Kamaal Williams and band
© Salem Wazaki
ミュージック

新世代UKジャズ ベストアルバム 21枚

UKジャズシーンが新時代を迎えている。ジャズを前進させるフレッシュなエナジーを捉えているアルバムをリストアップした。
Written by Sammy Lee
読み終わるまで:25分公開日:
     
UKジャズシーンのミュージシャンたちは、先人たちから学びながら新しいスタイルに挑戦しており、ダブヒップホップアフロビートUKガラージグライムなどを組み合わせている。彼らは多種多様な音楽遺産を結びつけながら、新しいカルチャーを生み出しているのだ。
かつてのジャズは、リスナーのエリート主義が鼻につきがちだったことから世間からの評価がやや芳しくなかったジャンルだった。
しかし、近年のUKジャズシーンは、クラブミュージックやヒップホップ経由でジャズに興味を持ち始めている新しいリスナー層をオープンな姿勢で迎え入れている。
DJ Jamz Supernovaも「ジャズがわたしにとって比較的新しい音楽なのは確かよ」と認めている。
2017年11月に自分が担当したBBC 1XTRAの番組『Jazz Special』を「間違いなく担当した番組の中でベストだった」と表現している彼女のジャズ愛は、ジャズが様々なモダンな音楽ジャンルに− 必ずしも全てが明確ではないにせよ −影響を与えていることに気付いたことから始まった。
彼女は次のように続けている。「UKジャズは、わたしのようなリスナーにこれからもインスピレーションを与えていくことになると思う。わたしみたいに、最初は自分とジャズには何の繋がりもないと思っていても、新世代のアーティストたちを聴けば、そこにジャズの影響があることに気付くはずだから」
エキサイティングな時代を迎えているUKジャズシーンを理解するために、今回は過去10年間にリリースされた数々のUKジャズの中から21枚をピックアップした。
セレクターを担当したのは、TenderoloniusEmma-Jean ThackerayAdam Mosesを含むアーティストとUKを代表する音楽ライターたちだ。
先に断っておくが、今回のリストのいくつかの作品で、我々はルールをねじ曲げて、UK外のアーティストも紹介している。しかし、これはあくまで、現代のジャズが持つフリースピリットのバイブスを表現するためだ。
新世代UKジャズシーンが生み出したベストレコードに耳を傾けていこう。

V.A.『We Out Here』(Brownswood / 2018年)

ロンドンのニューアンダーグラウンドジャズへの分かりやすい入り口を探しているなら『We Out Here』がベストと言えるだろう。
Gilles PetersonのレーベルBrownswood Recordingsが企画し、2017年8月にロンドン・ドリスヒルにあるFish Factory Studioでの3日間のレコーディングがまとめられたこのコンピレーションアルバムには、Moses BoydNubya GarciaJoe Armon-JonesShabaka Hitchingsなど、今のシーンを代表するミュージシャンたちによる9トラックが収録されている。
このアルバムのジャズの中には、ジャズの歴史に忠実なものもあれば、他のジャンルを積極的に取り入れているものもある。
たとえば、滑らかなエレクトロニクスとグルーヴに優れたドラムループを組み合わせているMoses Boyd「The Balance」は、彼のグライムとヒップホップへの興味が再確認できる内容だ。
また、Theon CrossBrockley」は、バンドリーダーを担う彼が、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーがサブベースに使用するようなディープなサウンドをチューバから生み出している。(Louis Pattison

2. Nubya Garcia『Nubya’s 5ive』(Jazz Re:freshed / 2017年)

Nubya Garciaは自分のバンドの音楽に合わせてダンスしているかように楽しげにサックスを演奏する。
ルーズでファンキーなトラック(Lost Kingdoms)に合わせる時も、複雑で動きのあるトラック(Red Sun)に合わせる時も、ゆっくりとした浮遊感があるトラック(『Contemplation』の前半)に合わせる時も、彼女が演奏する全てのノートは、その場にいることの喜びを表現しており、同時にそこにはあらゆる方向へ広がる可能性も感じられる。
彼女の音楽には、どの方向へ進もうともそれが自分にとって正しい道なのだという自由な感覚が備わっているのだ。
しかし、このアルバムは、ロンドンの新世代ジャズアーティストたちが、今の時代に機能するクラブミュージックを生み出しつつ、ジャズの深く長い歴史に忠実でいられることを力強く示している作品のひとつでもある。
たとえば、Moses Boydのドラムは、J Dillaのサンプルループを想起させるモダンなズレを再現したり、ダブ的なエコーを重ねたりしているが、アンサンブルの枠に収まっている。
Hold』の2バージョンで聴ける、ブラック / 西アフリカ / ラテン / カリビアンが組み合わさったスウィングが特にそうだが、このアルバムは、今を生きるダンサーたちのために生み出された “この瞬間のジャズ” を最高の形で表現している1枚だ。(Joe Muggs

