To Whispers”イベントの開演前。この日彼はKeiji Haino Trio(当初は不失者として告知されていたが、本人によるとこの日のバンドは不失者ではないらしい)そしてハーディーガーディーのソロ演奏を控えていた。
先日EXPERIMENTAL MIXTUREとしてのDJミックスの第2段「The Greatest Hits of The MUSIC」そしてSunn O)))のスティーヴン・オマリー、オレン・アンバーチとのバンドNAZORANAIの新アルバム「The Most Painful Time Happens Only Once Has It Arrived Already..?」をリリースしたばかりの灰野。その相変わらずのハイペースの活動には、いつまでも新鮮にいたいという思いが強く込められていた。
近年のDJセット、「表現」そして「今」について熱く語ってくれた、彼の貴重なインタビューをじっくりと楽しんでいただきたい。
Live at Wails To Whispers
The many faces of Keiji Haino
The many faces of Keiji Haino© Pere Masramon/Red Bull Content Pool
-僕が初めて灰野さんの音楽を聴いたのは1995年に発表された「手風琴」というアルバムですが、あれではハーディーガーディーを演奏していますよね。当時ハーディーガーディーの存在すら知らなかったので、「この音はどうやって作ってるんだろう」と不思議に思いました。聴き手に音楽を「発見」させることは普段から意識しています?
いつでも自分自身で新鮮でいたいから。自分がやっていて楽しみたいっていうのが一番なので、そこはまだやっているつもり。それが自分の中でマンネリするってことになった時、自分でどういう風で身を置くかはわからない。
例えば、僕はバンド名で意思を表明していると思うけど。”NAZORANAI”っていう、僕にとっては音楽を始めた時から、それが一番の自分のやり方だと思っているから。
今まであったあらゆること、それこそ政治、経済、芸術・・・何をやってても100%ちゃんとしていないから。世の中どんどん悪くなっていくわけで。そしたら今までに無かったやり方をするしかないでしょ?それはまさに人は始めにそれに体現した時には「驚き」になる。それはずっと目指しています。
-最近だと灰野さんはご自身のバンドやDJセット以外にも、ニューヨークでのトニー・コンラッドさんとの共演や、Sunn O)))のスティーヴン・オマリーさんとコラボレーションをしてますが、他のアーティストとコラボレーションをする時にはどういう接点を持ちたいとお考えでしょうか?
うーん、諦めていない人。やっぱり一回やってみると、「もういい」って留まっている人と「更に」っていう気持ちがある人が僕にとってはいて。一回目にやったとき、言葉では説明しなくても「よし、やろうな」っていう感じになれば、またやります。
-DJセットについてお聞きしたいのですが、一般的なDJはお客さんの反応を見ながらかける曲を決めるプロセスを取る方が多いと思いますが、灰野さんの場合はお客さんの反応はどれくらい重要ですか?
申し訳ないけど、ほとんど重要じゃない。おそらくDJっていう概念が違って。
僕の場合、昔自分が小さい時にいた人たちが僕にとってDJで。明らかに聴いてもらう人よりも音楽を好きな人たち。音楽が好きだから、こういう音楽がありますよって紹介する人たちね。そういう感じでDJやってます。
-DJ Pierreのワイルドピッチはご存知でしょうか?
ピッチを変えるってことはできるだけしたくない。今日知り合いと話していて、「灰野さんのミックスはある意味でノーマル」であると。ミックスをしてピッチを変えて全然別ものにしてしまう。別物はある意味ではもっとカオスの、得体の知れないもの。それはおそらくピッチコントロールを使えばすぐできるので。いわゆるエフェクターね。
僕はできるだけそれを使わない。ある人たちの例を言えば、全然違う国の人同士が寒いところと暑いところの人ってある意味接点が持てないわけでしょ?でもそこで音楽でならば、一緒にミックスできると思っているので。二つのもともとの素材を形を無くす気はないです。ただその一つの、例えば100曲あったらば、一曲だけピッチを変えることはします。今回の新しいのでは確かにそれをやっています。だだそれはあんまり面白くない、僕には。
灰野敬二 @ Lecture Room
灰野敬二 @ Lecture Room© Yasaku Aoki/Red Bull Content Pool
-灰野さんは音楽の中で「間」というものを非常に大切にしていますよね。テクノミュージックにもブレイクがあって「間」を取り入れている音楽もあります。ブレイクと「間」に共通している部分はあると思いますか?
