笹原右京 Team MUGEN
ストックカー

あの大先輩に「次世代スーパースタードライバー」について訊いてみた。

© Sho Tamura / Red Bull Content Pool
モータースポーツ専門誌「オートスポーツ」の編集長、田中康二さんに突撃インタビューする連載企画。第二回は、いま世間をザワつかせている若手ドライバーのお話。《Super GT / Super Formula》
Written by 中三川大地公開日:
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角田 裕毅

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レーシングドライバーって、ワタクシ中三川(ナカミガワ)にとっては永遠の憧れ。若干20歳にしてF1へとのぼり詰め、今や世界が注目する角田裕毅選手に、TEAM Red Bull MUGENのドライバーを務める笹原右京選手に大湯都史樹選手など。まだ若いのに大物感がハンパないドライバーがわんさか出てきていて、気がつけば日本のモータースポーツがスゴいことになっている。彼らの“速さ”と“強さ”の理由、そのマインドを聞いてみました。
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レーシングドライバーの速さと強さ

――僕らは普段の生活で直接的な真剣勝負ごとなんて滅多にないけれど、レーシングドライバーって、日々が勝負の連続なんですよね。すごいメンタルだなぁ、と。
田中 確かに誰もが「自分がイチバン速い」って思っています。そう思わなきゃ、第一線ではやっていられないんでしょう。ひとりのドライバーで闘うスーパーフォーミュラなんて、優勝よりもむしろ「予選1位でポールポジションを獲ったほうが嬉しい」って声も聞こえてくるぐらい。
――それはなぜですか。
田中 予選での一発勝負って、何も言い訳できない。決勝だって言い訳できるわけじゃないけれど、運もあるし、複合的な要素が絡んでくることは確か。対して予選は純粋にドライビングスキルが問われ、ラップタイムという明確な結果が出る。
――いつも言い訳を探してばかりの僕には耳の痛いハナシです。でも、そんな猛者たちがSUPER GTではふたりでチームを組む。よく考えると、スゴい話ですね。
田中 特に16号車 TEAM Red Bull MUGENを見ると面白いかもしれません。
――昨年から引き続いて2年目のTEAM Red Bull MUGENとなった笹原右京選手に、GT500への初挑戦となった大湯都史樹選手ですね。
田中 ふたりともまだ若いし、天才肌だし、実際にずば抜けて速い。将来的にレース界を背負って立つような名選手になることは間違いありません。強いて彼らを分析するなら、大湯選手は本能的に“速さ”が秀でていて、笹原選手には“速さ”に加えて“強さ”を体得しています。大湯選手は時にミスすることがありつつも、ノッてきたら手をつけられないほど速い。笹原選手は一発の速さに加えて、レース運びが上手い。10代の頃、ヨーロッパに渡ってカートやフォーミュラ・ルノーでさんざん揉まれてきたからこその、柔軟性とか粘り強さがある。
――その個性を考えたら、どういう作戦に出るのか。大湯選手の速さを、笹原選手が支えるのか。逆に笹原選手の安定感を大湯選手も体得するのか。彼らの「速さと強さ」に注目しながらレース展開を追ってみるのって、とても面白そうですね。

三つ巴の天才たちに見る、不思議な関係性

――ところで、ふたりとも鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS-F)の出身だと聞きました。
田中 しかも大湯選手が首席、笹原選手が次席で卒業しているんですよ。つまり、同年代のツートップ。そんな彼らがチームを組むなんて、興味深いですよね。でも、過去に思いっきり衝突したことがあったんです。2017年FIA F4選手権で、ふたりがトップ争いをしている状況のなか、大湯選手のミスで接触して、ふたりとも潰えてしまって。その時、笹原選手は大湯選手に掴みかかっていくほどヒートアップしていましたよ。
――同じ学校で、同年代の超ライバルで、過去に遺恨なんかもあって。でも、今じゃ険悪な雰囲気はまるでないですね。
田中 競技では真剣勝負で、ライバル心をむき出しにしていても、普段は意外と仲が良くて、っていうのが今のドライバーたちですね。モータースポーツが洗練された証かもしれません。スポーツはスポーツとして、コースの外には感情を持ち出さないって感覚。
――昭和の街道レーサーに憧れ、不良と喧嘩と競争を一緒にする時代は終わったようです。
田中 ちなみに彼らがツートップで卒業した時、その下にいたのが、今、話題の彼だったんです。
――角田裕毅選手だ! 若干20歳にして、日本人としては史上最年少でF1ドライバーにまでのぼり詰めたという。
田中 今年はスクーデリア・アルファタウリ・ホンダから参戦し、初戦のバーレーンGPでは、スタートでつまずきながらも9位に入賞して、いきなりポイントを獲得しました。彼の天才肌っぷりには、まわりが驚いています。
――彼こそ、天才肌だと。スクール時代はトップを獲れなかったのに、いきなりF1に。このあたりのストーリーがまたドラマティック。
田中 先ほども言いましたが、「速さなら大湯選手だ、強さなら笹原選手だ」という見解がありました。その中にあって、当時はまだふたりの領域にまでは到達していなかったけれど、双方をバランス良く持っていて、かつ未来への成長曲線を加味したうえで選ばれたのが角田選手だと思っています。もちろんヨーロッパでは激しく揉まれるので、彼が持つメンタル的な強さもあるでしょう。あらゆる要素が検討されて、少なくとも今回は角田選手が選ばれた。
――正直、ツートップのふたりは悔しかったでしょうね。
田中 もちろん、そういう気持ちはあるでしょう。実際、彼らはまだ、F1を夢ではなく現実的な目標として持っているでしょうから。そのためにも今年のTEAM Red Bull MUGENでどんな爪痕を残すのかには注目しています。
――GT500ドライバーっていうだけで、とても名誉ある仕事だと思うんですけど、彼らは決して現状に甘んじることはないんですね。
田中 上の世界があるのに、そこを見ないなんてナンセンス。常に上を見据えている者だけが持つハングリー精神は必要ですよ。いつかはF1ドライバーとか、別に必ずしもF1ではなくてもいいけれど、上を目指しているからこそ、GT500ドライバーとしてトップを張っていられるような感覚です。「GT500ドライバーでいいや」って甘んじたら、もう次の年にはシートがなくなってしまうかもしれません。
――現状維持は衰退と同義だ。って、僕も己に課したいと思います。とあるシート(仕事)を与えられたら、割り切ってそこに専念したほうが効率的かと思いつつ、でも、そこに満足した瞬間から衰退が始まるんですね。
田中 大湯選手にしても笹原選手にしても、心の中では「角田選手に負けるわけない」って思っているはずなんですよ。でも、それは決して喧嘩腰ではなく、結果を残したときには純粋に褒めていたり、コースの外やSNS上ではじゃれあっていたり。同年代の仲間っぽさがあって、とてもいい関係性だと思いました。

