奥川雅也
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サッカー

J1未経験から欧州CLの舞台に立った男・奥川雅也|インタビュー

FCレッドブル・ザルツブルクに所属する奥川雅也は異色のキャリアを送ってきた。渡欧5年目にして世界最高峰の舞台にも立った彼が、サッカー選手としてのこれまでと今、そしてこれからを語る。
Written by Wataru Funaki
読み終わるまで:9分Published on
FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

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◆異色の海外キャリアを積む男・奥川雅也

その男は“古都のネイマール”と呼ばれていた。奥川雅也は1996年4月14日、滋賀県生まれの24歳。京都サンガF.C.の育成組織時代から卓越したドリブルスキルが注目を浴び、世代を代表するタレントとして将来を嘱望されてきた逸材だ。
2015年、高校卒業とともに京都サンガF.C.でトップチームに昇格した奥川は、それから約半年が経った同年夏に欧州への移籍を決断する。そして数多くの若手にとって飛躍の舞台となった、オーストリアリーグの強豪FCレッドブル・ザルツブルクの門を叩いた。
FCレッドブル・ザルツブルク

FCレッドブル・ザルツブルク

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「U-18から昇格して京都サンガでプロになったものの、怪我でなかなか練習できていない状況でザルツブルクから移籍の話をもらったんです。その時は正直不安ばかりでした」
ずっと憧れを抱いていた欧州への移籍。
「中学生くらいから世界大会とかに出ていた中で、同い年にも全くスケールの違う選手もいました。そういう人たちと同じピッチで戦いたいと思ったんです」
と、あえてプロとしての経験が浅いまま厳しい環境に飛び込んだ。
当時、奥川には「リバプールが獲得に興味」というニュースも出ていた。イングランド・プレミアリーグの強豪クラブから関心を寄せられていたのは事実だと、彼は認める。それでも移籍先にザルツブルクを選んだのはなぜだったのか。実は早い段階から心は決まっていたという。
「自分のことを一番熱心に見てくれていて、どういうプランで成長させていくのかも示してくれたのがザルツブルクでした。リバプールの話もあるにはあったんですが、ザルツブルクほど熱心ではなかったんです。
それで正式なオファーが来る前に断りを入れて、候補をザルツブルクに絞っていました。自分がやりたいサッカーと合っているというのもあり、さらに半年くらい決断を待ってくれていたので、すべてのタイミングが揃ってザルツブルクを移籍先に選びました」
FCレッドブル・ザルツブルク

FCレッドブル・ザルツブルク

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◆レンタル生活の繰り返し...抱えた苦悩

ただ、現実は甘くなかった。移籍して1年目と2年目はザルツブルクのセカンドチームにあたる、オーストリア2部へのリーフェリンクへ期限付き移籍することになる。その後も、3年目はオーストリア1部のマッタースブルクへ、4年目はドイツ2部のホルシュタイン・キールへと貸し出され、長く険しいレンタル生活を経験している。
毎年レンタルに出され、なかなかザルツブルクのトップチームにたどり着けない。先の見えない中でプレーしなければならない。
「リーフェリングで過ごした1年目と2年目は、正直メンタル面できつい部分もありました」
と奥川は当時を振り返る。
契約初年度、テストマッチでプレーする奥川雅也。

契約初年度、テストマッチでプレーする奥川雅也。

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それでも、オーストリア2部から1部へ、さらにドイツ2部へと着実にステップアップを果たした4年間は、今シーズン奥川がザルツブルクの主力として活躍するにあたっての地盤を築くために重要な時間だった。
「3年目にマッタースブルクにレンタル移籍して、いざ1部に挑戦できるとなった時に、きつかったリーフェリングでの2年間が大事だったと感じました。マッタースブルクでは自分がオーストリア1部でも戦えるという自信を掴むことができました。
飛行機で移動する奥川雅也。

