Basketball coach Lethal Shooter with the Cue6 robot.
© Jason Halayko/Red Bull Content Pool
バスケットボール

リーサル・シューターとAIバスケットロボットが東京で邂逅!

世界最強のシューティングコーチが世界最強のAIバスケットロボットCUE6と出会ったら? 開発チームのインタビューをチェック!
Written by Riley Hunter
読み終わるまで:10分Published on
“リーサル・シューター” ことクリス・マシューズはバスケットボール界トップレベルのシューターで、近年は世界最強のシューティングコーチとして知られている。
先日、彼が世界最先端のAIシューター “CUE6” とのコラボレーションのために東京を訪れた。
リーサル・シューターとCUE6

リーサル・シューターとCUE6

© Jason Halayko / Red Bull Content Pool

CUE6はトヨタ自動車が研究開発を続けているAIバスケットボールロボットCUEの最新バージョンだ。CUEは、2019年にCUE3で「ヒューマノイドロボットによる連続して行ったバスケットボールのフリースロー最多数2020回」というギネス世界記録を樹立している。
リーサル・ウェポンは「CUE6はただのロボットではありません。正確無比なシュートを放つために複数のカメラでシュートの軌道を分析するのです」と説明している。
CUE6のようなロボットシューターは一貫性、精度、客観性がアドバンテージだ。「時代を先取りしています。2050年のテクノロジーですね。日本の技術力を示していると思います」とリーサル・ウェポンは続ける。
「CUEは普通のロボットではありません。ミスをしませんし、ミスをしたら次のショットで修正しようとします」
リーサル・シューターとCUE6

リーサル・シューターとCUE6

© Jason Halayko / Red Bull Content Pool

シューティングというひとつの芸術をそれぞれの方法で磨き上げた両者がそれぞれのスキルとテクニックを披露するために集結したのが今回の企画だ。
リーサル・シューターとCUE6は以下の3つのシューティングチャレンジに挑んだ:
  • NBA公式3ポイントライン両コーナー
  • トップ・オブ・ザ・キー + ハーフコート
  • トップ・オブ・ザ・キー:リムサイズを通常の18インチから13インチに変更
挑戦を終えたあと、CUEの研究開発を進めているトヨタ自動車未来創生センターR-フロンティア部主査・野見知弘氏に話を聞いた。果たしてシューティングという芸術は機械によって完全再現できるのだろうか?

− リーサル・シューターとの企画について知ったとき、どのような印象を持ちましたか?

野見氏: 実は、リーサル・シューターがソーシャルメディアにCUE6について投稿していたことを私は知りませんでした。周りから「来るんですか?」と訊ねられて、そういう話があることを初めて知ったのです。

そのあとリーサル・シューターについて色々と学び、いつの日か彼と会えたら面白いだろうと思うようになりました。ですので、こうして実際に会えて嬉しく思っています。

CUE6

CUE6

© ALVARK TOKYO

− CUEの開発はどこからどのように始まったのでしょうか?

最初はレゴのようなブロックにポテンショメータを組み合わせて振り子のような動きをするロボットを作ろうとしました。同時に世界で開発されているその他のロボットについてのリサーチと学習も進めていきました。

最初から自分たちでいちから作るのではなく、まずは他の真似をしようというアプローチでした。レゴブロックを使ったシンプルなロボットから始まり、真似をしながら腕だけ、さらには完全な人型へと進めていきました。

リーサル・シューターとCUE6

リーサル・シューターとCUE6

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− CUEの開発で特に難しかった部分はありますか?

最初のモデルはあまり満足できるものではありませんでした。苦労する部分は毎回変わるのですが、最初のモデルのときは単純にそれまでやったことがないことだったので難しかったですね。

当時はモーターや内部パーツを外部から購入していたのですが、最初のCUEが完成したときに当時社長だった豊田章男から「このプロジェクトは面白そうなので業務として取り組んでみたらどうだ」と言われました。それで正式な仕事になり、内部パーツも自分たちで開発するようになりました。

ですが、それゆえにハードウェア、電子部品、ソフトウェアなどで難しい部分が出てくるようになりました。モデルが新しくなるたびに新しい技術的問題が生まれるようになったのです。完成日の前日あるいは当日まで作業が続くことも少なくなかったですが、なんとか間に合わせてきたというところですね。

CUE6

CUE6

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ショットを外したり、ボディが動かなかったり、腕が届かなかったりと、基礎的な問題でつまずくことが多かったです
野見知弘氏(トヨタ自動車未来創生センターR-フロンティア部主査)

− ショットを外すなどの問題ですか?

その通りです。ショットを外したり、ボディが動かなかったり、腕が届かなかったりと、基礎的な問題でつまずくことが多かったですね。

− 最新モデルのCUE6はどのくらい遠くからショットを決められるのでしょうか?

正式なテストはしていませんが、逆側のコートの3ポイントラインくらいからも決められます。

− 近距離からも決められますか?

ある程度は決められますし、ゴール真下からも大丈夫ですが、こちらも正式なテストはまだですね。

リーサル・シューターとCUE6

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− CUEはモデルチェンジのたびに身長が伸び、体重も増えている印象ですが、何か理由があるのでしょうか?

意図的な理由はありません。やりたいことが増えていくにつれてサイズが大きくなっていきました。ハードウェアの重量やモーターの追加が巨大化の主な原因ですね。理想としては軽くしていきたいので、重くなっている現状はあまり褒められたものではありません。

− 現在集中的に取り組んでいることはありますか?