3. Tom Misch『Beat Tape 2』(Beyond The Groove 3 / 2015年)

わたしにとって、このプロジェクトは出発点だったの。ジャズに興味を持ち始めるきっかけになったサウンドだった。
ジャズ信奉者の多くは、これはジャズアルバムじゃないと言うと思うけれど、そこが、わたしがニューウェーブジャズを大好きな理由なの。彼らはジャズを自分たちのものにしているのよ。
数多くのDTMプロデューサーや独学で音楽を学んできた若い世代のアーティストたちに、生演奏のサウンドを試してみようと思わせたアルバムだと思う。
わたしはいつもこのアルバムを聴いて自分を落ち着かせているわ。わたしの頭と体はたまに時速160km/hくらいになっちゃうから、これをヘッドフォンで聴いてその時間に身を浸して、冷静になっているの。(Jamz Supernova

4. Yussef Kamaal『Black Focus』(Brownswood / 2016年)

熱心なUKジャズファンは、UKジャズシーンは随分前から活発で、EgloBradley ZeroRhythm SectionTenderolonius22aなどの最近のレーベルも昔からジャジーなテクスチャを4/4のダンストラックに取り入れてきたと言うだろう。
しかし、若い世代のリスナーの多くにとって、インストゥルメンタルジャズを聴くきっかけになったクロスオーバーレコードはYussef KamaalBlack Focus』だった。
Yussef Kamaalは、プロデューサー / キーボーディストのKamaal WilliamsHenry Wu名義でハウスミュージックでも成功を収めている)とUnited VibrationsのドラマーYussef Dayesによるロンドンを拠点に置くジャズデュオだ。
テレパシーのように音楽性を共有している2人によって生み出された『Black Focus』は、ジャズファンクとソウルフルなヒップホップをレイドバックしたスタイルで探求している作品で、ロンドンのアーバンな雰囲気にインスパイアされたブレイクビーツジャングルのリズムを並置した隙間の多い音楽が詰まっている。
Yussef Kamaalはこのアルバムのリリースから1年も経たないうちに突如として解散してしまったが、彼らは、いつの日かクラシックとして扱われる可能性がある “ひとつの時代の記録” を残してくれた。(Davy Reed
ミュージック · 14分
See. Hear. Now. with Yussef Kamaal

5. Emma-Jean Thackray『Ley Lines』(The Vinyl Factory / 2018年)

ヨークシャー出身のEmma-Jean Thackrayが音楽を始めるきっかけになったのはTingley Brass Band英国式ブラスバンドのひとつ)で、彼女は13歳の時にこのバンドのプリンシパル・コルネット(コルネットの首席奏者)を担当した。
しかし、Thackrayは伝統主義者ではない。英国を代表する即興演奏家Keith Tippettに師事した彼女は、London Symphony Orchestraのヴァイオリンの弓をアルミホイルに置き換えたり、チューバとフリューゲルホルンをアフロビートのグルーヴの中に放り込んだりしてきた。
このような多種多様なアンサンブルで活動しているイメージが強かった彼女だが、2018年にVinyl Factoryからリリースされたアルバム『Ley Lines』は、Red Bull Music Academyの卒業生でもある彼女が、ヒップホップシーンのトップビートメイカーとして知られるMadlibにインスピレーションを得て、サウスロンドンの自宅で作曲・編曲・歌・全楽器の演奏を全てひとりで担当して作り上げた作品だ。(Louis Pattison
ミュージック · 12分
See. Hear. Now. with Emma-Jean Thackray

