Close up of the Rockshox Vivid coil shock on Mark Wallace's Canyon Sender MTB in Fort William on June 2, 2017
© Bartek Woliński
MTB

MTB:サスペンション専門用語を理解しよう!

難解なサスペンション専門用語を理解して、さらなる速さを手に入れよう。
Written by Ric McLaughlin
読み終わるまで:6分公開日:
MTBには相反する2つの側面がある。「オフロードで目一杯速くバイクを走らせる」という実に単純明快な側面と、「バイクを速く走らせるために必要なテクノロジー」というやや複雑な側面だ。
ひと昔前、1980年代後半の暗黒時代では、MTBのサスペンションはナンセンスなものと思われていた。オフロードアドベンチャーのピュアな部分をライダーから奪い去ってしまう、過度に複雑なギミックとっして考えられていたのだ。幸いながら、すぐにこれが偏見であることが証明され、現在はエントリーレベル向けのサスペンションフォークでさえも、かつてのサスペンション懐疑論者たちが想像すらできなかった優れた減衰力と調整オプションを備えている。
Aaron Gwin's mechanic John Hall plays around the the YT Tues rear shock settings

正しいセッティングを得るためには高い技術が必要

© Bartek Woliński

しかし、サスペンション黄金時代の現在は、やや過剰とも言える。最適なセットアップを得るために、バイクパークの駐車場でノブやダイアルを気が遠くなるほど長時間触り続ける羽目になることもある。
しかし、少しだけ時間をかけてサスペンション各部の機能を理解すれば、どんなバイクでもシルクのように滑らかに路面をなぞれるようになるはずだ。MTBサスペンション各部の名称とその機能を解説していこう。

コイル / エア

Push Elevensix rear shock

Push Elevensix リアショック

© Push

MTBのサスペンションはコイル式とエアスプリング式に分かれている。おおよそ想像はつくと思うが、コイルはスプリングを利用し、エアは空気を利用している。バネレート(圧縮の際の反発力)を調整する際、コイル式はスプリングそのものを丸ごと交換するが、エアスプリング式ではショックポンプを用いて空気を足したり減らしたりするだけで済む。
かつてのエア式は、パーツ同士の摩擦によって生まれる熱がダンパー内圧を不安定にしたため、コイル式よりも劣ると見られていた。しかし、ショック技術の進化のおかげでこれらの問題は全て解消されており、現在のプロダウンヒルレースのトップレベルではエア式のサスペンションが主流となっている。

トラベル量

Greg Minnaar races at the top of the course during the Fort William UCI DH World Cup Rd 2 finals on June 4, 2017

グレッグ・ミナー

© Bartek Woliński

ジオメトリーと同じく、サスペンションのトラベル量もカテゴリー別に規定される傾向が強い。壮大な自然の中を数日間走り続けるためにデザインされたトレイルバイクのトラベル量は100mm程度だが、本格的なダウンヒルバイクはその倍のトラベル量が設定されている。
大まかにまとめれば、高速走行が必要とされるバイクほど、より多くのトラベル量が必要になる。

サグ

Aaron Gwin's all-American YT Tues waiting to come together

星条旗カラーに塗られたアーロン・グウィンのレースバイク

© Nathan Hughes

サグとは、ライダーの体重を加えた時にサスペンションが沈む量を表す数値だ。サグ値が大きすぎれば(沈む量が多すぎれば)、下り坂に差し掛かる前の段階でサスペンションの可動域を使い切ってしまい、サグ値が小さすぎれば(沈む量が少なすぎれば)、路面の凹凸への追従性が失われてしまう。
また、小さすぎるサグ値は、そのサスペンションユニットのトラベル量と性能を無駄にしていることを意味する。
ほとんどのバイクフレームは、サグ値をサスペンショントラベル量の30%前後に想定して設計されている。エアスプリング式サスペンションなら、ポンプさえあれば簡単にこの値を調整できる。多くのエアショックと同様、最新のフレームには、サグ値を測定するためのインジケーターがあらかじめ備えられている。