CUE6から全体を少し変更しました。それまでは「それぞれが意思を持つ複数のブロックの集合体としての人型バスケットボールロボット」という一風変わったコンセプトを使用していて、外観もほぼ同じでした。

ですが、CUE6は表面が少し変わり、可動部分が動くと色が変わるなど進化していることが分かるようにしてあります。また、以前よりデザインにも力を入れています。

− 実在するプロバスケットボール選手を参考にしたことはありますか? アレックス・カーク選手からアドバイスを受けたようですが。

ありません。人間の動作を参考にしたらCUEがさらに進化するのではないかと思い、アレックス・カーク選手に動画を提供してもらうように一度お願いしたことはあります。

ですが、人間の身体とロボットのボディは構造が異なるため想像していたような結果が得られませんでした。ロボットは人間のように動けないのです。

たとえば、人間の真似をしようとすると膝にトルクがかかりすぎて、姿勢を保てなくなってしまいます。ロボットは人間のように動けないので、ロボットに最適なシュート姿勢を独自で見つける方が良いという結論に落ち着きました。

CUE6

CUE6

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− ロボットの機能性を高めるために参考にしたものは他にありますか?

CUEにはマップが内蔵されており、そのマップを元に動き回ったり、自分の位置を確認したりしています。この技術はAGV(無人搬送車)や自動運転車のそれと非常に似ていますね。

また、モーターとバッテリーはレーシングカーのバッテリーのセルを使用していますし、他にもいくつかの部分で自動車の部品を再利用しています。

部品については、自動車の製造と部品開発に携わっている人たちからのアドバイスももらいました。技術開発のプロセスにおいては自動車の製造から多くの知見を得ています。

− CUE6の開発期間は? 過去のモデルよりも長い時間が必要だったのでしょうか?

過去のモデルと重複している時期もあるのですが、CUE6は約1年半前に開発をスタートさせました。

開発期間は徐々に長くなっていますね。CUEとCUE2はそれぞれほぼ半年でしたが、開発の難度が高まっていくにつれて期間が長くなっています。

− 開発費を教えていただけますか?

具体的な金額は明かせませんが、皆さんの想像とは異なると思います。

− CUE3と比較して、CUE6の精度はどの程度高まっているのでしょう?

精度は高まったと思いますが、直接比較をしたことがないのでなんとも言えません。ドリブルなどの機能性は明らかに向上しています。

リーサル・シューターとCUE6

リーサル・シューターとCUE6

© Jason Halayko / Red Bull Content Pool

− 今回のチャレンジでCUEに新たな弱点や脆弱性を見出しましたか?

ロボットにできないことはいくつもあります。チャレンジをするたびに人間の能力にあらためて感謝していますね。

人間の最も優れた能力は柔軟性ではないでしょうか。基本的に人間は何でもできますが、ロボットはそこに存在する特定のことしかできません。ここが人間とロボットの最大の違いだと感じています。

ロボットでは、ショットの精度を高めてよりバスケット中央に寄せることはできますが、ボールやロケーションが違う状況や、走りながらなどボールが動いている状況ではどこまでできるか分かりません。

複数のシナリオに対応できるようにするというのは、ロボットにとってはまだまだ難しいことなのです。リーサル・シューターのような優秀なコーチに教えてもらうのが進化の近道かもしれません。

− では逆にロボットのアドバンテージについて話してもらえますか?

精度、正確性、反復動作のクオリティ、メンタルが疲労しないなどがアドバンテージとして挙げられます。ですが、正直に申しますと、ロボットのアドバンテージはそこまで多くありません。

ボールの弾力や状態、会場、気温、周囲の人間との関係は常に異なります。このような多種多様なシチュエーションで常に最適な判断を下している人間の素晴らしさにあらためて気付いています。

− 今回の挑戦に向けて調整した部分はありますか?

挑戦のためにバスケットが特別に用意されるという話でしたので、ショットの軌道などを調整しておきました。

− リーサル・シューターとの撮影の感想を教えてください。

リーサル・シューターの動画をソーシャルメディアで拝見したときに、ユニークなショットをいくつも決めていることに気付きました。ですので、いつもとは異なる軌道でそのようなユニークなショットを決められるように準備しました。

リーサル・シューターとCUE6

リーサル・シューターとCUE6

© Jason Halayko / Red Bull Content Pool

− CUE6の次の目標を教えてください。

次は走れるようにしたいですね。

そのためには脚を変更する必要があります。ですので、これまでできていたことを最初からやり直す必要が出てきます。たとえば、シューティングですが、CUEは胸部のカメラを使用してバスケットの位置を特定しています。

現在のCUEの脚部はホイールが装着されていますので、バスケットと直接向き合って距離を測れています。角度が決まったら距離を計測して、ショットを決めるためのボディの動かし方を考えるのです。

ですが、二足歩行では常にバスケットと直接向き合うのが難しくなります。ですので、ショットのモーションが変わります。また、脚が上下するようになるので、CUEは水平方向だけではなく垂直方向についても理解する必要が出てきます。

現在のCUEではできないことがかなり多くなるので、走れるようにするのは技術的に大きなチャレンジになります。完全に新しいロボットを開発するようなものです。

− ロボットが人間にシュートを教える日が来ると思いますか?

思いません。AIが進化して将棋で人間に勝てるようになったとしても、人間同士の対戦はなくならないでしょう。ロボットと人間はそれぞれ異なるものとして存在していくと思います。

− 開発チームの最終目標を教えてください。

明確な最終目標は存在しませんが、興味深いものを作り出せればいいなと思っています。CUEに関しては、人間から学べるようにしたいです。

ロボットがマイケル・ジョーダンのフリースローラインからのダンクを真似できたら素晴らしいと思いますし、挑戦してみたいです。また、今回得られた素晴らしい機会を活かして、次はリーサル・シューターと組んでNBAに挑戦してみたいですね。

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