世界記録更新!私たちが知らない、ONE STROKEの舞台裏。
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ウルトラ ランニング

私たちが知らない、山岳王者・富士山 世界記録樹立の舞台裏。

山岳ランナーの上田瑠偉が富士山全登山ルートを9時間55分41秒の歴代最速記録で走破。見事、世界記録を樹立したばかりの彼に独占インタビューを決行!
Written by Red Bull JAPAN
読み終わるまで:12分公開日:
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【山岳王者の初体験! 味わったことのない重圧の正体】

ーーONE STROKE当日はライブトラッキングで挑戦の進捗状況を追うことができました。チェックしていただいた方は瑠偉くんのGPSを追った点の動向に一喜一憂してたんですよ。
瑠偉:ありがたいですね。
ーー1つの点の移動がこれだけ多くの人を感動させるってなんだかすごい! 今までにない新しい感動の味わい方をさせていただきました。
瑠偉:確かに不思議な光景ですよね。スタッフの方に聞いた情報だと、僕やトレイルランナーだけでなくて、普段は走らないような方も注目してくれていたみたいで。
ーーそう、SNSでもすごい話題でした!
瑠偉:嬉しいですね。富士山に泊られていた方が応援をしてくれたりもしていて、それも励みにもなりました。
ーーチャレンジ当時はあいにくの雨模様でスタート。これは最悪な条件だ!と思ったんですが、当の本人は、“あれはあれでよかった”と語っていたって聞きました。ホントですか?
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瑠偉:ハイ。この場所の晴天時はかなり日差しが強くて、東京のジメジメとした暑さとは違う、照りつけるようなジリジリ感が強くなりますから。
今回は天気が良くなったり悪くなったりでしたが、ああいった天気だったからこそ、脱水症状のことをそこまでシビアに考えなくてすみました。
ーー涼しかったり暑かったりと、かなり大変だったそうですよね。他の山でもよくあることなんですか?それとも富士山が特別?
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瑠偉:やはり、富士山特有の独立峰が関係してきますね。天気が変わりやすいのは山ならありがちのことですが、独立峰なので色々な方向から風が吹き付けるんです。
  • 独立峰:並び連なっている山脈とは違う、ただ一つで形成されている山。
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ーーなるほど。
瑠偉:あとは地形も特別です。砂地があって岩地もある。写真には残っていませんが、吉田ルートの中には断崖よじ登り系の場所もありました。
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ーーえっ、走るだけでなく断崖をよじ登ってもいたんですね(苦笑)。
瑠偉:そうなんですよ。
ーー意外な舞台裏があるんですね!ところで、少し話がタイムスリップしちゃいますが、瑠偉くんは富士山で大怪我をしたことがありますよね?
瑠偉:2018年のトレーニング中に前十字靭帯損傷と脛骨顆部の亀裂骨折の経験をしました。
ーーよくトラウマにならなかったですね。普通、そういった経験をしてたら色々と考え込んじゃうと思うんだけど。メンタルが強い。緊張はしなかったですか?
瑠偉:中学高校の時やトレイルランニングを始めた頃は大会前に緊張することもありました。でも最近はあまり記憶にないですね。
だけど流石に今回ばかりは、チャレンジ前日、今まで経験をしたことのない緊張状態になってしまって……。
ーー山岳の王者もさすがに今回ばかりは緊張したんだ(笑)。
瑠偉:緊張の質が全く違いましたけど。もちろん、普段のレースでも様々な人に色々な形で支えてもらってはいますが、ONE STROKEはかなり特殊。僕一人のプロジェクトのために本当に多くの人たちが関わってくれましたから。だからこそ、“なんとしても記録を破らなければ!”と。
ーーとてつもないプレッシャーですね。
瑠偉:今までは自分一人で走って、あらゆる難題を乗り越えてきました。でも、力強いサポートがあったからこそ乗り越えられる挑戦もある、そういった大切なことを学ぶこともできました。
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
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【最難関ルートは意外にも雨が味方をした?】