コンプレッション(縮み側)

A view of the Suspension on the Specialized Enduro Comp

Specialized製Enduro Comp Suspension

© Niall Bouzon

コンプレッションとは、衝撃を吸収した際にサスペンションが縮むスピードを指す。コンプレッション値が低ければ、フロントフォークとリアエンドは障害物を楽にクリアできるようになるが、速度域が上がるとサスペンションユニットのトラベルをすぐに使い切ってしまい、ライダーがコントロールを失う可能性が高まる。本来、サスペンションはコントロール性を高めるためのコンポーネントなので、これでは本末転倒ということになる。
一方、コンプレッション値が高すぎてもサスペンションの効果が損なわれてしまう。この設定では、路面からの衝撃がバイクとライダーに伝わりすぎてしまう。

リバウンド(伸び側)

Anton's RockShox Argyle suspension fork

アントン・テランダーが使用するRockShox製Argyleフォーク

© Bartek Wolinski/Red Bull Content Pool

リバウンドアジャスターを調整すれば、サスペンションが衝撃を吸収した際にどれだけのスピードで元のフルトラベル状態に戻るかをコントロールできる。ライダーは、リバウンドのセッティングについて「早い」、「遅い」という表現を使うことが多い。リバウンドが早すぎるとバイクはポゴスティック(ホッピング)のように飛び跳ねてしまい、リバウンドが遅すぎると複数の衝撃を受ければバイクが沈み込んでしまう。この現象は「パッキングダウン」と呼ばれることもある。

ハイスピード&ロースピード

A close up of the Fox DHX2 coil rear shock on British DH World Cup racer Danny Hart's team issue Mondraker Summum MTB

Fox製DHX2リアショック

© Bartek Woliński/Red Bull Content Pool

サスペンションに費やす金額が多いほど、調整範囲が広がる。そのため、上位機種はコンプレッションとリバウンドの両方を、高速(ハイスピード)と低速(ロースピード)という2つの独立したパラメーターで調整できるようになっている。
トレイルでバイクが受ける衝撃の大半が “低速(ロースピード)” だ。岩や木の根をホイールが乗り越える時の衝撃がこのタイプで、サスペンションを圧縮させる量は最大でも半分程度だ。そして、ジャンプやドロップからの着地や、トレイルの途中で尖った岩に突然遭遇した時など、低速の衝撃よりも大きな衝撃が “高速(ハイスピード)” だ。
週末ごとに異なるレーストラックに合わせてバイクをセットアップする必要があるワールドクラスのレーサーにとって、衝撃をロースピードとハイスピードに分けて調整できるのは大きな助けになる。しかし、不慣れなライダーは丁寧に調整する必要があるだろう。これらを正しくセットアップできていないと、逆にバイクのパフォーマンスを下げてしまう可能性がある。

インターナル調整

Intense 29er 200mm rear suspension

DHバイクのリアのトラベル量は200m前後

© Bartek Woliński

サスペンションチューニングは、ライディングで感じ取ったフィーリングを的確に言語化して熟練エンジニアに伝えられる経験豊富なライダーでなければ扱えない黒魔法的なものとして考えられている。
しかし、ダイアル付きのショックやフォークでは十分な調整ができないというライダーのために、最近のサスペンションユニットの多くはインターナル(内部)調整ができるようになっている。エアスプリング・ユニットには、差し込み式の “トークン” などでエア室の容量を増減させて、プログレッション(減衰)を調整できるものもある。また、Quarq ShockWizのようなツールは、基本的なチューニングと繊細なチューニングの両面で大いに役立つ手軽なインターフェイスとして機能する。
コイル式サスペンションは、スプリングを交換すれば簡単に調整できるが、ひとつのサスペンションユニットに対して複数のスプリングを用意しなければならないため、コストがかさんでしまうのが難点だ。