マラソンで成功を収めるためには正しい量の水分を補給することが不可欠だが、何をどのタイミングで飲めば良いのだろうか? 正しい量とはどのくらいなのだろうか? 補給量が足りないとどうなってしまうのだろうか?
スポーツ / パフォーマンス栄養士として活躍するウィル・ガーリング(Will Girling)氏をキャッチして、マラソン前・中・後の水分補給について詳しくアドバイスを送ってもらった。
【Wings for Life World Run 2024】は5月5日に開催! 参加登録はこちら>>
01
マラソンに最適な水分量を知る
マラソンレース当日に摂取する最適な水分量を算出するときは、個人によってその答えが大きく異なることを前提として理解しておく必要がある。
人体が必要とする水分量・毎日飲むべき水分量については相反する様々な意見が存在するが、その大まかな指針として、ガーリング氏は体重1kgに対して0.033ミリリットルを飲むべきだとし、マラソンでは以下の量を推奨している。
3分
Wings for Life World Run 2023:ハイライト
「必要な水分量は個人の発汗率によって異なり、発汗率は熱・湿度・運動強度に影響を受けます。ですが、目安としては1時間あたり400〜800ミリリットルが適量と言えるでしょう」
マラソンレースでどのくらい飲めば良いのかを算出するのは簡単ではない。ランナーとしての自分の能力やレース当日のコンディションを含めた以下の項目を考慮する必要がある。
- 自分の体重
- 自分の発汗率
- 完走までかかる時間
- レース当日のコンディション(天気・コースなど)
これらを考慮すれば、水分過多になることなくレースを完走するために必要な水分量がより見えやすくなる。アドバイスとしては、レース2時間前に400〜500ミリリットル、レース15分前にさらに200ミリリットルを飲んでおくのが良いだろう。
もちろん、そのあとのレース中もコンスタントに飲み続ける必要がある。
02
発汗量を調べる
ガーリング氏は発汗テストを行えば、1時間の運動で失う水分量が分かるため、それをカバーするために必要な水分量も見えてくると語っている。
発汗テストを行えば、レース中に摂取すべき水分量がより具体的に理解できるが、ここでも自分のペースや気温、体重などの要素を考慮しなければならない。
発汗テストは市販の発汗チェッカーなどでも行えるが、次の方法でも行える:
- ランニング前に裸で体重計に乗り、体重を計測する。
- 500ミリリットル程度のドリンクをランニングに携行する。
- 快適なペースまたはレースペースで60分間走る。
- 走り終わるまでに携行したドリンクを飲み終える。
- 走り終わったら裸で体重計に乗り、体重を計測する。
- ランニング前後の体重を比較する。
「ランニング前後の体重差がそのときの湿度・気温でのレース1時間あたりの平均発汗量となります」とガーリング氏は説明している。
1時間あたりの発汗量を知っておくことは大きな助けになる。なぜなら、レース中に体重の2%以上の水分を失うのは絶対に避けたいからだ。水分補給を怠ってしまい、これよりも多くの割合の水分を失ってしまえば、身体に様々な問題が起きるようになる。レースではこのような事態は特に避けたい。
レースの3時間前から電解質タブレットを入れた水600ミリリットルを飲み始めましょう
ランニング後の体重測定を終えたら、体重差をミリリットルに換算し、この数値にランニング中に摂取した500ミリリットルを足せば、失われた水分量の合計値が出る。
たとえば、体重差が500gなら、これを500ミリリットルに換算し、ランニング中に飲んだ500ミリリットルを加算した1リットルが失われた水分量になる。
この数値は計測時のコンディションによって大きく異なってくるので、レース前に複数のコンディションでこのようなテストを行っておけば、レース当日に最適な水分量を計算しやすくなる。
03
水分補給プランを立てる
ガーリング氏は、マラソンレース前に水分を取り過ぎてしまうのはパフォーマンス低下に繋がるという研究結果が出ているとし、レース前から適切な水分補給を行うことが重要だとしている。
レース2日前から適切な水分補給を心掛けておくことが、レース中の水分補給と同じくらい重要なのだ。
ガーリング氏は「レース3時間前から電解質タブレットを入れた水600ミリリットルを飲み始めて、尿が透き通るまで飲み続けてください。尿が透き通らない場合は、さらに400ミリリットルを飲みましょう」とアドバイスを送っている。