6. Kamaal Williams『The Return』(Black Focus / 2018年)

ライブは最高に上手く行っているね。多くの人が気付いていないと思うけれど、ステージ上の僕とPeteMartin / ベース)とKamaalは、観客の体験と同じスリルをしているんだ。というのも、インプロがとにかく多いのさ。
このアルバムも同じスタイルで制作された。Kamaalは「頭の中にアウトラインだけが描かれた真っ白のキャンバスのイメージがある。君たちで絵筆を取って、自由に彩色してくれよ」って感じだった。
このアルバムにはエナジーと若さ、「関係ないぜ!」的な荒々しさが詰まっている。
僕たちはジャズの偉人をリスペクトしていて、全員がMiles DavisHerbie HancockJohn ColtraneJohn Scofieldなどの大ファンだ。でも、彼らからの影響を換骨奪胎して、スペシャルな音楽を生み出したのさ。
僕たちの前に活躍していたミュージシャンたちは、自分たちのことをやっていた。つまり、Herbieがやっていたことを僕たちが真似るのは無理なのさ。Milesがやっていたことを再現するのは絶対に不可能なんだ。
でも、彼らからの影響を自分たちの形で表現することはできる。僕たちがそれをやっているんだ。
The Return』についての個人的な考えを言えば、僕はこれをジャズレコードだとさえ思っていない。ただのバイブスさ。フレッシュなね。ロンドンのバイブスなんだ。(MckNasty
ミュージック · 5分
Henry Wu presents Kamaal Williams and Children Of Zeus – Still Standing

7:Dinosaur『Together, As One』(Edition / 2016年)

DeerhoofJohn ZornDjango BatesLoose Tubes、そして神秘的なケルトフォークのメロディなどが、非常に印象的な楽曲群の中に詰め込まれています。
洗練さが感じられるバンド内の掛け合いは、彼らがお互いの音楽性を深いレベルで理解していることと、何年も一緒に活動してきた時間の厚みを示しています。
また、UK史上最高のテクニックを備えている演奏家・即興演奏家が4人集まっているDinosaurの音楽への飽くなき探求心も、このアルバムの全ての瞬間に活き活きと示されています。
このように『Together, As One』は、彼らの優れた音楽性が随所に感じられるアルバムですが、そこにはエゴが一切感じられません。全員が音楽に献身しています。
Dinosaurは非常にクレバーでウィットに富んでいるバンドです。Miles Davisエレクトロニック時代と強く結びついている『Together, As One』は、その時代のマイルスの作品群と同じくらい重要で、ジャンルを飛び越えた名盤になりました。
20年後に “ターニングポイントだった” と評価されるかもしれませんね。(Emma-Jean Thackray

8. United Vibration『Galaxies Not Ghettos』(12tone C.I.C. / 2011年)

サウスイーストロンドン出身のUnited Vibrationsは今をときめく新世代ロンドンジャズの第一世代だった。彼らはブループリントなのさ。
United Vibrationsは、Wayne Francis(サックス)、Ahmad Dayes(トロンボーン)、Kareem Dayes(ベース)、Yussef Dayes(ドラム)の4人編成で、彼らが自主制作した『Galaxies Not Ghettos』は、今では当たり前になったサウンドの先駆けだった。
アフロビート、ジャズフュージョン、ファンクにパンクの精神性を組み合わせた目まいを憶えるようなサウンドさ。
United Vibrationsは、「No Space No Time」や「My Way」を激しく演奏して、ダンスフロアに興奮をもたらすライブで有名だった。だから、彼らがライブのあのバイブスをスタジオレコーディングアルバムで再現するのに苦労していても不思議じゃなかったんだけど、彼らは見事にそのバイブスをアルバムに詰め込んだ。
脈打つベースライン、力強いホーン、パワーをもらえるチャント、ドライブ感溢れるドラムは、リスナーを歓喜への旅へ連れ出してくれる。途中でSun Raに出会えるかもしれない旅にね!(Adam Moses / Jazz:Refreshed
『Galaxies Not Ghettos』のBandcampページはこちら>>

9. Tenderolonius『The Shakedown ft. The 22a Archestra』(22a / 2018年)

22aはロンドンの先進的なジャズシーンの中心に位置し続けています。現在のシーンは花火のような勢いが感じられますが、22aに所属するアーティストたちはその火薬というところですね。
Herbie Hancockのようなハードバップにルーツを持つ彼らは、ディープなアンダーグラウンドハウスの12インチも好んで聴いているので、Tenderoloniusとドリームチームが生み出したこの最新アルバムは、リスナーの体を動かし続けます。
ドライブ感溢れるグルーヴ、豊かなコード、ディスコとブルースを取り入れているメロディをルーズに組み合わせているジャム的なトラック群は全てをフレッシュに保ちながら、リスナーを彼らが演奏しているスタジオへと連れ出します。
汗にまみれた最高のアーティストたちが詰めかけた、ジャズのエナジーと匂いに溢れる小さな空間へと連れ出すのです。(Emma-Jean Thackray
Tenderolonius
Tenderolonius