飛行機で移動する奥川雅也。

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レンタル移籍から復帰して、すぐにまたレンタル移籍というのは自分の中でも消化するのは難しいし、正直きつかったです。けど、キールに行くことでプレーする国を変えて、すごくレベルの高いドイツ2部ではメンタル面でもプレー面でも成長を感じることができました。やっぱりレンタル移籍の4年間があったからこそ、今ザルツブルクで試合に出てゴールを決められているんだと思います」
レンタル先で試合出場を積み重ねた奥川は、結果を出すとともに自信も掴んだ。
「焦りもありますけど、僕は逆に自分が知られていないところでサッカーをやるのが好きで、自分のプレーを認められる過程がサッカーの醍醐味だなと思うんです。そういう意味ではストレスより、自分が活躍することによってザルツブルクに『戻ってこい』と言われるのを待っていたので、あとは自分しだいだと思ってやっていました」
マッタースブルクの一員としてザルツブルクと対峙する奥川雅也。

マッタースブルクの一員としてザルツブルクと対峙する奥川雅也。

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◆ザルツブルクへの帰還と躍動した今シーズン

常に生き残りをかけた競争が繰り広げられる厳しい環境で精神的にも強くなった。満を持してのザルツブルク復帰。渡欧5年目でついに念願のトップチーム入りのチャンスを得て、奥川は躍動している。
今シーズン、ザルツブルクではレンタル生活の4年間で積み重ねた成長がピッチ上で結果になって表れはじめた。ここまでリーグ戦で8ゴール6アシスト(22節終了時点)、そして欧州最高峰の舞台、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場も果たした。
※奥川雅也や南野拓実(現リバプールFC所属)も登場する、FCレッドブル・ザルツブルク密着映像。第1話はこちら🔽

14分

第1話: 未来を占う13週間

第1話あらすじ: クラブから多くの選手が去り、代わりに新選手たちが加入したが、メディアは新チームに懐疑的だ。新監督はクラブに必要な存在なのだろうか?【FCレッドブル・ザルツブルク密着動画(シーズン1/全9話/日本語字幕)】

※Red Bull TVアプリでは「全9話日本語字幕付き」で公開中! アプリのダウンロードはこちらから
プレースタイルにも変化が生まれている。奥川といえば、“古都のネイマール”の異名通り、テクニカルなドリブル突破が武器だった。今シーズンはそのドリブルの切れ味はそのままに、よりダイレクトなプレーも織り交ぜながら、ゴール前で違いを発揮できるようになってきている。リーグ戦での8ゴールという結果が何よりの証明だろう。
「やっぱりザルツブルクはオーストリア1部でズバ抜けていて、そこで今の自分がステップアップするために何が一番必要かと言ったら目に見える結果だと思っているので。キールの時もドリブルは通用していたんですけど、結果という意味ではゴールが必要。ドリブルはいいけど…で止まる可能性もありました。
ザルツブルクは周りのレベルがすごく高くて、他の選手がボールを前に運ぶ機会が多いので、だったらゴール前での駆け引きで自分がゴールを奪えれば、それが結果に繋がる。バリエーションじゃないですけど、こういうのもできるというのを結果として証明できたらいいなと思って今のプレーになっています」
チームの雰囲気に溶け込む奥川雅也。

チームの雰囲気に溶け込む奥川雅也。

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ドリブルには渡欧当時から自信を持っていた。元々はパサーで「10番タイプの選手」だったという奥川は、中学生の頃に「そのポジションで通用しなくなった」という理由でサイドに転向する。
そこでドリブルに目覚めた。「ボールを触らない時間がないくらいずっとボールと一緒だった」という少年は、サイドへの転向を機に「こんなに楽しいポジションはない!」とドリブル突破で崩すサッカーに目覚め、今につながる成長の道筋を歩んでいく。
UEFAチャンピオンズリーグにて、リバプールFCと対戦した際の奥川雅也。

