タイヤチョイスが勝敗を分けることもある
© Nathan Hughes
MTB

MTB:ホイール基礎知識

意外と知られていないMTBホイールの基礎知識を専門用語と一緒に学んでいこう!
Written by James McKnight
読み終わるまで:8分公開日:
ホイールとホイールの違いはどこにあるのだろう? 全てのホイールを “タイヤと一緒に回転する円形のもの” と捉えていないだろうか?
面白いことに、MTBのホイールとは、軸のようなもの(ハブ)と棒のようなもの(スポーク)、それに円形のもの(リム)をただ組み合わせたものよりも複雑な存在なのだ。
「良いホイールとは何か」を理解しておけば、優れたバイクを組み上げる大きな助けになる。
今回はMTBホイールにまつわる基本的な専門用語をまとめつつ、著名なバイクホイールメーカーMavicに勤務するアルノー=プティ・ローランのアドバイスを紹介していこう。

《専門用語の解説》

リム:ホイールの最も外側に位置するコンポーネントで、タイヤが装着される部分。
ハブ:ホイールの中心に位置しており、ここからリムに向けてスポークが伸びている。フォークかフレームに装着される外部コンポーネント、アクスル(軸)を中心に回転する。
スポーク:ハブとリムを繋ぐ棒状のパーツ。これはハブ側に取り付けられるカギ形状とリム側を貫通するニップルが特徴的な、Jベント方式のスポークが最も良く知られている。ストレートプル方式のスポークは曲げ加工がなされておらず、また、基本的には各ホイール専用に作られているため、単体で販売されるのは稀だ。
Mavicイエローがペイントされたハブ

Mavicイエローがペイントされたハブ

© Bartek Woliński

ハブフランジ:ハブにスポークを取り付けるための環状パーツ。
ニップル:リムにスポークを固定するための小さなパーツ。
アイレット:ニップルをリムに固定するためのパーツ。
スポーク組み:ホイール製作時のスポークを通すパターンを指す。英語ではLacingと呼び、これに即して “編み” と呼ばれる場合もある。同じホイールでも、スポークの組み方が違えばライディング時の特性が異なる可能性がある。
振れ:ホイールが真円を保っている状態を “振れ取りのできたホイール” と呼ぶ。各スポークのテンション(張り)が不均衡だとホイールに歪みが出てしまう。

《ホイールに関する素朴な疑問》

ホイールに使われているスポークの本数は?

基準となるスポーク本数は存在しない。ホイールごとに異なる目的が設定されており、また、スポークの素材・太さによって本数は異なる。とはいえ、24 / 28 / 32が一般的なスポーク本数と言える。
ホイールの世界は奥深い

ホイールの世界は奥深い

© Hugo Silva/ Red Bull Content Pool

スポークが折れた / 脱落してもライディングは続けられる?

そのような状態でのライディングはレコメンドできないが、大抵の場合、破損したホイールを自宅へ持ち帰り、なるべく早いタイミングでスポーク交換と振れ取りを行えば、致命的なダメージは避けられる。

スポークの素材にはどんな種類がある?

Jベントやストレートプルなどの固定方法の他にも、スポークに大きな違いを生む要素がある。スポークの大半はスチール、またはアルミ製だが、品質によってホイールの特性は大きく変化する。
  • バテッド(段付き)スポークは、剛性の必要な部分 / 必要でない部分に応じて太さが異なる。この仕様で剛性と重量のバランスを最適化している。1段のシングルの他に、ダブル(2段)やトリプル(3段)などが存在し、効果と価格が異なる。
  • ストレートゲージのスポークは端から端まで形状が同じ。
  • ブレーデッド、あるいは “エアロ” スポークはフラットな形状で空気抵抗を削減している。

スポークの組み方が生み出す違いは?

スポークの組み方が違えば、ホイールの剛性・重量・耐久性だけではなく、ライディング時の特性も変化する。スポークの組み方は様々で、“スタンダード” と呼べるものは存在しないが、2クロス3クロスが一般的だ。
2クロスと3クロスを例に挙げると、クロスは「1本のスポークがハブフランジからリムに到達するまでに他のスポークと交差する回数」を指す。回数が変われば、ハブからリムへ向かうスポークの角度が変わるため、ねじり方向・放射方向・横方向の応力がかかった際の特性も変わってくる。
しかし、スポーク組みは単純な世界ではない。重量・耐久性・剛性のバランスが適正でなければならないため、一部のホイールメーカーや個人ビルダーはリム形状・スポーク数・スポークの種類・ライダーの特徴・ライディングの目的などに応じて様々なスポークの組み方を用意している。
たとえば、ラジアル組みは、ハブフランジとリムを結ぶスポークが他のスポークと交差せず、まっすぐ放射線状に伸びる組み方だ。他にも、一部のホイールビルダーが試行しているパターンが数多く存在する。
フィーロンのスポーク・テンションを確認するマチュー・デュペル

フィーロンのスポーク・テンションを確認するマチュー・デュペル

© Nathan Hughes

スポークの張力は調整できる?