ーー4ルートで一番手強かったのはどこでしたか?
瑠偉:想定通り、2本目の御殿場ルートです。あそこは一歩踏んだら半歩下がるみたいな特殊な砂地なので。
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ーー走ってみてどうでした?
瑠偉:雨が降ってくれてたおかげで、意外とうまく登ることができました。
ーーまたしても雨が見方をしたってこと?
瑠偉:数日前にテストで走った時は“砂地を登りにいく”という感覚がありましたが、チャレンジ当日は多少ではありますが固まっていたので、足を運びやすいという感覚がありました。
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ーーまさに雨降って地固まるとはこのことですね!
瑠偉:テストの下見で登りやすい攻略法などを頭の中に入れておくことができたことも大きかったですね。
ーーそんな攻略法があるんですか?
瑠偉:砂地なので登山者の方の足跡が少しずつ残っているところがあって。トレースしていくように足を合わせていくとうまく登れるようになるんです。
ーーでも我々が注意しなければいけないのが、“雨が降ったから登りやすかった”という認識はあくまで経験豊富なトップアスリートだからこそのこと。私たちは当日の天候を十分にチェックした上で知識のある方の意見をしっかりと聞いてからチャレンジしないと。
瑠偉:そうです。たとえ初心者向けのルートだったとしても、山のレジャーではそのあたりの配慮を十分にする必要があります。
ーー御殿場ルートを2本目に選んだことも良かったんですかね。
瑠偉:一番難しいと想定していたルートを予定よりも早いペースでクリアできて、体力も余っている状態だったので、かなり気持ちが楽になりました。
もしこのルートを4本目に持ってきていたら確実に気持ちが折れていたはずです。
ーー個人的には、4本目の下りが最後の挑戦にもなるわけなのでかなり辛いだろうなって思ってたんですが、これが意外と軽やかな足取りだったように感じました。
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瑠偉:他のルートに比べると一番ゴツゴツとした溶岩っぽいところなのでテクニックを要する箇所。足も疲労してるのでつるなどのトラブルが起こってもおかしくありません。
でも、いわゆるゾーンに入ったのか、うまくステップを踏めました。ただ、あの時間帯は登山者の方も多く、それをやり過ごす時間が大変でしたね。
ーーそうだ! 忘れてはいけないのがトレイルランのマナー。登山者と道を共有するから危なくないよう気を配らないといけませんよね。
瑠偉:当然、走らず歩いてすれ違ったりだとか、立ち止まって登りの方を先に行かせたりということもしてましたね。
ーーもしそれがなかったらもっと早いタイムで突破してたってことですよね? 半端ない!
瑠偉:さっきSNSを見ていたら、“上田瑠偉・登山者無視で爆走の炎上ネタはないのか”みたいなことが書いてありましたけど、そんなこと僕が、や・る・わ・け・が・な・い(笑)!
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
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【ギア選びのテクニックが功を奏す】

ーーおそらく、多くのトレイルランナーの方が気になるのが、当日の装備について。今回は、いつものヘアバンドではなくてキャップをかぶってましたよね。
瑠偉:富士山は森林限界を越える。木や森がないので日差しから身を守る意味でキャップを選びました。
ーーどういった道具を持って登ったんですか?
瑠偉:5lのバックとその中にはサバイバルシート、テーピング、ヘッドランプ、手袋、ドリンク、ジェル、それとレインジャケットです。
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ーー装備で工夫したことは?
瑠偉:下界は暑いけど上に登ると寒かったりするので体温調節が難しかったです。5、6回はレインジャケットを脱いだり着たり、ザックに入れたり出したりを繰り返しました。
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ーー手袋も何度か付けたり外したりしてたと思うんですが。
瑠偉:ジャケットを着るほどでもない肌寒さ程度なら手袋で補ってました。それがすごくストレスで。ただこういった部分を少しでも怠ると低体温症になる可能性があるのでタイミングにはかなり頭を使いましたね。
ーーエイドステーションではレッドブルも飲んでましたよね。
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瑠偉:あんまり飲みすぎるとお腹に影響が出てくるので、各エイドで半分ずつくらいを飲んでました。集中力を持続させるためにエナジー補給は大切ですから。あとは炭酸なのでリフレッシュにもちょうどいい。
ーートレイルランの装備で一番重要になってくるのはシューズだって聞きましたけど、なにか対策はしましたか?
瑠偉:途中で靴自体が壊れる可能性もあるのでいくつかのスペアを用意していました。
ーー靴が壊れる?
瑠偉:トレイルランナーの間ではわりかし有名な話なんですが、富士山はルートが荒れているのでこの場所を走る時は、今まで散々履き潰した靴を「今までお世話になりました」と納めるために使うって考え方が浸透していたりします。
ーーすっ、すごすぎる!今回は靴下にも秘策があったと聞きました。
瑠偉:オーストリアでフロリアン(・ノイシュヴァンダー)という信頼できる友人からのアドバイスを取り入れました。
ーードイツ人ウルトラランナーで同じレッドブル・アスリートの方ですね。
瑠偉:彼から“そういった場所では細かな砂が靴の中に入ると(まめなどができて)足のトラブルが起こりやすいから靴下も変えた方がいい”と。アドバイス通り、何度も新しい靴下に履き直しました。
ーーそれは各エイドで?
瑠偉:そうです。普段のエイドではドリンクをピックするだけで、ほぼF1のピットイン状態だったんですが、今回はそれぞれのエイドでしっかりと時間をとって対策をすることで最後まで不安なく落ち着いて走ることができましたね。
やはり、ある程度余裕を持つことは大事!
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ーー瑠偉くんに憧れてるランナーが使えそうな豆知識ですね。
瑠偉:本当は汗拭きシートも用意していたので、それでしっかり汚れを落とすつもりでもいたんですが、そこまでする必要なかったかなと。
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【感極まり頂上で号泣!? &珍回答の意図】