ライバルに勝つのが“速さ”、ライバルと勝つのが“強さ”

――角田選手には期待しつつ、やっぱりSUPER GTからも目が離せません。最大のライバルであり仲間でもある彼らが、TEAM Red Bull MUGENとしてひとつのチームにいるんだから。
田中 日本だとスーパーフォーミュラ、世界の頂点を見ればF1が君臨するフォーミュラ・レースが、ドライバーの“速さ”を証明するものだとすれば、SUPER GTは“強さ”を証明するものだと思っています。
――おぉ、深きお言葉。笹原選手、大湯選手の例えでも出てきました。
田中 フォーミュラは自分が一番乗りやすいセッティングに持っていくわけだけれど、SUPER GTはマシンを共有しますからね。自分のことだけを考えれば、エゴを貫いて自分だけが速いマシンに仕立てればいい。でも、チームメイトが乗りこなせなければ、チームとして結果は出ない。ライバルには勝てるかもしれないけれど、ライバルと一緒には勝てないわけです。
――それだと瞬間的には脚光を浴びても、結果的に未来を描くことはできない。自分が一番速いというマインドを貫き通しながらも、だけどエゴを押しつけるのではなく、そこでの折り合いのつけ方を含めて、速さを維持することが強いドライバーだと思いました。
田中 SUPER GTには“起承転結”があります。予選から始まって、決勝の1コーナーへの飛び込みまでを“起”とするなら、その後、GT300マシン(他カテゴリーの遅いマシン)をうまく交わしながらレースを続ける“承”、ドライバーを交代してまた新たなシチュエーションに挑む必要のある“転”、消耗したクルマやドライバーとともにクライマックスを迎える“結”と、そのすべての状況で結果を残し続けなければ決して勝てない。そのためにチームがドライバーをどう使いこなすか。そのへんも注目してみてください。

モータースポーツの未来は明るい!?

――それにしても、最近は妙に若手の活躍が目覚ましいですね。
田中 F1のシートをモノにした角田選手に加え、TEAM Red Bull MUGENのふたりだって、いつF1へ行っても不思議ではありません。他のチームを見渡しても、彼らの同年代に天才たちがわんさかいる。過去、こんなに豊富な人材が揃っていたことはないと思います。
――それには何か要因があるんでしょうか。
田中 モータースポーツの競技人口がもっとも多かったのは、1980~90年代の、日本の景気が良かった時代。でも、今はそんな土壌の上で、次々と新しい世代が台頭してきたような気がします。で、彼らの世代の火付け役になったのが「カペタ」だと思います。
――カペタ!? 2000年代を代表するモータースポーツ漫画作品じゃないですか。若者のクルマ離れだなんだと叫ばれる21世紀ですが、ひっそりとカペタが、少年たちの心に火をつけていたわけだ。
田中 少なくとも角田選手や大湯選手は「カペタがなければ、レーシングドライバーにはなっていなかった」と断言しています。ああいう起爆剤みたいな作品って重要なんだと再確認しました。カペタの連載は2003年~2013年まで。これを読んで育った世代は、これからもどんどん出てきますよ。
――先日、角田選手のツイッターで、「キャプテン翼」の作者、高橋陽一氏が描いた角田裕毅イラストが公開されていました。キャプテン翼と言えば、あれが流行ったからこそサッカー人口が爆発的に増えて、クオリティとしても世界とタメを張れるレベルにまで上がったというハナシです。
田中 あのコラボには妙に納得しました。当時のキャプテン翼とサッカー少年との関係って、今のモータースポーツにある状況と似ている。とすると、これからドライバーに限らず、日本のモータースポーツのレベルはもっと向上していくのかもしれません。
――それを象徴する存在である角田裕毅選手、そしてTEAM Red Bull MUGENの笹原右京選手、大湯都史樹選手。彼らの活躍がますます楽しみになりました!
「次世代スーパースタードライバー」について訊いてみた。
「次世代スーパースタードライバー」について訊いてみた。
(連載② おしまい)
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