UEFAチャンピオンズリーグにて、リバプールFCと対戦した際の奥川雅也。

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オーストリアでもドイツでも、ドリブルが通用する自信はあった。苦手だった体を張っての守備も克服しながら、どうやって生き残り、ステップアップするかを考えた時に、ゴール前で結果を出すことの重要性を改めて認識した。
今の奥川は、ボールを持たない状態でディフェンスラインと駆け引きしてゴール前でシュートを打つプレーや、ある程度まで味方に運んでもらって、裏のスペースに飛び出してダイレクトでクロスを上げるなど、ゴールやアシストに直結するような動きに磨きをかけている。ザルツブルクという、世界中から集められた若手がしのぎを削ってステップアップを目指す環境がそうさせているのかもしれない。
「CLにも出ていて、オーストリアの中でもずっとトップで、その中でライバルとなるのはチームメイトたちなんです。そういう意味では毎回の練習からいい刺激があるし、ザルツブルクで試合に出続けることが成長につながります。やっぱり他の選手たちには負けたくないという想いもありますし、正直言えば自分が負けているとも思わない。ドリブル突破の面でも自分の方が優っていると思いますし、いい刺激にはなっていますね」
ロッカールームでのFCレッドブル・ザルツブルク。

ロッカールームでのFCレッドブル・ザルツブルク。

© Markus Berger / Red Bull Content Pool

◆自身が描く将来像と内に秘めたる想い

ザルツブルクから旅立って、世界最高峰のリーグで輝いている選手には枚挙にいとまがない。昨シーズンのCL覇者であり、今シーズンのCLのグループステージでも対戦したリバプールに所属するサディオ・マネナビ・ケイタは、まさにザルツブルクで飛躍のきっかけを掴んだスターだ。奥川はそういった先達たちの偉大な姿も目の当たりにし、自らの将来像をどう描いているのだろうか。
サディオ・マネ(リバプールFC)とマッチアップする奥川雅也。

サディオ・マネ(リバプールFC)とマッチアップする奥川雅也。

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「自分のこれからのステップアップとして、早く日本代表に呼ばれることが一番だと思いますし、ザルツブルクでは高いレベルのチームと戦えるチャンスがあるので、そこで自分自身とチームを高められるように成長したいです。ゆくゆくはスペインリーグでサッカーをしたいと思っているので、そこにたどり着けるのが早ければ早いほど、自分の成長にはいい。自分の目標をしっかり意識してプレーし続けていきたいと思います」
かつてのチームメイトであった南野拓実はいまや日本代表に欠かせない存在であり、
「間近で拓実くんが代表で活躍しているのを見て、すごくリスペクトしているし、自分もという気持ちはいつもあります」
と、より目標を明確に意識できる要因にもなっている。
サッカー日本代表、南野拓実(FCレッドブル・ザルツブルク)。

サッカー日本代表、南野拓実(FCレッドブル・ザルツブルク)。

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だからこそ「現状、日本代表に呼ばれているのは海外組の選手が多いので、自分もちょっとずつ近づいてきているのかなとも思います」と手応えもある。「自分を呼んでくれ!」という想いも日ごとに強くなる。
FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

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「京都サンガF.C.ではサポーターにもチームメイトたちにも後押しされてオーストリアに来たので、その時の感謝の気持ちは今でも忘れていません。今、自分がCLに出たことを京都サンガF.C.に関わる皆さんに報告することができて本当に良かったと思っています。ここからもっと有名になって、ビッグクラブに行って、応援してくる皆さんにもっと自分の活躍を見せていきたいと思います」
小学生の頃、勝っても負けても毎試合後に泣いていたという少年は、世界に勝負を挑む青年にたくましく成長した。 育ててくれた古巣への感謝の想いも背負いながら成長を続ける奥川には、ワールドクラスになれるポテンシャルがある。ザルツブルクでもっと活躍し、より高いレベルへとステップアップするために、夢は大きく、志は高く、奥川雅也は常に前を向いて突き進む。
FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

FCレッドブル・ザルツブルク所属選手、奥川雅也。

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(了)
◆Information
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