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巷で話題の『Poly Bridge』の魅力とは?

現在Redditで話題沸騰中の、地味にハマるシミュレーションゲームの魅力に迫る。
Written by Adam Cook
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『Poly Bridge』

『Poly Bridge』

© Dry Cactus

地球から橋が無くなったら、ウェールズは世界で最も人が訪れない地域となり、本当に素晴らしい建築物のいくつかも成立しなくなる。A地点からB地点への移動 − 我々はつい当たり前と思ってしまうが − を可能にした天才エンジニアの想像力は我々の遙か上をいくものなのだが、Dry Cactusの上はいかなかったようだ。正直に言わせてもらえれば、Dry Cactus(乾燥サボテン!)はゲーム開発会社としては酷い名前だ。しかも偶然に生まれた社名らしい。
「偶然の産物ですが、『.com』のドメインも取れたということで、Dry Cactusという社名にしたんです」ニュージーランド・ウェリントンに拠点を置くDry Cactusの創始者Patrick Corrieriが説明する。Dry Cactusは以前、Clever Hamster Gamesの下でモバイルゲームの開発を行っていた。Corrieriが続ける。「僕はピザ、物理演算、サボテン、ゲームが好きなんです。ピザと物理演算が嫌いな人なんていないでしょう?」 − 彼がいかにレイドバックした面白い人物なのかが理解できるはずだ。
『Poly Bridge』は物理演算ベースの「橋を架ける」ゲームで、 Redditのページに1500人以上の登録者を抱えるバイラルヒットとなっている。そのコンセプトは非常にシンプルで、プレイヤーは水圧ピストンやブロックなど、与えられた素材を使いながら橋を架け、両岸の車やバイクを通行させるだけだ。9月7日現在、Steam上で「早期アクセス」としてリリースされているこのタイトルには、 311人が「好評」の評価を与えている。しかし、Corrieri本人がこの人気に気付いたのはいつなのだろうか?
「リリースしてから最初の数週間は、どんな人が興味を持っているのかをSteamのトラフィックでチェックしつつ、どうやったら勢いをつけられるのかを考えますね。でも、突然いきなりトラフィックが4倍に増えて、その直後にReddit(月70億ページビューを稼いでいる)『Poly Bridge』ページの上部に誰かがGIF画像をアップロードしたという連絡を友人からもらいました。最初は私たちのこの小さなゲームがここまで注目を集めているのが信じられませんでしたが、GIF画像を見て納得しました。モンスタートラックがひっくり返るようなクレイジーな瞬間でしたね」
このゲームの魅力のひとつは、橋を上手く架けることよりも、色々と試す過程で生まれる面白おかしな結果にあるようだが、これは古いタイプのゲームの楽しみ方と言える。しかし、人生最高の瞬間は笑えるミスから生まれる時があるのだ。それは一見丈夫そうな橋を車両が渡り始めるとその橋が突如崩れ始め、ギリギリでステージクリアになる瞬間や、熱気球の上でモンスタートラックがバウンスし、逆側に届かずに落ちつつも、何故か水面でジャンプしてステージをクリアしてしまう瞬間などだ。
『Poly Bridge』の絶妙な部分はGIF書き出し機能にあり、プレイヤーはそのような瞬間をキャプチャして、ローファイなTwitchなどでもシェアできるようになっている。しかし、この機能も偶然、そして当然ながらプレイヤーへの配慮が生んだものだ。
「元々はZachotronicsを経営する同業者、Zach Barthがこの機能を盛り込むようにアドバイスしてくれたんです。彼はGIFの埋め込み用のソースコードも教えてくれました。だから実装できたんです。これがインディーゲーム開発のコミュニティの素晴らしさですよね。お互いにシェアしながら学んでいく。競い合うというよりも一緒に成長していくんです」
しかし、そもそも橋を架けるゲームを作ろうと思った理由は何なのだろうか? アイディアだけを見れば、『Rocket League』などと比較すると、決してエキサイティングなものではない。しかし、Corrieriはそんなことはないと、力強く異を唱える。
「橋は最高ですよ! 物理的にも、他の意味でも『世界を結びつける』ものですし、架けるのも楽しいです。また、シンプルなブロックを使って複雑でクリエイティブなものを生み出せます。そこに水圧ピストンや高速で移動する車両やいくつかのリールを加えれば、物理演算系のゲームのできあがりです。あとはもう勝手に転がっていきます」
Corrieriは、GIFジェネレーター機能を持つ機会工学系ゲームをSteamでリリースするのが面白いのではないかと風呂に入っている時に突然思いついた訳ではなく、そのような決定的な瞬間が明確にあったかどうかは思い出せないとしているが、橋を架けるゲームについては以前から考えていたという。
「もの作りは面白いですが、ものが壊れる様子を見るのが面白い時もありますよね」Corrieriは『Poly Bridge』の真の魅力について説明する。「自分が思い描いていた橋を架けるゲームの開発に数年間じっくり費やしたいと以前から考えていたので、思い切ってチャレンジしてみたんです。他のプレイヤーの橋が成功するか失敗するかを映像で確認する時が一番面白いですね。それがこのゲームの魅力の半分ですので、その瞬間を簡単にシェアできるようにするのがこのゲームのデザインのメインテーマになりました」