10. A.R.E. Project『A.R.E. Project』(Technicolour / 2017年)

このアルバムを今回のリストに含めるために “UKジャズ” の定義を拡大する必要があったが、A.R.E. Projectは、ここ数年のジャズの中で突出した魅力を持つ実験のひとつだ。
A.R.E. ProjectAssociation for Research and Enlightenment Project)は、UKジャズシーンのShabaka Hutchings、米国生まれインド育ちロンドン在住のパーカッショニストSarathy Kowar、そしてシカゴのエクスペリメンタリストで、ジャズからの音楽的・精神的影響を型破りなハウスとテクノに取り入れていることで知られるHieroglyphic Beingによるコラボレーションだ。
ロンドンのスタジオLightship95で行われた2つのライブセッション(NTSで90分間ライブストリーミングされた)では、Hieroglyphic Beingの揺らめくサウンドスケープが生み出すグルーヴにKowerが乗りながら、Hutchingsが無秩序に広がるサックスで魂を昇華させていく様子が確認できる。(Davy Reed

11:Yazmin Lacey『Black Moon』(Running Circle / 2017年)

Yazmin Laceyはノッティンガムに拠点を置くアーティストで、Gilles Petersonのプロジェクト、Future Bubblersで知られるようになったの。
次世代のアーティストをサポートするこのプログラムは非常に良くできているから、彼女にとっても、自分を知ってもらう最高のチャンスとして機能したのよ。
このアルバムを聴いた時の第一印象は、「彼女みたいに歌える人なんて誰もいない!」だった。ヴォーカルがオーバープロデュースされていないところが気に入ったわ。
リスナーとの距離が近いアルバムで、聴いている間は心が落ち着いて内省的になるの。わたしは過去や現在の人間関係を振り返っているわ。
Yazminは他のアーティストから尊敬されるタイプのアーティストのひとりね。米国出身の新人アーティストMac Ayersをフィーチャーしたスタジオライブの番組『Future Bounce』を放送した時も、Mac Ayersから彼女を呼びたいと直接リクエストされたのよ。(Jamz Supernova

12. Collucutor『Instead』(On The Corner / 2014年)

Instead』は、唯一無二のTamar Osbornが率いるCollucutorのデビューアルバムで、Yusuf LateefJoe HendersonAlice Coltraneなど、偉大な先人たちからインスピレーションを得ている作品だ。
クラシック、インド、アフリカのスタイルから大きな影響を受けているこのアルバムは、ゆっくりと変化していく木管、パーカッション、ベースをヒプノティックにミックスしている。
クレイジーな盛り上がりを見せている今のUKジャズシーンで、このバンドは最も過小評価されているバンドのひとつだね。彼らのミュージシャンシップは非常に高い。彼らと共演できる実力を持つミュージシャンはそうそういないよ!(Tenderolonius

13. Joe Armon-Jones『Starting Today』(Brownswood / 2018年)

Ezra Collectiveのメンバーとしても活動しているピアニストのJoe Armon-Jonesは、このファーストアルバムのために、今のロンドンジャズシーンを代表するアーティストたちを呼び寄せた。
このアルバムには、Moses BoydNubya Garciaがバンドメンバーとして参加している他、シンガー / ギタリストのOscar Jeromeが複数の曲で参加している。また、高い評価を得ているジャズナイトSTEEZの創設者として知られるLuke Newmanが、Big Sharer名義でラップヴァースを担当している。
臆することなく他のジャンルを取り入れている『Starting Today』には、Armon-Jonesがダブとヒップホップのジャムの上にシルキーなキーボードをかぶせている様子も確認できる。
若さが光る、冒険心に満ちたデビューアルバムだ。(Davy Reed

14. [Ahmed]『New Jazz Imagination』(Umlaut Records / 2017年)