“尿の色” は、水分補給状態を確実に把握できる方法のひとつだ。尿の色が濃いほど、水分不足であることを意味し、色が薄いほど、水分が足りていることを意味する。
レース中の体内水分量を一気に増やそうとしてレース直前に大量の水を摂取するのはNGだ。これをしてしまうと身体が水分で膨張してしまい、体内のナトリウム量が不安定になってしまう。
スタートラインに立つかなり前から時間をかけて水分を補給しておくことが非常に重要なのはこれが理由だ。
04
エナジードリンクのメリットを知る
エナジードリンクには電解質の他に、通常の運動なら2時間で体内からなくなってしまうグリコーゲンを補充してくれる炭水化物が含まれているため、血糖レベルが保たれて「壁に当たる」のを回避できる。
「1時間あたり20gの炭水化物を補給するだけでもパフォーマンスが向上します。ハードなランニングなら最低でも1時間あたり40〜60gの摂取を推奨します。ブドウ糖と果糖を2:1の比率でミックスしたドリンクから摂取すれば、体内にスムーズに吸収されるので胃腸に問題が発生する確率が下がります」
1時間あたり20gの炭水化物を補給するだけでもパフォーマンスが向上します
ランナーたちはエナジードリンクのこのようなメリットを実戦に活かしている。ウルトラランナーとして活躍するレッドブル・アスリートのトム・エヴァンスは次のように語っている。
「レース後半は体力と集中力が必要になってきますので、レッドブル・エナジードリンク缶を飲んでいます。本当の勝負が始まるのはレース距離が残り20%を切ってからですので、このタイミングで飲むようにしています」
05
レース当日に合わせた水分補給プランを用意する
マラソンレース当日の天候を予測するのは簡単ではなく、特に春先から夏にかけては予報以上に気温が上がる可能性がある。「普段のトレーニングからレースペースで走っておくことが気候順応の助けになります。ですが、レース当日が普段よりも暑いなら、発汗量も増えるので補給する水分量も増やす必要があります」
レース当日が予報よりも寒いときも同じように対応する。寒い日は暑い日ほど汗をかかないが、だからと言って、単純に補給する水分量を減らせるわけではない。寒い季節の適切な水分量も調べておこう。
06
電解質が重要な理由を知る
水分不足と水分過多になるといくつかの症状が見られるようになる。そのひとつが、体内のナトリウム量が減ってしまうことで発症する “低ナトリウム血症” で、これは水分不足と水分過多のどちらでも発症する可能性がある。
「重要なのは電解質のバランスです。これが崩れてしまうと脳に余計な水分が入って腫れてしまい、気分が悪くなります。そのあと、混乱、衰弱、虚脱、昏睡へと症状が進行し、最終的には死にいたる可能性もあります」
体内の水分が1%失われるごとに心拍数が5〜8bpm上昇することに特に注意しておきたい。
「水だけでは電解質を含む水ほど水分を補給できません。低ナトリウム血症は電解質が含まれない水だけを取りすぎてしまうと発症します。低ナトリウム血症が発症してしまえば、体内のバランスが崩れてしまいます。要するに “薄まってしまう” のです」
「失われるナトリウム量はテストで知ることができますが、走り終わったときに顔やウェアに塩分が残る人は、失われるナトリウム量が多いタイプと考えた方が良いでしょう」
このように説明するガーリング氏は、3時間以内の運動では1リットルあたり0.5〜0.7gのナトリウム、3時間を超える運動ではこれ以上の量を補給すべきとアドバイスを送っている。ちなみに一般的な電解質タブレットにはナトリウムが0.4g程度含まれている。
07
レース後も水分を補給する
“喉が渇いているときに飲めばよい” は常に当てはまるわけではない。
ガーリング氏は「基本的に “喉が渇いている” は軽い脱水症状と言えます。自分の発汗量に合わせて水分を定期的に摂取して、体重の2%以上を失わないようにすることを意識してください」とアドバイスを送っている。
マラソンレースを完走したあとは走る必要こそなくなるが、水分補給は続ける必要がある。
マラソンレースは身体に大きな負荷をかけ、身体をオーバードライブ状態にする。だからこそレース終了後もしっかりと水分を補給して怪我や痙攣を防ぎながら回復していくことが重要になる。
▶︎RedBull.comでは世界から発信される記事を毎週更新中! トップページからチェック!