Gaming
世界を代表するゲーム機のコントローラーをデザインするのは簡単な仕事ではない。たとえば、MicrosoftはXbox Oneコントローラーのために200種類のプロトタイプを用意した。
このようなコントローラーは、手にした全員が直感的に操作できる必要があり、ジャンルを問わずあらゆるゲームを簡単に操作できる必要もある。その “あらゆるゲーム” には、レーシングゲームやパズルゲームは当然のこと、世界最大のコラボレーション格闘ゲームのひとつも含まれている。
任天堂も数々のユニークなコントローラーをデザインしてきた。
Wii、Wii U、Nintendo Switch、そしてNINTENDO64のコントローラーなどは、どれも伝統的なゲームパッドとは大きく異なる特徴的なデザインになっている。
その中で、 “ゲームキューブコントローラ” (編注:“コントローラ” の表記は正式名称に準拠)はそこまでユニークではないと言う人がいるかもしれない。このコントローラーは幅広い層にフィットするようにデザインされており、形状はそこまで奇妙ではない。
しかし、このコントローラーはやがて『スマブラ』コミュニティのデファクト入力デバイスとしてユニークな定位置を獲得することになった。
任天堂が世界に誇るゲームデザイナー宮本茂は、このコントローラーが発表された当時、次のように発言していた。
「ゲームキューブコントローラに特定のターゲットユーザーは存在しません。非常に一般的なデザインです。コントローラーに触れたことがないビギナーでも使用できます。おばあちゃんでも、小さな手をしたお子さんでも扱えます」
2001年の時点で、任天堂は、このコントローラーが『スマブラDX』のトーナメントシーン内で圧倒的な人気を獲得するようになるという未来を予想できていなかった。
ゲームキューブがリリースされた17年前から、ゲームキューブコントローラはこのシーンのプレイヤーに使われ続けており、『スマブラ』の進化と共に新しい任天堂ゲーム機への対応を望む声を生み出してきた。
『スマブラ』シーンはあらゆる意味で、アイコニックなゲームキューブコントローラと同義なのだ。
『スマブラDX』のアナリスト、Andrew Nesticoは「正直に言わせてもらえれば、ゲームキューブコントローラは『スマブラ』のおかげで高い人気を得ているんだ。『スマブラ』がなければ、スピードランシーン以外ではもう使われていなかったと思うよ」とコメントしている。
ゲームキューブコントローラは、ゲームを高速でクリアすることを楽しんでいるスピードランシーンなど、『スマブラ』シーンの外側で今も使用されているが、その人気を大きく高めるきっかけとなったのは『スマブラDX』だった。
簡単に改造できるその仕様と時運に恵まれていたことがこのコントローラーの人気を急上昇させた。
このコントローラーは『スマブラ』シーン初の本格的なトーナメントシーンだった『スマブラDX』シーンの一部に組み込まれており、多くのトッププレイヤーが2001年から使い続けている。
彼らは、任天堂の後発ゲーム機でリリースされた『スマブラX』と『スマブラ for Wii U』でもこのコントローラーを使用してきた。
深遠なる改造の世界へ
ゲームキューブコントローラのファンは、反応性に優れた振動パックと簡単に握ってプレイできる曲線とグリップを備えているこのコントローラーは基本デザインが優れていると評価している。
『スマブラ』シリーズの生みの親、桜井政博は、このコントローラは『スマブラ』に最適だと発言していたが、この基本デザインの上に、モッダーたちがコントローラの複雑な部分に様々な調整を加えていくことになった。
有名なコントローラーモッダーのひとり、Mike “Typo” Bassettは次のようにコメントしている。
「今回『スマブラDX』は他の『スマブラ』シリーズとは違って、特定の条件を満たしたコントローラーが重要になる。ゲームキューブコントローラは、『スマブラDX』に非常に良くフィットしているという意味で優れたコントローラーだ」
ゲームキューブコントローラと『スマブラDX』をイコールの関係で捉えている人もいるかもしれないが、元々、このコントローラーは、特定のゲーミングエクスペリエンスを実現する数々のカスタマイズオプションを提供することを前提にデザインされたものではなかった。
『スマブラDX』のコントローラーモッダーたちが、純正コントローラーのフィーリングを変える小さな物理的改造を加えることで、任天堂のオリジナルのアイディアとはかけ離れたものに進化させているのだ。
『スマブラDX』のトーナメントプレイで入力精度が重視されるようになり、コンマ数秒が勝負を分けるようになっていくに連れ、その部分をカバーするコントローラー改造が数多く見られるようになった。
Bassettのようなコントローラーモッダーは、ゲームキューブコントローラの特性を辛抱強く研究し続けることで多種多様なプレイスタイルに対応する特殊な入力デバイスを開発し、プレイヤーたちのニーズに応えていった。Nesticoが語る。
「最初に広まった改造は、シールドドロップ用のノッチ改造だった。これはシーンに大きなインパクトをもたらしたね」
「この改造が施されたコントローラーのトーナメントへの持ち込みが認められたことで、他の様々な改造が行われるようになったんだ」
シールドドロップ(またはシールドキャンセル床すり抜け)とは、コントロールスティックを東西(右左)いずれかに入力してから、南東、または南西方向のノッチへ倒して出すムーブだが、新型コントローラーは、その製造方法が原因で、いくつかのシールドドロップの入力が不安定だ。
そこで、Bassetのようなモッダーたちが、シールドドロップを出すのに必要なコントロールスティックの入力精度を高める改造を行っているのだ。
Nesticoの発言にあった通り、シールドドロップ用のノッチ改造は、他の多くの改造を生み出す嚆矢になった。
その中には、コントロールスティックを離すとフリックして元に戻る仕様を調整するスナップバック改造や、絶空の成功率を高めるノッチ改造、ファイアフォックスの角度が選びやすくなるノッチ改造などが含まれている。