当然、比較対象となる他のゲームも存在する。物理演算に特化した無料ゲーム『Toribash』は、ターンベース制の『Mortal Kombat』のようなゲームで、自分のムーブをターン内で指定していく。自分のムーブをあらかじめ指定し、効果的な攻撃を作り出していくのだ。
「どういう訳か、『Toribash』はプレイしなかったんです。当時は色々な噂を耳にしましたがね。私は気楽なスタイルで、とっつきやすく楽しいゲームにしたいと思っていたので、風景や車両についてはミニチュアモデルを参考にしようとしていました。ですが、低解像度ポリゴンアートの新しいムーブメントに出会った時に、自分のゲームがどんなルックスになるかについて理解したのです」
物理演算に特化したゲームの『Poly Bridge』には、さぞかし複雑なコードが盛り込まれていると考える人もいるだろうが、実はすべての演算は、他のコーダーの助けによって簡単に作られたものだ。
「有り難いことに、物理演算に関しては、私よりも賢いプログラマーとエンジニアの皆さんが基本部分の大半をやってくれました。素晴らしい2Dの剛体物理演算用エンジンBox2Dを開発したErin Cattoという多くの人たちから愛されている人物がいます。その彼が開発したエンジンをUnityのチームが独自に変えたバージョンがあるのですが、私はそれを使用しました」
だからと言って、Corrieriが何もしなかったわけではない。本人は「カスタムメイドのコンポーネンツ用の他の多くの部分や、物理エンジンのパラメータに関しては私が手がけました。ですが、オープンソースコミュニティの他の人たちのハードワークや貢献がなければ実現不可能でした」
Corrieriは突然の成功を収めたにも関わらず、自分のゲームの動向をチェックし続けている。現在、売り上げは上々のようだ。「実際の数は法的な理由から公開されないのですが、SteamSpyという統計サイトがあって、ここはSteam上の各ゲームを分析して、今まで何本が売れたのかを予測しているのですが、その数字は驚くほど正確です。そのSteamSpyの調べでは、早期アクセスから1ヶ月後の段階で、48000本が売れたことになっています」
これはインディーゲームとしては成功と呼べる数字だが、この先の予定はどうなっているのだろうか? 特に、モバイルなど他のプラットフォームでリリースされる予定はあるのだろうか? Corrieriは詳細を明かさないが、可能性はゼロではないように思える。
「多くの人たちから他のプラットフォームでのリリースを勧めてもらっていますし、今年後半に正規版をリリースしたあとに考える予定です。正規版のリリースはまだ数ヶ月先ですので、今はCampaignモード(約48ステージ)に3、4ステージ追加しつつ、サンドボックスの機能も追加しようとしています。また自分だけの車両や素材、Campaignが作れるようなMOD機能も取り込んで、コミュニティを盛り上げたいと思っています」
『Poly Bridge』を成功へ導いた要因がコミュニティであったことを、Dry Cactusは理解しているようだ。「以前からコミュニティ向けの機能にプレイヤーが好感を持ってくれれば良いなと思ってきましたが、彼らの反応は私たちの予想を遙かに超えています。私たちはプレイヤーとコミュニケーションを取り、皆さんが何を求めているかを理解して、コミュニティが自分たちで作り上げ、方向付けていけるようなクリエイティブで楽しい物理演算ゲームが開発できるよう、ベストを尽くすつもりです」
『Poly Bridge』からYouTubeやUstreamに直接アップロードできる機能はないが、他のプレイヤーのプレイをチェックできる機能には取り組んでいる。プレイヤーが間抜けなミスをするのは「早期アクセス」ゆえとも言えるが、それでもその姿を見るのは面白く、この点についてはCorrieriも気付いている。「最近は自分たちの面白さや才能を表現できるクリエイティブでオープンなゲームが流行していると言われていますが、自分たちはその流れに乗れていると思います」
しかし、モンスタートラックやフェリーが橋の周りで数々の間抜けなアクションを披露する中、Corrieriが最も感動しているのは他の部分にある。
「個人的には、水圧ピストンなどを使いながら、私が想像もしなかった非常に優れた橋を架けるプレイヤーの存在に一番感動しますね。作り手としては、自分が作ったゲームを自分よりも上手くプレイするプレイヤーに出会えるのは嬉しいです。毎日、自分では想像していなかった形でこのゲームのシステムを上手く利用している映像にいくつか出会います。本当に嬉しいですよ」
Jumping a bridge in Poly Bridge

Jumping a bridge in Poly Bridge

© Dry Cactus

いつの時代も、成功が想像力の持続に繋がり、人生を変える。現在1歳の子供を抱える父であるCorrieriにとって徹夜作業はタフであり、現在は外部からのヘルプやコミュニティマネージャーとテスターも雇い入れているが、本人は小規模を維持したいとしている。「今は、無限の想像力と自由を使って自分の好きなことをしながら、自分と家族の生活を維持するという長年の夢が叶っています。これが私の唯一の希望なのです」
これは素晴らしい考えであり。我々としても『Poly Bridge』の橋とは違い、その状況がいつまでも続くことを願いたい。では、どんなゲームを次に生み出そうとしているのだろうか? Corrieriは次のように回答する。
「長年温めているアイディアがいくつかありますが、どうなるかは誰にもわかりません。物理演算の建築系ゲーム以外ではビート系ゲームが好きなので、このジャンルを試して、他の方向性を模索していきたいですね」