Pat Thomasは、ポストセリエル的フリーインプロの世界の住人で、彼のピアノには、伝統的なジャズだけではなく、レゲエ、ファンク、ジャングルにも結びつけられるリズムのドライブ感がある。
そのドライブ感は、彼とOrphy Robinsonによるアフロフューチャリスト系フリーインプロプロジェクトBlack Topの中に見出すことができるが、サキソフォニストのSeymour WrightとドラマーのAntonin Gerbal、ベーシストのJoel Gripと組んだ[Ahmed]の中にも見出せる。
[Ahmed]が2017年にリリースしたデビューアルバム『New Jazz Imagination』は、過小評価されている1950年代のアラブ人ジャズパイオニア、Ahmed Abdul-Malikの音楽を再解釈した作品だ。
Wrightのような徹底的にアヴァンギャルドなミュージシャンがAbdul Malikの作品に取り組んでいるこのアルバムは、リスナーに最高の喜びを与えてくれる。
このグループのグルーヴ感はもはや変態と呼べるものだ。Wrightによる針が飛んだようなモチーフの後方で、ThomasとGerbalが狂気のマーチを奏でているが、どういうわけかパーフェクトにスウィングしている。(Stewart Smith
『New Jazz Imagination』の詳細はこちら>>

15. Paper Tiger『Laptop Suntan』(Wah Wah 45s / 2013年)

Paper Tigerのトラックを初めて聴いた時に、コンピューターとサンプラーで作られた音楽だと思っても仕方がない。
リーズ出身で現在はウォルソールに拠点を置くPaper Tigerは、紛れもなくFlying Lotusが生み出したサイケデリックビートシーンのポスト世代で、UKグライムとUSラップの導入が、ビート優先という印象をさらに強めている。
しかし、聴き込んでいくうちに、ホーンセクションが実に見事な形でブリープやパッドと連携していることや、ブレイクビーツのカットアップが使用されていないトラックでドラマーがジャングリストやビートサイエンティスト的リズムを完ぺきに人力で再現していることに気が付くはずだ。
その瞬間、リスナーは自分がジャズレコードを聴いていることを理解する。(Joe Muggs

16. Binker & Moses『Dem Ones』(Gearbox / 2015年)

このアルバムはハードだ。粗くてストレートな今のロンドンジャズのアティテュードをまとめて表現している作品と言えるね。
この最高のアルバムでは、Binker GoldingMoses Boydの個性が解き放たれていて、Binkerのホーンは、遊び心溢れる演奏 - Binkerを知っている人なら、彼がジョークのセンスを持ち合わせていることを知っているはずだ - から強烈な演奏まで幅広い。
同様に、Mosesに関しても、彼がにやりと笑いながら力強くドラムを叩いている姿がイメージできる。
編成の点から言えば、このコラボレーションはジャズの中では特別新しいアイディアではないよね。「サックス&ドラム」のアルバムは、John ColtraneRshied AliMax RoachAnthony Braxtonなどもやっている。
それでも、この組み合わせが難しいことに変わりはない。踊りやすいソフトなキーボードや、ディープにうなるベースは存在しない。サックスとドラムだけだ。隠れられるスペースはない。
でも、『Dem Ones』はリスナーを引きつけ続ける。このアルバムは “ジャズワールド” で高く評価されたが、あくまで彼ら独自のスタイルでやりぬいた作品だ。このアルバムに妥協は存在しないよ。(Adam Moses
Binker & Moses
Binker & Moses

17. Matthew Halsall『On The Go』(Gondwana Records / 2011年)

Matthew Halsallの作曲・編曲・トランペットの演奏は、美しくバランスが取られている。
あまりにも美しく整えられているので、アップテンポなトラックでさえも、透明感を感じてしまう。彼の音楽は、ずっと昔からそこにある風景のようだ。
このアルバムはバラエティに富んでいて、もはやフォークのようなモーダルの「The Journey Home」から、ラテンに影響を受けたタイトル通りの「Music For A Dancing Mind」までが収録されている。
また、このアルバム全体を通して、Don CherryAlice ColtranePharaoh Sandersなどのスピリチュアルなオーラも感じられる。
しかし、彼のパーフェクトなバランス感覚が明確に見えてくるのは、Bill EvansChet Bakerのよう流麗な演奏が披露されている「Song for Charlie」、「Singing Everyday」、「Breathless」のようなドリーミーなバラードだ。(Joe Muggs

