MotoGPタイトルを欲しいがままにしていた時期のマルク・マルケスは、何かを “逆算で考える” ことにはまったく馴染みがなかったはずだ。
かつて、マルケスの目標は大きく、期待も高かった。彼は物理法則を定期的に覆すライディングスタイルで全力で突き進み、あらゆる栄冠を鮮やかに勝ち取ってきた。
10シーズンの間に最上級MotoGPクラス6冠を含む8個のタイトルを獲得したマルケスには次々と勝利が舞い込み、“2輪モータースポーツ史上最高のライダーのひとり” というこのスペイン人のレガシーは揺るぎないものになった。
しかし、2020シーズンのヘレスでのクラッシュが連勝にストップをかけ、マルケスを苦難の道と幾度もの手術、復活、内省の日々を送ることになった。
ポッドキャスト『Mind Set Win』に出演したマルケスは、次のように打ち明けている。
「僕は毎年のように勝利を挙げていましたし、それが当たり前でした。ところが、クラッシュして怪我を負ったあの日を境に悪夢が始まったのです」
困難な過去3年間で、マルケスは再びレースを楽しみながら目標を達成できるようになるためには “何かを変える必要がある" ことを思い知ったと語る。
必要とするステップを最初から最後まで順を追って計画するのではなく、マルケスはそのプロセスを完全にひっくり返し、逆算で取り組んでいった。“再び優勝する” という最終目標の前に、マルケスはモチベーションを高い状態で維持するために現実的で達成可能な目標を設定する必要があった。
つまり、マルケスは “チェッカーフラッグを受ける” から逆算していき、表彰台 → 5位入賞 → 6位入賞 → トップ10フィニッシュというように目標をひとつずつ定めていった。彼の豊富な経験が正しい方向へ進み続けるためのブーストになった。
自分の腕がレースに勝てる状態まで回復していないと悟った時点から、現実的な目標を定め始めました
「期待値は高かったのですが、自分の身体にはその期待に応えられる用意ができていなかったので、相当なフラストレーションが溜まりました」とマルケスは語る。
「過去の僕は、自分にできる最大限のことばかり考えていました。ですが、大きな目標を達成するためにはそれを一旦忘れ、数多くの小さな目標を達成していく必要があるのです」
「以前は大きな目標を掲げても簡単に達成できていましたが、そのあと困難な局面に見舞われ、何かを変えなければならないと悟りました。いつの日か最大の目標へ到達するために小さなモチベーションや小さな目標を見つける方法論 "リバースプランニング" を理解する必要がありました」
リバースプランニングを取り入れる方法
『Mind Set Win』のホストを務めるセドリック・デュモンが、私たちも取り入れることができるリバースプランニングの実践方法を解説してくれた。
以下のステップを参考にすれば、小さな目標で構成された成功へ向かうロードマップが手に入るはずだ。
- 特定の目標とその目標をいつまでに達成したいかを書き出す。
- その目標を達成する直前に達成すべきことを考えてみる。
- 次に、最後から2番目に達成すべきことを考える。何をいつまでに達成しなければならないのだろうか?
- このプロセスを繰り返し、現在の自分がいるステップまで遡る。それぞれの目標を達成すべき時期も必ず設定しておこう。
- このようなリバースプランニングを取り入れれば、自分が今なすべきタスクを見極める助けになるばかりか、最大の努力を必要とするステップと時期も明確になるので、スケジュールの設定もできる。
リバースプランニングが多くの利点を備えていることは研究でも証明されている。
デュモンが今回のエピソード内で明かしたところによると、中国・韓国・米国の複数の大学が2017年に学生たちを対象に行った研究では、リバースプランニングを取り入れた学生は期待がより高く、より明確で、モチベーションがより高く、プランを進めていくことに不安を感じることが少なかったという結果が出ている。
この研究は、最終目標を設定し、そこに到達するまでの努力が報われていく様子をイメージすることで高揚感が得られることについても説明している。この高揚感は最終目標へ向かう小さな目標をクリアするためのモチベーションを高めてくれる。デュモンは次のように語る。
「“計画を立てないのは、失敗する計画を立てているのと同じ” という言葉は誰でも知っていますし、良く練られた計画が目標達成の可能性を高めてくれることは研究でも証明されています」
入念な計画とルーティンへの献身を通じて、マルケスは人生のあらゆる面で成功を得てきた。キャリア17年目を迎えた現在も、マルケスは以前と変わらず成功を追い求めている。長年に渡りレプソル・ホンダのエースとして君臨するマルケスは次のように締め括った。
「以前の僕にとって、成功とはすなわち勝つことでした。勝つことしか考えていなかったんです。ですが、今は成功の意味が “楽しむこと” へと変わってきています」
「もちろん、優勝できればさらに楽しいでしょう。ですが、自分がレースを楽しめていれば、プロフェッショナルとしてのキャリアと自分の人生の両方で成功を収めているということになります」