このような改造は、トーナメントプレイに大きな影響を与えるように見えるが、Bassettたちはそうではないと自信を持って回答している。
「この改造で全てが決まるわけじゃない。影響力はカウンターピック程度だよ。下手なプレイヤーなら、カウンターピックをしたところで勝てないよね」
「改造コントローラを手にしたからって勝てるわけじゃない。優秀なプレイヤーなら改造コントローラが助けになるかもしれないけどね」
「コントローラを改造したからといって、プレイヤーのスキルが上がるわけじゃないのさ」
新たな取り組み
『スマブラDX』シーンには、トッププレイヤーが自前のコントローラーを諦めて他のコントローラーに変更せざるを得なかったケースがいくつか存在する。このような状況に陥ってしまえば、自前のコントローラを持っているプレイヤーとの対戦が不利になる可能性がある。
(編注:『スマブラDX』にはバグが存在し、技術的に不具合がある一部 / 全体の1〜3%のオリジナルゲームキューブコントローラだけがこのバグを回避できる。このため、Armadaをはじめとする一部のトッププレイヤーたちはこのタイプのコントローラーに拘っている。しかし、その不具合は不安定で機能しない時があり、他の問題を発生する可能性もある。DreamHack Austin 2017では、Armadaが自分のコントローラーが不調だという理由でシングルスを欠場した)
DreamHack Austin 2017のJustin “Plup” McGarthやAdam “Armada” Lindgrenのように、このような経験をしたことがあるプレイヤーの多くが、この問題はやや誇張されすぎているとしているが、問題であることに変わりはない。
そこで、この問題を解決すべく、Dan Salvatoのようなモッダーたちが、コントローラの物理的な部分を改造しない新たなソリューションを生み出すための努力を始めた。
Bassettが説明する。
「Aziz “Hax” Al-Yamiが、ゲームキューブコントローラの改造ガイドを用意しようとしたんだけど、良い結果が出せなかった。実用性に欠けていたんだ。でも、この試みは、僕たちが改造用ソフトウェアの開発に取り組むきっかけになった」
「僕たちは、メモリーカードにロードできるソリューションを生み出したのさ。使用するコントローラーの振り向きダッシュやシールドドロップを調整できるソフトウェアを開発したんだ」
Universal Controller Fix(UCF)という名前が付けられているそのソフトウェアは、2017年8月にリリースされた。
UCFを使えば、これまで物理的な改造で対応していた大きな問題のいくつかをソフトウェアで修正できる。Nesticoが説明する。
「UCFはローカルやリージョナルトーナメントで使える素晴らしいツールだよ。プレイヤーがコントローラの不安定な挙動を心配することなくプレイできるんだ」
UCFは、プレイヤーとトーナメントオーガナイザーにとって非常に便利なツールだが、同時にこのソフトウェアは、このコントローラには修正すべき問題が数多くあることを示すことにもなった。Bassettが説明する。
「ゲームキューブコントローラには数多くの問題がある。UCFはシールドドロップと振り向きダッシュを修正するだけだけど、以前よりも効率的に修正できている。他の部分に関しては時間が掛かりすぎてしまう。自分たちでやった方が早い」
またUCFは、『スマブラX』を『スマブラDX』風にすることを目的として開発されたあと、任天堂によって配信禁止となった『Project M』と同じく、数多くの法的な問題を抱えている。Nesticoが説明する。
「残念ながら、UCFは任天堂がスポンサーについているイベントでは使用できない。メジャートーナメントに参加するプレイヤーたちは、依然として挙動が不安定なコントローラの心配をしなければならないのさ」
「というわけで、個人的には、UCFがシーンにもたらした最大の恩恵は、ゲームキューブコントローラ には "当たり外れ" が存在するという認識を向上させたことだと思っているんだ」
DreamHackやEVOのような任天堂がスポンサーについている大がかりなメジャーイベントは、UCFの使用を禁止しており、オーガナイザーたちもこのソフトウェアを使用することでスポンサー料やサポートを失うことを嫌がっている。
Bassettは「希望の光はUCFの自主サポートだね。コミュニティ内では、ひとり5ドルを払ってUCFをサポートしようという話が出ている」と語っている。
『Project M』やUCFのようなツールの合法性は、オリジナルのゲームキューブコントローラの未来を危うくしている。少なくとも、最新作『スマブラSPECIAL』におけるその未来は危うい。
Wii U対応の新型ゲームキューブコントローラや、Nintendo Switch対応予定の最新型ゲームキューブコントローラには、オリジナルのゲームキューブコントローラのような不具合がない。
また、『スマブラDX』以降の『スマブラ』シリーズは、プレイヤーの入力への反応が『スマブラDX』と異なっている。
しかし、いずれにせよ、コントローラー改造と情熱的にそれに取り組む人たちがすぐに消えることはないだろう。
Bassettは「UCFの興味深い点は、モッダーが手作業で取り組んでいた問題の多くを修正したというところにある。でも、僕は自分の仕事を失ったとは思っていないよ」と語っている。
『スマブラDX』プレイヤーの多くは、ゲームキューブコントローラを自分のアイデンティティの一部、自分のゲームプレイの一部として捉えている。自分のメインキャラクター周辺に何かが起きる時は、彼らはその一体性を特に強く感じている。
『スマブラDX』を愛するプレイヤーたちが自分たちの情熱を追い続ける限り、新作が『スマブラ』シリーズの "スタンダード" を重視していく中でさえも、ゲームキューブコントローラとそれを取り巻く奇妙な問題はシーンから消えないだろう。
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