18. Shabaka Hutchings & The Ancestors『Wisdom of Elders』(Brownswood / 2016年)

Shabaka Hutchingsは最高だと思うよ。
とにかくエクスペリメンタルでエクレクティックでレフトフィールドなんだ。ヒッピー的で、サイケデリックでもある。でも、同時に土着的な感覚も備えているから、アフリカ的な要素も備わっている。ドープだよ。
このプロジェクトのShabaka Hutchingsは、南アフリカのミュージシャンたちと組んで、現地で得たインスピレーションを作品に取り込んでいる。
The Brother Moves OnSiyabonga Mthembuが数曲でリードヴォーカルを担当している。彼のヴォーカルには素晴らしい深みがあるよ。はるか遠い過去から歌っているようにさえ感じられる。
こういう感じで太古とサイケデリックが組み合わさっているこのアルバムは… ワオ!って感じさ。本当に素晴らしいアルバムだと思うよ。(MckNasty
Shabaka & The Ancestors
Shabaka & The Ancestors

19. Alexander Hawkins『Unit[e]』(自主制作 / 2017年)

Alexander Hawkinsは、彼の世代の中で最も優秀なピアニストのひとりで、ここ10年でパーカッションマスターHan BenninkやトルコのコスモノートKonstruktなどとのコラボレーションや、ソロにアンサンブルと、様々なプロジェクトをこなしてきた。
2017年にリリースされたダブルアルバム『Unit[e]』は、オックスフォードに拠点を置く彼が、2014年にリリースした美しいアルバム『Step Wide, Step Deep』で組んだセプテットに別れを告げつつ、ロンドンに拠点を置くJulie KjaerAlex Wardのような即興演奏家や、DinosaurLaura Jurdのような若手をフィーチャーした大所帯のニューグループを紹介している作品だ。
Sons of KemetShabaka HutchingsTom Skinnerが参加したセプテットでレコーディングしたディスク1には、USフリージャズへのオマージュとなっているJerome CooperFor The People」のカバーや、ヨーロッパのモダニズムからシカゴハウスまでのあらゆる音楽が取り入れられている2パート構成の「[C]all」などが収録されている。
ニューグループでレコーディングしたディスク2では、Hawkinsがねじ曲がったジャズモチーフと狂気のフリーインプロが生み出すカオスを上手くコントロールしてまとめながら、コンセプチュアルな一体感を維持している様子が確認できる。(Stewart Smith)。
『Unit[e]』のBandcampページはこちら>>
Cheltenham Jazz Festivalで演奏するAlexander Hawkins
Cheltenham Jazz Festivalで演奏するAlexander Hawkins
20. Sons of Kemet『Your Queen Is A Reptile』(Impulse! / 2018年)
伝説のジャズレーベルImpulse!からのデビューアルバムとなった『Your Queen Is A Reptile』で、Shabaka Hutchingsが率いるSons of Kemetは、反骨精神溢れるエナジーと共に刺激的なステートメントを打ち出した。
UKの立憲君主制に真っ向勝負を挑んでいるSons of Kemetは、アルバム全曲を勇気ある有色人種女性に捧げており、Angela DavisDoreen Lawrence、反アパルトヘイト活動家Albertina Sisulu、そしてHutchingsの曾祖母Ada Eastmanなどを “女王” として讃えている。
音楽は最小限にまとめられており、HutchingsのサックスとTheon Crossのチューバに、Tom Skinner、Seb RochfordEddie HickMoses Boydが参加しているダブルドラムという編成になっている。また、Congo NattyJoshua Idehenがヴォーカリストとしてスポット参加している。
彼ら全員がラガ、ダブ、グライムなどを取り入れながら強烈なパワーを生み出しており、このオリジナリティ溢れるハードヒットスタイルのジャズに貢献している。(Davy Reed
21. Melt Yourself Down『Melt Yourself Down』(Leaf / 2013年)
Peter Warehamは長年に渡りUKジャズシーンで独自の道を歩んできたサクソフォニストだ。
ジャズにパンクロックの激しいエナジーを組み合わせた2005年のアルバムが有名な、冒険心溢れるロンドンのグループAcoustic LadyLandのメンバーとして知られるようになったWarehamは、Seb RochfordPolar BearやロンドンのコレクティブF-IREにも参加している。
しかし、彼が参加してきたプロジェクトの中で最も衝撃的なのは、間違いなくMelt Yourself Downだ。
ノーウェーブ系サクソフォニストJames Chanceのアルバムから名前を拝借したこのプロジェクト(Shabaka Hutchings、モーリシャス出身のヴォーカリストKushal Gaya、エレクトロニカプロデューサーLeafcutter Johnも参加している)は、北アフリカ、中東、南米のスタイルを貪欲に模索しており、蒸気ローラーのようにパワフルに前進しながら、文化間の壁を破壊していく。(Louis Pattison