スポークの張力を高くすればホイールの剛性が高まり、張力を緩めれば柔軟さたわみが増してトラクション快適性の向上に繋がるという考えがあるが、実際は、ホイールの特性をより効率良く変化させる方法が存在する。
最低安全張力値(minimum safe tension)というものがあり、この値を下回れば、ストレートプルのスポークが抜けたり、ホイール全体がバラバラになってしまったりする恐れがある。
一般的な張力値、あるいは最低安全張力値を上回れば、ホイールの剛性はやや高まるが、その違いは、タイヤやフレーム、各コンポーネントのしなりに隠れてほとんど気づかれないレベルで、大きな衝撃を加えた際のスポークの破損確率が高くなる。
さらに剛性の高い・低いホイールを求めるなら、張力を調整するより、スポークの材質や組み方を変える方が効率的だろう。

凹んだリムでライディングしても大丈夫?

MTBでは、岩に接触してリムが凹むのは日常茶飯事で、割れていない限り、大きな問題にはならない。しかし、大きな凹みははタイヤの空気圧が抜けたり、タイヤ脱落を招いたりする。このようなトラブルはすぐに気がつくはずだ。
Mavic製Deemaxホイール

Mavic製Deemaxホイール

© Bartek Woliński

“ブースト規格” って何?

ブーストとは、ハブ幅がリア148mmフロント110mmの規格を指す。2015年に導入されたブースト規格は、それまでのMTBで標準とされてきたリア142mm・フロント100mmを拡幅したものだ。
29erへ移行するライダーの増加に伴ってホイールサイズが巨大化すると、ホイール剛性を高めるために幅広のハブが導入され(幅広なハブフランジがスポークブレースのアングルを広げるため)、さらにはタイヤクリアランスも改善され、フレーム周辺にも多くのメリットをもたらした。
ブースト規格はまだ標準化していないが、採用しているニューモデルは多い。しかし、これはバイクのスピードを高めるものではない — スピードはスキルと経験によって培われるものだ。

MTBのワイドリム化が進んでいる理由は?

昨今、MTBのリムはワイド化が進んでいる。この傾向にはいくつかの理由が考えられる。
  • ワイドリムはチューブレスタイヤの接着面を広くするため、バンク付きターンなどで側面から負荷がかかった時にタイヤが捩れたり、リムから脱落したりする確率が低くなる(伝統的なインナーチューブタイヤはリムから外れにくいが、パンク耐性の低さと重量増を考慮すると現代のMTBには適さない)。
  • ワイド化で安定性が高まれば、タイヤ空気圧を低く設定できるため、結果的にグリップが増加する。
  • MTBタイヤのワイド化に合わせて、リム幅もワイド化している。
ちなみに、ワイドリム化の影響で、タイヤ形状はよりスクエアなものに変化しており、Maxxis WT(Wide Trail)をはじめ、一部のメーカーがワイドリム専用タイヤをリリースしている。

カーボンリムは必要?

MTBでもカーボンリムがごく普通に見られるようになった。カーボンリムは、カーボンの積層工程でリム形状を調整して、狙っている剛性と軽量性の両立を実現できる。
しかしその反面、カーボンはトラブルの影響を受けやすい。他の部分に素材を追加しなければならないのだ。そのため、カーボン製リムとアロイ製リムの重量差はほとんどない。
優れたカーボンリムと低品質なカーボンリムの差は、耐久性だけではなく、ライディング時の特性にも現れる。安価な製品は見た目こそカーボンだが、積層工程や繊維方向は考慮されていない。
アルミニウム / アロイ製のリムは依然としてポピュラーで、多くのメーカーがラインナップに加えている。手に入れやすい価格で高品質なアロイ製リムの方が、カーボンよりも現実的なチョイスで、岩に打ち付けられるなど、大きな衝撃を受けた際もトラブルになりにくい。
また、先に述べたように、アロイ製リムを選んだからといって、必ずしも重量面が犠牲になるわけではない。
たとえば、MavicはISM 4Dという製法でアロイ製リムからあらゆる不要な素材を削ぎ落とし、スポークニップル周辺に特徴的なバルジ(膨らみ)を作ることで、優れた軽量性と信頼性を両立している。
A view of Mark Wallace's Canyon Sender CF MTB during Fort William DH World Cup on June 1, 2017

マーク・ウォレスのCanyon Sender

© Bartek Woliński

ホイールは完全なシステム

最後になるが、Mavicのアルノー=プティ・ローランは次のようにコメントしている。
「ホイールは、あらゆるコンポーネントがそれぞれ重要な役割を持つ、非常に複雑なシステムです。Mavicは、ホイールのあらゆるパラメーターと挙動をコントロールする独自のテクノロジーを備えた完全なシステムを開発し、許容性とパフォーマンスの間の最善の妥協点を見出しています」
「剛性に関しては、リムやスポーク、ハブの数多くのパラメーターを調整しつつ、ホイール全体の挙動も調整しています」
「私たちは、消費者やライダーのニーズに注目しながら、あらゆるコンポーネントを試してベストホイールを生み出していく必要があります」