ーー聞くところによれば山頂で泣いたとか?
瑠偉:4本目を登り切った時ですよね。あとは下り切るだけなのでもうゴールは見えた。そう考えたら何に対してというわけでもないけど、グッと込み上げてくるもがあって。
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
『ONE STROKE - 富士山4往復 -』山岳ランナー上田瑠偉
ーー普通の人だと下るのも大変ですけどね。瑠偉くんにとっては最後の下りがウイニングランだったと。
瑠偉:“どうしよう、ゴールした時に泣けなくなるな”ってくらい泣きました(笑)。
でもやっぱりゴール後のインタビューでも泣いちゃいましたけどね。
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ーーゴールの瞬間、いつもは涙とは無縁に思える強面&屈強なスタッフまでもらい泣きしてたそうですよ。
瑠偉:(笑)。
ーーゴール前ではご家族が出迎えてましたよね。なんだかグッときちゃいました。
瑠偉:トレイルランニングを始めた頃から、憧れのトップ選手たちがゴール後に子供を抱っこして記念写真を撮る姿に憧れを持っていて。なので娘と記念撮影ができて嬉しかったですね。
自宅から始発で応援に来てくれた妻と娘には感謝しかありません。
ーーお父さんが“世界記録保持者”。お子さんもさぞ誇らしいでしょうね。
瑠偉:大きくなった時に覚えてないかも知れないですけど、記録に残るということは“パパはこういったことをやっていたんだよ”と言えるわけで、やはりそういった意味でも記録に残せて良かった。
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ーー意外だったのがゴール直後のインタビューで“良いトレーニングになりました”と語っていたことです。失礼ですけど、ちょっと疲れすぎて変になっちゃったのかな?と……。だって、普通はそんなこと言わない(笑)。
瑠偉:イヤイヤ、おかしくなってないですよ(笑)。僕の今までの過程的にもやっぱりレースがトレーニングになる。シーズンを通してレースに出場することで、そこから学んだことが次に生かされていくものなんです。
ーーそういった感覚が別次元というかトップアスリートならではというか。
瑠偉:普段のレースやトレーニングで2000、2500メートルの高地に行くことがあっても、3000メートルを超えるところに行くことはなかなかない。それを今回経験できたことで9月にチャレンジする4000メートルのレースにも生かされてきますから。
ーーえっ、次は4000メートル……。それを聞いちゃうと今回のチャレンジが少し霞んで見えたりしません?
瑠偉:そんなことはないです。次は1本登るだけなので(笑)。
ーーやはり、1本登るのと4本登るのとでは全然違う?
瑠偉:当然! 登るのと下るのとではピッチが変わるので筋肉の収縮スピードが変わります。切り替えるタイミングの下りで足をつったりする。脱水とは別のトラブルですね。
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ーーなるほど。
瑠偉:それに下りっぱなしで登りっぱなしの繰り返しは相当メンタルにもくるんです。
ーー過去には120キロを走ったこともある瑠偉くん。今回は52キロだったけど、それでもこの累積標高はやっぱり半端なかった?
瑠偉:数字で見る距離や累積標高もそうですが、富士山という何が起こるかわからない環境要因が最大の不安要素でした。
それと、当然上に行けば行くほどペースは遅くなる。ということは10時間のうち半分以上が3,000メートルで過ごしていることになる。そういったところの低酸素に対する体の反応がどうなるか。10時間もそんな場所にいたことがなかったのでかなり不安でした。
とにかく自分史上、究極のチャレンジだったこに間違いありません。
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ーー改めて、世界記録樹立おめでとうございます。ズバリ聞いちゃいますけど、今回、全部出し切りましたか?
瑠偉:はい、出し切りました。
あと、世界記録を作ったこともそうですが、それ以上に考えるのが前回の記録保持者、近藤敬仁選手のことです。僕がトレイルランを始めた2013年に富士山一筆書きに挑戦されていて。僕は2013年の(国内でも最高峰のトレイルランレース)ハセツネで1秒差で負けてもいます。そこから僕自身も1歩ずつステップを踏みながら成長できている。そういった先輩の記録を抜けたってことがやっぱり誇らしいです。
(了)
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[Information]
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