いつでも違う「間」でないと僕は興味がない。一回聴いてタイミングが取れちゃえば。それこそ1/100の一秒でも取れるから。そして次に同じ1/100が来るとそれは僕にとっては全然勉強にならないし、刺激がない。
「間」という言葉を紹介するとき、日本の人が海外の人にちゃんと翻訳ができていなくて。それは僕は敢えて言うけど、「一番深い今」だから。「間」という特別な空間ではなくて、いかにその人が「一番深い今」を引きづり出して、それを表出できるかだから。
一つの例で言えば、インドの音楽でラーガって言われて、朝のラーガ、昼のラーガ、夜のラーガがあって、それは毎回違う、「感覚」という言葉にしておくけど、で捉えて演奏するので。そういうのに近いと思った方が良いと思います。
-DJは「音楽を一般の人よりも二倍好きな人がやるべきだ」や「他の人は音楽への愛が足りない」と公言されていますが、何故そう思うのでしょうか?
今の話に繋がって行くけど、「今って何だ」って考えたら、全部違う「今」だし、人は本来みんな違うわけじゃない。物だって違うし、それこそ虫だってみんな違うわけ。それをどれだけ自分が「物として」意識ができるか。違う物なんだって。
そしたら同じことは繰り返さないと思うよ。同じことを繰り返さないってことは色んな意味での商業的な、まさに繰り返して、演奏する音楽ね。覚えさせる、洗脳させていく音楽。そういうものとは違うものだと思うよ。
とは言って、僕は一般に言われる「インプロヴィゼーション」という言葉が大っ嫌いだから。インプロヴィゼーションっていうジャンルさえもう出来ているから。だからさっきから「なぞらない」って言っているの。
もちろん日本の古典音楽にそういう概念はあったけど、「インプロヴィゼーション」って言葉が日本に入って来たとき、日本語でちゃんと翻訳できた人がいなかったと思っているの。だから僕は「なぞらない」って言葉を提唱している。
-灰野さんにとって「音」と「音楽」の関係はどういうものでしょうか?「音を発見して、そこから音楽を発明する」と以前もお話はされていますが、「音」が「音楽」になる瞬間は灰野さんの中にありますか?
「音」はある意味では「物」だと思うから。そこに魂を吹き込んで「音楽」になって行くと思う。もちろん「音」ってそのものが必要としてあるものだから、僕はまずは気づくことだと思う。あるんだよ、みんなあるんだよ。それに気づけていない、気づけてない体質に自分がなってしまっていて、受け入れられるっていう。それこそオープンなものがないから、全部が留まってしまっている。
「発明」とか「発見」なんていうのはないので、あったものを自分でそれに定義できるか。「表現」って日本語の言葉だけど、「表に現す」わけでしょ?隠れていたことが前提だと思うから。それを引き出すのは凄いことで、それをやっている人なんてほとんどいない。
一つの手順を踏んで行かないと僕は何が言いたいかわからないから、僕はあえて「音を発見した」って言い方をしている。発見して、発明していくっていう。ので、僕にとってはどこからが音で、どこからが音楽でって言うのは、ほとんど重要じゃない。
-今日は不失者が演奏しますが・・・
今日は非常に言い訳がましいんだけど、僕の今日のは不失者ではない。
-失礼しました。それはでは一度置いておきまして、不失者はこれまでメンバーが変わったりしていますけれども、今も不失者として音楽を作る時はこれまで在籍していたメンバーの人たちの存在は今でもバンドの中にあるのでしょうか?
その質問は難しい。色んな意味でお互いが何かをするってことは勉強し合っているはずだから。僕も彼らに学ばせてもらったことは当然あるから。ただ時間が経てば経つほど、僕のやりたいことに近づけようとしているし、近づきつつあります。それが事実です。
-それはご自身のバンド以外でのコラボレーションでも?
不失者に対しての思いが強くて。僕の中では不失者が一番未だに実験的だし、自分の生き方そのものだと思っているから。
「セッション」って言葉は使いたくない。僕が何故「セッション」という言葉を嫌っている定義を言うならば、例えば今日のメンバーも、今日が演奏するのが2回目。1回スタジオに入った、ただそれだけ。僕が初めてやる人たちに言うことは、「今日一日限りの、一時間であろうと、バンドでいようよね。」僕にとって「バンド」っていう言葉がおそらくとても好きな言葉で、「セッション」という言葉を使いたくない。
人から見れば「一回しかやっていないからあれはセッションなんですね」っていうけど、それは僕の中では「セッション」というとその場だけであって、「はい、さよなら」って感じになっちゃうから。じゃなくて、たった一回でも、それこそ大げさだけど、人生で一回会えたわけだから。「その時だけは燃え尽きようよね」って言い方をする。
-最後に、今日のイベントへの意気込みは?
もの凄く早くて、うるさいと思います。ただ腰が痛いのでどうなるか。まあ全力はもちろん尽くします。
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